所得税の改正【最新版】|令和6年度改正点反映

公開日:2021年09月15日
最終更新日:2024年07月10日

この記事のポイント

  • 所得税の見直しによって、高額の所得者にとっては増税の傾向。
  • 所得控除を中心とした大幅な税制改正により、今まで適用されていた所得控除が受けられなくなったケースも。
  • 受けられる所得控除等はモレなく手続きを行い、節税することが大切。

 

昨今、働き方が多様化されたことを後押しするなどの観点から、個人の所得税の見直しが急ピッチで進められています。
全体の傾向としては、高額の所得者にとっては増税となっています。
この記事では、令和3年(2021年)の所得税関連の主な税制改正についてご紹介します。

令和2年(2020年)の所得税関連の税制改正

所得税とは、個人の所得に対して国が課す税金のことです。
所得税は、その1年間のすべての所得から、各種の所得控除を差し引いた残りの額(課税所得金額)に、所定の税率を適用して税額を決定します。

収入-必要経費=所得
所得-所得控除=課税所得金額

令和2年は、この所得控除を中心に大幅な税制改正が行われました。

(1)給与所得控除の改正

給与所得とは、サラリーマンなどが受け取る給料による所得です。
しかし、もらった給料がそのまま給与所得となるわけではなく、そこから「給与所得控除額」を差し引いたものが、課税対象の「給与所得」となります。

給与所得の収入金額-給与所得控除額=給与所得

この給与所得控除額が、令和2年から引き下げられています。

収入金額 給与所得控除額
令和元年(2019年)まで 令和2年(2020年)以降
162万5,000円以下 年収×40%(65万円に満たない場合は65万円) 55万円
162万5,000円超180万円以下 年収×40%-10万円
180万円超360万円以下 年収×30%+18万円 年収×30%+8万円
360万円超660万円以下 年収×20%+54万円 年収×20%+44万円
660万円超850万円以下 年収×10%+120万円 年収×10%+110万円
850万円超1,000万円以下 195万円
1,000万円超 220万円

一方、後述する基礎控除基礎控除については引き上げられていて、多くの給与所得者には増税も減税もないプラスマイナスゼロになっています。ただし、基礎控除は引き上げと同時に、合計所得金額が2,400万円を超えると基礎控除額は減るしくみが導入され、このことから高額の給与所得者には増税となりました。

(2)公的年金等控除の改正

公的年金等とは、厚生年金、国民年金、恩給などです。
公的年金による所得の計算が令和2年分より改正され、公的年金等控除が一律10万年引き下げられることとなりました(公的年金等の雑所得以外の所得が1,000万円を超2,000万円以下の時は20万円引下げ、2,000万円超の時は30万円引下げ)。

【65歳未満の方】

公的年金等の収入金額 公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額
1,000万円以下 1,000万円超
2,000万円以下
2,000万円超
130万円以下 60万円 50万円 40万円
130万円超410万円以下 A×25%+27.5万円 A×25%+17.5万円 A×25%+7.5万円
410万円超770万円以下 A×15%+68.5万円 A×15%+58.5万円 A×15%+48.5万円
770万円超1,000万円以下 A×5%+145.5万円 A×5%+135.5万円 A×5%+125.5万円
1,000万円超 195.5万円 185.5万円 175.5万円

【65歳以上の方】

公的年金等の収入金額 公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額
1,000万円以下 1,000万円超
2,000万円以下
2,000万円超
330万円以下 110万円 100万円 90万円
330万円超410万円以下 A×25%+27.5万円 A×25%+17.5万円 A×25%+7.5万円
410万円超770万円以下 A×15%+68.5万円 A×15%+58.5万円 A×15%+48.5万円
770万円超1,000万円以下 A×5%+145.5万円 A×5%+135.5万円 A×5%+125.5万円
1,000万円超 195.5万円 185.5万円 175.5万円

