「税務調査で税理士なし」のメリット・デメリット

公開日:2019年09月06日
最終更新日:2024年02月05日

この記事のポイント

  • 税理士は、税務の専門家として納税者の味方となってくれる。
  • 通常は税務調査の前に事前に連絡がくるので、早めに税理士に相談することが大切。
  • 税理士の立ち会いがあるか否かで、税務調査の結果が大きく変わることがある。

 

税務調査とは、納税者から申告された申告内容について、内容や税額の計算に誤りがないかなどについて国が調査する制度です。

事前に連絡がなく、いきなり調査されることもありますが、通常は事前に税務署から調査の日程について連絡があります。税務調査当日までにできる限り帳簿や資料を整理し、早めに税理士と打ち合わせを行いましょう。税理士の立ち合いがあるか否かで、税務調査の結果が大きく変わることがあるからです。

この記事では、税務調査の内容や税理士なしで税務調査に対応するメリット、デメリットについてご紹介します。

 

税務調査の豆知識

税務調査の前には通常は事前通知があるものですが、なかには事前通知がなく税務調査官が訪れる場合もあります。事前連絡なしで調査を行うということは、調査官が何かしらの情報をつかんでいる可能性があり、経営者にとっては動揺する事態といえます。
しかし事前通知がない調査といっても、強制調査ではなく任意調査の場合には、調査官は強引に調査を始めることはできません。決して取り乱すことなく落ち着いて対応することが大切です。そして、税務調査官の身分証明書と税務調査の理由を確認し、すぐに税理士に連絡をとりましょう。
税理士が立ち会いする前に調査官が作成した質疑応答の記録書にサインや捺印をしてしまうと、その記録が後々不利な証拠書類となってしまうことがありますので注意が必要です。

税務調査とは

税務調査とは、公平で適正な申告納税制度を維持することを目的とした調査です。
納税者の申告内容について漏れや誤り、違法な処理が行われていないかを税務署員が調査し、違法な処理が行われている場合には、税法に従った申告や納税に改めさせるために行われます。

(1)税務調査で何を調べられるか

税務調査では、役員給与や従業員の食事代、出張費や交際費など細かく経費の内容をチェックされるほか、売上と仕入の期ズレなども細かくチェックされます。

利益をごまかすために一番捜査しやすい「売上」は、必ず調査される項目です。
また、商品を購入したりサービスを受けたりしたにもかかわらず代金を支払っていない未払金や買掛金があったりする場合にも、どのような会計処理が行われているのか細かく調査されます。
このほか、役員給与や従業員給与が適切に計上されているかなども調査対象となります。

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(2)税務調査の対象となる会社はどんな会社?

税務署は、ランダムに税務調査先を選んでいるわけではなく、いくつかの基準をもとに税務調査の対象となる会社を決めています。税務署は、調査対象となる会社を選ぶにあたって、多くの基準を設けているようですが、①所得率が低下していないか、同業他社と比較してどうか、②勘定科目が変動していないか、③特別な勘定科目が発生していないかの3点は、重視されているとみて良いでしょう。

(3)税務調査の調査件数(令和元年度)

新型コロナウイルスの感染拡大で、一時期は調査件数が減っていた税務調査ですが、本格的に再開された後は効率的に成果を上げるためのさまざまな施策が実施されています。

大口・悪質な不正計算等が想定される法人など、調査必要度の高い法人6万2,000件について実地調査を実施しました。

【実地調査件数】

令和3年 令和4年 前年比
41,000件 62,000件 152.3%

【簡易な接触事積】

令和3年 令和4年 前年比
67,000件 66,000件 99.3%

参照:国税庁「令和4事務年度法人税等の調査事績の概要(令和5年11月発表)」

また、令和4年度の源泉所得税の実地調査件数は7万2000件であり、追徴税額は338億円となっています。また、消費税の還付申告法人に対しては、特に厳正な調査が実施され、総額563億円が追徴されています。

参照:国税庁「令和4事務年度法人税等の調査事績の概要(令和5年11月発表)」

(4)税務調査では何を準備すべきか

税務調査の対象となるのは、一般的には過去3期分の資料ですが、現金出納簿や売上仕入に関する帳簿類、損益計算書や貸借対照表などの決算書、現金や領収書などの証憑書類もです。
したがって、これらの資料をいつでも提示できるよう、きちんと整理をしておきましょう。

項目 内容
営業関係 見積書、納品書、請求書など
資金関係 総勘定元帳、現金出納帳、入出金伝票、小切手控、売掛帳、買掛帳(それぞれ3期分)
意思決定関係 契約書、稟議書、議事録など
人件費関係 給与台帳、タイムカードや出勤簿、社会保険関係書類、役員報酬改定の議事録
仕入・外注・在庫 見積書、納品書、請求書、実地在庫表
その他 経営者の預金通帳など

