租税特別措置法による特別償却とは

公開日:2021年10月15日
最終更新日:2022年03月28日

この記事のポイント

  • 租税特別措置法とは、法人税法や所得税法などの特別法として例外的に規定されるもの。
  • 租税特別措置法の目的は、特定の政策を促進させること。
  • 令和3年度には研究開発税制が見直され、税額控除率の引下げや控除上限額の引き上げが行われた。

 

租税特別措置法とは、政府が特定の政策目的を実現するために、法人税法や所得税法などの特別法としてそれらの例外規定を定めたものです。
租税特別措置法は、受けられる事業年度に制限が設けられているものが多く、適用要件が変更されることもありますので、常に最新の情報を入手する必要があります。

租税特別措置法とは

租税特別措置法とは、特定の政策目的を実現するために、法人税法や所得税法などの特別法として例外的に規定されるもので、一定の要件に該当する場合には、税負担が優遇または加重されるものです。

税負担が優遇される場合を「租税優遇措置」といい、税負担が過重される場合を「租税重加措置」といいます。

(1)租税特別措置法の目的は特定の政策を促進させること

法人税の話では、よく「中小企業○○税制」という話が出ますが、これは「政府が促進したい特定の政策について、税制措置で優遇しますよ」という意味の例外規定のことです。

たとえば、租税特別措置法では、法人税法で規定する減価償却費の損金算入の特例として、各種特別償却の規定が定められています。これは、経営力向上を図る企業の設備投資を後押しすることを目的としています。
また令和3年度の税制改正でも、研究開発税制が見直され、税額控除率の引下げや控除上限額の引き上げが行われました。これは、新型コロナ感染症拡大の影響による厳しい状況下でも、研究開発投資に対する意欲を持ち続けてもらいたいという目的から規定されたものです。

(2)租税特別措置法は、受けられる事業年度には制限がある

租税特別措置法は、制度を創設して政策の推進を図ることを目的としている臨時のものであり、受けられる事業年度に制限がある場合がほとんどで、適用要件もよく変更されます。ただし、なかには期限を区切って開始された措置ではあるものの、その後何度も延長され数十年単位で続くものもあります。

参照:国税庁「通達目次/租税特別措置法関係通達(法人税編)」

租税特別措置法に基づく特別償却

租税特別法では、法人税法で規定する減価償却の損金算入の特例として、各種特別償却の規定が定められています。
各種特別償却は、特定の政策目的を実現するために定められているものであり、法人税法で規定されている減価償却費の損金算入限度額に加えて特別償却限度額を定めています。そして適用対象法人については、特別償却限度の分だけ損金算入できる金額が大きくなり、その分課税所得が減少し、法人税の負担が軽減されます。

ただし、特別償却を行った事業年度では、これに見合う税額は減少するものの、当該資産の帳簿価額はそれだけ減額されていますので、特別償却を実施しなかった場合と比較すると、その後の事業年度における償却限度額は小さくなることになります。したがって、特別償却は非課税措置や免税措置というものではなく、減価償却制度を利用した課税の繰り延べ措置と理解した方が適切でしょう。

このような特別償却は、以下のように多種多様なものがあります。

①高度省エネルギー増進設備等を取得した場合の特別償却
②中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却
③国際戦略総合特別区域で機械等を取得した場合の特別償却
④地方活力向上地域等で、特定建物等を取得した場合の特別償却
⑤中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却
⑥特定設備等の特別償却
⑦耐震基準適合建物等の特別償却
⑧被災代替資産等の特別償却
⑨特定事業継続力強化設備等の特別償却
⑩医療用機器等の特別償却

ここでは、特別償却のなかでもとくに中小企業者等に高い特別償却率が設定されているもの、または税額控除との選択適用が認められている特別償却についてご紹介します。

(1)中小企業投資促進税制

特別償却のなかでも、とくにポピュラーなものが「中小企業投資促進税制」です。「中小企業投資促進税制」とは、一定の要件に該当する中小企業者等が要件に該当する機械を購入した時に、通常の減価償却費のほかに特別な減価償却費を計上することができるとするものです。

中小企業投資促進税制の具体的な内容

①青色申告をしている中小企業者等(資本金が1億円以下の会社)が、
②平成10年6月1日から令和5年3月31日までの間に、
③新品の1台または1基160万円以上の機械を購入するか、
④または新品の1台もしくは同一種類の複数設備合計額が120万円以上の「一定の器具備品」を購入した場合で、
特定の事業に使った場合には、使った限度額で
⑥その取得価額の100分の30を特別償却することができる。

「一定の器具備品」

「一定の器具備品」とは、測定・検査工具、普通貨物自動車(3.5トン以上)、内航船舶(取得価額の75%が対象金額)です。

「特定の事業」

「特定の事業」とは、製造業、建設業、鉱業、卸売業、小売業、不動産業、倉庫業、梱包業、ガス業、飲食店(バー、キャバレー等をのぞく)、サービス業(映画業以外の娯楽業等をのぞく)などです。

さらに中小企業者のなかでも、「特定中小企業者」に該当する場合には、30%特別償却か、7%税額控除のいずれかを選択適用することができます。特定中小企業者とは、資本金が3,000万円以下の会社です。

