労災の手続き|業務災害・通勤災害とは?(よくあるQ&Aつき)

公開日:2019年07月04日
最終更新日:2022年07月14日

この記事のポイント

  • 労災保険は、業務上または通勤途中での労働者のケガや病気が補償の対象となる保険。
  • 労災保険の主な給付としては、療養(補償)給付、休業(補償)給付などがある。
  • 労災保険は、原則として健康保険のような自己負担金はない。

 

労災保険と健康保険は、どちらもケガや病気などをしたときに給付される保険です。
どちらの保険が適用されるかは、発生原因によって異なり、労災保険は、業務上または通勤途中での労働者のケガや病気が補償の対象となっています。
この記事では、労災について詳しく解説していきます。

労災とは

労災とは、労働災害(業務上や通勤途中のケガや病気)のことで、労災保険とは、従業員の労働災害に遭った時に必要な給付を行うことを目的とした保険です。事業所が従業員を1人でも雇った場合には、労災保険に加入することが義務付けられています。

(1)労災保険と健康保険の違い

仕事とは関係のない日常生活におけるケガや病気については、健康保険から給付を受けることができます。扶養家族にもほぼ同様の給付があります。
健康保険の場合には、自己負担額は原則として3割(例外あり)ですが、労災保険は原則として自己負担なく給付を受けることができます。
健康保険は、健康保険証を医療機関に提示すれば適用されますが、労災保険はまず労災保険の給付要件を満たすか行政が判断し、保険給付の支給決定を行うかどうかの行政処分が行われるという流れになります。

(2)労災保険の「メリット制」とは

事業主や労働保険料の納付手続をしている担当者がぜひ知っておきたいのが、労災保険の「メリット制」です。
労災保険のメリット制とは、労働災害の発生状況によって、保険料を割り増したり割り引く制度です。
つまり、労災保険を使うと労災保険料が上がり、逆に労災保険をあまり使わないと労災保険料が下がることがあるわけです。
そこで、労災保険を使うことで労災保険料が上がることを嫌がり、労災事故が起こっても従業員に「健康保険を使っておいて」という事業主がいます。しかし、労災保険を使えば、必ず保険料がアップしてしまうわけではありませんし、このような労災隠しが発覚した場合には、罰則を課せられることになります。
安全衛生法120条第5号では、労働者死傷病報告をせず、もしくは虚偽の報告をしたり出頭しなかったりした者に対しては、50万円以下の罰金に処する旨規定されています。

(3)労災①「業務災害」

労災には大きく「業務災害」と「通勤災害」があります。
業務災害とは、仕事に関係して起こったケガや病気などで、通勤災害とは、通勤途中のケガなどのことをいいます。

このような労災の場合には、健康保険ではなく労災保険をつかって病院にかかることになりますが、その費用などについて給付を受けるためには、労働者かその家族が労働基準監督署に労災保険給付の請求を行う必要があります。

また、仕事の途中に建設場の落下物に当たったり、交通事故に遭ったりといった第三者の行為によって生じた災害も労災として補償を受けることができます。このような災害を「第三者行為災害」といい、その場合には「第三者行為災害届」が必要となります。

業務災害
仕事が原因のケガや病気を「業務災害」といいます。
仕事中に事故に遭って、ケガをしたり病気をしたりした場合に、その傷病の原因が仕事にあると認められる時には、労災保険の給付を受けることができます。

業務上災害と認定されるためには、業務と傷病との間に一定の因果関係があることが必要です。
この因果関係を「業務起因性」といいます。
業務に起因して災害が発生し、その災害によって労働者の傷病等が発生したことが証明されて、はじめて業務上の傷病と判断されます。

