運転資金とは|計算式・チェックポイント・改善方法

公開日:2019年11月19日
最終更新日:2022年04月22日

この記事のポイント

  • 運転資金とは、会社が事業を続けていくうえで必要となる資金のこと。
  • 運転資金は貸借対照表の「売掛金+在庫-買掛債務」で簡易に算定できる。
  • 運転資金を改善するためには、売掛金の回収を早めたり販管費を見直したりすることが大切。

 

運転資金とは、会社が事業を続けていくうえで必要となる資金のことをいいます。

運転資金に余裕がある場合には資金負担を考慮する必要はありませんが、運転資金が不足しそうな場合には、早めに必要な運転資金を調達することを検討しなければなりません。

運転資金とは

会社が事業を続けていくうえで必要な資金を「運転資金」といいます。
事業継続に必要な資金ということから「必要運転資金(資本)」と言われることもあります。また、当期末の運転資金と前期末の運転資金の増減を「増加運転資金」といいます。一方、流動資産(現金をのぞく)から、流動負債を控除したものを「正味運転資金(資本)」といいます。

(1)まず運転資金を算定する

運転資金の算定方法はいくつかありますが、ここでは、「仕入をして販売して回収する」というビジネスを例にとり、売掛金、在庫、買掛金の3つの項目をチェックする方法をご紹介します。

売掛金
得意先との通常の取引によって生じた営業上の未収代金のこと

在庫
加工あるいは販売するために保有している原材料・仕掛品・製品あるいは商品

買掛金
仕入代金の未払い分や外注加工費の未払い分のこと

在庫を仕入れるためにはそれだけの資金が必要ですし、それを販売しても売掛金を回収するまでは資金は入ってきません。

そこで、「ビジネスを回していくうえでどのくらいの資金が必要なのか」という運転資金は貸借対照表の「売掛金+在庫-買掛債務」で計算します。

運転資金 = 売掛金 + 在庫 - 買掛金

運転資金がマイナスなら、資金繰りが不足している状態で、プラスなら運転資金に余裕があるということになります。

(2)運転資金と売掛金の関係を見る

売上取引がすべて現金取引であれば、売上高の計上=資金の増加ということになりますが、通常は取引先ごとに月次で請求に関する締め日を設定し、一定日にまとめて代金を入金してもらうケースが多いでしょう。
この売上代金の回収に関する取引先との取り決めを「回収条件」といい、回収条件が早ければ資金繰りが楽になりますし、回収条件が遅ければ資金繰りは苦しくなります。

たとえば、売上高が100万円計上されたケースで見てみましょう。

①期末に売掛金がある場合
期末に売掛金残高がある場合には、期中の売上計上額の一部が回収されていない状況であるため、その分売上と比較して回収される資金が減少します。
②期首に売掛金があり、期末の売掛金が増加している場合
売上高100万円に対して、現金回収が90万円です。これは、期首と期末の売掛金残高の差額分、資金の回収が減ったということになります。

(3)運転資金と買掛金の関係を見る

支払をすべて現金で行っていれば、仕入高=資金の減少になりますが、通常は棚卸資産の検収後に資産計上され、同時に買掛金が計上されます。そして一定期間が経過した後に支払いがされます。
このため、資金の支払が仕入債務の計上時期から一時的に遅れることになります。
したがって、売掛金とは逆に仕入れ代金の支払い期限が遅いほど、資金繰りは楽になり、支払期限が早まると資金繰りが苦しくなります。
このように仕入先にどのように支払いを行うのかという取り決めを「支払条件」といい、支払条件が遅ければ遅いほど資金繰りは楽になります。
したがって、資金繰りを楽にするためには、支払条件について十分検討する必要があります。

(4)運転資金と在庫の関係を見る

棚卸資産が増加すると、資金繰りを悪化させることになります。
なぜなら、棚卸資産を購入する時には資金を投下しますが、その棚卸資産が販売され、売上高に対応する売上原価として計上されるまでは、投下資金が固定化されるからです(棚卸資産が販売されるまで、売上原価は計上できません)。

棚卸資産が増加すれば資金が減少することになりますし、貸借対照表の「総資産の増加」によって経営指標が悪化します。

また、保管スペースや棚卸にともなう人件費負担の増加も懸念されます。
したがって、過剰在庫はできるだけ少なくすることが大切です。

(5)現預金は月商3カ月分あると安心

資産には、現金預金のほかに前述した売掛金や在庫、固定資産などがありますが、不測の事態が起こった時に頼りになるのはやはり現金預金です。
金融機関に緊急融資等の申し込みを行っても、中小企業の場合には融資実行まで数カ月かかることもあります。
このような事態を想定すると、不測の事態が起こっても、当面は手もとにある現金預金で数カ月は事業を存続させるだけの備えが大切です。
たとえ売り上げがゼロの状態となっても、人件費や地代家賃などの固定費と買掛金の支払いは必要です。
一般的には、現金預金は常に最低3カ月分の固定費と買掛金の支払い分を蓄えておくとよいでしょう。

運転資金を確保するためには

運転資金を確保し資金繰りを改善するためには、売掛金の回収タイミングの見直し、買掛金の支払いタイミングの見直し、販管費の見直し、売上原価の削減などの検討が必要です。
また簡単ではありませんが、売上高の向上も当然検討しなければなりません。

