公開日:2019年07月08日
最終更新日:2022年07月14日
得意先の倒産などの理由で、その得意先に対する売掛金や受取手形が回収できなることを「貸倒れ(かしだおれ)」といいます。
そして売掛金や受取手形が貸倒れてしまうリスクがある時には、これに備えて一定の金額以下の金額を「貸倒引当金」とし、その年分の必要経費とすることができます。
「貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)」とは、売掛金や貸付金などが回収不能となる金額をあらかじめ見積もったものです。
当該事業年度末に残っている金銭債権について、翌事業年度以降に貸倒れが発生すると見込まれる時には、「貸倒引当金」を設定することができます。
売上と貸倒れが異なる会計期間に発生する場合には、収益と費用の対応に食い違いが生じてしまいます。そこで、あらかじめ将来の貸倒れを見積もって、これを売上の計上と同じ会計期間に費用として見積もるわけです。
貸倒引当金を設定した場合に費用処理した「貸倒引当金繰入額」について一定の要件を満たした場合には、法人税法上、貸倒引当金繰入限度額を損金算入することができます。
貸倒損失とは、法的に消滅した場合・債務者(取引先など)の資産状況や支払能力などからみてその金額が回収できないことが明らかになった場合に、その債権額を帳簿から償却する損失のことをいいます。一方、貸倒引当金とは、まだ回収不能な状況にはなっていないものの、債務者の資産状況や支払い能力などからみて回収不能のおそれがある債権のことをいいます。
もし、相手の倒産などによって売掛金を取りはぐれた時には、「貸倒金(貸倒損失)」という勘定科目で、売掛金全額を経費として、すでに立ててあった売掛金と相殺します。しかし、貸倒損失を計上するためには厳しい条件が必要です。具体的には、民事再生法による再生計画の決定、法的な手続きを経た倒産や破産である場合など、客観的に見て回収不能の状態である必要があります。つまり、「催促しても支払ってくれない」という程度では、貸倒金とすることはできないのです。
そのような場合に、事前に貸倒引当金を立てておき、取りはぐれに備え、回収できないかもしれない売掛金の額を事前に見積もって、いざという時の損失を補てんするために、必要経費の形で用意しておくのです。実際に回収不能となれば、まず貸倒引当金で処理をして、それでも不足する部分は、貸倒金で処理をします。
つまり貸倒引当金は、回収できないリスクを軽減するための制度ということができます。
貸倒引当金の対象となる債権は、売掛金、未収入金、貸付金等の金銭債権に限られます。そして、債権を次のように区分し、区分された債権ごとに回収不能の見積額を算出します。
一般債権:通常の取引通りに入金されている債権
貸倒懸念債権:入金が遅れている債権 破産更生債権:すでに裁判上の手続きに入っている等、実質的に経営破たん状態に陥っている債務者に対する債権 |
貸倒引当金の対象となる債権は、事業の遂行上生じたものに限られます。したがって、必要経費と認められないような個人的な貸金等はその対象とはなりません。
また、貸倒引当金の対象となる債権は、売掛金、未収入金、貸付金等の金銭債権であることから、保証金、敷金、預け金、前渡金等は、事業の遂行上生じたものであっても貸倒引当金の対象とはなりません。
貸倒引当金は、青色申告では売掛金残高の5.5%を必要経費とすることができます。つまり、この金額が貸倒れに対する備えとなります。
白色申告でも貸倒引当金は使えますが、取引先に支払い能力がないことが明らかであるなど、ほぼ貸倒れになることが間違いないという場合に限られます。
貸倒引当金が認められるのは、一部の法人と経過措置が適用される場合のみとなりますので、注意が必要です。
税法上、資本金等の金額が1億円以下の中小企業等では、債権を以下の2つに区分して貸倒引当金の繰入限度額を定めています。
①個別に取引先の事情に基づいて評価する債権(個別法) 個別法は、事由が発生した取引先ごとに回収不能額を見積もり、その金額を「貸倒引当金繰入額」として処理をします。 |
②一括して過去の貸倒れの実績に基づいて評価する債権(一括法) |
上記②の一括評価金銭債権にかかる貸倒れ引当金の繰入限度額の計算においては、貸倒実積率に替えて、下記の法定繰入率を適用することができます。
期末における金銭債権の金額×法定繰入率 |
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区分 | 法定繰入率 |
---|---|
卸売および小売業 | 10/1,000 |
製造業 | 8/1,000 |
金融および保険業 | 3/1,000 |
割賦販売小売業 | 7/1,000 |
その他の事業 | 6/1,000 |
個人事業主の場合には貸倒引当金のうち、一括評価による貸倒引当金の計上をしてその繰入額をその年分の必要経費とすることができます。
区分 | 法定繰入率 |
---|---|
金融業 | 33/1,000 |
その他の事業 | 55/1,000 |
貸倒引当金について、税法上では個別評価金銭債権に係る貸倒引当金と一括評価金銭債権に係る貸倒引当金に区別され、貸倒引当金の対象となる債権の範囲および繰入限度額の算定方法が規定されています。