※A=公的年金等の収入金額

なお、年金のほかに給料、アルバイト収入がある人には、後述する「所得金額調整控除」が創設されており、給与所得から最大10万円を差し引くことができる配慮がされています。そのため、確定申告の時など注意が必要です。

(3)所得金額調整控除の創設

令和2年分より、「所得金額調整控除」が創設されました。
これは、扶養親族や障がい者がいる家庭の負担を減らすために、税額を調整するための措置です。

この所得金額調整控除は、年金のほかに給料、アルバイト収入がある人にも適用されます。前述したとおり公的年金等控除控除額と給与所得控除額がそれぞれ10万円引き下げられたため、両方の所得がある人は、20万円の所得アップとなってしまいます。
そこで、両方の所得がある人の所得アップが10万円で済むように所得を調整しようというのが、この所得金額調整控除です。
年金のほかに給料、アルバイト収入がある人は、給与所得を計算する時に給与所得から最大10万円を引くことができます。

年金の所得金額+給与所得の金額-10万円=所得金額調整控除額
※それぞれの所得が10万円超のときは、所得は10万円として計算

(4)特定支出控除の改正

給与所得者の特定支出控除の特例とは、その年中の特定支出の合計額が給与所得控除額を超えた時に、その超えた額を給与所得控除後の金額から差し引くことができるという制度です。
特定支出は、給与の支払い者(会社など)が証明したものに限定されます。
通勤費や転勤に伴う引越し費用、研修費、職務上必要な資格を取得するための支出などが特定支出となります。

令和2年より、この特定支出の範囲に「勤務する場所を離れて職務を遂行するために、直接必要な旅費等」「単身赴任者の帰宅旅費」が追加されました。
また、1カ月に4往復までという制限が撤廃され、自動車などを使用する場合の燃料費および有料道路の料金の額が追加されました。

(5)ひとり親控除の創設、寡婦控除の見直し

寡婦・寡夫控除は、離婚したり夫や妻を亡くしたりした人が受けられる控除です。寡婦・寡夫控除は、従来は民法上の婚姻関係があった人だけが該当し、内縁関係や事実婚のパートナーが亡くなった時には、控除対象となりませんでした
また寡夫控除は、寡婦控除より控除を受ける条件が高く設定されていました。
しかし令和2年分からは、すべてのひとり親家庭に対して公平な税制支援を行う観点から、寡夫控除が廃止され、「ひとり親控除」に統合されることになりました。

控除額は以下のとおりです。

寡婦のとき…27万円
ひとり親のとき…35万円

ひとり親控除の詳しい条件等は、以下の記事で詳しくご紹介しておりますので、あわせてご覧ください。

▶ ひとり親控除(2020年創設)とは?|ひとり親の税金はどう変わった?

(6)勤労学生控除の改正

勤労学生控除とは、働きながら一定の学校に通っている人が受けられる所得控除です。
勤労学生控除は、令和2年分から対象者の合計所得が75万円以下(改正前は65万円)に引き下げられました。
勤労学生控除の控除額は75万円で、以下の条件に該当している必要があります。

特定の学校の学生、生徒であること
勤労による所得があること
合計所得が75万円以下(アルバイト・給与収入で130万円以下)であること
自己の勤労によらない所得が10万円以下であること

※勤労によらない所得とは、配当所得や不動産所得などの不労所得のことで、親から送られる仕送りは該当しません。
※特定の学校に該当するかは、学校の窓口で確認できます。

(7)配偶者特別控除の改正

配偶者控除は、配偶者の合計所得金額が48万円(給与所得控除額55万円を含む年収で103万円)を1円でも超えると、いきなり控除額が0円になってしまいます。これを調整するための制度が、配偶者特別控除です。

令和2年分から、配偶者特別控除の対象となる配偶者の合計所得金額は48万円超133万円以下(従来は、38万円超123万円以下)となり、控除額については納税者本人(たとえば夫)の所得区分によることとなりました。また、納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超えると、配偶者特別控除は適用されません。