参照:国税庁「中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)」

(2)中小企業経営強化税制

中小企業経営強化税制とは、青色申告をしている中小企業者等で中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受けた法人が対象となる税制で、特別償却の場合には、「取得価額-普通償却限度額」の全額即時償却または7%税額控除のいずれかを選択適用することができます。

中小企業経営強化税制の具体的な内容

①青色申告をしている中小企業者等(資本金が1億円以下の会社)で、中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受けた法人が、
②平成29年4月1日から令和5年3月31日までの間に、
③指定期間内に「特定経営力向上設備等」に該当するもののうち、「一定規模以上」のものを取得等して、「指定事業」(中小企業投資促進税制の対象事業)に供した場合、
④特別償却「取得価額-普通償却限度額(全額即時償却)」か、7%税額控除(特定中小企業者等は10%)の選択適用ができる。
⑤ただし、中小企業投資税制と合わせて法人税額の20%が限度。

「特定経営力向上設備等」

「特定経営力向上設備等」とは、以下の設備等をいいます。
生産等設備(事務用器具備品、福利厚生施設等はのぞく)を構成する機械装置、工具、器具備品、建物付属設備およびソフトウェアで、以下に掲げる設備
①生産性向上設備
 販売開始してから機械設備の場合は10年以内、工具の場合は5年以内などの要件あり

②収益力強化設備
 年平均の投資利益率が5%以上となることが見込まれるものであることについて、経済産業大臣の確認を受けた投資計画に記載された機械装置、工具、器具備品、ソフトウェアなど

③デジタル化設備
事業プロセスの遠隔操作、可視化もしくは自動制御化のいずれかを可能とする設備として、経済産業大臣の確認を受けた投資計画に記載された機械装置、工具、器具備品、ソフトウェアなど

④経営資源集約化装置が記載された経営力向上計画を実施するために必要不可欠な設備

「一定規模以上」

一定規模以上とは、以下のとおりです。

種類区分 種類取得価額(1台、1基あたり)
機械装置 160万円以上
工具、器具備品 それぞれが30万円以上
建物附属設備 60万円以上
ソフトウェア 70万円以上

参照:国税庁「中小企業経営強化税制(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)」

(3)DX投資促進税制の創設(令和3年度)

DX投資促進税制とは、青色申告をしている中小企業者等が、事業適応計画書を提出し一定の要件を満たす設備の取得等(令和5年3月31日までに取得)を行った場合に、特別償却または税額控除の措置が認められるものです。

①国内の事業に供した一定の要件を満たす設備の取得価額のうち、30%の特別償却とその取得価額のうち3%の税額控除との選択適用

②ソフトウェアの新設・増設、またはその事業適応を実施するために必要なソフトウェアの利用に係る費用の30%の特別償却とその繰延資産の額の3%との選択適用

いずれの税額控除も、グループ外の事業者とデータ連携をする場合には、税額控除は5%となります。

参照:国税庁「令和3年度法人税関係法令の改正の概要」

(4)研究開発税制

研究開発税制とは、「Society5.0」を実現するためには、個別産業でのデータ、AI活用などが不可欠であり、特にコロナ禍においては積極的に研究開発投資を維持、拡大する企業の後押しが必要であるという目的から設けられた措置です。

参照:内閣府「Society 5.0」

試験研究を行った場合の研究開発税制については、令和3年度に一般型、中小企業技術基盤強化税制の控除額の計算方法について、改正が行われました。また、試験研究費の範囲や特別試験研究費の範囲についても、改正が行われます。

改正内容の詳細については、下記経済産業省で公表される法令等を、ご確認下さい。

参照:経済産業省「研究開発税制」

参照:国税庁「研究開発税制について(概要)」

(5)カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の創設

2050年の温暖化ガス排出量実質ゼロの実現に向けて、政府は脱炭素化に向けた取り組みを行う企業を対象として、税制上の優遇措置を設けています。
国から認定を受けた中長期環境適応計画に基づき、脱炭素につながる設備投資(生産プロセスの脱炭素化に寄与する設備や、脱炭素化を加速する製品を早期に市場投入することなど)を行った場合には、当該設備の取得価額の50%の特別償却あるいは5%(一定の要件を満たす場合には10%)の税額控除の選択適用となります。

カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の適用を受けるためには、産業競争強化法の改正法の施行日から令和6年3月31日までの間に生産工程等の脱炭素化と付加価値向上を両立する設備または、脱炭素化効果を持つ製品の生産設備(機械装置)を取得等して、国内にある事業の用に供することが必要です。

参照:国税庁「令和3年度法人税関係法令の改正の概要」

まとめ

租税特別措置法は、その時々の経済情勢や政策の目的によって適用を受けられる企業や業種が変更されますし、恒久的な措置ではありません。また、適用の対象となる法人は、青色申告法人である必要があります。
また、特別償却は初年度に普通償却とは別枠で減価償却を行うことができるので、初年度の税負担は軽減されますが、全体として償却される額に変わりはなく、その意味で課税の繰り延べ措置ということができます。
ただし、税負担を将来に猶予されたことになり、その分を資金として運用することができます。
租税特別措置法による特別償却は頻繁に変更されますし、要件や手続きも分かりにくいものですが、税理士等のアドバイスを受け積極的に活用したいものです。

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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」

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