公開日:2024年07月22日
最終更新日:2024年07月22日
不良債権は、未然に防ぐのが一番ですが、万が一発生した場合には財務内容の健全化を図り、対外的な信用を回復するためにも、早急に適切な処理を行う必要があります。
一般に、債権者の不良債権等の処理としては、①貸倒れ、②債権譲渡、債権の現物出資の処理が行われます。
なお、親会社等の支援がある場合には、①債権の放棄等、②復旧支援のための債務免除等の処理も考えられます。
不良債権とは、一般的には経営が破たんした企業に対する売掛金、貸付金など、回収が不可能または困難な金銭債権をいいます。
不良債権の具体例としては、以下のようなケースが考えられます。
受取手形や売掛金 商品やサービスの引き渡し後に発生する売上債権です。取引先との信用取引で生じ、代金が未回収のものは不良債権とみなされます。 立替金 未収入金 貸付金 その他、支払いが確定した損害賠償金で未収のものや支払期限が到来していないものの、未回収リスクのあるものも不良債権と認識されます。 |
不良債権比率とは、貸付金等総与信残高に占める不良債権の割合を見る指標で、以下の計算式で計算します。不良債権比率が低いほど、経営が安定していると評価されます。
不良債権比率(%) = 貸倒引当金平均総売上債権 × 100 |
事業を行ううえでは、いかに売上を伸ばすかと共に、不良債権のリスクをいかに減らして確実に代金を回収するかという対策を講じることが重要です。
そのためには、売掛金について「いつ」「どこで」「いくら売り上げて」「いつ入金されるか」という情報を記録して管理する必要があります。
そして、取引先の売上傾向や入金状況などを確認して分析することが必要です。
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不良債権を回収する手段としては、いきなり訴訟という手段をとらず債務者の態度に応じた回収方法を検討します。
まずはメールで督促を行って反応がなければ、内容証明郵便を送ります。
内容証明郵便でも反応がなければ、簡易裁判所が関与する支払督促という制度を利用します。
この支払督促の対象となる債権は、金銭その他代替物または有価証券の一定数量の給付請求権に限られます。
この他、裁判所が関与する民事調停や特定調停といった制度を利用する方法もあります。
最終的な回収手段としては、本格的な訴訟による回収ですが、訴訟コストがかかるため十分な検討が必要です。
不良債権が発生した場合には、タックスプランニング上その効果を最大限生かすために適切な処理を行う必要があります。
税務上は、債務者の経営破たんについては債権の貸倒処理、債権の譲渡等を検討することになります。
貸倒引当金とは、将来回収できない恐れがある金銭債権がある場合、これに備えて設定する引当金です。
少しでも回収できる見込みがある場合には、安易に貸倒損失を計上せずに、貸倒引当金を計上し、帳簿上は売掛債権を残して回収するように努めます。
貸倒損失が、客観的にその事実が生じている損失であるのに対して、貸倒引当金は、まだ貸倒れの予備段階で損失を計上するという違いがあります。
貸倒引当金が認められるのは、法人税法上は、中小法人等、銀行などの金融機関、一定の金銭債権を有する法人等(リース会社、質屋など)に限られ、その他の法人が会計上貸倒引当金を計上した場合には、税務上は加算して課税所得に含める必要があります。
会計上は、取り立て不能の恐れがある場合に貸倒引当金を計上しますが、このとき債権を①一般債権、②貸倒懸念債権、③破産更生債権等の3つに区分して、その区分ごとに貸倒見積額を計算します。
①一般債権 経営状態に重大な問題が生じていない債務者への債権です。 ②貸倒懸念債権 ③破産更生債権等 |
なお、法人税法上は金銭債権を「個別評価金銭債権」と「一括評価金銭債権」の2つに区分して、その区分ごとに計算します。
一般的には、特にリスクの高い金銭債権を個別評価金銭債権として、その他は、一括評価金銭債権として計算します。
会計上の債権区分の判断が困難なことから、税法上の計算方法をとることができます。
一括評価債権の引当額には貸倒れ実積率を用います。資本金が1億円以下の中小企業では、業種によって定められた法定繰入率によることも認められています。
事業の種類 | 法定繰入率 |
卸・小売業 | 1.0% |
割賦小売業・包括信用購入あっせん業 | 1.3% |
製造業 | 0.8% |
金融・保険業 | 0.3% |
その他の事業 | 0.6% |
なお、中小会計指針においても、貸倒引当金の繰入限度額相当額が明らかに取立不能見込額に満たない場合を除き、繰入限度額相当額を貸倒引当金とすることができるものとされています。
税務上は、いったん全額を戻入額として計上し、当期引当額全額を繰入額として計上する洗替法が原則です。
①決算において貸倒引当金を10万円繰り入れる。
②翌期、売掛金7万円の貸倒れが発生した。
③決算において、貸倒引当金を設定した。
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貸倒損失とは、取引先の財政状態の悪化や倒産などによって、回収していない売掛金や貸付金などの金銭債権が戻ってこない損失のことです。
損失として計上すれば法人税も少なくなります。そこで、貸倒損失が認められる要件は厳しく設定されており、以下の①~③のいずれかの事実があったときに認められます。
①法令等により金銭債権が消滅する場合 ②全額が回収不能な場合 ③売掛債権の貸倒れの場合 |
A社に対する売掛金110万円と受取手形55万円の貸倒れが発生した。
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不良債権が発生しそうな場合には、早めに対策を講じて少しでも回収できるようにするべきですが、それでも不良債権が発生してしまった場合には、タックスプランニング上、その効果を最大限生かすために、早急に税理士と相談し適切な処理を行います。
不良債権は、金額によっては会社の利益を圧迫するほど重大な結果を招くこともあります。最悪の場合、連鎖倒産に引きずり込まれるリスクもあります。
このようなリスクから会社を守るための危機管理として、代金を確実に回収し貸倒れを最低金額の抑え込むための与信管理を徹底させる必要があります。
金融庁の発表によると、主要銀行の令和5年3月の不良債権残高は、令和4年3月末に比べて減少しており、不良債権比率も低下しています。 不良債権率が低くなるほど、銀行の経営状態は良好ということになります。 銀行の不良債権率が低いことは、必ずしも中小企業の経営がうまくいっていることを直接意味するわけではありませんが、不良債権率が低い場合、全体的な経済環境が良好である可能性が高いです。経済が好調であれば、中小企業も含め多くの企業が安定した収益を上げ、借入金の返済能力が高まっている可能性があります。ただし、政府や公的機関からの支援策や金融政策も影響を与える可能性があります。例えば、低金利政策や中小企業向けの融資保証制度などがあると、中小企業の資金繰りが改善し、不良債権率が低くなることがあります。
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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」
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