役員の任期とは?任期満了時の退任・再任の手続きは?

公開日:2023年03月06日
最終更新日:2024年03月18日

この記事のポイント

  • 株式会社の役員は、取締役、監査役、会計参与の3種類。
  • 会社設立時には、取締役だけでスタートするケースが多い。
  • 役員の任期は、定款に定めがなければ2年(監査役は4年)。

 

株式会社の役員の任期は、定款で特に定めない限りは、2年(監査役は4年)です。また、定款で定めれば最長10年まで延ばすことも可能です。任期が短い場合には、役員を変更しやすいというメリットがありますが、任期満了ごとに登記費用がかかります。
したがって、役員の任期については、複数の視点から検討し慎重に決定する必要があります。
 

取締役の豆知識

取締役の数は1名以上いればよく、何人いても構いません。
取締役会設置会社の場合には最低3名以上の取締役が必要ですが、これも上限はありません。
しかし、取締役が多すぎると意思決定が困難になるので、可能な限り避けるべきです。
また、取締役の数を偶数にすることも避けましょう。
なぜなら会社の業務執行の決定は、取締役会非設置会社の場合には取締役の過半数の同意が必要であり、取締役会設置会社の場合には、取締役の過半数が出席しかつ出席した取締役の過半数の同意が必要となるため、偶数だと決議で可否同数となってしまうからです。
取締役の数が奇数であれば、賛成でも反対でもいずれかの形で決議の決着をつけることができます。

役員の任期

取締役と監査役の任期は、原則として以下のとおりです。

①取締役
選任後2年以内に終了する事業年度のうち、最終の事業年度にかかる定時株主総会の終結時まで

②監査役
選任後4年以内に終了する事業年度のうち、最終の事業年度にかかる定時株主総会の終結時まで

ただし、特例として全部の種類の株式が「譲渡制限株式(※)」である会社の場合には、取締役、監査役ともに選任後10年以内に終了する事業年度のうち、最終の事業年度にかかる定時株主総会の終結時まで任期を延ばすことができます。

※譲渡制限株式:会社の株式を譲渡する際に会社の許可が必要であると定款に定め、譲渡時に制限を設けた株式のこと。

▶ 譲渡制限株式とは?会社設立時は譲渡制限すべき理由

原則 定款に定めた場合
取締役 2年 1年~10年
監査役 4年 4年~10年
会計参与 2年 1年~10年

(1)そもそも「役員」とは?

株式会社の役員には、取締役、監査役、会計参与の3種類があります。

平成18年の会社法施行以前は、株式会社の機関は、株主総会と取締役会、監査役の設置が必要でした。そこで、株式会社を設立するためには取締役や監査役の頭数を揃える必要があり、そのために親戚や他人から名義だけ借りるケースも稀ではありませんでした。
しかし、新会社法の施行以後は、会社の機関は株主総会と取締役1名だけでOKとなり、取締役1名がそのまま代表取締役となる、1人会社のケースが増加しました。

ちなみに、取締役会は取締役3名以上で構成され、取締役会を置いた会社を「取締役会設置会社」といいます。取締役会設置会社では、監査役または監査等委員会、指名委員会等、会計参与のいずれかを置かなければならないことになっています。

会社の経営に関わらない人に名前だけ借りるのも大変ですし、後々トラブルにつながりかねませんから、会社設立当初は、取締役1名でそのまま代表取締役となり、監査役や会計参与は、ある程度会社が大きくなった段階で設置を検討すれば十分でしょう。

(2)役員の任期はどう決めるべき?

株式会社の役員の任期は、定款に定めがなければ2年(監査役は4年)です。定款で別途定めれば、最長10年まで延ばすことができますが、任期を何年にするかは、以下の2つの判断基準から検討すべきです。

①役員の重任登記の必要性
役員は、就任時と退任時に登記が必要となります。任期満了で、同一人物がもう一度役員に選ばれることを「重任」といい、資本金1億円以下の会社は1万円(資本金1億円超の会社は3万円)の登録免許税が必要です。
つまり、任期を延ばせばこの登記費用を抑えることができます。

②任期終了後の続投の判断
任期終了後に、その役員に続投させるかどうかを、その都度判断したいという場合には、短い任期で区切る方がよいといえます。任期が長いと、途中で役員変更しづらく「解任」が必要となってしまうことがあるからです。解任とは、役員が業務遂行上の信任を失った場合に、株主総会などの決議でその職を解くことをいいます。
そして、解任したいと思った時に正当な理由がないと、損害賠償を請求される可能性もあります。
長すぎる任期は、役員任期の管理が難しくなり、トラブルに発展するリスクがありますから、このような事態を回避するためには、短い任期で切っておく方がよいでしょう。
ただし、株主と取締役が同一であるような小さなオーナー会社の場合、リタイアなどしない限りは、代表取締役の変更はそうそうあるものではありませんから、特にこだわりがないのであれば、最長にしておく方がよいでしょう。

なお、株主と取締役が同一であるような小さなオーナー会社でも、設立して10年後は役員の任期が切れてしまうので、重任登記が必要となります。
 

取締役の豆知識

取締役会のある会社の場合には、代表取締役は不可欠です。
代表取締役は、定款で定めた代表取締役の員数が欠けた場合、任期の満了または辞任により退任した代表取締役は、新たに選任された代表取締役が就任するまで、代表取締役としての権利と義務を有しています。
後任がいない場合には、裁判所は必要があると認めれば、利害関係人の申立てによって、一時代表取締役の職務を行うべき人を選任できます。

(3)役員を10年にする場合の定款の記載例は?