また、税調査では、調査官からいろいろな質問をされます。なかには雑談のような雰囲気で質問されることもありますが、これらはすべて調査官に何らかの意図があります。
「ご自宅は○○ですね。家賃はいくらくらいなんですか?」など、いかにも雑談のような質問でも、実は生活水準を推測して「生活費が毎月100万円なのに役員報酬が70万円なら、後の30万円はどこから補填しているのか」を探ろうとしているわけです。そして、売上の一部を計上せず生活費に充てているのはないかといった予想をする可能性もあります。
したがって、安易に話に応じてしまわないよう注意する必要があります。
これらの対策としては、リハーサルが有効です。税務調査の前に、税理士に予想される質問事項についてリハーサルをしてもらうことをおすすめします。

(5)税務調査後の対応を知っておこう

税務調査の結果、申告内容に問題がなければ、「申告是認」という判断を受けることができます。しかし、税務署側もある程度問題がありそうな会社を選んで出向いてくるわけですから、このような判断は、あまりないと思っていた方が無難です。
とはいえ、調査官から指摘されたからといってすべてを認めなければならないというわけではありません。指摘されたなかには単純に判断できないようなものも多く含まれるからです。
したがって、調査官に指摘されたことに納得ができないのであれば、その場できちんと説明するべきです。その結果、調査官がその説明に納得することもあります。

税務調査の結果、税法に違反していたとなれば、追徴税を支払うことになりますが、その際修正申告を行う場合と更正処分を受ける場合があります。

修正申告:
すでに行った申告について、納税者自ら手続きを行うものです。

更正処分:
税務署長が税務調査に基づき、申告書に関する課税標準または税額等を修正することで、税務当局側が行う処分です。

「税務調査で税理士なし」のメリット

税務調査では、かならず税理士の立ち会いが必要と義務づけられているものではありません。したがって、税理士の立ち会いなく税務調査に対応することもできます。税務調査の正しい対応方法さえ知っていれば、税務調査で嫌な思いをしなくて済む可能性もあります。

(1)税理士報酬がかからない

「税務調査で税理士なし」のメリットは、やはり税理士報酬がかからないという点でしょう。
税務調査は朝から夕方まで行われることが多く、またそのための準備も必要となることから、日当制を採用している事務所がほとんどです(※顧問契約を締結している場合はのぞく)。報酬は税理士によって異なりますが、相場としては「1日3~5万円 ✕ 調査日数」程度の報酬がかかるとみておいた方がよいでしょう。

(2)税務調査は健全経営につながることがある

税務調査というと、経理作業が調査対象となるイメージがあると思いますが、調査の範囲は、営業、総務、人事、製造、流通などすべての部署が対象となります。
したがって、経営者が直接税務調査に対応することで、普段目が行き届かない部署をチェックすることができます。なかには従業員の横領や不正が見つかることもあり、税務調査を通して事業を改めて見直し、健全経営につなげることができるというメリットもあります。

「税務調査で税理士なし」のデメリット

税務調査に税理士なしで対応することは可能です。
税務調査とはいえ、申告内容にミスがあっても正しい税金を納めれば済むケースがほとんどです。
税理士の立会いがあるか否かで、この結果に大きな影響を与えることがあります。それでは、税理士の立ち会いがあるか否かで税務調査の結果が大きく変わることはあるのでしょうか。

(1)税務調査の結果が変わる

税務調査がきても、会社の帳簿がきちんとした形で準備されていれば、特に問題は起きません。
しかし、税務調査で問題が出てきた場合には、税理士がいるかいないか、その税理士がどのように対処するかで調査結果を左右することがあります。

たとえば、交際費や福利厚生費、役員賞与などの科目については、「何のために支出したのか」「どういう形で支出したのか」といった点について、単純に判断ができずいわゆるグレーゾーンと言われる事項がたくさんあるからです。

税務、経理の知識がある税理士がいれば、これらの科目について質問を受けても、会社の側に立って合理的な説明をしてもらうことができます。
また、指摘された事項についても税法上の解釈をきちんと主張してもらうことができます。

(2)本業に支障が出る

税理士に依頼する最終目的は、税務調査の流れをスムーズに進行させ、できるだけ短時間で終了し、修正がないようにしてもらうことです。
税務調査では、思わぬ箇所を指摘されることも多く、経理担当者が準備していなかった資料について厳しく指摘されることがあります。
また、そもそもこの準備作業に大変な時間がかかります。

税理士は、このような税務調査の流れを熟知していますので、立ち会いの際に追及される個所を見越してあらかじめ対処法を相談しておくことができます。準備すべき書類についても、効率的に準備できるように指示してくれますので、本業に支障がなく結果的に税務調査をスムーズに終わらせることができます。

(3)納得できない結果となる場合も

税務調査の結果に不満があるのに指摘されたことを認めてしまうと、次年度以降の税負担に影響が出ることがあります。
たとえば、配偶者や家族に対する給与などについて指摘事項を認めてしまうと、次年度以降も継続的に課税対象となってしまい、会社の税負担が増えてしまいます。
したがって、解釈や事実認定で自分の主張が正当であると考えるならば、とことん主張すべきです。とくに「これは、正しい解釈だ」と判断して申告した場合や、そのための証明書類などを提示してきちんと説明ができるといった場合には、調査官にその旨を伝えるべきです。

調査官がその説明に納得できれば、その場で指摘を引っ込めることもあるのです。
しかし「調査官が指摘しているのだから、まずいのだろう」と安易に受け入れてしまうケースが多く見られます。

