IPO(株式上場)とは?基礎知識や費用などを解説

公開日:2019年04月05日
最終更新日:2022年07月25日

この記事のポイント

  • 株式上場(IPO)とは、「資本市場でデビューをすること」。
  • IPO(上場)は、知名度向上、資金調達など多くのメリットがある。
  • IPO(上場)のためには、厳しい上場審査を通過する必要がある。

 

IPO(上場)予定時期を決定したら、監査法人や主幹事証券会社を決定して、社内管理体制の整備や内部監査体制、必要書類の作成を行うなど、長期にわたる準備作業が必要となります。

どの市場に株式を上場させるか、上場プランはどのように作成するかを決定する必要もありますし、上場準備をサポートしてくれる税理士、弁護士などを選択する必要もあります。
上場準備に着手してから実際にIPO(上場)を果たすまでの期間は、最低でも3年間は必要です。したがって、株式上場を検討し始めたら早めに準備に取り掛かるようにしましょう。

ここでは、株式上場のための基礎知識、大まかな流れについてご紹介します。

IPOとは

IPOとは、「Initial Public Offering」の略語で、初めての株式上場のことを言います。
株式上場は、簡単にいうと「資本市場でデビューをすること」です。具体的には、株を投資家に売り出して証券取引所に上場し、誰でも株取引ができるようにすることをいいます。

株式会社であれば、どんな会社でも株式を発行し投資家を募ることができますが、未上場会社の株式は評価や換金がしづらいため、親族間の譲渡や相続などで株式移動するのが一般的です。

しかし株式上場すると、株式が市場を通じて売買されることになりますので、換金性の高く評価しやすい株式になり、不特定多数の投資家が自由に売買することができる状態になります。
そして、このように株式の売買をしてもらう取引所を「証券取引所」といいます。

証券取引所は、札幌、東京、名古屋、福岡にあり、東京と名古屋の各証券取引所には、市場第一部と第二部が存在します。
東京証券取引所は、投資家に多様な投資機会を提供する目的で、新市場「マザーズ」を創設しました。また、名古屋証券取引所は「セントレックス」、札幌証券取引所は「アンビシャス」を創設しました。

(1)株式市場の種類

IPOとひと口に言っても、実にいろいろな市場がありますが、新規上場市場はまず大きく「本則市場」と「新興市場」の2つに区分することができます。一般的には本則市場の方が基準が厳しく、従来は大企業しか上場することはできませんでした。
しかし、1990年代末以降に続々と新興市場が開設され、より新興企業が上場しやすい審査基準が設けられることとなりました。
なお東証は、市場区分の見直しに向けた検討を進め、2022年4月4日に、「プライム市場・スタンダード市場・グロース市場」の3つの市場区分をスタートさせました。

従来の市場 新興・成長企業向け新市場 プロ向け市場
東京証券取引所 プライム・
スタンダード
グロース TOKYO Pro Market
名古屋証券取引所 市場一部・二部 セントレックス
札幌証券取引所 既存市場 アンビシャス
福岡証券取引所 既存市場 Qボード

(2)IPOで何が変わるか

IPO(株式上場)をすると、一般的には以下のようなメリットがもたらされます。

①広く一般投資家から資金調達をすることができる。
②知名度が向上し、広告宣伝効果が期待できる。
③創業者である株主は、上場によってキャピタルゲインを得ることができる。
④銀行、取引先、一般顧客などに対する信用力が向上するので、融資を受けやすくなるなど、ビジネス上のメリットが期待できる。
⑤従業員のモチベーションがアップし、優秀な人材を確保しやすくなる。
⑥上場準備を行う工程のなかで、社内の経営管理体制を整備することができる。
⑦オーナー会社の場合は、相続財産の大半が自社株ということもあるが、上場会社であれば株式を市場で売却することができるので、相続税の納税資金を確保しやすい。

一方で、多大な義務や負担も増えるということでもあります。
たとえば、株主総会の運営や広報、IRなどの事務負担は増えますし、決算発表、四半期報告書の提出などさまざまな情報の開示が要求されます。
また、自由な株式売買ができるということは、株式の買占め、敵対的買収などに警戒する必要性も出てきます。

(3)IPO(上場)審査で求められる基準

上場するためには、厳しい上場審査を通過する必要があります。
この上場審査で求められる基準としては「形式要件」と「実質審査要件」があります。
「形式要件」を満たしていないと、そもそも上場審査まで至らないことになりますが、この形式要件は取引所ごとに異なります。

