公開日:2019年11月21日
最終更新日:2022年08月06日
貸倒損失とは、売掛金や貸付金安堵が、取引先の倒産などによって回収不能になったことによる損失で、損金に計上することができます。貸倒れになったかどうかは、その債権が消滅したかどうか等で判定されます。
また、貸倒損失は、貸倒れが発生する事由によって計上時期が決まっています。
また、貸倒損失は損失計上できる要件が決まっていて、この要件を満たした時だけ計上が認められます。
タイミングを逃してしまうと、不良債権のまま帳簿に残り続けてしまうことになりますので、注意しましょう。
貸倒損失とは、売掛金や貸付金などの債権について回収不能となった時に、その損失額を処理するための勘定科目です。
たとえば、取引先の財政状態の悪化や倒産などによって、まだ回収していない売掛金や貸付金などの金銭債権が戻ってこない状態、いわゆる焦げ付きのことをいいます。
貸倒損失に該当するのは、売掛金の回収不能や貸付金の回収不能、立替金の回収不能などのケースです。
たとえば、取引先に対して掛けで商品を販売したり、関連会社に資金の貸付けを行ったりした場合に、その取引先の経営状況が悪化したことによって債権の回収が困難になってしまうことがあります。
貸倒損失とは、このように債権の回収可能性がなくなったとされる場合に、費用処理するために使用します。
売掛金の回収不能 受取手形の回収不能 貸付金の回収不能 未収入金の回収不能 立替金の回収不能 |
税務上、貸倒損失が損金とされるための要件は厳格です。回収の努力もしないのにあまりに簡単に貸倒れとして損金とすることを認めてしまうと、課税が不公平になってしまうからです。
そこで税法では、客観的に判断できる場合でのみ、貸倒損失が認められています(※後述)。
①債権の切り捨てがあった場合 ②回収ができなくなった場合 ③取引をやめてから1年以上たっても回収不能な場合 |
貸倒損失は、回収不能であればどんな時でも損失として計上できるわけではなく、回収の努力をしない場合には、損失計上することはできません。
税務上は、貸倒損失について損金に算入できるケースが決まっていて、①債権の切り捨てがあった場合・②回収ができなくなった場合・③取引をやめてから1年以上たっても回収不能な場合の3つに限定されています。
売掛債権 貸付債権など |
①債権の切り捨てがあった (法律上の貸倒れ) |
損金経理 | 損金算入 |
申告減算 | |||
②回収ができなくなった (事実上の貸倒れ) |
損金経理 | ||
申告減算 | 損金不算入 | ||
売掛債権 | ③取引をやめて1年以上たっても回収不能 (形式上の貸倒れ) |
損金経理 | 損金算入 |
申告減算 | 損金不算入 |
①債権の切り捨てがあった(法律上の貸倒れ) 債権の全部または一部が、(ア)法律の手続きによって、(イ)債権者集会の協議によって、(ウ)債権放棄の通知によって切り捨てられた部分は、貸倒損失として、損金に計上することができます。 たとえば、更生計画認可の決定、再生計画認可の決定、特例清算に係る協定の認可の決定などによって債権切り捨てがあった場合や、債権者集会の協議決定などで合理的な基準に基づく債権切り捨てがあった場合などです。 本来、貸倒れは損金経理をしなければ損金とはなりませんが、この(ア)~(ウ)の3つの事実が発生した場合には、損金経理をしないで申告書別表四で減算することもできます。 |
②回収ができなくなった(事実上の貸倒れ) 債務者の支払い能力(資産状況)からみて、回収不能であることが明らかになった場合です。 この判断は、実務上一番難しくなります。債務者の資産状況や支払い能力などから判断しなければなりませんので、それなりに回収努力をする必要があります。一部でもとれる見込みがあれば、貸倒損失を計上することはできません。 そして、債務者の財務諸表や不動産登記簿、借入状況、課税証明など、できるだけの書類を集めて税務署に提示し、「確かに全額回収不能である」ということを説明できるようにしておかなければなりません。 さらに、この時その債権について担保物がある時には、その担保物を処分した後でなければ貸倒損失は計上することができません。 つまり、担保物をそのままにして、その担保物の処分見積額を控除した残りを、貸倒損失とすることはできません。
|
