公開日:2019年11月10日
最終更新日:2022年06月14日
棚卸資産とは、いわゆる在庫のことです。
棚卸資産は、いずれは顧客に販売されることで収益を上げるものですが、会社を経営するうえでは、「在庫は売れる分だけ置いておく」つまり「売れる商品を効率的に仕入れて販売する」という状態にしておくのが理想です。
棚卸資産回転率とは、このように在庫を適切に管理できているかを測るための指標です。
棚卸資産とは、商品や製品のことです。
モノづくりをする製造業であれば、商品や製品のほかに、つくりかけの製品(仕掛品)や製品を作るための原材料も、棚卸資産に含まれます。
棚卸資産は、適切に管理しないと経営に影響を及ぼすものです。
在庫が少なければ品切れを起こしやすくなり、販売機会を逃してしまいます。しかし、品切れを防ごうとして在庫をたくさん抱えてしまえば、倉庫の保管費用など出ていくお金も多くなってしまい資金繰りを悪化させてしまいますし、売れ残りのリスクも高まります。
したがって、棚卸資産は資産とはいっても多ければ多いほどよいというものではなく、適切に管理を行い適正な水準を維持することが大変重要なのです。
このような棚卸資産の適正な水準を判断する際の指標としては、棚卸資産回転率(棚卸資産が1年間で、何回転しているか)と、棚卸資産回転日数(棚卸資産が何日分の売上原価に該当するか)があります。
棚卸資産回転率とは、在庫を適切に管理できているかを見るための指標で、仕入から売上までの在庫期間が長いか短いかを判断することができます。
棚卸資産は、商品や製品・原材料のことですから、「在庫回転率」ということもできます。
棚卸資産回転率は、売上高を棚卸資産の金額で割って計算します。
棚卸資産回転率(回転) = 売上高 / 棚卸資産 |
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「売上高」は損益計算書の売上高、「棚卸資産の金額」は、貸借対照表の流動資産を見ます。
貸借対照表の棚卸資産の金額が低いほど、棚卸資産回転率は高くなります。これは在庫の回転率が速い、つまり売れる商品を効率的に仕入れて販売しているということを意味します。ただし、棚卸資産回転率が高ければ高いほどよいかというと、それはそれで在庫を十分でなく在庫切れが発生する可能性もあり、販売機会を逃してしまうことにもなりかねません。
逆に棚卸資産回転率は低いということは、売れない在庫を保有していることを意味しますので、保管のコストが大きくなるなどのデメリットも生じます。
在庫というものは、いずれは顧客に販売されることで収益を上げるものなのですから、ムダな在庫を眠らせておくということはお金を眠らせているのと同じことです。
また、商品が劣化したり賞味期限を過ぎたりしてしまえば、その在庫を販売して売上を獲得することはできなくなります。さらに保管のコストもかかりますし、廃棄するためのコストがかかる場合もあるでしょう。
つまり、棚卸資産回転率は高すぎず低すぎず、適正に保つことが重要ということがいえます。
在庫を管理する指標としては、「回転期間」もよく使われます。
在庫などが1年で何回転するかではなく在庫の1回転に要する月数や日数をあらわすものです。
在庫を何カ月分(あるいは何日分)持っているのかを見ることができます。
棚卸資産回転期間 = 12カ月 / 棚卸資産回転率(月数) or 棚卸資産回転期間 = 365日 / 棚卸資産回転率(日数) |
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この棚卸資産回転期間で、売上を獲得するために何日分(何カ月分)の在庫を保有しているのかを把握することができます。
たとえば、回転率が24回転なら、「12÷24」で回転期間(月数)は、0.5カ月になります。
棚卸資産回転期間は、現金が棚卸資産に形を変えて、次の売上債権になるまでの日数ともいえますから、この日数が短いほど現金が棚卸資産としてとどまる日数が少ないことを意味します。逆に棚卸資産回転率が長いということは、より多くの現金が棚卸資産として滞留することを意味しますので、運転資金が不足するリスクがあり、経営に影響を及ぼしかねません。
特に食品や衣服、原材料などは、在庫の保有期間が長すぎると商品の劣化の原因になることがありますから、回転期間は短い方が望ましいでしょう。
しかし、この棚卸資産回転期間も短ければよいというわけではありません。注文を受けても在庫がなければ、販売機会を逃してしまいますので、過度の在庫削減はリスクでもあります。
棚卸資産回転期間については、時系列でみて、なぜ長くなったのか、なぜ短くなったのか、企業の業績と照らし合わせてその原因を探ることが大切です。
