公開日:2019年11月29日
最終更新日:2022年07月25日
会社を経営するうえでは、多額の設備投資、研究開発費、運転費などが必要となることがあります。特に事業規模が拡大していく過程においては、資金不足が常に経営課題となります。
そして、これらの問題を解決するひとつの方法が「株式上場」です。
「株式上場」とは、証券取引所で、一般の投資家が企業の株式等を売買できるようにすることをいい、上場のためには、各市場で必要となる一定の基準が存在します。これを「上場基準」といいます。
株式上場(「IPO」Initial Public Offering)とは、自分の会社を「株」という商品に形を変えて、市場で自由に売買してもらうことです。募集または売り出しという方法によって、上場時に株式を買ってもらうことになります。
「募集」とは、会社自体にお金が入る形態であり、「売出」とは、既存株主にお金が入る形態です。
上場するためには、市場ごとに規定されている上場審査基準等に定められる一定の基準を満たす必要があります。これを「上場基準」といいます。
上場審査基準には、株主数、上場時価総額、純資産の額、監査意見などがあり、上場するまでにこれらの基準を満たす必要があります。
上場をすると、多くのメリットが会社にもたらされます。
市場を通じて、広く一般投資家から資金を調達できますし、知名度が向上するので広告宣伝効果が期待できます。
また、上場準備の過程で社内の経営体制が整備されますし、創業者である株主は上場時の売出しによってキャピタルゲインを得ることができます。
また、上場していない会社の場合、相続財産の大半が自社株というケースが多いのですが、上場会社であれば事業運営体制を変えずに相続した株式を市場を通じて売却できます。結果的に相続税の納税資金に充てることができるので、事業承継がスムーズに行われるというメリットもあります。
上場審査で求められる基準として「形式基準」があります。
形式要件とは、実質審査基準の前段階で、形式的な数値や一定の事実関係の存在などによって、上場可能か判断する要件です。
形式要件とは、財務数値(純資産、利益など)、株主数、株式数など、上場時までに必要な数値達成ルールが中心です。この形式要件は、取引所、市場ごとに数値基準が異なります。
たとえば、東証では2022年4月4日から東証では、スタンダード市場、プライム市場、グロース市場及び TOKYO PRO Market の4つの市場が提供されていますが、各市場の主な形式基準は以下のようなものがあります。
2022年4月4日からの東証市場区分
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要件に示された数値を見ると、達成が難しいと感じるかもしれませんが、この数値は今すぐ達成しなければならないわけではありません。あくまで上場時までに達成すればよい数値です。
グロース市場は、高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる市場です。
申請会社には「高い成長可能性」を求められますがこの「高い成長可能性を有しているか否か」については、主幹事証券会社がビジネスモデルや事業環境などを基に評価・判断します。
したがって、優れた技術やノウハウを持ち、成長可能性が認められる企業は、グロース市場の上場対象会社ということができます。
項目 | グロース市場への新規上場基準 |
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株主数 (上場時見込み) |
150人以上 |
流通株式 (上場時見込み) |
・流通株式数 1,000単位以上 ・流通株式時価総額 5億円以上 (原則として上場に係る公募等の見込み価格等に、上場時において見込まれる流通株式数を乗じて得た額) ・流通株式比率 25%以上 |
公募の実施 | 500単位以上の新規上場申請に係る株券等の公募を行うこと |
事業継続年数 | 1か年以前から取締役会を設置して、継続的に事業活動をしていること |
引用:日本取引所グループ「上場審査基準概要(グロース市場)」
スタンダード市場は、公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持っている企業向けの市場です。
上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場です。
項目 | スタンダード市場への新規上場基準 |
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株主数 (上場時見込み) |
400人以上 |
流通株式 (上場時見込み) |