業務起因性の有無を判断する際の「業務」とは
・ 本来の業務
・ 本来の業務に付随する行為(他の従業員の手伝いなど)
・ 業務の準備・後始末する行為(業務開始までの待機時間など)
・ 業務に必要かつ合理的な行為
・ 緊急行為(火災等に際しての緊急行為など)
・ 生理的必要行為(トイレに行く行為など)
・ 反射的行為(落とし物をとっさに探す行為など)

しかし、この業務起因性が判断されるためには、労働者が事業主の支配下にあることが前提で、これを「業務遂行性」といいます。
したがって、業務災害か否か判断する際には、まず①業務遂行性があるか、②業務遂行性がある場合には業務起因性があるか否かについて判断していくことになります。
業務遂行性が認められると、とくに業務起因性を否定するような事由が認められないことから、業務災害と認められます。

業務遂行性の3つの類型
①労働者が事業主の支配下にあり、かつ管理下にあって業務に従事している時
自分の担当業務および付随行為を行っている時の災害(準備・後始末の作業、トイレに行く途中の事故)も含めて「業務上」となります。
トイレなどの生理的行為は、「事業主の支配下で業務に付随している行為」として取り扱われることになりますので、「業務上」となります。
しかし、労働者が故意に災害を発生させた場合や、個人的な恨みなどによって第三者から暴行を受けた場合は、業務災害と認められません。

②労働者が事業主の支配下にあり、かつ、管理下にあるが業務に従事していない時
休憩時間中や事業場施設内で業務以外の行為中に起こった災害は「業務外」となりますが、その災害が事業場施設の欠陥による場合は「業務上」となります。

③労働者が事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している時
トラック運転手の輸送中の事故や、出張中の事故などは、原則として「業務上」となります。
参照:厚生労働省「業務災害について)

疾病に関する「業務上」「業務外」の判断は非常に難しく、因果関係の立証が難しく紛争になるケースも多く見受けられます。
特に過労自殺の場合の労災認定は以前はほとんどなく、働き過ぎが原因で心神喪失の状態にあったと明確に証明できる少数のケースに限られていたのです。

しかし過労自殺が増え、過労自殺を理由とした労災申請や訴訟が急増したことを受け、平成11年に「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」が策定されました。この指針によって過労自殺が労災認定される類型が明確に規定されたことで、労災認定されるケースも増加傾向にあります。

参照:厚生労働省「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」

(4)労災②「通勤災害」

通勤途中のケガを「通勤災害」といい、業務災害と同様に労災保険の給付を受けることができます。通勤とは、住居と会社(就業場所)の往復をいい、途中で寄り道した場合には給付対象とならないので、注意が必要です。

参照:厚生労働省「通勤災害について」

通勤災害の「通勤」とは、①住居と就業場所との往復、②就業の場所から他の就業の場所への異動、③単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動を合理的経路および方法によって行うことをいいます。

たとえば、終業後に飲み会に行ったり映画に行ったりすると、「通勤途中」と認められなくなります。ただし、帰り道に日用品などの購入をするためにスーパーに立ち寄る行為や、選挙の投票などを行なう行為は、日常生活に必要な行為と認められ「通勤途中」と判断されます。
なお、通勤災害については、平成29(2017年)年1月1日より、労災補償の対象を拡大され、同居・扶養していない孫、祖父母および兄弟姉妹の介護のため、合理的な通勤経路を逸脱・中断した場合も労災補償の対象になりました。

業務上または通勤途中の災害が、第三者の行為などによって生じたものを「第三者行為災害」といいます。労災保険の給付が受けられるかどうかは、誰に過失があるかは問題となりません。
業務災害または通勤災害の条件さえ満たしていれば、自損事故など相手のない事故や従業員の過失が100%である場合も労災保険が使えます。
ただし、このような相手がいる災害の場合では、「第三者行為災害届」を労働基準監督署に提出する必要があります。

