公開日:2019年12月05日
最終更新日:2023年06月06日
会社を設立する場合には、発起人は資本金として金銭を出資しますが、この時金銭ではなく、一定の条件のもとで自動車や不動産、有価証券、機械、パソコンなどを出資することもできます。
これを「現物出資」といいますが、現物出資をする時には、出資する物の価額を評価しなければなりませんし、書類作成や手続きなどが必要になります。
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会社設立の豆知識
自動車、不動産、有価証券など金銭以外の財産を出資することを「現物出資」といいます。金銭出資はしないで、現物出資のみで会社設立することも可能です。ちなみに、現物出資は必ず定款に記載しなければなりません。また、人の信用や人の労務などは、現物出資として認められません。
現物出資は、原則として検査役による検査が必要ですが、現物出資財産額が500万円以下の場合、または市場価格のある有価証券で定款に定めた価額が市場価格を超えない場合、または定款に記載された価額が相当であることについて弁護士や税理士等の証明を受けた場合には、検査役による検査は不要となります。
現物出資とは、会社を設立する際に金銭ではなく自動車や不動産、有価証券、機械、パソコンなどの「物」を出資することをいいます。
金銭出資と現物出資を行う際には、金銭出資と同じ時期に現物出資する財産を引き渡す必要があります。金銭を出資せずに現物出資だけで会社を設立することもできます。
なお、「労務」や「信用」などは現物出資とは認められません。
金銭で出資する方がシンプルで分かりやすく、手間もかかりませんが、現物出資には、手持ちの資産を活用し資本金を増やせるというメリットがあります。
たとえば現金が50万円しか用意できなくても、自分が持っている自動車やパソコンなどを現物出資として会社に提供することができれば、現金50万円と現物出資50万円で、100万円を資本金とすることができるようになります。
現物出資と金銭出資との違いは、その出資の目的物が、金銭のように簡単に評価することができないという点にあります。
つまり現物出資は、金銭出資と異なり、出資額が過大に評価されてしまう可能性があるということです。
したがって、出資財産の評価のために原則として裁判所が選任した検査役が必要とされています。
検査役による調査の流れは、以下のようになります。
①検査役は会社法第28条の事項を調査し、それらの結果を裁判所に報告する。 ②裁判所は検査役の報告を受け、①の事項について不当であると認めた時にはこれを変更する決定をする。 ③この変更を不服とする発起人は、その決定の確定後1週間以内に限り、株式の引受けを取り消すことができる。 |
ただし、少額資産など一定の場合には、検査役の調査を省略できることもあります(※後述)。
現物出資は、金銭出資と異なり、出資をする物の評価が適切でないと、他の株主との間で不公平が生じることから、現物出資をする際には現物出資財産を調査するため、裁判所に検査役の選任を申立てる必要があります。しかし、検査役の調査には多額の費用がかかりますし、調査に数カ月かかることもあります。
ただし、現物出資価額が500万円以下の場合や、市場価格のある有価証券である場合、公認会計士や税理士の証明を受けた場合には、現物出資であっても検査役の検査が不要となります。
したがって、現物出資をする際には、検査役が不要となる以下の3つのパターンのいずれかに該当するよう行い、検査役の調査が不要となるようにしておくことをおすすめします。
現物出資でも検査役の調査が不要となるケース
①現物出資価額総額が500万円以下である ②現物出資財産が、市場価格のある有価証券であり、定款に定めた価額が市場価格を超えない(算定方法は法律の規定によります) ③定款に記載された価額が相当であると、弁護士、公認会計士、監査法人、税理士などの専門家から証明を受けた(不動産の場合には、不動産鑑定士の鑑定評価も必要となります) |
現物出資で会社設立をする際には、通常の会社設立を行うよりも事務処理の手間がかかることになります。
ここでは、現物出資で会社設立をする際に必要な手続きについてご紹介します。
まず問題となるのが、出資する物の価額をどう評価するのかという点です。
出資する現物の価額を実際より過大に評価してしまうと、「多額の資産があるように見えるのに、実は何もない」という状態が起こりかねず、債権者などの利害関係者に影響を及ぼします。このような事態が起こった時には、発起人と設立時の取締役は、不足している価額を連帯して支払う責任を負う羽目になってしまいます。
現物出資をする際には、その旨を必ず定款に記載しなければなりません。
定款記載事例
(発起人の氏名ほか) 東京都○○区○町○丁目○番○号 (現物出資) (1)出資者発起人○○○○ (2)出資財産及びその価額パーソナルコンピューター 金20万円 |
「調査報告書」と「財産引継書」の2つを作成します。
「調査報告書」とは現物出資する資産の価額が適切であるかどうか調査した結果をまとめた書類です。また、「財産引継書」は資産が会社側に渡ったことを示す書類です。
「調査報告書」と「財産引継書」を作成したら、株式会社設立登記申請書に添付して、管轄の法務局に提出します。この時には、あわせて現物出資について記載した定款の添付も必要です。
機械やパソコンなどの動産の現物出資であれば、会社に現物の引き渡しをすれば出資したことになりますが、不動産、自動車、有価証券などは名義変更の手続きを行わなければなりません。名義変更の手続きは、発起人全員の同意がある場合には、会社設立登記が終わった後に行なってもOKです。