【配偶者控除】

配偶者の
合計所得金額
控除可能な
配偶者の年収
配偶者の
年齢
納税者本人の合計所得金額
900万円以下
(給料のみの場合は年収1,095万円以下)
900万円超
950万円以下
(年収1,095万円超
1,145万円以下
950万円超
1000万円以下
(年収1,145万円超
1,195万円以下
48万円以下 103万円以下 69歳以下 38万円 26万円 13万円
70歳以上 48万円 32万円 16万円
【配偶者特別控除】

配偶者の
合計所得金額
控除可能な
配偶者の年収
納税者本人の合計所得金額
900万円以下
(給料のみの場合は年収1,095万円以下)
900万円超
950万円以下
(年収1,095万円超1,145万円以下
950万円超
1,000万円以下
(年収1,145万円超1,195万円以下)
48万円超95万円以下 103万円超150万円以下 38万円 26万円 13万円
95万円超100万円以下 150万円超155万円以下 36万円 24万円 12万円
100万円超105万円以下 155万円超160万円以下 31万円 21万円 11万円
105万円超110万円以下 160万円超166万7999円以下 26万円 18万円 9万円
110万円超115万円以下 166万7,999円超175万1,999円以下 21万円 14万円 7万円
115万円超120万円以下 175万1,999円超183万1,999円以下 16万円 11万円 6万円
120万円超125万円以下 183万1,999円超190万3,999円以下 11万円 8万円 4万円
125万円超130万円以下 190万3,999円超197万1,999円以下 6万円 4万円 2万円
130万円超133万円以下 197万1,999円超201万5,999円以下 3万円 2万円 1万円
133万円超 201万5,999円超 0円 0円 0円

(8)基礎控除の改正

基礎控除とは、誰もが受けることができる控除ですが、令和2年分より、控除額が38万円から48万円に引き上げられました。しかし、合計所得が2,400万円を超えると、控除額が段階的に減る仕組みが導入され、2,500万円を超えると控除額がゼロになることとなりました。

合計所得 控除額
2,400万円以下 48万円
2,400万円超2,450万円以下 32万円
2,450万円超2,500万円以下 16万円
2,500万円超 0円

(9)住宅ローン控除の延長

住宅ローン控除とは、公庫融資や銀行等の住宅ローンを使ってマイホームを増改築した時に、一定の要件を満たすと受けることができる控除です。
一定の要件に該当すれば、住宅ローンの年末残高の1%相当の所得税が10年にわたって控除されます。

消費税10%への引き上げに伴う上乗せ措置として、令和元年(2019年)から令和2年(2020年)12月31日までに入居した場合には、控除期間が3年間延長され、13年となりました。
また、新型コロナ感染症の影響によって入居開始が遅れた場合には、特例として契約締結条件(注文住宅は令和2年9月末までに契約、分譲住宅は令和2年11月末までに契約)を設け、令和3年(2021年)12月31日までに入居した時には、3年の控除期間が上乗せされることになりました。
さらに、令和3年(2021年)からは、控除期間13年の措置に住宅取得等の契約締結日が加えられました。

注文住宅の新築:
令和2年10月1日~令和3年9月30日

分譲住宅・マンション・中古住宅等:
令和2年12月1日~令和3年11月30日

また入居期限については、令和4年(2022年)12月末までに延長されました。
さらに、合計所得金額が1,000万円以下の人に限っては、床面積の要件が緩和され、40㎡以上に引き下げられました。

令和3年(2021年)の所得税関連の税制改正

令和3年(2021年)は、前述した住宅ローン控除の他に、セルフメディケーション税制の見直し、対象所得課税の適正化等の税制改正が行われました。

(1)セルフメディケーション税制の見直し

医療費控除とは、自分や家族の医療費、薬代などを支払った時に受けることができる控除です。
医療費控除には、通常の医療費控除のほかに、特例のセルフメディケーション税制があります。
セルフメディケーション税制とは、対象となるOTC医薬品を購入した時に受けることができる制度で、購入費用から保険金などで補てんされる金額から1万2,000円を差し引いた額が控除されます。
セルフメディケーション税制は、通常の医療費控除と選択適用できますが、このセルフメディケーション税制の適用期限が令和8年12月31日まで延長されることとなり、対象となる医薬品についても一定の見直しが行われました。