たとえば、グロース(従来の東証マザーズ)の形式要件としては、「株主数150人以上(上場時見込み)」「流通株式時価総額5億円以上(上場時見込み)」などがあります。
参照:日本取引所グループ「上場審査基準」より一部抜粋

項目 グロースへの新規上場 (参考)本則市場への新規上場
(1)株主数
(上場時見込み)
150人以上
(上場時までに500単位以上の公募を行うこと)
400人以上
(2)流通株式
(上場時見込み)
流通株式数 1,000単位以上
流通株式時価総額 5億円以上
流通株式数(比率) 上場株券等の25%以上
流通株式数 2,000単位以上
流通株式時価総額 10億円以上
流通株式数(比率) 上場株券等の25%以上
(3)時価総額
(上場時見込み)
(4)事業継続年数 新規上場申請日から起算して、1か年以前から取締役会を設置して継続的に事業活動をしていること 新規上場申請日から起算して、3か年以前から取締役会を設置して継続的に事業活動をしていること
(5)純資産の額
(上場時見込み)
連結純資産の額が正
(6)利益の額(連結経常利益金額に少数株主損益を加減) 最近1年間の利益の額の総額が1億円以上

(4)IPO(上場)のコスト

上場するためには、かなりの費用がかかります。証券会社へのコンサルティング報酬や監査法人への監査報酬、申請書類などの印刷代、株式事務代行手数料など、株式上場までにはトータルで数千万円から数億円かかることになります。
これらの費用は、あらかじめ明示されているものもありますが、ほとんどはケースバイケースで異なります。以下に、一例として挙げておきますが、実際の費用には大きな幅がありますので、相談する段階で大まかな額とその内容を確認するようにしましょう。

監査法人などショート・レビュー(短期調査):150万円~400万円
監査報酬:300万円~2,000万円
コンフォートレター(株券等または社債券の発行者に関する調査報告):200万円
証券取引所・日本証券業協会など上場審査料:100万円
上場手数料:200万円~1,500万円
年間手数料:60万円~150万円
証券会社など引受手数料:公募価格×株式数×手数料率(5~7%)
証券会社コンサルティング報酬:500万円~2,000万円
公開申請費用Ⅰの部、Ⅱの部、半期報告書等の作成費用:200万円~300万円
パンフレット、会社説明などの作成費用:200万円
印刷・公告費用株券印刷:150万円~250万円
有価証券届出書作成:100万円
目論見書(株式等の重要事項が記載された説明書のようなもの):
300円~500円×作成部
公告費
その他上場コンサルタント報酬:500万円~1,000万円
証券事務代行費用:400万円

(5)IPO(上場)の支援機関

IP0の実現には、厳しい審査基準をクリアするために準備しなければならない書類も多々あります。
またこれらの書類を準備するために、主幹事証券会社や監査法人、印刷会社などの協力が必須となります。

会社が上場するまでに必要となるパートナー

相談先 内容
主幹事証券会社 株式の引受業務、上場準備に関するコンサルティング、実質審査などを行います。
監査法人 上場申請のための会計監査、株式上場のための調査など、全般的なアドバイスを行います。
税理士 税務に関するアドバイスや、上場に向けた税務対策を行います。
弁護士 法務全般のリスク対策、種類株式の設計などを行います。
弁理士 特許権などの知的所有権がある場合には、その管理とアドバイスを行います。
信託銀行 株式事務代行業務、株主総会運営実務等について、アドバイスを行います。
ベンチャーキャピタル 上場準備段階において、資金提供を行います。
印刷会社 上場適格株券(偽造防止のために特殊な様式を備えた株券)の印刷、有価証券届出書の印刷などを行います。

IPO(上場)の流れ

株式上場するためには、監査法人の監査、上場準備室の設置、主幹事証券会社の選定など、長期にわたる準備作業が必要となります。
株式上場までの大まかなスケジュールは、以下の通りとなりますので、各作業の担当、人材の配置を決めて、効率よく計画を実行していきましょう。

(1)IPO(上場)予定時期の決定

上場予定時期の最低でも3~4年前までには、上場準備室を設置します。
上場準備のためには、全社的な協力が不可欠です。各部門から調整能力・事務処理能力の高い人材を集め、プロジェクトチームを結成します。
この時、社内体制や資本政策の大まかな方針も決めます。

(2)監査法人・主幹事証券会社の決定

上場3年前までには、監査法人・主幹事証券会社を決定します。
監査法人は、上場申請のための会計監査、株式上場のためのショート・レビュー(短期調査)など全般的なアドバイスを行います。
主幹事証券会社は、株式の引受業務、上場準備に関する全般的なアドバイスを行います。

