株式上場とは|上場のメリット・デメリット&市場の種類・手順

公開日:2018年08月01日
最終更新日:2022年04月26日

この記事のポイント

  • 株式上場IPO(Initial Public Offering)とは、自社の株式を株式市場において、売買が可能な状態にすること。
  • 株式上場は、事業拡大のための有効な手段。
  • 株式上場は、厳しい審査基準をクリアしなければならない。

 

株式上場IPO(Initial Public Offering)とは、自分の会社を株という商品に形を換えて、市場で自由に売買してもらうことをいいます。
株式上場は、事業を拡大することを考えると非常に有効な手段です。
知名度が上がりますし、不特定多数の投資家から資金調達をすることができるので、新規事業などの費用として、使用することができます。

しかし、上場するためには厳しい審査基準をクリアする必要がありますし、多額の管理費用が必要になります。また、上場することで、会社に関係ない人間であっても株式を取得できるようになるので、現経営陣にとって友好的でない株主による敵対的買収を招くなどのリスクもあります。

株式上場とは

株式上場とは、自社の株式を株式市場において、売買が可能な状態にすることです。IPO(Initial Public Offering)とも呼ばれます。
これまでは、知人や少数の経営陣などで持っていた株式を、不特定多数の者を対象に発行することで、上場した会社は、株式が売れた分だけ資金を確保することができるようになります。

(1)株式市場の種類

株式市場にはいろいろな種類があり、その市場ごとに公開基準は異なります。
上場をする際には、自社の現状や市場の条件などを照らし合わせて、最適な市場を選択することが重要です。

日本の株式市場は、4つの証券取引所(札幌、東京、名古屋、福岡)で成立しています。さらに上記の市場に加えて、各証券取引所は、それぞれ新興・成長企業向けに新市場を開発し資金調達の場を提供しています。

従来の市場 新興・成長企業向け新市場 プロ向け市場
東京証券取引所 プライム・
スタンダード
グロース TOKYO Pro Market
名古屋証券取引所 プレミア・
メイン
ネクスト
札幌証券取引所 本則市場 アンビシャス
福岡証券取引所 本則市場 Qボード(Q-BOARD)

東京証券取引所
東証は、市場区分の見直しに向けた検討を進め、2022年4月4日に、「プライム市場・スタンダード市場・グロース市場」の3つの市場区分をスタートさせました。
「グロース」とは成長企業向けの市場で、主幹事証券会社がビジネスモデルや事業環境などを基に評価・判断します。
「プライム」・「スタンダード」は、一定の事業規模等を有する成長企業を対象としています。
「TOKYO PRO Market」は「プロ向け市場制度」に基づき設立された市場で売買できるのは、プロ投資家などだけです。
参照:日本取引所グループ「市場概要」

名古屋証券取引所
従来の市場である名証一部と名証二部、新興・成長企業向けの次世代の企業向けの市場である「セントレックス」が存在しましたが、プレミア・メイン・ネクストと市場名称が変更されました。

参照:名古屋証券取引所「売買・上場制度」

札幌証券取引所
従来の市場と新興・成長企業向けの新市場である「アンビシャス」が存在します。「アンビシャス」は、成長が見込まれる中小企業等を対象としていて、本店、事業拠点が無い場合は、北海道との関連性を記載した書類の提出が求められます。

参照:札幌証券取引所「上場を目指す皆様へ」

福岡証券取引所
従来の市場と新興・成長企業向けの新市場であるQボード(Q‐Board)が存在します。
「Q‐Board」は、九州周辺の地域経済発展に資するため今後成長しようとする企業に対し、早い段階で資金調達の機会を提供することなどを目的としています。

参照:福岡証券取引所「上場制度の概要」

(2)株式上場の7つのメリット

株式上場のメリットは多々あります。最も大きいメリットは資金調達による財務体質の強化ですが、その他知名度の向上や内部管理体制の充実などのメリットも享受することができます。

①資金調達に有利
金融機関からの融資のみならず、証券市場を通じて不特定多数の投資家からの資金調達が可能となるので、財務体質を強化することができます。また、株式上場後は、金融機関に対する信用力が向上するので、より有利な条件で借入することも可能になります。