もちろん、どの指摘もすべて拒否するというわけにはいきません。たとえば、単なる記載ミスや解釈の誤りなど、明らかにこちらが間違っているとわかる事項を指摘された場合は、むしろ速やかに認めたほうが得策です。

税理士がいれば、税務調査の結果で納得のできないことがある場合や認めてしまうことで次年度以降の税負担に影響が出たりする場合には、適切な対応をとってもらうことができますし、税務当局の事実認定に対し異なる角度での反証を行なってもらうことができます。

「税務調査に強い税理士」の選び方

税務調査には、税理士の立会いが必要であるということについてご紹介してきましたが、それでは、税務調査に強い税理士はどのように選べばよいのでしょうか。

(1)税務調査の経験が豊富であるか

まず何といっても税務調査の経験を豊富に持っていることが重要です。
税理士は大別して「国税OBタイプ」と「国家試験クリアタイプ」の2種類があり、「国税OBタイプ」は、国税局や自治体で一定以上の税務経験を積むことによって税理士資格が与えられます。
これに対して「国家試験クリアタイプ」の税理士は、難解な試験を通過していますから、理論については一定レベル以上であるということができます。

「国税OBタイプ」は、OBであるからこそ調査官の手法を熟知しているので、元調査官である強みを生かした交渉力を期待できます。
ただし、税務に関わる問題に精通しているかどうかという点でいえば、「国家試験クリアタイプ」に軍配が上がります。

したがって、税務調査を依頼する場合には、まずどちらの税理士タイプであるか確認するためにプロフィールを聞き、そのうえで税務調査の経験がどれくらいあるかについて詳しく質問することをおすすめします。

(2)納税者の味方となってくれるか

税理士法1条では、「税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼に応え、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。」と規定されています。
つまり、税理士は納税者の味方となって仕事をしなければならないということがきちんと法律で定められているのです。
確かに税理士も人間なので、「税務署ににらまれたくない」という考えを持つ可能性はあります。
しかし、なかには「税務署にいい顔をするより顧問先のために戦おう」と考えてくれる「戦う税理士」がいます。
戦う税理士にとっての税務調査は、単に報酬を得るための場ではありません。
顧問先を獲得するために依頼主の信頼をつかむチャンスの場でもあるのです。
したがって、税務調査を「依頼主の信頼をつかむための自己PRの場である」と考え、真剣に対応してくれる税理士を探すべきでしょう。

(3)すぐに打ち合わせ日時を決めてくれるか

税務調査の連絡がきたら、前述したような帳簿や資料を用意する必要がありますし、事前にどのようなことを聞かれるのかリハーサルをしておく必要があります。
税務調査当日までに準備しておくべきことは、山のようにあります。
ですから、税務調査について真摯にサポートをしてくれる税理士ならば、「一刻も早く打ち合わせをしましょう」と言ってくれるはずです。
「レスポンスが早いか」「何を準備すべきか適切にアドバイスをくれるか」といった点も、税理士を選ぶ際の重要なポイントになるということができるでしょう。

(4)できれば顧問契約をしておくべき

税務調査時に税理士を最大限活用するためには、常日頃から記帳や月次決算についてすべて内容を把握してもらうことが一番です。そのため、税務調査の前に顧問契約をしておくのがもっともよい方法といえます。

税務調査で追及されることが予想できるような問題がある時、顧問税理士がいれば、事前に対処の方法をアドバイスしてもらうことができます。

また、そもそも顧問税理士がいるというだけで、税務署のターゲットとなりにくいというメリットもあります。
毎年の決算書に税理士の署名と押印があれば、「この会社は○○税理士が顧問だから、きちんと処理されているだろう」という印象を税務署に与えることができるからです。

一方、税理士の署名と押印がない決算書では、税務署に与える印象が全く異なります。「この会社は法人なのに税理士と顧問契約を交わしていないのか。きちんとした経理処理ができているか不安だ。」という印象を与えてしまうからです。
このように、顧問税理士がいるかいないかは、税務署の印象が大きく異なるものなのです。

(5)調査の連絡がきたらすぐに税理士に連絡を!

顧問税理士がいなくても、慌てることはありません。
顧問税理士がいない場合でも、税務調査から対応してくれる税理士もいます。
ただし、繰り返し述べているとおり、税務調査の前には準備しておくべき資料が多々ありますし、リハーサルも行う必要があります。
したがって、可能な限り早めに対応してくれる税理士を見つけ、一刻も早く打ち合わせを行なうようにしましょう。

まとめ

以上、税務調査に強い税理士の選び方や税理士に依頼するメリット、依頼するタイミングなどについてご紹介しました。
税務署は、担当地域すべての法人の決算書に目を通していると言われています。何千、何万という会社があっても見落とすことは絶対にありません。
顧問税理士がいないと、税務署のターゲットにされやすくなりますし、いざ税務調査の連絡がきた時に慌ててしまって、事前準備が十分にできないケースもあります。
税務調査で最大限に税務署の能力を発揮するためには、顧問税理士と契約しておくのが無難なのです。

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