配当控除とは|計算方法は?有利不利の判定は?

公開日:2019年12月18日
最終更新日:2022年06月03日

この記事のポイント

  • 配当控除は、税額そのものから控除できる「税額控除」のひとつ。
  • 内国法人から受ける剰余金の配当などで、総合課税とされるものがある場合に適用される。
  • 配当控除は、申告分離課税を選択した上場株式等に係る配当所得には適用されない。

 

株の配当金や投資信託の分配金などを受け取った時には、配当控除という税額控除が適用できる場合があります。
配当控除を受けるには、確定申告が不要な配当でも申告が必要です。

内国法人から受ける剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配に係る所得で総合課税とされるものがある場合に適用されます。

配当控除とは

配当控除とは、国内株式の配当金について総合課税を選択して確定申告をした場合に、配当金に一定率を掛けた金額が所得税・住民税から控除されることをいいます。国内株式の配当金は、法人の段階で所得に対して法人税が課税された後に株主の分配されるもので、この配当金に対してさらに所得税や住民税が課税されてしまうと、法人税、所得税、住民税が二重課税となってしまいます。
そこで、配当控除は、このような二重課税を調整する意味で設けられた税額控除です。

(1)そもそも「税額控除」とは

税額控除とは、税額そのものから控除できるもので、税金からダイレクトに差し引くことができるのですから、節税効果は絶大です。
配当控除のほかにも、住宅ローン控除、政党等寄付金特別控除、認定NPO法人等寄付金特別控除、住宅耐震改修特別控除、外国税額控除などがあります。

(2)配当控除の対象となるもの

配当控除は、国内に本店または主な事務所がある法人から支払を受けた配当所得について、総合課税を選択して確定申告した場合に、その配当金額に対して一定額が税額控除されるものです。
配当控除の対象となる配当所得には、以下のようなものがあります。

・法人から受ける剰余金(公益法人等および人格のない社団などはのぞく)
・利益の配当
・剰余金の分配(出資に係るものに限る)
・金銭の分配(投資法人から受ける金銭の分配で、出資等減少分配以外のもの)
・証券投資信託の収益の分配(公社債投資信託および公募公社債等運用投資信託をのぞく)
・特定受益証券発行信託の収益の分配(適格現物分配に係るものをのぞく)
・みなし配当

(3)配当控除の対象とならないもの

配当所得は内国法人から受ける配当所得があるときに適用されますが、以下の所得は、配当控除の対象とはなりません。

・基金利息
・私募公社債等運用投資信託等の収益の分配に係る配当等
・国外私募公社債等運用投資信託等の配当等
・外国株価指数連動型特定株式投資信託の収益の分配に係る配当等
・特定外貨建等証券投資信託の収益の分配に係る配当等
・適格機関投資家私募による投資信託から支払を受けるべき配当等
・特定目的信託から支払を受けるべき配当等
・特定目的会社から支払を受けるべき配当等
・投資法人から支払を受けるべき配当等
・確定申告不要制度を選択したもの
・申告分離課税制度を選択したもの確定申告をしないことを選択した配当など

(4)配当控除の計算方法

配当控除の金額は、原則として課税総所得金額等が1,000万円以下の部分は10%、1,000万円を超える部分は5%です。

課税総所得金額等(※3)が1,000万円以下の場合(原則)

配当控除の額=イ+ロ
イ 剰余金の配当等に係る配当所得(特定株式投資信託の収益の分配に係る配当所得を含みます。以下同じです。)の金額×10%
ロ 証券投資信託の収益の分配金に係る配当所得(特定株式投資信託の収益の分配に係る配当所得を除きます。以下同じです。)の金額×5%※1
※1 証券投資信託の収益の分配に係る配当所得のうち、特定外貨建等証券投資信託以外の外貨建等証券投資信託の収益の分配に係る配当所得の金額は、2.5%

課税総所得金額等(※3)が1,000万円を超える場合(原則)