②知名度の向上
上場すると知名度は向上し内部管理体制も整備されるので、「優秀な人材が確保しやすい」「新規顧客の増加」「販路の拡大」などの確率が高くなります。

③内部管理体制の充実
上場する過程では、組織的な経営体質の整備を余儀なくされるので、規程の整備やその運用を通じて、不正・誤謬(ごびゅう)を防ぎ、リスクを意識した体制が構築できるなど経営管理能力が高まります。

④決算の迅速化・適正化で信用度がアップ
投資家に向けて会社の実態を公表するため、決算が迅速かつ正確なものとなり、さらに監査法人の監査によって、優良企業としてのイメージ・信用度をアップすることができます。

⑤コンプライアンスを意識した経営の実現
上場企業は、コンプライアンス(法令遵守)確保が求められます。そのため、コンプライアンスが意識的に行われるようになり、健全経営を担保することができます。

⑥ストックオプションや従業員持株会の活用でモチベーション向上
株式上場によって、役員や従業員は、その会社で働くことへの満足感を覚え、会社への愛着を高めるので、「従業員のモチベーション向上」などのメリットも期待できます。
また、ストックオプション制度や従業員持ち株会を活用することで、企業努力が従業員や役員の保有する自社株の価格に反映される仕組みが形成され、従業員のモチベーションやモラルがアップします。

⑦オーナーの創業者利益の確保
株主、特にオーナー経営者は株式上場時に自社株を市場に売り出すことができるので、相当額のキャピタルゲインを得ることができます。
このメリットは、新興市場から一部や二部に上場する際にも期待できるため、創業者利益が確保されます。

(3)株式上場の3つのデメリット

株式上場後は、株価の維持や配当の維持のプレッシャーや、企業内容を開示するための管理コスト負担などのデメリットもあります。

① 株式公開準備事務量・コストの増大
株式上場の準備段階では、経営管理体制の整備や人材の確保、上場申請資料の作成等に多大なコストが必要になります。また、経理事務や株式事務、株主総会などの事務量も大幅に増加し、その負担が数年間続くことになります。

②経営責任・社会的責任の増大
株式が広く一般投資家の間で取引されるようになると、経営者の経営責任、企業の社会的責任が、大幅に増加することになります。
上場後は株主のための経営が求められ、株価や配当について株主から期待されます。
万が一、経営上の過失により株価を低下させた場合、経営陣は投資家から責任追及をされてしまいます。
また、コーポレートやコンプライアンスが強く求められるようになるので、経営者の社会的な責任も重大です。不祥事やスキャンダルなどは、絶対に起こらないよう細心の注意を払う必要があります。

③買収されるリスクが生じる
株式公開をすれば、自社株の売買が証券取引所を通じて自由に取引されるようになります。その結果、競合相手による買い占め、敵対的買収の対象になるリスクがあります。
また、最近は減少傾向にありますが、少数の悪質な株主が株主総会で少数株主権を濫用するなどのリスクについても、対策をとっておく必要があります。

(4)株式上場の手順・費用

株式上場するためには、社内管理体制の整備、関係会社の整備など、さまざまな準備作業が必要です。
株式上場を検討し始めたら、上場のために実施すべき事項を洗い出し、上場に至るまでのスケジュールを作成します。各作業の分担や人材の配置を決定し、監査法人や主幹事証券会社の選定にとりかかることになります。

株式上場を達成するためには、かなりの費用を覚悟する必要があります。
実際に外部に支払う費用としては、監査法人への監査報酬、証券会社への引受手数料、証券取引所への手数料、信託銀行への手数料、各種の印刷物を発行する費用などがあります。
トータルにすると、数千万から数億円となるケースがほとんどです。
また、上場後も各取引所の年賦課金、株券事務代行費用などのコストが必要になります。

