公開日:2023年01月04日
最終更新日:2023年10月17日
本来、株式は自由に売買できるものです。上場している会社の株式は、原則として、自由に他者に譲渡することができます。
しかし、小規模な会社の場合には、株式が将来全く知らない他人にわたってしまうと好ましくないケースがあります。
このようなリスクを回避するためには、会社が発行するすべての株式に譲渡制限をつけておきます。
譲渡制限株式とは、その文字のとおり、譲渡時に制限を設けた株式のことです。譲渡制限株式とした場合には、会社の株式を譲渡する際に会社の許可が必要であると定款に定めておきます。
株式会社を設立する際には、必ず会社のルールブックである定款を作成しなければならず、この定款には①絶対的記載事項、②相対的記載事項、③任意的記載事項があります。
①絶対的記載事項 ・目的 ・商号 ・本店所在地 ・設立に際して出資される金額 ・発起人の氏名、住所 ・発行可能株式総数(絶対的記載事項に準じる) ②相対的記載事項 ③任意的記載事項 |
絶対的記載事項だけ定めれば、定款について認証を受けることは可能ですが、実際はそれだけでは不十分ですし、絶対的記載事項だけでは登記をすることはできません。
したがって、相対的記載事項や任意的記載事項についても、登記申請に必要な事項については定めておくようにしましょう。
また、定款の構成には一定のマナーがあり、会社にとって重要な項目から記載していきます。必ずこの順番で作成しないと定款が無効になるというわけではありませんが、参考にしてください。
定款の構成(例)
章 | 大項目 | 記載内容の例 |
第1章 | 総則 | 商号、事業目的、本店所在地など |
第2章 | 株式 | 発行可能株式総数、株式譲渡制限、配当基準日など |
第3章 | 株主総会 | 株主総会の招集、株主総会の決議、議決権の代理行使など |
第4章 | 取締役および代表取締役 | 選任できる取締役数の上限・下限、取締役の任期、選任や解任方法など |
第5章 | 計算 | 事業年度、剰余金の配当など |
第6章 | 附則 | 設立に関して出資される財産の価額またはその最低額、発起人の氏名・住所、最初の事業年度など |
以下は、取締役会を設置しない株式会社の定款の「株式」の項目の記載例です。登記に必要な内容について検討し、追加で明文化したい項目を、適宜盛り込んでいきます。
定款の「株式」の項目の記載例 ※種類株式とは 「議決権はないが優先的に配当する」など特別な性格をもつ株式のこと。種類株式は手続きが煩雑なので、通常の場合は普通株式としておく。 |
定款には、発行する株式についても記載しますが、株式については特段の事由がない限り「譲渡制限」をつけておくようにしましょう。
小規模な会社では、知らない株主が好き勝手に経営に関与できるような状態は、好ましくないケースがあります。
たとえ、信頼できる配偶者と2人でスタートした会社でも、長い人生では、何があるか分かりません。
そこで、見ず知らずに他人が知らないうちに会社の株式を買うというリスクを回避するために、会社が発行するすべての株式に「譲渡制限」をつけておきます。譲渡制限とは、会社の株式を譲渡する際には会社の許可が必要であると定款に定めておくことで、会社が発行するすべての株式に譲渡制限がついている会社を、「株式譲渡制限会社」といいます。
たとえ、株主が1人という場合でも、株式譲渡制限会社は、決算書の注記が簡単になったり、役員の任期が10年まで伸ばせたりするなど、多くのメリットがあります。
なお、譲渡制限を付けた場合には、譲渡を承認する機関もあわせて定款に定めます。通常は、代表取締役か株主総会を譲渡承認する機関として定めます。
株式譲渡制限会社の場合には、発行可能株式総数は、自由に決めることができます。現時点で、「将来的に3,000万円まで増資するだろう」というイメージがあるのであれば、3,000万円を1株の発行価格で割った数が、発行可能株式総数ということになります。
設立時点でこのようなイメージを持つのは、難しいかもしれませんが、資本金が1億円を超えると中小企業の優遇税制の対象にならなくなってしまうので、上限は9,000万円に設定しておくことをおすすめします。
譲渡を認める権限をもつ機関は、原則として株主総会や取締役会となりますが、定款で別途定めることも可能です。
将来的に自分自身が株式の過半数を持ち続けることが確実なら、「株主総会」、絶対に第三者が代表取締役になる可能性がないなら、「代表取締役」としておきます。
定款の別段の定めの例
・代表取締役の承認とする |
