公開日:2021年11月29日
最終更新日:2024年05月02日
人件費は、販売費及び一般管理費のなかでも一番の経費であり、会社経営のうえでの重要事項です。したがって安定した経営を行うためには、お金の予算から適正範囲の人件費を検討し管理しなければなりません。
そのためには、人件費の適正な数値を管理するために、1人当たり売上高、1人当たり伸び率、労働分配率などの指標分析し数値を把握しておくことが重要です。
人件費の豆知識
人件費は、税務調査でも一番厳しくチェックされる項目です。
過去に不正があったり、不正がよく見つかる業種だったりする場合はとくに注意が必要です。売上が伸びているが、それを上回る人件費や外注費などの経費が伸びていたり、前年度と比較して人件費が大幅に変動したりしていると、税務調査の対象となる可能性が高くなります。
これは、人件費の名目で裏金を作るなどの不正行為が多いためであり、給与を支払っているパートが実際に在籍しているかどうか、交通費は支払われているか、扶養控除の申告書はあるかといった細かい点まで質問を受けることになります。したがって、給与台帳や一人別徴収簿は、調査前に合理的な説明ができるように確認しておきましょう。
また、税務調査以外でも派遣労働者との契約を一方的に打ち切る「派遣切り」などは、労働調査の対象となる可能性がありますので、これも注意が必要です。
事業主にとっては、大きな負担となる人件費を抑えるためのリストラでも、その分の仕事を残った従業員に負担させることで、長時間労働になってしまうケースは特に要注意です。事業を継続するためにやむを得ない措置であっても、法律違反であることは変わりません。労基署からの調査を受け是正勧告が出されるようなことになれば、会社の信用問題に関わりますし、重大・悪質な違反があると認められれば、書類送検などが行われることもあります。
人件費とは、企業が従業員等の勤務に対して負担する費用のことで、経営分析を目的とする場合には、給料手当や役員報酬などの賃金の他にも、人に関する間接的な費用(通勤手当、社会保険料の会社負担分、健康診断の費用、福利厚生費など)も含めて「人件費」とします。たとえば、月給30万円の従業員の場合、これらの間接的な費用を含めると、月額約50万近い費用負担になることになります。
人件費は経費であり、販売費及び一般管理費(または製造原価)に分類され、営業損益の構成要素となります。
前述したとおり、経営分析を目的とする場合には「人件費」には、給料手当、役員報酬のほかに福利厚生費、旅費交通費なども含めて計算します。
人件費の主な勘定科目
|
人件費は、売上高の増減によって変動するものではなく、固定的に発生する費用です。仮に業績が悪化して売上高がダウンしても、給与や賞与、退職金の支給基準を一方的に引き下げることは許されません。
一方、会社の発展のためには売上高の伸び率以上に給料をアップさせることもできません。
したがって、人件費は適正な範囲を常に意識して、適正値を把握しておくべきです。
人件費は、一般的に企業の費用全体に占める割合が高いため、経営分析を行う際に人件費を用いた分析指標を利用します。
たとえば生産性分析の指標である労働生産性(付加価値÷従業員数)、労働分配率(人件費÷付加価値)などです。これらの指標を用いて、適正範囲の人件費を算出すると、人件費予算を立てることができ、月次で売上が確定した段階であるべき人件費も算出することができるため、同業他社や実績と比較することで、対策等を考えることができます。
会社はヒト・モノ・カネなどの経営資源を投入して事業を行います。そしてこれらの資源が有効に活用されているかを見るための指標として、1人当たり売上高、労働生産性、労働分配率などがあります。
労働生産性とは、従業員1人あたりの付加価値のことで、従業員が平均してどれだけ会社に貢献しているのかを見る指標です。
労働生産性 = 付加価値 ÷ 従業員数 × 100 |
---|
従業員は、自分がもらっている給料以上の付加価値を稼ぎ出さないと会社は赤字になってしまいます。したがって、労働生産性は高ければ高いほど、利益の出やすい状態であるといえます。
一般的には、従業員1人あたりの付加価値は、大企業で2,000万円、中小企業で1,000万円を超えると望ましいとされています。
業種別労働生産性
①中小企業
|
労働分配率とは付加価値(売上総利益)に占める人件費の割合です。