棚卸資産回転率は、業種によって差があります。
中小企業実態基本調査(平成29年調査速報)では、業種別の棚卸資産回転率の調査データを公表していますので、同業他社と比較してみましょう。
業種 | 棚卸資産回転率 |
---|---|
建設業 | 9.41回転 |
製造業 | 6.97回転 |
情報通信 | 25.86回転 |
運輸業・郵便業 | 164.28回転 |
卸売業 | 14.83回転 |
小売業 | 6.60回転 |
不動産業、物品賃貸業 | 2.91回転 |
学術研究、専門・技術サービス業 | 21.22回転 |
宿泊業、飲食サービス業 | 27.07回転 |
生活関連サービス業、娯楽業 | 20.29回転 |
他に分類されないもの | 57.62回転 |
棚卸資産回転率が低い場合には、棚卸資産の中身である商品ごとの「商品回転率」を見たり、出荷頻度の低い在庫を把握して管理方法を見直したりする必要があります。
そして、問題のある商品在庫は何かを把握し、「仕入過ぎたのか」あるいは「売れないのか」といったことをチェックします。また、この時商品回転率が高い商品が合った場合には、「在庫切れを起こしたことはないか」についてもあわせてチェックします。
在庫管理においては、まず在庫実態を把握することが大切です。
実態が分からなければ、適切に管理することはできません。そして、在庫管理の場合にポイントとなるのが、商品別の管理をしっかりできているかということです。
棚卸資産回転率は、棚卸資産全体の数値を用いますから、どの商品が短いのか、問題を抱えている商品は何なのかまで判断することはできません。
そこで、まずは商品ごとの回転率・回転期間の実態を把握することが必要になります。
棚卸資産回転率・回転期間は、商品ごとの回転率・回転期間を見ることで、もっと細かく分析することもできます。考え方は、棚卸資産回転率・回転期間と同じでそれを商品ごとに分けて問題を見つけていきます。
個別商品別回転期間 = 商品在庫高 / 商品売上高 × 365日 |
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このように、商品ごとに回転日数を計算することで、回転期間が長い商品、短い商品が分かるようになります。
商品 | 在庫高(円) | 商品(円) | 回転期間(日) |
---|---|---|---|
A | 50,000 | 6,083,000 | 3.0 |
B | 160,000 | 2,655,000 | 21.9 |
C | 360,000 | 2,154,000 | 61.0 |
D | 140,000 | 3,900,000 | 13.1 |
E | 390,000 | 25,000,000 | 5.6 |
上の表で商品ごとの回転日数を見てみると、商品Cの回転日数が極端に長いことが分かります。これは、商品Cを仕入過ぎたのか、あるいは売れ残っている可能性があります。また、商品Aは、回転期間が3日しかありません。在庫切れが頻繁に起こっていないか、仕入状況について検討する必要があります。
出荷頻度が低い商品は、個別に仕入状況を検討する必要があります。たとえば、出荷頻度を織り込んだ必要量の計算を行うのです。1日あたりの出荷量だけでなく、一定期間の出荷日数についても予測を行います。
5日間の必要量 = 1日あたりの出荷量予測 × 5日間の出荷日数予測 |
2つの予測を立てる必要があるので若干複雑にはなりますが、この方法なら出荷頻度の在庫をより高い精度で管理することが可能になります。
計算期間の切り替えは、人が判断するのではなく、たとえば「出荷ゼロの日が週に4日以上続いたら、週次に切り替える」など、一定のルールを設定しておくとよりスムーズです。
リードタイムとは、発注してから何日で利用できるようになるのかという日数です。たとえば、発注してから届くまでに3日かかるのなら、発注リードタイムは3日となります。
このリードタイム日数と「1日あたりの平均出荷量」を掛けると、リードタイム日数分の在庫を見ることができます。
リードタイム日数分の在庫 = リードタイム日数 × 1日あたりの平均出荷量 |
在庫は持ち過ぎないことが大切ですが、このリードタイム日数分の在庫が残っているうちに発注しないと、欠品が出てしまうことになります。
したがって、ベストな発注のタイミングは在庫量がリードタイム数を割り込んだ時ということになります。
そこで、このリードタイム日数をもとに発注するかどうかを検討することになります。リードタイムが長いと安全在庫が増えてしまうので、望ましい状態とはいえません。つまりリードタイムを把握して適切に管理すれば、在庫を削減することにもつながるわけです。