③取引をやめて1年以上たっても回収不能(形式上の貸倒れ) 売掛債権について取引停止後一定期間弁済がないため、または回収費用が債権の額を超えるため、貸倒れとする場合です。これは、税法が貸倒れを認める一番ゆるやかな扱いで、売掛金や受取手形などの売掛債権に限られます。貸付金などの貸付債権には適用されません。また、担保がある場合も適用はありません。 (ア)「取引をやめてから、1年以上経過しても売掛金が回収不能(ただし、取引をやめてから売掛金の一部を受け取っている場合には、最後に受け取った日から1年以上たっていなければならない)、 この(ア)(イ)の事実があった場合には、その売掛債権の額から備忘価額(帳簿から売掛債権の事項が消えないように、価値がなくても残しておく金額のこと。一般的には1円と設定する。)を控除した残額を損金として計上します。 |
貸倒損失は、貸倒れが発生する事由によって計上する時期が決まっています。
「取引先の経営状況が悪化したという噂を聞いたので、損失として計上した」など、好きな時に損失として計上することはできません。
また、先ほどご紹介した3つのケース(①債権の切り捨てがあった場合
・②回収ができなくなった場合・③取引をやめてから1年以上たっても、回収不能な場合)を満たせば、好きな時に損失計上できるというわけでもありません。
基本的には、要件を満たした期に損失計上しなければならず、そのタイミングを逃してしまうと貸倒損失と認められなくなる可能性があります。
貸倒損失の計上が否認されるものとしては、貸倒損失の計上が早すぎるというケース(まだ貸倒れの事由が生じていない)というものが多いのですが、なかには貸倒損失の計上が遅すぎる(すでに貸倒れの事由は過去の事業年度で生じていた)と判断されたものもあります。
貸倒損失の計上を失念していた場合には、後日更正の請求などが必要になりますが、状況に応じては直ちに還付されないこともあります。
貸倒損失の計上時期は、以下を参考にしてください。
貸倒れが発生する事由 | 計上時期 |
---|---|
債権の切り捨てがあった場合 | 決定された日を含む事業年度 (決定通知書に記載されているもの) |
回収ができなくなった場合 | 回収できないことが明らかになった事業年度 |
取引をやめてから1年以上たっても、回収不能な場合 | 取引の停止後1年以上経過した日以降の事業年度 |
なお、従前より回収の努力を行ってきたものの、当期になって回収不能が明らかになったというような事情がある場合には、当期に貸倒れとして処理することが認められます。
貸倒損失は、損益計算書の「販売費及び一般管理費」「営業外費用」「特別損失」のいずれかに区分されます。
売掛金など営業上の取引先に対する貸倒損失は、「販売費及び一般管理費」に表示されます。貸付金など通常の営業以外の取引で生じた貸倒損失は、「営業外費用」に表示されます。そして、損益計算書に大きく影響を与えるような臨時的かつ額が大きい貸倒損失は、「特別損失」に表示されます。
貸倒損失は、要件を満たした時期に、費用または損失として計上します。
ここでは、貸倒損失のよくある仕訳例についてご紹介します。
通常の営業活動によって生じた売掛金や受取手形が、取引先の倒産などによって貸倒れとなった場合には、貸倒損失を計上し、回収不能と見込まれる額の部分だけ、営業債権を減額します。
なお、決算書上は、営業取引による損失となるため、「販売費及び一般管理費」に貸倒損失として計上します。
「取引先A社が倒産し、A社に対する売掛金200万円を貸倒処理する。」
貸倒引当金を計上していなかった場合
貸倒引当金を計上していた場合
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貸付金の貸倒損失は、一般の事業会社の場合には、「営業外の取引」となります。したがって、営業外費用か特別損失(多額の場合)に計上します。
「取引先B社に対する貸付金100万円について、B社が倒産したため貸倒処理をする。」
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以上、貸倒損失の意味や貸倒損失が認められるための要件、経理処理の方法などについてご紹介しました。
貸倒損失は認められるための要件が厳しく、ピンポイントでの損失計上が必要です。
タイミングを逃してしまうと、不良債権のまま何年も帳簿に残り続けてしまうことがあります。後から損失として計上したくても、時期が過ぎてしまうと税務上否認される可能性があります。
回収不能になったうえに、損金としても認められなくなってしまうのは、実にもったいない話です。
このようなことにならないよう、税理士とよく相談して適切な時期に損失計上するようにしましょう。
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