配当控除の額=イ+ロ+ハ
イ (剰余金の配当等に係る配当所得の金額のうち、課税総所得金額等から1,000万円と証券投資信託の収益の分配に係る配当所得の金額の合計額を差し引いた金額(B)に相当する部分の金額)×5%
ロ 剰余金の配当等に係る配当所得のうち、(B)を超える部分の金額×10%
ハ 証券投資信託の収益の分配に係る配当所得の金額×2.5%2※
※2 証券投資信託の収益の分配に係る配当所得のうち、特定外貨建等証券投資信託以外の外貨建等証券投資信託の収益の分配に係る配当所得については、1.25%
※3 課税総所得金額等とは、以下の金額の合計額です。
①課税総所得金額
②課税短期譲渡所得金額
③課税長期譲渡所得金額
④一般株式等の課税譲渡所得等の金額
⑤上場株式等の課税譲渡所得等の金額
⑥申告分離課税を選択した上場株式等の課税利子・配当所得の金額
⑦先物取引の課税雑所得等の金額

参照:国税庁「配当所得があるとき(配当控除)」

(5)投資信託の分配金の配当控除の率

配当控除の対象金額のうち、投資信託の分配金については、配当控除の率が以下のようになります。

区分 信託財産割合 課税所得金額等
非株式 外貨建資産 1,000万円
以下部分
1,000万円
超部分
国内株式、ETF 10%(2.8%) 5%(1.4%)
特定証券投資信託 50%以下 50%以下 5%(1.4%) 2.5%(0.7%)
50%超75%以下 2.5%(0.7%) 1.25%(0.35%)
75%超 適用なし
50%超75%以下 50%以下 2.5%(0.7%) 1.25%(0.35%)
50%超75%以下
75%超 適用なし
75%超 適用なし
REIT、外国株式 適用なし

(6)高額所得者は申告すると不利になることも

配当控除は、配当を総合課税で申告した場合に受けられる控除ですが、税率の高い高額所得者が配当金を総合課税で申告すると、源泉徴収される以上に税率が上がってしまい、かえって損をしてしまいます。

大口株主以外の上場株式等の配当金申告の有利不利の判定(総合課税)

確定申告の有無 課税所得金額等 所得税税率 住民税税率 配当控除 実質所得税負担率 実質住民税負担率
申告しない方が有利 4,000万円超 45% 10% 所得税5%、
住民税1.4%
40% 8.6%
1,800万円超4,000万円以下 40% 10% 35% 8.6%
1,000万円超1800万円以下 33% 10% 28% 8.6%
900万円超1,000万円以下 33% 10% 所得税10%、
住民税2.8%
23% 7.2%
695万円超900万円以下 23% 10% 13% 7.2%
申告した方が有利 330万円超695万円以下 20% 10% 10% 7.2%
195万円超330万円以下 10% 10% 0% 7.2%
195万円以下 5% 10% △5% 7.2%

上記のとおり、上場株式等以外の配当金でいえば、申告する配当所得も含めて課税総所得金額等が900万円以下であれば、確定申告した方が有利に働きます。

たとえば所得が900万円丁度のケースであれば、総合課税の所得税率は23%で源泉徴収された税率より3%上昇しますが、10%の配当控除を受けることができるので、「10%-3%=7%」となり、この7%分について確定申告した方が有利になります。
また、上場株式等の配当金については、源泉徴収される所得税率が15.315%、住民税が5%となるので、確定申告することで恩恵を受けるのは課税総所得金額等が695万円以下ということになります。

また、配当控除を受けると、売却損と配当を相殺することができません。申告する配当については、全額を総合課税として配当控除を受けるか、または申告分離課税で株の売却損と損益通算するかどちらかを選択する必要があります。

