暦年贈与の注意点・暦年贈与以外の相続税対策

公開日:2018年11月06日
最終更新日:2022年03月15日

この記事のポイント

  • 相続税は、暦年贈与を上手に活用することで大幅に節税することができる。
  • 「暦年贈与」と認めてられるためには、一定の要件が必要となる。
  • 暦年贈与は、今後使えなくなる可能性が高い。

 

相続税については、「できれば、支払わずに済ませたい」「支払うとしても、できるだけ負担を軽くしたい」と考えている方が多いでしょう。

相続税を節税する方法はいくつもがありますが、中でも生前贈与の「暦年贈与」は相続税対策王道というべき基本の対策方法です。
しかし、暦年贈与制度について正しく理解せず、間違った対策を行ってしまうと、贈与が認められなくなってしまい結局税金を支払わなければならなくなってしまうことになります。
また、暦年贈与は、今後の税制改正で見直される可能性が高いと言われています。

暦年贈与とは

暦年贈与とは、早い時期から少しずつ子どもや孫に贈与を行い、相続税のかかる財産を減らす相続税対策の方法です。
贈与税は、毎年110万円の贈与分までは贈与税が課税されません。

つまり、年間110万円までの額をコツコツと贈与すれば、その分だけ相続財産を減らせるというわけです。

この「毎年110万円の贈与分までは贈与税がかからない」という決まりのことを「贈与税の基礎控除」といい、暦年贈与とは、この贈与税の基礎控除を利用した相続税対策のことをいいます。

(1)暦年贈与が相続税対策の王道と言われた理由

相続税と贈与税を比較すると、贈与税の方が課税される最低限度額も低く設定されていて、税率の累進性も相続税率よりかなり急になっています。

相続税の税率

区分 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

参照:国税庁「相続税の税率」

贈与税の税率

区分 税率 控除額
200万円以下 10%
200万円超400万円以下(200万円超300万円以下) 15% 10万円
400万円超600万円以下(300万円超400万円以下) 20% 30万円(25万円)
600万円超1,000万円以下(400万円超800万円以下) 30% 90万円(65万円)
1,000万円超1,500万円以下(600万円超1,000万円以下) 40% 190万円(125万円)
1,500万円超3,000万円以下(1,000万円超1,500万円以下) 45% 265万円(175万円)
3,000万円超4,500万円以下(1,500万円超3,000万円以下) 50% 415万円(250万円)
4,500万円超 55% 640万円(400万円)

※()内の金額は、上記の20歳以上の者以外の場合の金額。なお、令和4年(2022年)4月からは、18歳以上に引き下げられる予定。

参照:国税庁「贈与税の税率」

これは、相続税の税負担を軽くするために、生前贈与の分配を行った場合とそうでない場合に不公平が起こることを避ける目的があります。

たしかに、最高税率や基礎控除額を見ると贈与税は高いという印象を受けます。
しかし、相続税は一生にいちどまとめて課税される税金であるのに対して、贈与税には110万円の基礎控除があり、贈与する時期を自由に選択することができるという違いがあります。
ですから、この110万円の基礎控除額をうまく利用して、毎年子どもや孫に少しずつ贈与を行えば、長期的に見ればかなりの額の財産を移転する(相続財産を減らす)ことができて、相続税を節税することができるのです。

贈与税をいかにうまく活用するかは相続税対策のポイントであり、そのため「相続税対策の基本は、生前贈与にあり」といわれるわけです。

(2)暦年贈与の効果と事例

前述したとおり、暦年贈与制度では年間110万円までの基礎控除がありますので、年間110万円までの贈与については税金がかかりません。
そこで暦年贈与を利用すると、どれくらいの効果があるのかを見てみましょう。

【事例1】
「子ども3人に対して、20年間暦年贈与を行った」


たとえば、子ども3人に対して20年間暦年贈与を行うと、
(110万円×3人)×20年間=6,600万円
となり、6,600万円もの財産を無税で贈与することが可能となります。

【事例2】
「預金が8,000万円あり、配偶者と子ども2人、孫1人がいて、2人の子どもと孫1人に対して10年間暦年贈与を行った」

年間110万円の贈与無税枠は、子どもだけでなく、孫に対しても認められています。
そこで、2人の子どもと孫1人に毎年110万円ずつ暦年贈与を繰り返し、10年間継続すると、毎年330万円、合計3,300万円の遺産を無税で子どもや孫に受け継がせることができるので、10年後には遺産総額は4,700万円まで減らすことができて、その分税負担を軽くすることができます。

法定相続人は、配偶者と子供2人の合計3人いるので、相続税の基礎控除は3,000万+600万×3人で4,800万円となり、遺産総額は4,700万円まで減っているので相続税はかからず、相続税は0円になります。

(3)暦年贈与が使えなくなる?

メリットの多い暦年贈与ですが、令和3年度の税制改正大網によれば、相続税と贈与税について「相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直す」とされ、「資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。」と記載されています。
要は、相続税と贈与税を一体化し、暦年贈与をしても今後は相続財産に含めて課税する方向で進めるというわけです。
以上から、令和4年の税制改正大網では具体的な内容や施行時期が注目されていましたが、結局令和4年の税制改正大網では暦年贈与に関する改正はなく、継続的に審議されることとされました。
しかし、今後暦年贈与について見直しがされる可能性は高く、暦年贈与の廃止または縮小への流れは変わらないと見られています。

暦年贈与以外の相続対策

暦年贈与は、「父親から110万円もらった」と子世代が税務署に主張すれば、すんなり認めてもらえるものではありません。
「贈与した事実」がなければ、贈与と認めてもらうことはできませんし、「定期贈与契約」と判断されてしまうと、「1年ごとの贈与ではなく、10年分の贈与を分割して贈与を受けた」となり、贈与税がかかることになってしまいます。