なお、株式上場準備の標準的なスケジュールの流れは、以下のとおりです。

①株式上場予定時期の決定
公開準備室を設置し、監査法人(上場を支援や会計監査をする監査法人)や主幹事証券会社(上場を申請して支援業務を行う証券会社)を決定します。
②株式公開のプロジェクトチーム(公開準備室)の設置
上場準備のためには、全社的な協力が必要です。
調整能力があり、かつ事務処理能力の高いメンバーを集め、経営管理チームや事業計画チーム、申請書類チーム、審査対応チームなどのプロジェクトチームを結成し、必要作業の分担を決定します。
③社内体制強化・経営計画の策定
社内管理体制の整備を行います。具体的には、以下の必要な制度等を確立します。
・組織・業務フローの構築
・会計処理方針や原価計算制度の確立
・在庫管理システムの確立
・予算管理や月次決算制度の確立
・内部監査(けん制)体制の確立
・社内規程の整備など
④申請書類・審査書類の作成
申請書類・審査書類の作成を行います。
審査書類は、主幹事証券会社に提出し、審査が開始されます。
⑤事前審査
上場するときの事前審査は、株主数などを定めた「形式基準」と上場に本当にふさわしいかどうかを問う「実質基準」に大別できます。前者をクリアした後に後者の審査を行い、企業の上場可能かどうかを判断されます。

主な形式基準
・純資産額
・時価総額
・利益の額
・会計監査
・上場時株主数
・最低上場株式数
・企業再編やファイナンスに関する規制

主な実質基準
・企業経営の継続性、収益性
・企業経営の健全性
・企業内容開示の適性
・経営管理体制の整備

⑥株式の公募・売り出し
審査を経て、株式の公募・売り出しとなります。

(5)株式上場までの支援機関

株式上場を達成するためには、幅広い専門知識やノウハウが必要となりますし、外部の専門家のサポートは欠かせません。どのタイミングでどの機関のサポートを受けるのか、計画段階から相談するべきかなど慎重に考える必要があります。
なお、主幹事証券会社、監査法人、株式事務代行機関、公開専門の印刷会社などは、必ず関わることになります。

主幹事証券会社
主幹事証券会社とは、株式公開の申請を行う際に最も責任を負う証券会社です。
株式の引受作業、上場準備に関するコンサルティング、上場にあたっての実質審査などを行います。
主幹事証券会社は、上場準備を進めていくうえで大変重要なパートナーとなるので、選定する際には慎重な判断が求められます。
監査法人
監査法人とは、5名以上の公認会計士を社員とする公認会計士法上の法人であり、財務諸表が適正に作成されているかを会社法や証券取引法に基づいてチェックします。
上場申請のための会計監査、株式上場のための短期調査などの他、上場についての全般的なアドバイスを行います。
また、上場後の内部統制報告制度に対応できるよう準備が行われているかについての確認が行われます。
税理士
会社に対する税務アドバイスや、オーナー一族の税務対策を行います。
また、会計処理方針や原価計算制度の確立、在庫管理システムの確立などの社内体制の強化についてもサポートを行います。

また、以下のような制度の整備についても、サポートを行います。

・株式上場後の安定株主(オーナーや取引先などにとって害をなさない株主)の確保
・上場前後の資金調達の方法の検討
・従業員・役員のインセンティブ制度の構築
・オーナーのキャピタルゲイン(利益)の確保

弁護士・弁理士
弁護士は企業のコンプライアンス体制などに法律上の問題点がないか法務全般の支援やアドバイスを行います。
また、上場申請書類の一つである有価証券報告書では、リスク情報(投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項)を記載することが求められ、弁護士はこれらの記載に関するアドバイスを行います。
弁理士は、特許権等の知的所有権を書くとする事業のアドバイスなどを行います。
印刷会社
上場適格株券の印刷、申請書類及び有価証券届出書・目論見書の印刷やチェックを行います。
外部コンサルタント
上場準備に関しては、外部コンサルタントの活用が必要になることもあります。
信託銀行
株式事務代行業務や、株主総会運営実に関するアドバイスを行います。
ベンチャーキャピタル
ベンチャーキャピタルとは、ベンチャー企業などの未上場企業に対して出資を行い、上場後に株式や事業を売却することで出資額の差額である利益を獲得するのが目的とする機関です。そのため、ベンチャーキャピタルが上場準備段階における資金提供を行うことがあります。

まとめ

以上、株式上場の種類やメリット・デメリットについてご紹介いたしました。株式上場をすると、知名度はアップし、資金調達で有利になる、従業員の士気がアップするなどいろいろなメリットがありますが、一方で上場するためには、多大な労力やコストがかかるなどデメリットが存在します。
また、上場するためには厳しい審査基準をクリアしなければならず、株式上場を検討する際には、これらのメリット・デメリットのほか、上場する手順、それをサポートする支援機関など、ERPをしっかり考え理解しておくことが必要です。

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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」

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