発生主義とは|実現主義・現金主義との違い

公開日:2022年05月13日
最終更新日:2022年05月17日

この記事のポイント

  • 費用は、発生主義により計上する。
  • 収益は、実現主義により計上する。
  • 収益と費用を対応させることを「費用収益対応の原則」という。

 

費用や売上の計上時期は、実際にお金を払ったり受け取ったりしたりした時ではありません。費用は「発生主義」、収益は「実現主義」により計上します。
そして収益と費用を期間的に対応させて一会計期間の利益を計算することを「費用収益対応の原則」といいます。

発生主義とは

日々の取引を記録するうえでは「取引をいつ記録するか」「取引をいくらで取引するか」という問題があります。
このうち、「取引をいつ記録するか」という問題について「実際に取引があったときに記録すればよい」と考えるかもしれませんが、何をもって「取引があったとするか」を定義することはなかなか難しいものです。

「モノを受けとったとき」「お金を支払ったとき」など、取引のなかでは、さまざまなプロセスがあるからです。

しかし、その都度計上するタイミングが変わってしまうと、財務諸表の数字が変わってしまいます。
そこであらかじめ「こういうタイミングで取引を記録しましょう」というルールを決めておく必要があります。
発生主義とは、「取引をいつ記録するか」についての一番基本的な考え方で「取引が発生した時に記録しよう」というルールです。

この「発生」とは、会計上は「その取引によって、会社が将来お金を受け取ったり払ったりする可能性が十分に高くなる状態」をいい、現金の支払いがあったかどうかに関わらず、その支払いの対象となるモノの受け渡しやサービスの提供を受けたことを意味します。

(1)費用は発生主義による

収益と費用の計上時期について、企業会計原則では「すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割り当てられるように処理しなければならない。ただし未実現収益については原則として当期の損益計算に計上してはならない。」
としています。つまり、会計期間に発生した費用は、その会計期間の費用として計上しなさいという意味です。

会計にとって重要なのは、会社がいつどのような生産、購買、販売などを行って価値を増やしたのかということであり、会社がいつお金を払ったり受け取ったりしたのか、ということではありません。

そこで、実際にお金を払ったり受け取ったりしていなくても、将来お金を払ったり受け取ったりする可能性が十分に高い場合には、会社の活動に合わせて取引を記録することとしました。これを「発生主義に基づいて取引を記録する」といいます。

つまり発生主義は、会社の活動の実態を適切なタイミングで会計に反映させるためのものということができます。

(2)収益は実現主義による

取引の相手がモノやサービスを受け取り、その対価として現金または債権を受け取ることを「実現」といいます。収益は発生主義ではなく実現主義によって計上されます。

なお、ここでいう「実現」とは、会計上は「確実性がもっと高まった状態になること」をいいます。

収益は原則として「未実現収益」を当期の損益計算に計上してはならないとしています。なぜなら、もし売上高などの収益を発生主義に基づいて計上すると、商品を販売する前に売上が計上されることがあるからです。
これでは、客観性のない金額で資金的裏付けのない売上が計上される可能性があります。このような裏付けのない売上をもとに計算書が作成されれば、実際よりも高い利益を上げているように業績を偽ることもできてしまいます。いわゆる粉飾決算です。

それに、収益が増えれば、株主たちは配当を増やすことを望みます。株主が多くの配当を要求したら、会社のお金は減ってしまいます。仮に不確実なまま収益を計上し、それに基づいて配当を支払い「やっぱりその収益は本当のお金にならなかった」としたら、会社は大きな打撃を被ります。そこで、収益に関しては費用より少し遅れても、もっと確実性が高まってから計上することとしたのです。

そこで、収益の計上は、費用の計上基準である発生主義より厳しい実現主義によって計上するとされています。
つまり、収益が実現した時点、つまり実際にモノを販売したりサービスを提供したりした時点で計上することとしています。

収益の計上基準となる「販売」がいつになるかという点については、納品基準や検収基準などの方法があり、現金主義と異なり現金での支払いを受けたときとは限りません。ただし、いずれの基準にしても収益の計上は、費用の計上より厳しい条件がつけられています。

(3)発生主義と現金主義の違い

費用と現金の支払いの時期と、モノの受け渡しやサービスの提供時期には、ズレが生じることがあります。
たとえば、5月決算の会社が事務所を賃借していて4月までの家賃を毎月現金で支払っていたが、5月分の家賃は5月末までに支払っていなかったとします。

この場合損益計算書に計上される支払家賃を11か月分だけの家賃とすること、つまり現金を支払った時期を基準とする考え方を「現金主義」といいます。
発生主義に基づいた場合には、5月分の家賃をまだ現金で支払っていなくても、賃借しているわけですから、決算時には5月分も計上することになります。

(4)発生主義・実現主義・現金主義のまとめ

ここで、発生主義・実現主義・現金主義について、まとめてみましょう。
発生主義は、費用の計上基準であり、実現主義は収益の計上基準です。
実現主義の原則は、発生主義の原則より厳しい条件が設けられており、収益の認識は、販売の確実性が高まった時点に計上されます。

