公開日:2021年10月08日
最終更新日:2022年03月28日
引当金とは、将来的に発生する費用または損失に対して見積もって計上するものです。
引当金は退職給付引当金、賞与引当金、修繕引当金などさまざまな種類がありますが、税務上損金算入が認められているものは、貸倒引当金と返品調整引当金のみです(※返品調整引当金は廃止となりました)。
引当金とは、翌期以降において支出(費用または損失)の発生可能性が高い場合に、その費用または損失について、費用または損失額を見積もって計上する勘定科目で、決算書においては、貸借対照表の「資産の部」のマイナス項目や「負債の部」に表示されます。
会社を経営するうえでは、さまざまなリスクがあります。引当金とは、このようなリスクに備えて将来突然発生するかもしれない費用や損失について、あらかじめ見積もり計算をして、準備しておくためのお金です。
税法では、債務が確定した時点で費用に算入すべきという「債務確定主義」をとっています。つまり、会社が支出する費用については、「債務が確定した年度」にはじめて損金とすることが原則です。
なぜなら見積費用の計上が自由にできるとなると、恣意的になる可能性があり、課税の公平を保つことができなくなってしまうからです。
しかしそうは言っても、会社経営の健全化を考えた場合には、一切認めないというのも現実的ではありません。そこで、一定の引当金については、繰入額である見積費用の損金算入を認めているのです。
引当金については、課税の公平を保つ観点から、以下の要件をすべて満たす必要があります。
①対象が、将来の費用または損失であること ②その発生可能性が高いこと ③発生原因が当期以前の事象に起因していること ④その費用または損失の金額を合理的に見積もることができること |
企業会計は、正しい期間損益計算を行うことが目的ですから、「当期の収益に対応する費用の計上」という観点から、賞与引当金、退職給付引当金など、さまざまな引当金が認められています。
しかし、税務上は課税の公平という観点から、原則として引当金の計上は認められていません。
税法では計上できる金額の上限を設けたうえで、一部の引当金については会社側の任意で計上することが認められています。
そして、例外的に税務上も認められている引当金は、貸倒引当金と返品調整引当金(平成30年度の税制改正で、返品調整引当金は廃止)の2つだけです。
※返品調整引当金については廃止となりましたが、平成30年4月1日において、返品調整引当金の対象となる事業を営む法人については、令和3年3月31日までに開始する各事業年度においては計上が認められています。 引用:国税庁「収益認識に関する会計基準に対応する改正」 |
準備金とは、将来見込まれる多額の支出や損失の発生に備えて積み立てる金額です。
準備金は、「将来見込まれる多額の支出や損失の発生に備えて」という点が引当金に似ていますが、引当金はその費用の見積が当期の収益に対応するものであるのに対して、準備金はあくまで将来の収益に対応する損失などに備えるものである点で異なります。
準備金は、経済政策などの要請から租税特別措置法によって認められているもので、引当金とは異なり青色申告法人に限って認められます。
近年の改正で新たに創設された準備金としては、「中小企業事業再編投資損失準備金」があります。
青色申告書を提出する中小企業者のうち、改正産業競争力強化法の施行の日から令和6年3月31日までの間に中小企業等経営強化法の経営力向上計画について認定を受けたものが、その認定に係る経営力向上計画に従って行う事業承継等として他の法人の株式等の取得(購入による取得に限ります。)して、かつ、これをその取得の日を含む事業年度終了の日まで引き続き有している場合には、その株式等の取得価額の70%相当額以下の金額を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立てたときに、その積み立てた金額を損金の額に算入することができる制度が創設されました(措法55の2①)。
この準備金は、その積み立てられた事業年度終了の日の翌日から5年を経過したものがある場合には、5年間で均等額を取り崩して益金の額に算入することとされています(措法55の2②)。 |
貸倒引当金とは、取引先の倒産などによるリスクに備えて、引当金を設定することをいいます。
貸倒引当金は、会計上と税法上で取り扱いが異なります。
会計上の債権区分は3つ