総合課税と分離課税は、それぞれにメリット・デメリットがありますので、自身の場合にはどちらがよいのか検討するようにしましょう。

配当控除のよくあるQ&A

配当控除は、どのような場合に受けることができるのか、確定申告で配当控除の申告を忘れた場合にどうすればよいのかなど、質問が多い項目です。
そこでここでは、配当控除に関するよくあるご質問についてご紹介します。

(1)損益通算して配当所得がなくなった

–「配当所得が100万円で、事業所得が△500万円である場合、配当控除を受けることはできるか。」

配当控除を受けることができます。
配当所得の金額が、他の事業所得の赤字などと損益通算した場合や、純損失または雑損失の繰越控除をしたためになくなったとしても、配当控除額は総所得金額の計算の基礎となる配当所得の金額について計算されたものですから、配当控除を受けることができます。

(2)配当控除を失念した場合、更正の請求はできるか

–「配当控除を確定申告で失念してしまった。更正の請求はできるか。」

更正の請求をすることができます。
配当控除については、住宅ローン控除などのほかの税額控除と異なり、所得税法上「…控除する」と規定されているためです。
ただし、これは配当控除を失念したときのみのケースであり、申告不要制度を利用するなど、配当所得の申告そのものをしなかった場合には、あとから総合課税を選択して配当控除を受けるような更正の請求はできませんので、注意が必要です。

(3)負債の利子を控除したら配当所得がなくなった

–「負債の利子を控除したら、配当所得がなくなった。配当控除は適用されるか。」

配当控除の適用はありません。
負債の利子を控除したため、配当所得の金額そのものが生じない場合は配当控除の適用はなくなります。

まとめ

配当控除を受ける場合には、確定申告が不要な配当でも申告することが必要ですが、申告すると源泉徴収された税金が戻ってくる可能性があります。ただし、高額所得者は確定申告をしない方が有利となります。
確定申告すべきか否かは、トータルで有利不利の確認を行う必要がありますので、個人の確定申告をサポートしてくれる税理士に、早めに確認しておくことをおすすめします。

配当控除について相談する

freee税理士検索では数多くの事務所の中から、配当控除について相談できる税理士を検索することができます。
また、コーディネーターによる「税理士紹介サービス」もあるので併せてご利用ください。

税理士の報酬は事務所によって違いますので、「税理士の費用・報酬相場と顧問料まとめ」で、税理士選びの金額の参考にしていただければと思います。
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この記事の監修者

監修者

遠藤 光寛えんどう みつひろ

遠藤光寛税理士事務所 代表
法人・個人の皆様の「お金の問題」に誠実に対応し解決します!

最近は、貯蓄から投資へという流れから、株式投資をする人が増えてきました。上場株式の配当を受け取ったときは、「配当所得」となり、総合課税、申告分離課税、申告不要制度があります。上場株式等の配当所得については、総合課税によらず申告分離課税を選択することができます。総合課税を選択すれば、配当控除の適用を受けることができますし、申告分離課税を選択すれば、上場株式の譲渡損との損益通算や繰越控除を確定申告をすることで、源泉徴収された税金が戻ってきます。ただし、確定申告することで、配偶者控除や国民健康保険料に影響を及ぼすことがありますので、注意が必要です。総合的にさまざまな視点から判断し、そのうえで有利な方法を選択するようにしましょう。
遠藤光寛税理士事務所では、法人・個人問わず「お金に関するお悩み」に広く対応しております。
個人の確定申告のご相談はもちろん、家計コンサルタントやお金のプライベートレッスンを通して、お金と人間の行動特性を学び、「自分と経済を結びつけて実生活にどう活かすか」という観点が身につくことを目指しています。
資金調達や借入に伴う財務・家計分析、銀行等の金融機関との交渉時同行、資金管理の見直し・再構築、個人の資産構築目標、事業継承、相続問題など、法人個人のあらゆるお金の問題に対して、戦略的な財務コンサルティングを行うことで、ご相談者様に「安心」を提供します。
遠藤光寛税理士事務所の問題解決の手段は、無限大です。ぜひお気軽にお問い合わせください。

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