公開日:2018年08月01日
最終更新日:2022年03月15日
一定の要件を満たす労働者は、会社に入社すると同時に、労働保険・社会保険に加入することになります。
これらの保険は、労働者が失業した時や病気になった時に、給付金を支給するなどについて規定されたもので、労働者が安心して働くことができるようにサポートしてくれる仕組みになっています。
労働保険・社会保険の種類は、労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金保険、介護保険の5つの種類がありますが、それぞれどのような加入条件があるのか、どのような時にどのような給付がされるのかについては、正しく理解し必要な手続きなど行うことが大切です。
今回は、会社の人事担当者になったときに知っておきたい各種の労働保険について、解説します。
労働保険・社会保険とは、「労働者が失業する」「労働者が病気になる」「労働者が年をとって働けなくなる」などの事情が発生した時、労働者が生活できなくなるような状況を回避するために、サポートする仕組みを規定した保険制度のことをいいます。
会社は、基本的に国が運営するこれらの保険制度に従業員を加入させ、そこから当面の生活のための給付金を支払ったり、医療費の一部を負担したりということが必要になります。
このような保険の仕組みを「労働保険・社会保険」といい、この社会保険制度に加入することを、正確には「社会保険の適用事業所になる」という言い方をします。
労働保険も社会保険も、共に働く人々の生活を守るための制度であり、次の5つの制度があり、それぞれ目的や内容が異なります。
労働保険は、もともと労働者を保護するための制度なので、原則として使用者(会社の役員)は加入できず、保険給付の算定基礎については労働基準法で用いられる「賃金」を元に行います。
一方、社会保険は、広く国民の生活を守る制度として、会社の役員も加入することができます。また、保険給付の算定基礎には「報酬」という用語を用います。
労働保険 ・雇用保険: 失業した場合などに、労働者の生活の安定を図るために給付を行ったり、再就職を支援するための給付を行なったりする。 ・労災保険(労働者災害補償保険): |
社会保険 ・健康保険: 業務とは関係のないケガや病気をした場合、療養の給付や休業期間中の現金給付を行う。 ・介護保険: ・厚生年金保険: |
労災保険とは、従業員が業務に起因して病気、怪我、死亡したときや、通退勤の途中で事故や事件に遭い、病気、怪我、死亡したときに給付金が支給される保険制度です。
労災には、業務災害と通勤災害の2種類があります。
業務災害: 業務中に事故に遭ったなど、業務上の事由によるケガ、病気、障害、死亡などのことをいいます。たとえば、工場で作業中に事故に遭って指を失ったケースなどが該当します。 通勤災害: |
労働基準法では、従業員の業務上の負傷や志望に対して、会社が療養費用や補償金を支払うことを定めています。
労災保険の対象となるのはすべての労働者で、パートやアルバイトなど正社員以外のも労働者も含まれます。事業所で一人でも従業員を雇ったら、必ず労災保険に加入する必要があります。
労災の給付内容は以下の通りです。
※通勤災害の保険給付には(補償)という言葉はつけないで用いられます。
・療養(補償)給付…病院の治療費 ・休業(補償)給付…休業損害 ・傷病(補償)給付…重傷を負い、1年6か月が経過しても治らない場合に支払われる給付金 ・障害(補償)給付…後遺障害が残ったときの給付金 ・介護(補償)給付…介護が必要になったときの給付金 ・遺族(補償)給付…労働者が死亡したとき遺族に支払われる給付金 ・葬祭料…労働者が死亡したとき遺族に支払われる葬儀費用 |
雇用保険は、労働者の雇用を維持することを目的にした保険です。主として、失業した労働者の求職中の生活を補償するための給付が行われます。
雇用保険では、労働者を以下の4種類に分類しています。
一般被保険者 以下の3つに該当しない、一般的な従業員です。 高年齢被保険者 短期雇用特例被保険者 日雇労働被保険者 |
基本的にすべての労働者が雇用保険の対象になりますが、以下のような人は適用除外です。
雇用見込みが30日以下の従業員 週の労働時間が20時間を下回る従業員 参照:厚生労働省「平成22年4月1日から雇用保険制度が変わりました」 |
たとえば労働時間の少ないパートやアルバイト、臨時雇いの社員などは雇用保険の対象にならない可能性があります。
また、2つ以上の会社で働いている人の場合には、主たる賃金を受け取っている事業所で雇用保険に入るので、二次的な会社では雇用保険に加入する必要がありません。
健康保険は、労働者の健康を推進するための保険であり、主には病院を受診するときに医療費を助成するものです。
従業員の業務外の事由によるケガ、病気、死亡または出産、扶養している者のケガ、病気、死亡、出産に関して保険給付を行う仕組みです。
会社や常時使用している従業員が5人以上の個人事業所では、従業員を健康保険に加入させる必要があります。
パートやアルバイト社員も対象となりますが、勤務時間と日数が正社員の4分の3未満の場合には、加入させる必要がありません。
ただし、以下の5つの条件を満たす場合には、健康保険への加入義務が発生します。
①週の所定労働時間が20時間以上 ②雇用期間が1年以上の見込み ③月額賃金が8.8万円以上 ④学生ではない ⑤常時501人以上が勤務している企業 |
健康保険による給付には、以下のようなものがあります。
・療養給付(医療費) ・入院時の療養費 ・高額療養費 ・傷病手当金 ・埋葬料(費) ・出産の際の給付 |
健康保険で医療費をまかなうときには、労働者に3割などの自己負担が発生します。
労働者が労災に遭ったときには、労災保険と健康保険のどちらを利用すべきか迷う人もいますが、労災事故については労災保険による治療を受けるべきなので注意しましょう。
労災保険を使うと医療費が全額労災から支給されるので、健康保険を使うよりも労働者にとってメリットが大きくなります。