安全在庫とは、「これだけ持っていれば安心だ」という感覚で決めるべきではなく、これまでの出荷状況をもとに統計的に求める必要があります。
そして、安全在庫の大きさは先ほどのリードタイムを活用します。
たとえば、平均出荷量が1日100個でピーク時の出荷量が150個の商品であれば、100個以下の出荷にはこの数で対応することができます。これに安全在庫を20個とすると、120個までの出荷には対応できますが、120個を超えると欠品してしまいます。この欠品をどれだけ許容することができるかは、会社として決める必要があります(欠品許容率)。
次に安全係数、標準偏差を求めます。
安全係数とは、欠品を許容できる確率に対する数値のことで、一般的に、欠品許容率5% = 安全係数1.65とします。
標準偏差とはある範囲内のデータが登場する確率を予測する目印のことで、出荷データから日々の出荷量の平均値を算出したのち、「{(各日の出荷量)-(平均値)}2」の和を日数で割り、分散の値を計算します。そしてこの分散の値の平方根が標準偏差の値です。標準偏差が大きいか小さいかは、その商品の出荷傾向のばらつきの度合いを示すものです。日別の出荷量にばらつきがあれば、標準偏差は大きくなり、出荷量がほぼ同量で大きくばらつきがない商品であれば、標準偏差は小さくなります。
そして、安全在庫は、安全係数、標準偏差、リードタイムを使って、以下の計算式で求めることができます。
安全在庫=安全係数×標準偏差×√リードタイム ※リードタイムの前は「ルート」 |
なぜ、リードタイムを√(ルート)倍するのかというと、リードタイムが1日の時にはその1日分が平均値を上回ったことを想定する必要があるからです。在庫量は平均値で用意されているわけですから、それを上回る値と下回る値は、それぞれ50%の確率で発生することになります。つまり、3日すべての平均値を上回る設定値をする必要はないわけです。そして、量が集まればばらつきが抑えられるという考え方から、統計的には日数の√(ルート)倍でよいとされているのです。
売れない商品をいつまでも店頭に並べておけば、売れる商品を並べるスペースを確保することができません。しかし売れる商品を並べるために売れない商品を店頭から下げれば、売れない商品はいつまでも売れません。そしてそのまま長期在庫となり長期にわたって保管スペースを占拠して、あげくの果てには在庫処分せざるを得なくなってしまうのです。
そこでこのような場合には、ABC分析を使って、取扱商品の絞り込みを行います。
ABC分析とは、在庫商品の金額や売上などから重視する評価軸を決め、「ほとんど売れていない商品、売上が落ちてきた商品、売れている商品」というように、商品をA・B・Cの3グループに分類し管理する方法です。ABC分析は毎月末にチェックし、数カ月低ければカットするというルールを決めておけば、商品の無秩序な増大を防ぐことができます。
在庫管理を効率的に行うためには、在庫管理ソフトを活用するのもおすすめです。
クラウド在庫管理ソフトZAICOは、納品から商品出荷、在庫管理までの業務を効率的に行うことを可能としたソフトです。
個別の材料の登録、検索が簡単にできるほか、購買履歴データを確認することもできますので、各商品の購入時期や一回の購入数量をデータ上で確認することができ、その傾向がスムーズに把握することができるようになります。さらに「クラウド会計ソフト freee会計」に仕入と納品をデータ連携できますので、会計データ上でも在庫の状況についてすぐに確認することができます。
さらにクラウド在庫管理ソフトZAICOと「freee会計」を組み合わせて使うことで、納品の記録から請求書作成までを一気通貫で行うことができます。
以上、棚卸資産回転率(期間)でムダな在庫をチェックする方法、棚卸資産を適切に管理する方法についてご紹介しました。
棚卸資産回転率や回転期間は、業種によって差がありますので、業種別のデータで同業他社と比較しながら、適正な在庫を保つように対策を行いましょう。
freee税理士検索では数多くの事務所の中から棚卸資産回転率(期間)について相談できる税理士を検索することができます。
また、コーディネーターによる「税理士紹介サービス」もあるので併せてご利用ください。
税理士の報酬は事務所によって違いますので、「税理士の費用・報酬相場と顧問料まとめ」で、税理士選びの金額の参考にしていただければと思います。
監修:「クラウド会計ソフト freee会計」
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