取締役の任期は2年が原則ですが、全部の種類の株式が「譲渡制限株式」である会社の場合には、定款に定めることで最大10年まで延長することができます。

下記に「株式の譲渡制限」と「取締役の任期」に関する定款の記載例をご紹介しますので、参考にしてください。

(株式の譲渡制限)
第〇条
当会社の株式を譲渡するには、株主総会の承認を受けなければならない。

(取締役の選任)
第〇条
当会社の取締役は、株主総会において総株主の議決権総数の3分の1以上の議決権を有する株主が出席し、その議決権の過半数の決議によって選任する。

(取締役の任期)
第〇条
取締役の任期は、その選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時総会の終結の時までとする。

2.補欠または増員により選任された取締役の任期は、他の取締役の任期の残存期間と同一とする。

(4)役員が選任されるまでの手続きは?

役員を選任(再任)する機関は、株主総会です。
ただし、取締役会設置会社の場合には、株主総会の決議事項は取締役会であらかじめ決定した事項だけです。
そのため、取締役会で役員を選任すること、その役員の候補者を選定しておく必要があります。つまり、取締役会で役員の候補者を選定しないと、株主総会で役員を選任できなくなります。
一方、取締役会非設置会社では、あらかじめ役員の候補者を選定しておく必要はなく、株主総会当日に決めても差し支えありません。

(5)役員の責任とは?

役員は、会社の業務を執行するにあたり、故意または重大な過失によって第三者に損害を与えた場合には、それを賠償する責任を負います。

また、役員の不祥事などで会社が損害を被った場合には、株主が会社を代表して役員を訴えることが可能となります。
株主代表訴訟は、株主が会社を代表して、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所に対して提起します。なお、賠償金は会社に対して支払われ、株主は経営改善による間接的な利益を得ることになります。

(6)役員報酬は、どのように決める?

取締役が報酬、賞与その他の職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益(報酬)は、定款に定めるか株主総会の決議によって定める必要があります。
また、監査役の報酬等も定款に定めるか株主総会の決議によって定めます。

実務上、定款に定めた場合には、報酬額を変更するたびに定款変更が必要になることから、株主総会の普通決議によって定めるのが一般的です。
取締役全員の報酬等総額または限度額を定め、具体的な支給額については取締役会の決定に委ねます。このとき、代表取締役に一任することもあります。
監査役の場合には、株主総会において監査役報酬等について意見を述べることができます。

(7)役員は誰でもなれるか?

取締役になれるのは、以下の会社法で定める欠格事由に該当しない人です。

・会社関係に関する法律の罪を犯し、刑に処せられ、その執行を終わるまで、またはその執行を受けることがなくなった日から2年を経過しない者
・上記以外の罪を犯して禁固以上の刑に処せられ、または刑を受けることがなくなるまでの者(執行猶予中の人はのぞく)
・法人

取締役は、必ずしも発起人から選ばれる必要はなく外部から選ぶことができます。また、監査役は欠格事由に加えて、その会社や子会社の取締役、従業員を兼ねることはできないという制限があります。

なお、未成年者の場合には親など法定代理人の同意が必要です。外国人の場合には、日本の印鑑登録証明書がない場合には、外国で発行されたサイン証明書などが必要です。

まとめ

近年は、取締役だけで起業して、ある程度会社が成長した段階で監査役や会計参与などの設置を検討するケースが増えています。任期は、重任登記や任期終了後の続投の判断といった基準から、慎重に判断すべきです。
ネックとなるのは、意思決定の仕方や責任の所在、利益配分です。任期だけでなく、さまざまなトラブルの発生を想定して、解決のためのルールを検討しておく必要があります。
判断に迷ったり、知識がなく不明点があったりする場合には、税理士等の頼れる専門家の相談相手をもち、サポートを受けることをおすすめします。

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税理士の報酬は事務所によって違いますので、「税理士の費用・報酬相場と顧問料まとめ」で、税理士選びの金額の参考にしていただければと思います。

 

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この記事の監修者:アトラス総合事務所

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会計・税務・労務・法務の専門家集団が、会社・個人事業をトータルでサポートいたします!

取締役は、会社の業務執行を担当します。
監査役は、主に会社の会計状況を監査します。
会計参与は、取締役と共同して計算書類が附属明細書を作成します。税理士や公認会計士が就任します。
株主総会は会社の最高意思決定機関であり、取締役会は、会社の業務遂行を決定する機関で、3名以上の取締役によって構成されます。
取締役会を設置する時は、監査役や会計参与を選任する必要がありますが、重要な決定事項について取締役会を開催して決定することができますし、監査役や会計参与を設置することで、取締役が適正な経営を行っているかどうか確認することができるというメリットがあります。つまり、複数の者が会社を運営することになるため、ワンマン経営になることを防ぐことができます。
株式会社の機関設計には、さまざまなパターンがあり、それぞれにメリット・デメリットがあります。また、役員の任期を何年にするかについてもメリット・デメリットがあります。個々の状況によって最適なパターンを選択するためにも、機関設計を検討する場合には、早めに税理士等に相談することをおすすめします。

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