自己株式|取得・処分に必要な手続き・活用法

公開日:2019年12月24日
最終更新日:2022年07月14日

この記事のポイント

  • 自己株式の取得とは、会社が発行した株式を自らが取得したもの。
  • 自己株式の取得は「自社株買い」とも呼ばれることがある。
  • 保有し続ける場合の自己株式は、「金庫株」とも呼ばれることがある。

 

貸借対照表の純資産の部には、自己株式が表示されています。

会社が買い取った自社株式は、株式の発行数を減らすのと同じ意味がありますから、資本のマイナスの項目となります。
自己株式を取得するということは、株主資本や総資本を小さくするという効果がありますので、総資本利益率を改善する効果があります。
逆に、以前取得した自己株式を売却すると株主や総資本が大きくなるという効果があります。

自己株式とは

自己株式とは、自社の株式を買い取り保有しているものをいいます。英語の訳から「金庫株」と呼ばれたり、自社株買いと言われたりすることもあります。

株式を発行した会社が、自らの株式を取得することなので、法的な表現としては「自己株式の取得」、取得される株式を「自己株式」といいます。

なお自己株式は、決算書上は貸借対照表の純資産の部に表示されます。

(1)自己株式は、以前は禁止されていた

自己株式を取得するということは、株主からの払込金を株主に払い戻し、株式の発行数を減らすことと同じ意味になります。

株主は、会社のオーナーともいうべき存在ですが、債権者に対しては有限責任(自らの出資額までしか責任を負わない)しか負っていません。債権者側から見れば、株主が払い込んだ資金は担保と見ることができます。

そこで、従来は債権者保護の観点から、原則として自己株式取得は禁止されていましたが、その後法改正が進み、現在は一定の手続きを行えばかなり自由に自己株式取得を行うことができるようになりました。

取得した株式は、再度交付することもできますし保有し続けることもできます。また、消却することもできます。保有し続ける場合の自己株式は、金庫の中でしばらく保管しているイメージから、「金庫株」と呼ばれることもあります。

(2)自己株式の典型例

たとえば、会社がある株主から自己株式を買い受けるケースで考えてみます。
会社は、特定の株主に対して対価を支払い、それと引き換えにその株主から株式を取得します。

会社は対価を支払う代わりに株式を取得しますが、自己株式それ自体は収益を生みません。したがって会社債権者からすれば、自己株式の取得は会社財産の流出となります。

株主間の利害関係で見ると、自己株式の取得において、株式を手放す株主は引き換えに対価を得ることができるのに対し、ほかの株主は金銭の分配を受けません。

(3)自己株式を取得できる場合とは

以前は、自己株式取得は禁止されていましたが、今は一定の規則のもとで柔軟な取り扱いが可能になりました。とはいうものの、利害関係者保護の観点から、会社法上一定のルールが設けられています。

株式会社が自己株式を取得することができる場合については、会社法で以下のとおり定められています。

①取得条項付き株式の取得
②譲渡制限株式の譲渡を承認しない場合の買取り
③株主総会決議等による取得
④取得請求権付株式の取得
⑤全部取得条項付種類株式の取得
⑥相続人等に対する受渡請求による取得
⑦単元未満株の買取り
⑧所在不明株式の買取り
⑨端数株式処理に際しての買取り
⑩事業全部の譲受による取得
⑪合併消滅会社からの取得
⑫吸収分割会社からの取得
⑬その他法務省令で定める場合

(4)自己株式のメリット

自己株式取得は、取得された株主と残った株主双方にメリットがあります。
取得された株主にとっては、通常キャピタル・ゲイン(売却による売買差益)を得ることができますし、残された株主にとっては、株式数が減った分だけ比率が高まり、株主としての権利が増すことになります。

また、自己株式は会社の議決権がありませんから、現在の株主から自己株式として会社が買い取れば、議決権をなくすことができ、その結果、議決権を有する株式数を減少させることができるようになります。

(5)自己株式のデメリット

自己株式取得は、株主に還元するという意味では株主にメリットがある方法です。しかし、一方資金は本来使ってこそ新しい利益を生むものでもあります。
株主に還元するということは、「資金の使い道が他にない」という意味にも捉えることができます。したがって、短期的には株価が上がっても長期的な視点で見れば過度な自己株式取得は、望ましくないといえます。