たとえば、会社の登記事項証明書が必要な名義変更手続きもあるので、そのような場合には、会社設立登記が終わってからでないと名義変更手続きはできないことになります。
名義変更が必要な財産と必要な手続きについては、以下の表にまとめましたので、参考にしてください。
財産名 | 手続きを行う場所 | 必要な手続き名 |
---|---|---|
不動産 | 法務局 | 所有権移転登記 |
自動車 | 全国の運輸支局 | 自動車検査証の移転登録 |
株式 | 株主名簿管理人である信託銀行など | 株式の名義書き換え |
現物出資の受け入れは、当該現物出資の対象財産が、事業に該当するものか否かによって異なります。
現物出資の対象財産が事業に該当する場合の現物出資の受け入れは、企業結合に該当します。
したがって、取得、逆取得、共同支配企業の形成などのどれに該当するかによって、以下のようになります。
企業結合の分類 | 会計処理 |
---|---|
取得 | 受け入れられた資産および引き受けた負債を、現物出資時の時価により計上する。 |
逆取得 共同支配企業の形成 共通支配下の取引 |
受け入れられた資産および引き受けた負債を、現物出資直前の適正な帳簿価額によって計上する。 |
現物出資の対象財産が、事業に該当しない場合の現物出資の受け入れについては、個々の対象財産ごとに個別の会計基準に従うことになります。
現物出資の対象財産が固定資産である場合には、出資者に対して交付された株式の発行価額をもって固定資産の取得原価として、同額を資本金または資本準備金として、計上します。
現物出資の対象財産が金融資産である場合には、その金融資産を現物出資時の時価によって計上し、同額を資本金または資本準備金として、計上します。
ただし、金融資産が子会社株式、関連会社株式であり、かつ現物出資の当時企業が共通支配下にある場合は、その対象財産が事業投資となることから、現物出資の対象財産に該当する場合と同様の会計処理を行うことになります。
現物出資する財産に、パソコンや機械類などの減価償却資産が含まれている場合には、決められた耐用年数によって、費用化していくことになります。
また、現物出資による財産の取得価額が判断できない時には、現金で穴埋めをしなければならないこともあります。
現物出資される財産のうち、パソコンや機械類など、時の経過によってその価値が減っていく資産を「減価償却資産」といいます。一方、土地や骨とう品など、時の経過によっても価値が減少しない資産は減価償却資産ではありません。
①通常の償却
現物出資財産が減価償却資産である場合には、耐用年数に応じて費用化していくことになります。
②少額減価償却資産
使用可能期間が1年未満で取得価額が10万円未満のものについては、少額の減価償却資産となり、全額を費用化することができます。
また、取得価額が10万円以上20万円未満の資産である場合には、3年間の均等償却することができます。
③一括償却資産
取得価額が10万円以上20万円未満の資産の場合には、3年間の均等償却ができます。この方法は設立初年度が12か月内と1/3ではなく月割計算になります。
④中小企業者の少額減価償却資産
中小企業者の場合には、30万円未満の減価償却資産については、事業の用に供した日の属する事業年度に、全額費用処理することができます。
参照:国税庁「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」
会社が黒字の場合には、これらの費用を損金算入することで、税金を安くすることができます。
ただし、会社が赤字の場合には、損金算入する額が増えても、利益に対する税金がゼロなので、節税効果はないということになります。その場合には、会社の状況に適した処理の方法を選択する必要があります。
いずれにせよ、現物出資財産をどのように費用化していくかについては、税理士に相談して状況に適した方法をアドバイスしてもらうのがおすすめです。
現物出資財産の価額は時価で評価します。しかし、中古車などは、市場でもかなり価額の幅があることもあり、時価の判断が難しいこともあります。
この場合、税務署側が時価を不当であると指摘するためには、税務署側で適正な時価を示す必要があります。したがって、ある程度の幅までは許容されると考えてよいでしょう。ただし、明らかに不当な金額で評価されている場合には、差額を現金で補填したり貸付金や未収入金として処理したりしなければならなくなります。
現物出資の時価が不明な場合にも、あらかじめ税理士に相談しておく方がよいでしょう。
現物出資をした個人は、財産を現物出資という形で会社に譲渡し、対価として株式を取得することになります。したがって、原則として個人の所得税・住民税の課税対象である譲渡所得の計算が必要になります。
譲渡所得の金額は、「収入金額-(取得費+譲渡経費)」で計算しますが、現物出資の対象財産の種類によって計算方法が異なり、税負担が生じない場合もあります。
また、私生活で使用していたパソコンや通勤用の自動車などを現物出資した場合などは、生活に通常必要な動産を譲渡したことになるので、例外的に非課税となります。
以上、現物出資についてご紹介しました。
現物出資には、手持ちの資産を活用し資本金を増やせるというメリットがありますが、現物出資財産について適切に評価をし、定款などの書類を作成する必要があります。
また、会社設立時にはこのほかにも、事業年度や資本金の額など、さまざまな事項について慎重に検討する必要があります。
スムーズに会社を設立し、後々のトラブルを避けるためにも、設立時には税理士にアドバイスを受けることをおすすめします。
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