参照:厚生労働省「第三者行為災害について」

(5)労災保険の給付の種類

労災保険の給付は、業務災害と通勤災害で、それほど内容に変わりはありません。

業務上の災害に関する保険の給付は、下記の8種類です。

①療養補償給付
②休業補償給付
③障害補償給付
④遺族補償給付
⑤葬祭料
⑥傷病補償年金
⑦介護補償給付
⑧二次診断等給付

通勤災害に関する保険の給付は、下記の7種類です。

①療養給付
②休業給付
③障害給付
④遺族給付
⑤葬祭料
⑥傷病年金
⑦介護給付
※通勤災害の給付には「(補償)」がつきません。
療養(補償)給付
業務上のケガまたは病気で、労災病院等で、無料で診察が受けられる現物給付の制度です。被災労働者が、やむを得ない事情で労災保険の指定病院等以外の病院等で治療を受けて、その費用を自己負担した時には、その療養の費用を償還してもらうことができます。
病院や薬局等の証明を受けて、所轄の労働基準監督署に必要書類を提出します。電車、バス等の公共交通機関を利用した場合にはその費用についても支給されます。

必要となる主な書類
療養補償給付たる療養の費用請求書
療養補償給付たる療養の費用請求書(交通移送費用証明書)

休業(補償)給付
療養のために休業し賃金を受けない日が第4日目に及んだ時には、休業4日目から休業1日につき給付基礎日額の60%が支給されます。
なお、業務上障害の場合には、労災保険から給付されない第1日目から第3日目までについて、事業主に補償義務が生じます。

必要となる主な書類
労働者死傷病報告
休業補償給付支給請求書・休業特別支給金支給申請書

傷病(補償)給付
業務上の傷病が療養開始後1年6カ月経過しても完治せず、傷病等級1級から3級に該当した時、傷病等級に応じて給付基礎日額の313~245日分の年金で支給されます。

傷病補償年金を受給されるようになった時には、傷病補償給付を受けることはできません。
労働基準監督署が、治癒していない人に対して届出を提出させ、職権で決定しますので、労働者から請求書を提出するものではありません。

障害(補償)給付
業務上の傷病が治って、障害等級の1~7級までの障害が残った時には、障害等級に応じて給付基礎日額の313~131日分が障害補償年金で支給されます。
8~14級の障害が残った時には、障害等級に応じて給付基礎日額の503~56日分が障害補償一時金で支給されます。
医師の診断書や傷害の状態を証明するレントゲン等で治ゆした日を確認し、年金手帳や戸籍謄本、病歴、就労状況等申立書、配偶者の所得証明など、障害給付裁定請求書に必要な添付資料を用意します。
必要となる主な書類
①障害補償給付支給請求書・障害特別支給金・障害特別年金・障害特別一時金支給申請書
※診断書を添付
②障害補償年金・障害年金前払い一時金請求書
③年金請求書(国民年金・厚生年金保険生涯給付)
介護(補償)給付
障害補償年金または傷病補償年金の受給権者の障害の程度が常時または随時介護を必要とする場合、原則としてその月において支出された介護費用の額が支給されます。

必要となる主な書類
①介護補償給付・介護給付支給請求書
②介護に要した費用の額の証明書(費用を払って介護を受けた場合)

遺族(補償)給付
傷病で死亡した時、一定の遺族に対して遺族数に応じて給付基礎日額の153~245日分が遺族年金として支給されます。
遺族補償年金の受給権者がいない時には、給付基礎日額の1,000日分が一時金で支給されます。なお、遺族補償年金の受給者が失権し、他に受給資格者がおらずすでに受けた年金総額が給付基礎日額の1,000日分に満たない時には、給付基礎日額の1,000日分からすでに受けた年金総額を差し引いた額が一時金として支給されます。

必要となる主な書類
①遺族補償年金支給請求書・遺族特別支給金・遺族特別年金支給申請書
②遺族補償年金・遺族年金前払一時金請求書
③遺族補償一時金支給請求書・遺族特別支給金・遺族特別一時金支給申請書