会計上は、債権を「取立不能の恐れがある場合」に計上するもので、①一般債権(経営状態に重大な問題が発生していない)、②貸倒懸念債権(経営破綻ではないが、債務の弁済に重大な問題が生じている又はその可能性が高い)、③破産更生債権(経営破綻又は実質経営破綻に陥っている)の3つに区分して、この区分ごとに貸倒見込額を計算します。
税務上の債権区分は2つ
一方、法人税法上は、金銭債権を①個別評価金銭債権(いわゆる不良債権)、②一括評価金銭債権(その他)の2つに区分して、その区分ごとに計算します。
会計上の債権区分の判断は難しいことから、明らかに金額がかけ離れていない場合には、税法上の計算方法をとることができます。
貸倒引当金は、平成24年4月1日以降開始する事業年度から、銀行、保険会社、割賦販売法の登録少額包括信用購入あっせん業者(令和3年4月1日より追加)、中小法人等に限定されています。
中小法人とは、普通法人のうち、各事業年度終了の時において資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下、あるいは資本もしくは出資を有しないものです。
※ただし、相互会社及び外国相互会社、投資法人、資本金の額または出資金の額が5億円以上の法人完全支配関係がある普通法人などは、対象とはなりません。
貸倒引当金を設定した場合に費用処理した「貸倒引当金繰入額」については、一定の要件を満たせば法人税法上、貸倒引当金繰入限度額を損金算入することができます。
前述したとおり、貸倒引当金は法人税法上、①個別評価金銭債権(いわゆる不良債権)、②一発評価金銭債権(その他)の2つに区分します。
①個別評価金銭債権
いわゆる不良債権であり、債務者ごとに貸倒引当金を計算しなければなりません。
長期棚上げ債権、一部取り立て不能債権、形式基準(50%基準)による金銭債権の3つがあり、それぞれ要件が異なります。
②一括評価金銭債権
不良債権以外の一般売掛債権等です。
順調に回収できそうな場合でも、現実には貸倒れとなる可能性がありますので、貸倒引当金を設定することが認められています。
貸倒引当金のうち、個別評価金銭債権(いわゆる不良債権)については金銭債権の状況によって、以下のように計算します。
【個別評価金銭債権】
長期棚上げ債権や、50%基準による金銭債権については、契約あるいは確定した事実によって確認することができますが、一部取り立て不能債権については、「債務超過の状態が相当期間継続している」「事業好転の可能性がない」といった事実認定について、税務署と見解が異なる可能性がありますので、貸倒引当金の設定については注意が必要です。
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【一括評価金銭債権】
一括債権については、一括して貸倒引当金を計算しますが、その際の貸倒引当金繰入額の繰入率は、「貸倒実績率」によって計算します。
なお、中小法人については特例として業種ごとに設定されている法定繰入率で計算することも認められていて、貸倒実績率と法定繰入率のうち、より高い繰入率を選択することができます。
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貸倒引当金は、売掛金や貸付金などの金銭債権について、将来回収不能になる額を一定の方法で見積もって、当期の費用として計上する時の勘定科目です。
前述したとおり、中小法人については①個別評価金銭債権、②一括評価金銭債権の2つに区分して、貸倒引当金の繰入限度額を定めていますので、それぞれの仕訳方法についてご紹介します。
①個別評価金銭債権 「民事再生法手続き開始を申し立てた取引先に対する売掛金100万円に対して、50%の貸倒引当金を計上した。」
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②一括評価金銭債権 「小売業である当社は、決算にあたり期末の売掛金1,000万円に対して、一括法により「貸倒引当金」を設定した。なお、前期末に設定した貸倒引当金は70万円である。当期の貸倒はない。」
※小売業の法定繰入率は10/1,000であることから、以下のように繰入額を計算します。 1,000万円×10/1000=100万円 |
返品調整引当金とは、当期に販売した商品・製品について、次期以降にその一部の返品が予想される場合に、その返品に伴う利益減少見込額に対して計上される引当金です。