繰入限度額に達するまでの金額は、損金算入が認められ、繰入限度額を超える部分については加算調整が行われます。
なお、一括評価による繰入額は、貸倒れにならない場合もあり、必要経費として損金算入しておくことで節税につながります。
しかし、ここで注意すべきなのがこれは1年目に限るという点です。
貸倒引当金繰入として必要経費に計上した額は、翌年には「貸倒引当金戻入」として収入に計上しなければならないのです。
つまり、1年目は貸倒引当金繰入として経費計上することができるので節税効果がありますが、2年目にはその金額を収入として計上することになるので、節税の効果があるのは1年目に限られるということになります。
貸倒引当金は個別に取引先の事情に基づいて評価する債権と、一括して過去の貸倒れの実績に基づいて評価する債権があります。
!用語のポイント
※「貸倒引当金繰入額」 ※「貸倒引当金戻入額」 |
個別法
「民事再生法手続開始の申立てをした取引先に対する売掛金200万円に対して、50%の引当金を計上した。」
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
貸倒引当金繰入額 | 500,000 | 貸倒引当金 | 500,000 |
一括法
「小売業の会社が、決算にあたって期末の売掛金1,000万円に対して一括法によって貸倒引当金を設定した。前期末の貸倒引当金は70万円を設定している。当期の貸倒れはなかった。」
1,000万円×10/1,000(小売業の法定繰入率)=100万円 100万円-70万円=30万円…貸倒引当金繰入額 |
---|
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
貸倒引当金繰入額 | 300,000 | 貸倒引当金 | 300,000 |
「貸倒引当金繰入額」とは、取引先の倒産などにより、「売掛金」や「貸付金」などが回収不能となる金額をあらかじめ見積もっておく費用です。
①決算にあたり、取引先が民事再生法手続き開始の申し立てを開始したことによって、売掛金の100万円に50%の引き当て計上をした(個別法)。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
貸倒引当金繰入額 | 500,000 | 貸倒引当金 | 500,000 |
②決算にあたり、前期に計上した貸倒引当金残高2万円を取り崩し、当期分として売掛金100万円に対し、法人の法定繰入率(卸・小売業1%)で見積計上した(一括法)。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
貸倒引当金 | 20,000 | 貸倒引当金戻入益 | 20,000 |
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
貸倒引当金繰入額 | 10,000 | 貸倒引当金 | 10,000 |
「貸倒引当金戻入額」とは、貸倒引当金の前期繰越高が、冬季の引当額を超えていた場合にその差額を戻し入れる時に使用する勘定科目です。
①決算にあたり、前期に繰り入れた貸倒引当金10万円を戻し入れた。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
貸倒引当金 | 100,000 | 貸倒引当金戻入益 | 100,000 |
②決算にあたり、前期に繰り入れた貸倒引当金20万円を戻し入れ、当期は25万円を繰り入れた。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
貸倒引当金 | 200,000 | 貸倒引当金戻入益 | 200,000 |
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
貸倒引当金繰入額 | 250,000 | 貸倒引当金 | 250,000 |
期以前の貸倒処理した売掛金等を回収した時には、以下のように処理します。
「前期に貸倒れ処理した売掛金20万円を当期に現金で回収した。」
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金 | 200,000 | 償却債権取立益 | 200,000 |
以上、貸倒引当金の意味や計算方法についてご紹介しました。
ここでご紹介したように貸倒引当金の処理は大企業、中小企業、個人事業主などによって計算方法が異なりますし、会計処理は大変複雑です。
また、貸倒引当金を計上した時には、貸倒引当金を計上することができる事由が生じていることを証明する資料を保存しておく必要があります。
しかし、貸倒引当金を計上することは、正確な期間損益を計算するために不可欠なものであり、1年目は節税効果も期待できます。
早めに税理士に相談して、正しい処理についてアドバイスを求めるようにしましょう。
監修:「クラウド会計ソフト freee会計」
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