発生主義 実現主義 現金主義
費用 〇費用の認識 × ×
収益 × 〇収益の認識 ×

(5)費用収益対応の原則

もうひとつ、取引をいつ記録するかについての重要な考え方として「費用収益対応の原則」があります。
正しい期間損益を計算するためには、収益と費用を期間的に対応させて、一会計期間の利益を計算することが要求されます。つまり、当期の収益に対してそれを得るための費用を対応させて損益計算します。これが「費用収益対応の原則」です。

たとえば、10年使うつもりで10億円の工場を購入したとします。
この場合、購入した年にだけ多額の費用が計上されると赤字になってしまいます。これでは、赤字を恐れて、経営者は投資をすることができなくなってしまいます。
さらに、購入したときだけ費用が発生してその設備を利用して増えた利益は、10年間にわたって計上されることになります。

そこで、現在の会計では、会計情報が会社の活動の実態を正しく表すように、費用や収益を繰り延べたり繰り上げたりしています。
つまり、購入した時の費用を一気に計上せず、工場を使うことで得られる将来の収益に対応させるために10億円の一部を繰り延べて将来の費用とするのです。このような処理を「費用の配分」といいます。

費用は、当期の収益を得るために支払われたお金のことですから、収益に対応させて費用を配分することを「費用収益対応の原則」といいます。

費用は発生主義で、収益は実現主義で計上しますから、実現した収益に対応させて費用を配分することになります。

費用と収益の対応形態には、①個別対応と②期間対応があります。

①個別対応
収益を獲得するために要した費用をその獲得した収益に完全に対応させる方法です。
具体的には、売上高とそれに対応する売上原価が該当します。

②期間対応
売上原価については、収益と費用は対応させやすいですが、すべての費用について個別対応させることは困難です。
そこで、一会計期間に計上した収益に対し、同一会計期間に発生した費用を対応させる方法が期間対応です。
具体的には、減価償却費の計上などが該当します。

(6)新収益認識基準が導入

収益に関しては、今までも実現主義の考え方は示されていましたが、新たに新収益認識基準が導入されることとなりました。これは、事業内容が多様化・複雑化した現在においては、収益をいつ認識するべきかを判断することが容易でなくなっていること、そして同じ業界で類似の取引を行っている場合でも、企業間で一貫した収益の認識、表示がなされず、企業間の比較可能性が必ずしも確保されているとは言えなかったからです。

また、国際会計基準審議会(IASB)と米国財務基準審議会(FASB)が共同で収益認識に関する包括的な会計基準の開発を行い、新たな会計基準を公表したこともあり、この国際的な会計基準との調和を図ることになりました。

新収益認識基準では、収益の認識を次の5つのステップによって認識することになります。

どの単位で ステップ1 顧客との契約の識別 収益認識会計基準の定めは、顧客と合意して、かつ所定の要件を満たす契約に適用する。
ステップ2 契約における
履行義務の識別
契約において、顧客への移転を約束した財またはサービスが所定の要件を満たす場合には、別個のものであるとして、当該約束を履行義務として区分して識別する。
いくらで
(計上額)
ステップ3 取引価格の算定 変動対価または現金以外の対価の存在を考慮し、金利相当分の影響および顧客に支払われる対価について調整を行い、取引価格を算定する。
ステップ4 取引義務への
取引価格の配分
契約において約束した別個の財またはサービスの独立販売価格の比率に基づき、それぞれの履行義務に取引価格を配分する。独立販売価格を直接観察できない場合には、独立販売価格を見積る。
いつ
(計上時期)
ステップ5 履行義務の充足
による収益の認識
約束した財またはサービスを顧客に移転することによって、履行義務を充足した時、または充足するにつれて充足した履行義務に配分された額で収益を認識する。履行義務は、所定の要件を満たす場合には、一定の機関にわたり充足され、所定の要件を満たさない場合には一時点で充足される。

中小企業においては、現時点では収益認識基準の適用は求められていませんが、「今後収益認識基準の適用が求められた場合には自社の会計方針にどのような影響があるか」については、よく確認しておく方がよいでしょう。

まとめ

発生主義とは、すべての費用および収益は、その支出および収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割り当てられるよう処理しなければならないことを求めるものです。
発生主義は原則であり、この原則に従えば費用も収益も発生の事実に基づいて認識されることになりますが、収益については例外的に実現主義が採用されます。
これは、収益はその認識を慎重に行う必要があるからです。
つまり、実現主義は、発生主義の原則に対する例外と解釈することもできます。

費用と収益の計上は、計算書の内容に大きな影響を与え、納税額に影響を与えることもありますから、適切に処理することが大切です。
したがって、費用や収益の計上時期については、税理士に相談しアドバイスやサポートを受けることをおすすめします。

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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」

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