なお、以前取得した自己株式を売却すると、株主資本や総資本を大きくする結果になり、株価下落の要因になることもあります。

自己株式の取得手続き

一般的に自己株式の取得のなかで最も多いのは、株主との合意によって会社が自己株式を取得するケースで、先ほどご紹介したなかでいえば、「③株主総会決議等による取得」です。
したがって、ここでは、③の「株主総会決議等による取得」を中心にご紹介しています。

(1)株主総会決議

会社が自己株式を有償で買い取る場合には、一定の例外を除き株主総会の決議を行う必要があります。この決議は、普通決議でも臨時株主総会でも可能です。

決議を行う内容は、以下のとおりです。

①取得する株式の数
②取得と引換に交付する金銭等の内容およびその総額
③株式を取得できる期間

ただし、特定の株主から自己株式を取得するというケースでは、上記①~③のほか、その「特定の株主から自己株式を取得する」についての特別決議が必要となります。

(2)取締役会決議

株主総会での決議後、取締役会で以下の事項について決定します。

①取得する株式の数
②1株の取得と引換えに交付する金銭等の内容およびその数、額またはその算定方法
③取得と引換えに交付する金銭等の総額
④譲渡する申し込みの期日

(3)自己株式買付状況報告書

上場株式等の発行者は、毎月「自己株式の買付状況の報告書」を内閣総理大臣宛てに提出しなければならないことになっています。この「自己株式の買付状況の報告書」は、買付を行わなかった場合でも提出が必要です。したがって、毎月報告書を提出しなければならないことに注意する必要があります。

(4)自己株式取得の会計処理

自己株式の取得は、出資の払戻という性格を持っています。
自己株式を取得するための手数料や、処分時に募集株式の発行等を行うための費用などの付随費用は、「営業外費用」で処理をします。
取得に要した費用は、自己株式の取得原価に含めるなどの処理は行いませんので、注意が必要です。

「自己株式1,000株(@200円)を取得した(付随費用33,000円)。」

借方 貸方
自己株式 200,000 未払金 233,000
営業外費用 30,000
仮払消費税等 3,000

自己株式の処分

平成13年の商法改正で、会社は取得した自己株式について、任意に消却することができるようになりました。自己株式の処分は、会社法上は「募集株式の発行等」と同じ手続きで行います。
自己株式の処分は、通常の新株発行手続きと比較すると、銀行の払込証明が不要ですし株券を刷り直す必要もなく、印紙税もかかりません。したがって、コストが少なく済み、機動的かつ経済的な資金調達が可能になるというメリットがあります。

(1)株主総会・取締役会決議

会社が自己株式を処分する際には、株主総会の決議によって、処分する株式の数、処分する株式の払込金額またはその算定方法、払込期日などについて決定する必要があります。上場会社の場合には、これらの決定を取締役会決議によって行います。また、その場合には株主に差止請求の機会を与えるために、株主への募集事項の通知か公告を行う必要があります。

(2)自己株式処分の会計処理

自己株式処分の場合も、付随費用は、「営業外費用」で処理します。

「取得した自己株式1,000株(@200円)のうち、600株(@250円)を処分した(付随費用2,200円)。」

借方 貸方
普通預金 147,800 自己株式 120,000
営業外費用 2,000 自己株式処分差益
(=その他資本剰余金)
30,000
仮払消費税等 200

自己株式処分差益と自己株式処分差損を相殺した結果、差損の方が大きく、その他資本剰余金がマイナスとなった場合には、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)で埋め合わせることができます。

「自己株式処分差益50万円と自己株式処分差損80万円を相殺した結果、自己株式処分差損となったため、繰越利益剰余金で埋め合わせを行った。」

借方 貸方
自己株式処分差益 500,000 自己株式処分差損 800,000
繰越利益剰余金 300,000

まとめ

以上、自己株式の意味やメリット・デメリット、自己株式の取得や処分の際に必要な手続きについてご紹介しました。

非公開会社のいわゆる同族会社のケースでは、経営に関心のない株主がいて、株式が分散化してしまい、重要な決議ができないといったケースがあります。
このようなケースでは、自己株式に議決権がないことを利用して、会社が自己株式を既存株主から買い取って、経営の安定化を図ることができます。

ただし、自己株式の取得、処分、消却のためにはさまざまな手続きをとる必要があり、さらに適切に処理仕訳することが求められます。

手続きや処理に関する不明点や疑問点は、早めに税理士に確認しましょう。

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