譲渡承認の手続きは、まず株式を譲渡しようとする株主が、会社に対して譲渡を承認するか否か決定をしてほしいと請求します。
そして、請求を受けた会社は株主総会または取締役などの決議によって決定し、譲渡承認請求をした株主に対して、決定内容を通知します。
会社が譲渡承認をしない場合の手続きは、かなり煩雑です。
まず、株式を譲渡しようとする株主が、会社に対して譲渡を承認するか否か決定をしてほしいと請求された結果、会社が譲渡を承認しないという決定をしたときには、会社自らが株式を買い取るか、会社が買取人を指定することになります。
会社自らが株式を買い取る場合 会社は、株主総会の特別決議によって買い取る旨および買い取る株式数を決定して、譲渡承認請求者に対して、これらの決定内容を通知します。 会社が買取人を指定する場合 |
買取価格については、会社、買取人、譲渡承認請求者との間で協議を行いますが、協議がまとまらないときには、裁判所に対して売買価格の決定を申し立てることができます。
会社を設立する際には、1株の発行価格と発行する株式の総数を決めなければなりません。
株式の1株の発行価格と株式数は、資本金の額と関係します。また、将来を想定して発行可能株式総数を決める必要があります。
1株をいくらで発行するかについては、1円でも10万円でも会社が自由に決めることができます。
一般的には、1万円または5万円とするケースが多いですが、最初から上場を目指している場合には、将来の資本政策にも絡んでくる問題ですので、税理士等に相談してから決めることをお勧めします。
会社が発行する株式数に1株の発行価格を掛けたものが、設立時の資本金となります。
つまり、資本金の額と株式の関係をあらわすと、下記の計算式となります。
資本金の額 = 1株の発行価格 × 株式数 |
発起人は、会社の最初の株主となります。
そして、会社は社長のものではなく株主のものです。
したがって、まず自分が株主で社長である場合には、株主であり役員であり代表取締役ということになりますから、自分で自由に意思決定をして、自由に経営することができます。
第三者に出資してもらう場合には、出資の割合によります。株主は原則として1株につき1議決権を持っていますから、お金をたくさん出資してもらった人は、その分だけ多くの議決権を持つことになります。したがって、第三者に出資してもらう場合には、自分で3分の2以上の議決権を確保できるように注意しておく必要があります。
なぜなら、将来的に株主間で意見の食い違いなどが起きたときは、この株式の保有割合が重要な問題となるからです。
株主総会の決議方法には、以下のとおり普通決議と特別決議があります。
普通決議 株主の過半数が出席し、そのうち過半数が賛成すれば成立する決議 特別決議 |
つまり、重要事項を決めるためには、自分が3分の2以上の議決権を持っておく必要があるということです。できれば、自分で50%を超える出資をしておく方がよいでしょう。そうしないと自分の会社なのに、いつ解任されるか分からないという不安定な状態になってしまいます。
株主が家族であり、家族関係が良好であれば、それほど問題は生じませんが、出資してもらった家族が亡くなり相続が開始した時のことも考えておく必要があります。
その家族が持っていた株式は、相続財産になります。そして、相続人は株主となり、家族関係に異変が起こる可能性も完全には否定できません。
そして会社設立時の出資額が50万円であったとしても、その後事業が好調で、会社が大きな利益を出すようになっていたら、株価はその何十倍にもなっているかもしれません。そして、その株価によっては相続税が発生することもあります。
他人に出資してもらうなら、これらのリスクも考慮した資本政策が必要ですから、設立前に税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
株主は、原則として自由に所有する株式を譲渡することができますが、小規模な会社の場合に株式の譲渡先を自由に認めてしまうと、株主としてふさわしくない人が株主となってしまい、事業を行ううえで支障をきたしてしまうことにもなりかねません。
したがって、会社を設立する場合には、定款によって会社が発行する全部の株式の内容を、譲渡による株式の取得には会社の承認を必要とする旨を定める(譲渡制限株式とする)ことで、株主は会社の承認なく株式を譲渡することができないようにしておくことをおすすめします。
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