・流通株式数 2,000単位以上 ・流通株式時価総額 10億円以上 (原則として上場に係る公募等の見込み価格等に、上場時において見込まれる流通株式数を乗じて得た額) ・流通株式比率 25%以上 |
事業継続年数 | 3か年以前から取締役会を設置して、継続的に事業活動をしていること |
純資産の額 (上場時見込み) |
連結純資産の額が正であること |
利益の額(利益の額については、連結経常利益金額又は連結経常損失金額に非支配株主に帰属する当期純利益又は非支配株主に帰属する当期純損失を加減) | 最近1年間における利益の額が1億円以上であること |
引用:日本取引所グループ「上場審査基準概要(スタンダード市場)」
プライム市場は、多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資家との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場です。
株主数は上場の時までに 800人以上になる見込みのあることが必要など、他市場より基準が厳しくなっています。
項目 | プライム市場への新規上場基準 |
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株主数 (上場時見込み) |
800人以上 |
流通株式 (上場時見込み) |
・流通株式数 2万単位以上 ・流通株式時価総額 100 億円以上 (原則として上場に係る公募等の見込み価格等に、上場時において見込まれる流通株式数を乗じて得た額) ・流通株式比率 35%以上 |
時価総額 (上場時見込み) |
250 億円以上 (原則として上場に係る公募等の見込み価格等に、上場時において見込まれる上場株式数を乗じて得た額) |
純資産の額 (上場時見込み) |
連結純資産の額が 50 億円以上 (かつ、単体純資産の額が負でないこと) |
利益の額又は売上高(利益の額については、連結経常利益金額又は連結経常損失金額に非支配株主に帰属する当期純利益又は非支配株主に帰属する当期純損失を加減) | ・最近2年間の利益の額の総額が 25 億円以上であること ・最近1年間における売上高が 100 億円以上である場合で、かつ、 時価総額が 1,000 億円以上となる見込みのあること |
事業継続年数 | 3か年以前から取締役会を設置して、継続的に事業活動をしていること |
引用:日本取引所グループ「上場審査基準概要(プライム市場)」
上場するためには、上場準備室を設置する必要があります。各部門から調整能力・事務処理能力の高い人材を集め、プロジェクトチームを結成します。
また、あわせて社内体制や資本政策の大まかな方針も決めます。
さらに、監査法人の監査、上場準備室の設置、主幹事証券会社の選定など、長期にわたる準備作業が必要となります。
なお、上場準備スケジュールを作成しても、その内容を確実に実行するためにチェックして、予定通りに進んでいない場合には、手順変更や担当者の補強、変更の必要の検討などを行う必要があります。
経営者が順調に準備作業が進んでいると思っていても、実は準備作業が進んでおらず上場が延期になるケースもあります。
このようなことが起こらないようにするためには、上場準備作業の進捗管理を行う上場準備室長を選任し、監査法人や証券会社なども巻き込んでいくことが必要です。
以上、東証の上場基準の意味や基準、上場するための大まかなスケジュールについてご紹介しました。
上場は、多くの費用がかかりますし大変な準備作業が必要です。しかし、上場によって資金調達力は高まりますし、それによって投資拡大、人員強化なお業績が向上しやすい経営体質を得ることができるのです。
上場基準の数値だけ見ると、とても達成できないと思うかもしれませんが、株式市場は将来の企業発展の第一歩です。
いずれ上場を考えている経営者は、まず顧問税理士や弁護士に相談し、必要な準備などについてアドバイスを受けることをおすすめします。
上場を意識したら、まず顧問税理士や顧問弁護士に相談することをおすすめします。上場するまでは、主幹事証券会社や監査法人、弁理士、印刷会社などさまざまなパートナーが必要ですが、特に税理士には、基準を達成するための税務に関してや税務対策などについて、アドバイスを受けることができます。
また、上場準備に関するコンサルティングを行う外部コンサルタントを活用するのも効果的な場合があります。ただし、その場合でも顧問税理士を通じて紹介を受ける方が、結果的に十分なサポートを受けることができるでしょう。
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税理士の報酬は事務所によって違いますので、「税理士の費用・報酬相場と顧問料まとめ」で、税理士選びの金額の参考にしていただければと思います。
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