葬祭料(補償)給付
傷病で死亡した者の葬儀を行った時には、315,000円に給付基礎日額の30日分を加算した額が支給されます(給付基礎日額の60日分が最低補償されます)。
必要となる主な書類
葬祭料請求書

二次健康診断等給付
一時健康診断において、血圧検査、血液検査等業務上の事由による脳血管・尊像疾患等の検査で異常と判断された時には、医師による二次健康診断が実施され、保健指導等が行われます。

参照:厚生労働省「各労災保険給付の支給事由と内容について」

労災に関するQ&A

労災に関する手続きは、煩雑なことも多いものです。
ここでは、労災に関してよくある質問について、ご紹介します。

(1)従業員の入退社時の手続き

--「従業員の入退社時の労災保険の手続きについて、教えてください」

労災保険は、労働者を1人でも使用している事業所は、原則として当然に労災保険の強制適用事業所となり、一度届出をすれば次に社員を雇用する時には手続きは不要です。
また、従業員が退職した時にも手続きは特に必要ありません。

(2)従業員が海外の会社に出向した時

--「従業員が海外に出向した時の労災保険の手続きについて教えてください」
従業員が海外の関連会社に出向した場合、国内の労災保険の効力は及びませんので、出向元で労災保険に加入することはできません。
そこで、海外で働く労働者の場合には、特別加入の制度を利用することになります。ただし、海外で特別加入が認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。

①国際協力事業団などが実施する事業で、開発途上国で行われる事業に派遣される者
②日本国内で行われる事業から労働者として派遣される者
③海外で行われる300人以下の労働者を使用する事業(金融・保険・不動産・小売業の場合は50人以下、卸売業・サービス業は100人以下)の事業に代表者などで派遣される者

(3)会社が労災保険に加入していない時

--「会社が労災保険に加入していない時には、何かペナルティはありますか?」
会社が労災保険に加入していない場合、労働基準監督署から加入するよう個別に訪問されることがあります。そして、加入の指導をされたにも関わらず加入しない場合には、労働補償に要した費用が会社に徴収されるなどのペナルティを課されることもあります。

(4)労災指定病院以外で治療した時

--「従業員が、労災指定病院以外で治療したのですが、労災の給付は請求できますか」
労災指定病院以外で診察した場合には、労災でかかることを病院に告げた上で、費用の全額を支払って下さい。
その費用は「療養補償給付たる療養の費用請求書」に病院の証明をもらい、領収書を添付して労働基準監督署に提出しましょう。

(5)病院を変えたい時

--「今までかかっていた病院を変えたい場合は、手続きが必要ですか」
今までかかっていた労災指定病院等から別の労災指定病院に変更する場合には、「療養補償給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届」を変更後の労災指定病院に提出することで、治療を受けることができます。

(6)健康保険を使って治療してしまった時

--「労災なのに、健康保険を使って治療した場合、どのような手続きが必要ですか」
労働災害であるにもかかわらず、健康保険で治療を受けてしまった場合は、まず受診した病院に健康保険から労災保険に切替えができるかを確認してください。
切替えができない場合には、一時的に医療費の全額を自己負担したうえで、労災保険を請求することになります。
切替えができる場合には、病院の窓口で支払った金額の返還を受けることができます。

参照:厚生労働省「お仕事でのケガ等には、労災保険」

まとめ

以上、労災(業務災害・通勤災害)の認定基準、支給される給付の種類とそれぞれの内容、必要となる手続きについてご紹介しました。
労災の手続きは、個々のケースで要件が異なりますし、手続きにミスがあると労働者が必要な給付を受けられなくなってしまうなどの労災トラブルが起こることもあります。
このようなトラブルを避け、もれなく加入手続きや労災申請(請求)手続きを行うためにも、不明点・疑問点がある場合には、早めに社会保険労務士にアドバイスを受けましょう。

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監修:「クラウドfreee人事労務」

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