従前はスイッチOTC医薬品がすべて対象で、そうでないものは対象外でした。スイッチOTC医薬品とは、医療用の医薬品として用いられた成分が、OTC医薬品に転換されたもので、鎮痛剤、胃腸薬、アレルギー用の薬などが該当します。そのなかから効果が低いと認められるものについては、除外されることになりました。また、非スイッチOTC医薬品について効果が著しく高いと認められるものについては、セルフメディケーション税制の対象とされることになりました。

通常の医療費控除
総所得金額等が200万円以上の場合:
支払った医療費-保険などで補てんされる金額-10万円

総所得金額等が200万円未満の場合:
支払った医療費-保険などで補てんされる金額-(総所得金額等×5%)
【最高200万円】

セルフメディケーション税制
対象となるOTC医薬品の購入費用-保険などで補てんされる金額-1万2,000円
【最高8万8,000円】

(2)退職所得課税の適正化

退職所得とは、退職金や退職手当など、退職によって一時的に受け取る給与などをいいます。
退職金は、長年の働きに感謝し、また、その後の生活を保障する意味合いを持っていることなどを理由に税負担について他の所得とは分けて計算する分離課税とするよう特別の配慮がなされています。

退職所得=(退職金-退職所得控除)×1/2

前述したように、退職所得は長年の働きに感謝するという意味合いから、税負担の軽減等の特別の配慮がなされていましたが、近年は業種によっては1年、3年、5年で定職を繰り返すケースが増えてきました。
そこでこの点を踏まえて、勤続年数5年以下の法人役員等以外の退職手当(以下「短期退職手当等」)について、1/2課税の適用に上限額が設けられることになりました。

この改正によって、法人役員以外つまり一般従業員が勤続年数5年以下で退職金をもらった場合には、退職金から退職所得控除を差し引いた残額について、300万円までは1/2が適用されますが、300万円を超えた場合には、1/2が適用されないことになります。適用時期は、令和4年分以降の所得税より適用されます。

令和6年(2024年)の所得税関連の税制改正

岸田政権が打ち出した経済対策として、給付と定額減税が実施されることとなります。このうち所得税では、1人あたり3万円(個人住民税1万円)が令和6年6月以降の給与等に係る源泉徴収税額から控除されます。

(1)給与所得者の所得税の定額減税

令和6年6月以降の源泉徴収税額または予定納税等の納税額から、特別控除として本人及び同一生計配偶者等の扶養親族について、それぞれ1人につき3万円が控除されます(ただし、合計所得金額1,805万円以下という所得制限があります)。

給与所得者の場合は、令和6年6月1日以後、最初に支給を受ける給与等に係る源泉徴収税額から、特別控除の額を控除し、控除しきれない場合は、翌月以降の給与等に係る源泉徴収税額から順次控除します。

(1)事業所得者の所得税の定額減税

事業所得者等の場合は、令和6年分の第1期予定納税額から特別控除の額を減額します。ただし、同一生計配偶者等の扶養親族に係る特別控除の額は、予定納税の減額承認申請が必要です。また、予定納税額がない場合は、令和6年分の確定申告時に特別控除の額を控除します。

参照:国税庁「所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請手続」

まとめ

以上、近年の所得税関連の改正事項についてご紹介しました。
所得税は、私たちの生活に最も身近な税金ですが、経済社会の変化に伴い、毎年多くの改正が行われるだけでなく、対象となる範囲も多岐にわたっています。
また、必要な所得控除等の適用を受けずに、税金を払い過ぎているケースも多く見受けられます。

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