買戻特約を結んでいる場合や、そのような特例がなくても無条件での返品を受け入れる実務慣習がある場合に計上されます。
返品調整引当金も、税法上一定の要件を満たした場合に、繰入額について損金算入が認められています。
出版に係る取次業、医薬品・農薬・化粧品・既製服等の製造業・卸売業を営む法人については、損金経理によって返品調整引当金に繰り入れた金額のうち、繰入限度額に達するまで損金に算入します。
返品調整引当金の繰入限度額は、特定事業の種類ごとに期末売掛金基準(期末売掛金残高)×返品率×売買利益率)、または売上高基準(期末前2カ月間の総売上高×返品率×売買利益率)のいずれかによって計算しますが、毎期いずれかの方法で有利選択することができます。
なお、返品調整引当金については、令和3年3月31日までは損金算入が認められていましたが、令和3年4月1日からは1年に10分の1ずつ縮小した額の返品調整引当金繰入となる経過措置がとられています。
「決算につき、売掛金残高¥2,000,000の10%を翌期の返品額と見積もった。その額に売上総利益率30%を乗じた金額を返品調整引当金として計上した。」
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
返品調整引当金繰入 | 60,000 | 返品調整引当金 | 60,000 |
税務上、計上が認められている引当金は貸倒引当金と返品調整引当金の2つですが、企業会計上は、さまざまな引当金が認められています。
貸倒引当金は、資産(売上債権)から差し引く形で貸借対照表に表示されますが、1年以内に使用する見込みの賞与引当金は流動負債に、1年を超えて使用される見込みの退職給付引当金は、固定負債に表示されます。
建物、機械、備品などの有形固定資産について修繕を必要とする場合に、次期以降に修繕が行われる場合には、当期の負担に属する金額を見積もって、費用計上し修繕引当金を設定します。
修繕引当金は、合理的な算定がしにくいという点で、実務上の計上はあまりありません。
一定期間にわたり労働を提供したことなどの事由に基づいて、退職以後に従業員に支給される給付に備えて計上される引当金です。
退職一時金や企業年金度などを利用した退職年金等まで含んで計上されます。
なお、2012年の改正によって「退職給付引当金」は「退職給付に係る負債」に名称変更されたため、退職給付引当金という名称が使われるのは、個別財務諸表のみとなります。
支給されている賞与の多くは、あらかじめ支払いの時期や支給対象期間が労使間の協定などによって定まっています。そこで、従業員に支給される賞与は一定期間にわたって、その期間の経過とともに発生する費用と考えるのが、合理的です。
そこで、賞与の支払いが翌期であっても、当期の負担に属する金額については、当期の費用として見積、引当計上しておくことが必要になります。
賞与引当金とは、この時に使う勘定科目です。
製品の販売または請負物件の引き渡し後、一定期間当該製品または請負物件の補償を無償で行うことを契約している場合には、ある期の売上に対する補修費用が事後費用として、翌期以降に発生することになります。
このような補修費用は、売上年度の収益と対応させるべきであることから、当期の費用に計上し、製品保証等引当金を設定します。
工事契約に関して損失の発生の可能性が高い、かつ、その損失見込み額を合理的に見積もることができる場合に、当該損失見込み額に対して計上するのが、工事損失引当金です。
損失見込み額は、工事の受注時に作成される実行予算から算出します。
しかし実行予算は、受注後、設計変更や追加工事などがあった場合に都度修正されますので、その場合には損失見込み額も見直されることになります。
税法では、費用について減価償却費を除いては期末までに債務が確定しない者は、損金に算入することができませんが、引当金は、税法上の債務確定主義の例外であり、かつ税法上認められているのは貸倒引当金と返品調整引当金の2つです。また金額の算出方法は法人税法で細かく規定されています。
また、税制改正によって返品調整引当金については令和3年4月1日からは1年に10分の1ずつ縮小した額の返品調整引当金繰入となる経過措置がとられています。したがって、計上を検討する際には税理士のサポートを受けながら、十分に検討をする必要があります。
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