労働分配率 = 人件費 ÷ 付加価値 × 100 |
---|
人件費が高ければ労働分配率も高くなります。したがって、理想的なのは、昇給、従業員の増加などによって人件費の金額が増加し、それ以上に粗利益の金額が増加していくことで、労働分配率が減少する状態です。
労働分配率は業種によって差があります。たとえば飲食業や情報通信業などは労働分配率が高くなり、不動産業や物品賃貸業などは低くなる傾向にあります。
しかし労働分配率は、低ければ低いほどよいということではありません。
労働分配率が高いと言うことは、労働生産性が高いことを意味するので一見良いことのように見えますが、実は従業員が過重労働の状態になっているリスクがあります。
したがって、労働分配率が低い場合には現場がいわゆるブラックな状態になっているかもあわせて確認する必要があります。
業種別労働分配率
|
1人当たり売上高とは、従業員1人あたりの売上高を見る指標です。
同業他社とも比較しやすく、自社の過去の数値と比較するのにも役立ちます。
1人当たりの売上高 = 売上高 ÷ 従業員数 |
---|
売上高は、「売上総利益」や「経常利益」に入れ替えて生産性を見ることもできます。
1人当たり売上高が伸びてても、1人当たり売上総利益が延びていなかったら、原価が上昇していると判断することができます。したがって、1人当たり売上高を見る時には、「売上総利益」や「経常利益」に入れ替えてあわせてチェックし、バランスを見ることも重要です。
業種別1人あたり売上高
|
1人当たり伸び率とは、従業員1人あたりの成長率をみるための指標です。
1人当たり売上高伸び率 = 1人当たりの売上高(当期) ÷ 1人当たりの売上高(前期) × 100 |
---|
売上高は、「売上総利益」、「営業利益」、「経常利益」に入れ替えてあわせてチェックします。売上高よりも売上総利益の伸び率が高く、売上総利益率よりも営業利益の伸び率が高く、さらに営業利益の伸び率より経常利益の伸び率の方が高くなるのが理想的な形です。
1人当たり売上高伸び率 < 1人当たり売上総利益伸び率 < 1人当たり営業利益伸び率 < 1人当たり経常利益伸び率 |
---|
人時生産性(にんじせいさんせい)も労働生産性の指標のひとつで、とくに外食産業など、時間によって生産性に差が出る業種で活用されます。
人時生産性 = 売上高(営業利益・付加価値の場合もある) ÷ 総就業時間 |
---|
上記の式から分かるように、人時生産性は「就業時間1時間に対してどれだけの粗利(営業利益)を上げているのか」を示しています。
人時生産性はさらに細分化して、部門別、売り場別、時間帯別に分析すると、問題点がより明確になり、個別の販売戦略に活用することができます。
以上、人件費の意味や該当する勘定科目、適正な人件費を把握するために活用できる指標などについてご紹介しました。
人件費は、販売費及び一般管理費の大部分を占める費用です。従業員の立場からすれば毎年昇給することを望むでしょうが、会社が安定して発展していくためには、売上高の伸び率以上に給料を上げることはできません。
売上も社長1人で上げているわけではなく、経費も社長1人で使っているわけではありません。みんなで経費を使い、みんなで売上を上げているのです。つまり、利益は会社全員の総和です。
したがって、従業員と経営状態や経理情報、人件費の適正な範囲を共有し、「みんなで利益を使っていこう」という話ができるような場をつくり、会社の発展と従業員の生活の安定の両方を実現する「協働」を実現していきたいものです。
freee税理士検索では数多くの事務所の中から、人件費の適正な範囲について相談できる税理士を検索することができます。
また、コーディネーターによる「税理士紹介サービス」もあるので併せてご利用ください。
税理士の報酬は事務所によって違いますので、「税理士の費用・報酬相場と顧問料まとめ」で、税理士選びの金額の参考にしていただければと思います。
\ 人件費について相談できる税理士を検索 /
監修:「クラウド会計ソフト freee会計」
クラウド会計ソフトの「クラウド会計ソフト freee会計」が、税務や経理などで使えるお役立ち情報をご提供します。
「クラウド会計ソフト freee会計」は、毎日の経理作業を最小限で終わらせることができるクラウド型会計ソフトです。疑問点や不明点は、freee税理士検索で税理士を検索し、人件費の勘定科目について、質問することができます。