(1)売掛金の回収、買掛金の支払を見直す

運転資金を確保して資金繰りを良くするためには「売掛金を早く回収し、買掛金の支払いは遅くすること」が大切です。
売上の回収が早く仕入の支払が遅ければ、その差が資金となるので、会社の資金繰りを楽にすることができるからです。
つまり、売上がどんなに上がっても、キャッシュが手元にないと、会社は倒産してしまいます。この状態を少しでも解消しようというのが「売掛金を早く回収し、買掛金の支払は遅くすること」なのです。

これは、売上高が急増している場合でも同じことがいえます。
売上高が急増は事業規模の急拡大を意味しますから、必要な在庫の水準も急増しますし売掛金も急増します。
つまり、必要な運転資金の水準もそれにあわせて急激に増加することになります。

この時、運転資金の増加分だけ資金繰りが悪化して、営業利益が出ているのにキャッシュがマイナスになることもあります。売上高がアップしている時にも、運転資金が不足していないかは十分注意するようにしましょう。

(2)販管費を見直す

損益計算書の営業利益は、「売上総利益-販売費及び一般管理費」で計算します。
そして、営業利益を増加させるためには、①売上高そのものを増やす、②売上原価を下げる、③販管費を下げるの3つの方法があります。
①売上高そのものを増やす、②売上原価を下げるという方法は、効果があらわれるまでに時間がかかることが多いため、資金繰りが悪化していて、運転資金を確保するためには、まず③販管費を下げるという方法を検討します。

販管費を下げるためには、まず事業継続に影響が少ない経費の削減から検討します。販管費のなかでもっとも比率の多い項目といえば人件費ですから、役員報酬や従業員の給与などを削減することができれば、法定福利費などの関連経費も削減することができます。

ただし、安易に人件費の削減を実施すると労働トラブルに発展するリスクがあるため、十分な注意が必要です。

(3)売上原価を削減する

販管費の削減の次に検討したいのが、売上原価の削減です。
損益計算書の最初の利益である売上総利益は「売上高-売上原価」で計算しますから、売上総利益を増やせば、以降の利益の源泉を確保することができるからです。

製造業の場合には製造経費別に削減を検討し、小売業の場合には仕入単価や仕入数量の調整を検討します。

ただし、売上原価の削減は、仕入先との関係性に配慮する必要がありますし、場合によっては新たな仕入先の開拓も検討する必要があり、それらの労力も踏まえて慎重に検討する必要があります。

(4)売上高を上げる

売上高の向上のためにまず行うのが、既存事業の売上単価のアップです。
売上数量が低ければ、新規顧客の集客や既存顧客のリピート率の向上策を検討します。

また、全く新たな事業の実施も検討します。
たとえば、遊休不動産を所有しているのであれば不動産賃貸事業、フランチャイズ加盟などです。

ただし、新規事業への参画は、既存事業の改善以上に十分な検討が必要なことは言うまでもありません。

(5)資金調達は早めに行う

「気づいたら手元にキャッシュがなくて黒字倒産」という事態を避けるためにも、運転資金については可能な限り迅速にその傾向を把握する必要があります。そして、必要に応じて資金調達を行ないます。

日本政策金融公庫
日本政策金融公庫とは、100%政府が出資している金融機関です。
起業したばかりの企業やシニア起業家でも、無担保・無保証人での貸付が可能な場合もあります。
決算書の内容だけでなく、経営者のビジョンや熱意といったものも判断材料とするので、民間の金融機関では融資が難しい場合でも、融資が可能となることがあります。

地方銀行
地方銀行とは、全国展開はしていないものの、商圏内の中小企業との取引も積極的に行っています。地方銀行から融資を受けるためには、まず信用金庫や信用組合で融資を受けて、実績を重ねたうえで事業規模拡大に合わせて地方銀行から融資を受けられるように進めていくとよいでしょう。
地方銀行は、会社の決算書の内容を重視するので、融資を受ける際には財務格付けを意識して決算書を作成してもらうよう、税理士に相談することをおすすめします。

都市銀行
都市銀行とは、みずほ銀行、りそな銀行などの大手銀行をいいます。
中小企業の場合、よほど「継続して利益が出ている」という特殊なケースでもない限り、融資を受けることは難しくなります。
また、都市銀行から融資を受ける際には、決算内容が非常に重視されますので、地方銀行以上に財務格付けを意識した決算書を作成することが大切です。

金融機関と上手に取引するためには
金融機関の融資審査では、決算書の内容が非常に重要です。
毎月の試算表は税理士に作成してもらい、金融機関から求められたらいつでも提出できるよう準備しておきましょう。また、金融機関から説明を求められた時にどのように回答すればよいのかについても、税理士からアドバイスを受けておきましょう。

まとめ

以上、運転資金の意味や計算方法、運転資金を確保するための対策などについてご紹介しました。
運転資金を確保し資金繰りを良くするための具体的な方法は、業種や個々の状況によって異なりますが、早めに税理士に相談して、運転資金の計算方法などについてアドバイスを求めましょう。

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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」

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