(3)税理士・弁護士・社会保険労務士の決定

上場3年前までには、税理士を決定します。
税理士には、会社に対する税務アドバイスを受けたりオーナー一族の税務対策を行ったりするなどのサポートを受けることになります。
弁護士には、法務全般のサポートを受けます。具体的には、契約書のレビューや書類株式の設計といった業務を依頼します。
また、社会保険労務士には、就業規則など社内諸規定の整備などを依頼します。

(4)社内管理体制の整備

社内管理体制の整備とは、主に資産管理・会計管理などの体制を整えることを意味します。業務の分担と職務権限を明確化にしてルール化して、それを社内規定として成文化します。
なお、社内管理体制の整備のためにはまず、内部牽制組織を確立させることが大切です。内部牽制組織が「諸規定がきちんと機能しているか」をチェックすることは、不特定多数の株主に対しての、ディスクロージャー(企業内容開示)体制を整えることになります。

(5)内部監査体制の確立・経営計画の策定など

IPO上場を実現するためには、独立した第三者監査として監査法人の監査意見を得なければなりませんが、それ以外にも自社内部での監査制度の確立が重要です。

また、組織、人事制度の見直し・内部監査体制の確立・社内諸規定の整備も審査の際に確認されますので、しっかり体制を整備しましょう。
就業規則、賃金規定だけでなく、取締役会規定、各種の会議体規定などの作成も必要です。
この他にも、IPOを実現するうえでは経営計画の策定や月次決算制度の実施など、多くの規定や制度を整備する必要があり、どの規定を整備すべきかについては、各社の状況に応じて判断することになります。

(6)IPO(上場)必要書類の作成など

上場するためには、多くの書類の提出が必要です。
この上場書類申請の時にサポートをしてくれるのが証券会社であり、作成方法まで指導してもらうことができます。

主な必要書類
・上場審査決議取締役会議事録
・株券の見本
・定款
・上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)
・情所申請のための報告書(Ⅱの部)
・監査概要書
・申請年度の株主総会・取締役会議事録
・株主数状況表
・決算報告書
・諸規定・諸規則集
・特別利害関係者等の株式等の移動状況表
・第三者割当等の概況
・人的・資本的関係会社に関する書類
・目論見書

上場申請書類のうち「上場申請のための有価証券報告書(通称『Ⅰの部』)」、「上場申請のための報告書(通称『Ⅱの部』)」などは記載漏れなどがないよう、コンサルタントのアドバイスを受けるのがおすすめです。

「Ⅰの部」は、株式公開する会社に投資する時の投資判断の材料として作成されるものなので、一般の投資家に公開されることが大前提です。「Ⅰの部」については、各市場で一般に公開されているので、事例を見ることができます。
「Ⅱの部」は、証券会社や証券取引所が上場の適格性について審査するための資料です。「Ⅰの部」の補完資料という位置づけの資料なので、「Ⅰの部」より詳細な情報を記載します。
※原則として「Ⅱの部」が必要となるのは、本則市場だけです。

また、決算報告書などについては、税理士のサポ―トを受けながら慎重に進めていくようにしましょう。

(7) 印刷会社の決定

印刷会社は、上場適格株券の印刷、Ⅰの部・Ⅱの部等の申請書類および有価証券届出書、目論見書の印刷を依頼します。

(8)上場申請・審査

上場申請書類を準備し、上場審査の形式基準を満たしたら、いよいよ審査です。
上場企業として相応の実力を備えているかを、さまざまな角度から審査されます。

上場審査は、市場によって異なりますが主に以下のような流れで行われます。

① 上場申請書類の提出
 ↓
② 取引所の審査開始
 ↓
③ 質問状による審査
 ↓
④ 関係者面談
 ↓
⑤ 実地審査
 ↓
⑥ 社長・監査役面談
 ↓
⑦ 取引所役員向け社長説明会
 ↓
⑧ 取引所内協議・決済
 ↓
⑨ 上場の承認

まとめ

以上、IPO(上場)までに必要な手続き、書類、費用、支援機関についての基礎知識をご紹介しました。
これまでご紹介してきたように、株式上場のためには多くの手続きを行う必要があり、高額な費用がかかります。まわりの雰囲気に流されて上場準備を開始すると、「こんなはずではなかった」と後悔することになってしまいますので、IPO(上場)の準備を開始するためには、IPO(上場)のメリット・デメリット、かかる費用、大まかな流れを理解しておくようにしましょう。

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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」

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