国税庁QA
Q:「親から毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与を受ける場合には、各年の受贈額が110万円の基礎控除額以下ですので、贈与税がかからないことになりますか。」

A:「定期金給付契約に基づくものではなく、毎年贈与契約を結び、それに基づき毎年贈与が行われ、各年の受贈額が110万円以下の基礎控除額以下である場合には、贈与税がかかりませんので申告は必要ありません。
ただし、毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与を受けることが、贈与者との間で契約(約束)されている場合には、契約をした年に、定期金給付契約に基づく定期金に関する権利(10年間にわたり100万円ずつの給付を受ける契約に係る権利)の贈与を受けたものとして贈与税がかかります。
なお、その贈与者からの贈与について相続時精算課税を選択している場合には、贈与税がかかるか否かにかかわらず申告が必要です。」

引用:国税庁「タックスアンサー(よくある税の質問)「贈与税がかかる場合」より引用」

つまり、せっかくの生前贈与も、やり方を間違えてしまうと、すべてが水の泡になってしまいます。
また、相続発生時(被相続人が亡くなった時)から遡って3年以内の贈与については、相続財産に合算されてしまうという規定が設けられていますし、前述したとおり暦年贈与は今後見直しされる可能性が高くなっています。
そこで暦年贈与以外の相続税対策についても、検討することをおすすめします。

(1)そもそも生活費や教育費ならOK

妻が夫からもらった生活費や、子どもが親からもらった教育費などは、贈与税がかかりません。ただし生活費や教育費であれば、いくらでもOKというわけではありません。この生活費や教育費についても通常必要な範囲という制限が設けられています。
海外に留学する費用でも、家賃が払えなくなった子どものために家賃を払ってあげるのも問題ありません。
ただし、子どもが住宅を購入するための資金を親が出して、それを子ども名義にすると相続税対策と見られてしまいますので注意が必要です。この場合には後述する非課税措置の利用を検討しましょう。

(2)暦年贈与以外の非課税措置を検討する

贈与税には特例として、以下のような目的で贈与を行う場合には、贈与税がかからないことになっています。暦年贈与以外にも、こうした非課税の特例を活用し相続税対策を行うことをおすすめします。

教育資金一括贈与
教育費の贈与があったときは「教育資金一括贈与の贈与税非課税の特例」を利用することができます。

非課税枠 目的 適用対象 適用期限
教育資金一括贈与 1500万円 授業料、入学金など 30歳未満(所得1000万円以下 令和5年3月末まで
住宅取得等資金贈与
住宅を取得するための資金を、父母から贈与された場合には「直系尊属からの住宅取得等資金の贈与税非課税の特例」を利用することができます。

非課税枠 目的 適用対象 適用期限
住宅取得等資金贈与 耐震等住宅は1000万円、一般住宅は500万円 マイホームの新築、購入、増改築など 20歳以上(所得2000万円以下)※令和4年4月から18歳以上 令和5年12月末まで
結婚・子育て資金一括贈与
結婚や子育てのための資金の贈与を受けたときには、「結婚・子育て資金の一括贈与にかかる贈与税非課税の特例」を利用することができます。

非課税枠 目的 適用対象 適用期限
結婚・子育て資金の一括贈与 1000万円 挙式、披露宴の費用、出産、不妊治療の費用等 20歳以上(所得150歳未満000万円以下)※令和4年4月から18歳以上 令和5年3月末まで

(3)親子で住宅を共同購入する

子どもが住宅を買うときに、その住宅を親と共同購入するという方法も相続税対策となります。
親が資金を出した割合に応じて親子で共有名義にすれば、親の支出額が親の持分になるだけですから贈与には当たらず、贈与税はかかりません。
また、親が亡くなって相続したときには、その親の持分を子どもが相続すればよいので相続税対策ともなります。
「直系尊属からの住宅取得等資金の贈与税非課税の特例」を活用するだけでは足りない場合には、この方法を検討してみるのもひとつの手です。

(4)孫と養子縁組する

孫を養子にする「一代飛ばし」という方法は、資産家の場合に利用される相続税対策です。
「親から子、子から孫」という2度の相続を、「親から孫」という1度の相続とすることで、相続税を軽減させることができるわけです。
孫を養子縁組して相続した場合、相続税は2割加算されることにはなりますが、相続財産が多い場合には節税対策となります。また、孫と養子縁組して法定相続人が増えれば、相続税の基礎控除額が増えるので、適用税率が低くなります。

(5)海外に移住する

日本では相続税の税率は最大55%(法定相続分に応ずる取得金額が6億円超の場合)ですが、国によっては相続税率がずっと低かったり、ゼロだったりというところもあります。
たとえば、マレーシア、シンガポール、カナダなどは相続税はかかりません。
そこで、このような相続税がかからない国に移住することで相続税の節税をしようという「海外移住」も、相続税対策として注目されています。

ただし、海外移住した場合には、被相続人と相続人がどちらも移住してから10年以上その国に居住しなければならないという条件があります。つまり移住して10年以上経たないと、日本の税金が課税されてしまうわけです。また、住民票だけ移しておくという方法もNGとなりますので注意が必要です。

まとめ

暦年贈与は効果的に相続税を節税できますが、今後の税制改正でそのメリットがなくなる可能性があります。
しかし、暦年贈与以外の非課税措置を利用したり、子と養子縁組したり、海外移住を検討するなど、他にも相続税対策として有効な方法は多々あります。いずれの方法も早めにスタートした方が効果は高いものばかりですから、相続税対策について検討したい方は早めに税理士に相談することをおすすめします。

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