参照:厚生労働省保険局「健康保険と労災保険の適用関係の整理について」
労災保険でも健康保険でも、「治療を受けたなら、どちらでもいいだろう」と安易に考える人がいますが、労災事故などの治療には、1日100万円以上の治療費が必要になる場合もあります。
それに身体障害が伴う場合には、その程度によっては相当額の年金となることもあります。いずれの場合も、一企業が負担する額としては高額になるケースがあるのです。
それに、一企業が治療費を負担できなければ、労働者が十分な治療を受けられないことにもなりかねません。
労災保険は、このように労働者が十分な治療を受けられなくなることを避け、必要最低限度の治療がきちんと受けられるための制度なのです。
「とりあえず、健康保険で治療しておいて」などと言ってしまい、あとで「労災隠し」と認定されてしまうと、さかのぼって再計算し保険料の増額等の手続きが取られることもありますので、注意しましょう。
厚生年金保険は、労働者や家族の生活を補償するための保険です。
労働者は年をとったり、障害、死亡などによって働けなくなったりすると、会社から報酬を受けられなくなってしまいます。そこで、あらかじめ報酬の中から一定の保険料を国に納付しておいて、働けなくなった時に国から給付金を受け取れるようにする仕組みが「厚生年金保険」です。
厚生年金保険に加入しなければならない従業員の範囲は、健康保険と同じです。
年金給付には、以下の種類があります。
老齢厚生年金 労働者が高齢になったときに給付を受けられる年金です。 障害厚生年金 遺族厚生年金 |
介護保険は、少子高齢化によって急増している高齢者の介護費用をまかなうための保険制度です。
対象になるのは、「40歳以上65歳未満の健康保険に加入している者」や「65歳以上の者」です。
介護保険に加入義務のある40~64歳までの労働者を雇用している場合には、会社が介護保険料を徴収しなければなりません。
介護保険の給付を受けようとする被保険者は、まず要介護者(要支援者)に該当すること、および状態について市町村から認定を受ける必要があります。そして、介護や支援が必要であると判定されたら、介護給付を受けることができます。
会社には、正社員以外にもパート、アルバイト、契約社員、派遣労働者などさまざまな雇用形態の従業員がいます。これらの従業員の中には正社員とは異なる取扱いが必要になるものがあるので、以下で、それぞれについてみていきましょう。
パート、アルバイト パートやアルバイトの従業員とは、1週間の所定労働時間が正社員より短い労働者です(パートタイム労働法2条)。 正社員を増やすとコストがかかるので、短時間のみ手が足りない場合などにはパートやアルバイトの従業員を活用するメリットが大きくなります。 また、パートやアルバイトの休憩時間、有給、健康診断について、厚生労働省によると、週の所定労働時間が正社員の2分の1以上4分の3未満のパートやアルバイトには「健康診断の実施が望ましい」とされていますし、4分の3以上のパートアルバイトの従業員に対しては正社員と同様に健康診断を実施する必要があります。 |
派遣労働者 派遣労働者とは、派遣会社(派遣元)から派遣されて、就業先の企業で働く人です。 派遣労働者の雇用主は派遣元の会社なので、就業先の会社と派遣労働者との間には、雇用関係はありません。社会保険なども雇用主である派遣会社が加入することになります。 派遣労働者で専門スキルのある人なら、即戦力となってくれますし、利用の期間が定められるので、短期間の雇用が可能です。本人の意思を確認して、希望すれば正社員としての登用も相談することができます。 なお、派遣労働者を受け入れるとき、派遣元の会社と派遣先の会社の労務管理の分担を正しく理解しておく必要があります。 |
契約社員 契約社員とは、雇用契約の期間が定められている従業員です。 労働基準法により、契約期間は最長3年(高度な専門知識が必要な職種や定年後に継続雇用される場合は最長5年)が上限とされますが、更新すること自体は自由にできます。 また、契約社員の場合には派遣労働者とは異なり、自社で雇い入れているので、雇用主自身が社会保険や雇用保険に加入すべき義務を負います。 労務管理方法についても正社員の場合と同じです。 なお、2013年(平成25年)の労働契約法の改正により、契約期間が定められている(有期労働契約)労働者でも、同じ会社で5年間働いた労働者については、無期労働契約に転換しなければならないルールが導入されました。 |
外国人労働者 外国人労働者を雇い入れるときには、さまざまな点について注意をする必要があります。 まずは、何といっても在留資格を確認しなければなりません。資格がないのに日本にいると不法滞在なので、見つかったら本国へと送還されることになります。 一方永住権者などであれば、在留資格がなくなる可能性が低いので、ほとんど日本人と同じような感覚で雇い入れることができます。 次に、在留期間も確認する必要があります。 留学生のアルバイトを労働させる場合には「資格外活動許可」が必要となるので、雇用契約を締結する前に、取得状況を確認するようにしましょう。 |
以上、人を雇用するときに知っておきたい保険の基礎知識や、雇用形態ごとの注意点についてご紹介しました。
人を雇用する際には労働保険、社会保険などについての知識が必要です。これらの保険制度はそれぞれ目的も内容も異なるものですが、すべて従業員が安心して働けるようにサポートする仕組みのものです。
人を雇用する際に必要な手続きについては、社会保険労務士等に相談し適切に行うようにしましょう。
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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」
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