公開日:2019年07月07日
最終更新日:2022年07月12日
労働保険には、労災保険と雇用保険があります。
この記事では、労働保険(労災保険と雇用保険)に加入しなければならない事業所の要件や、加入手続きなどについてご紹介します。
労働保険とは、労災保険と雇用保険の総称で、原則として従業員を雇用する時に必ず加入手続きを行わなければなりません。
労災保険は、仕事中や通勤途中のケガや病気をして働けなくなった時の補償を行う保険です。雇用保険は、いわゆる失業手当や休業給付などを支給する保険です。
労働保険と社会保険をあわせて「公的保険」といい、原則として法律で加入が義務づけられています。国が保険者として保険料を徴収し、運営管理を行います。
一方、損害保険や生命保険などは「私的保険」といい、加入や脱退が本人の自由意思に任されていて、個々の会社が保険料を徴収し、運営管理を行います。
労災保険とは、業務上または通勤途中の負傷・疾病、障害または死亡などの際に必要な給付を行う制度です。
主な給付としては、労災指定病院等で必要な治療を受けることができる療養(補償)給付、病気やケガのために働けなくなった場合に一定の所得補償を受けることができる休業(補償)給付などがあります。
労災保険の適用を受ける被保険者(保険の対象となっている人)は、労働基準法第9条に規定される「労働者」です。したがって、正社員やパート、アルバイトなども労災保険の適用を受けることになります。
雇用保険とは、失業した人に対して次の仕事が見つかるまで一定の生活保障を目的とする求職者給付や、高年齢被保険者に対する高年齢求職者給付金などがあります。保険料は、会社と労働者が一定割合を負担します。
次の ① 及び ②のいずれにも該当するときは、雇用保険の被保険者となります。
①31日以上、引き続き雇用されることが見込まれる者であること。 ・期間の定めがなく雇用される場合 ・雇用期間が31日以上である場合 ・雇用契約に更新規定があり、31日未満での雇止めの明示がない場合 ・雇用契約に更新規定はないが同様の雇用契約により雇用された労働者が31日以上雇用された実績がある場合 ②1週間の所定労働時間が20時間以上であること。 |
つまり、雇用保険は労災保険と違って、従業員の雇用形態によって適用が除外されて雇用保険に加入できない労働者がいますので、注意が必要です。
労災保険は、通勤災害(※)で支給される給付を除いては健康保険のような自己負担金はなく、保険料は全額会社負担で給与等からの控除はありません。
※通勤災害の場合には、はじめて治療を受けた時に支払う200円の負担金があります。
労働保険の保険料は、業種に応じた自己の危険度によって2.5/1000~88/1000の保険料を1年間に支払った給与に応じて負担します。
雇用保険料の保険料率は、業種によって異なります。
雇用保険は、事業主(会社など)と従業員で負担しますが、従業員が負担するのは給与に3/1000~4/1000の保険料率を乗じた金額となります。
業種 | 雇用保険料率 | 負担 | |
---|---|---|---|
事業主 | 被保険者 | ||
一般 | 9/1000 | 6/1000 | 3/1000 |
農林水産・清酒製造 | 11/1000 | 7/1000 | 4/1000 |
建設 | 12/1000 | 8/1000 | 4/1000 |
労災保険は、労働者を対象とした保険です。したがって、原則として会社役員や自営業者などは、労災保険に加入することはできません。しかし例外的に労働災害のリスクが高い業務内容の場合には、労働者ではなくても一定の補償が得られる場合があります。
つまり中小企業の経営者や一人親方と言われる自営業者は、経営者でありながら自分自身も労働者として働いているため、一定の要件を満たしている場合には、特別に労災保険に加入することができます。
特別加入の手続きは、労災保険組合などの団体を通じて行います。
保険料は、保険料算定基礎額(給付基礎日額×365日)×保険料率で決定します。
算定基礎額はあらかじめ決まっているわけではなく、給付基礎日額を3,500円~2万5,000円の範囲で、所得水準に見合った適正な額を申請します。
労働保険は、事業所を単位として適用されます。
1人でも労働者を雇用していれば、事業が行われている限り労災保険・雇用保険の保険関係が成立しますから、当然に適用事業となります。
労働者を1人以上雇用すると労働保険の適用事業となり、労働保険に加入する義務が生じます。適用事業になると、労災保険と雇用保険について、申告や納付を行います。
ただし、一部の事業については当分の間任意適用事業とされています。これを「暫定任意適用事業」といい、労働保険の加入は任意となります。
暫定任意適用事業とは、労働保険に加入するかどうかを事業主や労働者の過半数の意思に任されている事業で、農林水産事業のうち、常時使用労働者が5人未満の個人経営者の事業です。なお、労災保険については農業に限って事業主が特別加入する場合には、常時使用労働者数が5人未満であっても、当然に適用事業となります。
労働保険には、「一元適用事業」と「二元適用事業」の2種類があります。
一元適用事業とは、労災保険と雇用保険をひとつの労働保険の保険関係として取り扱い、保険料の申告・納付を、量保険1本で行うものをいいます。
一方、二元適用事業とは、保険料の申告や納付を別々に行う事業をいいます。ほとんどの事業が一元適用事業になりますが、建設業や農林漁業など事業の実態によって労災保険と雇用保険の適用を区別したほうがよいと考えられる事業は二元適用事業となり、保険料の申告・納付をそれぞれ別に行います。
二元適用事業としては、以下のようなものがあります。
①都道府県および市区町村が行う事業 ②①に準ずる事業 ③港湾労働法が適用される港湾の運送事業 ④農林・水産の事業 ⑤建設の事業 |
一元適用事業所が労働保険に加入するためには、まず労働保険の「保険関係成立届」を所轄の労働基準監督署に提出し、その後雇用保険の加入手続きを行います。
雇用保険加入の際には「雇用保険適用事業所設置届」と「雇用保険日保険者資格取得届」を所轄の公共職業安定所(ハローワーク)に提出します。
なお、労災保険も雇用保険も電子申請が可能です。
なお、「保険関係成立届」の提出とあわせて、その年度分の労働保険料を概算保険料として申告・納付することになります。
労災保険手続きは加入時に1度届出をすれば、次に従業員を雇用する時の手続きは原則として不要となります。一方、雇用保険は、加入用件を満たす従業員を雇用するたびに届出が必要となります。
また、退職時には、退職者の被保険者の資格を喪失させる手続きが必要ですし、従業員が失業給付を希望する時には、必要な離職証明の手続きも行わなければなりません。
労働保険料は、労働保険の加入手続きと同時にその年度分の労働保険料を申告・納付することになります。
労働保険料は、労働者に支払う賃金の総額に保険料率(労災保険率+雇用保険率)を乗じた金額です。そのうち、労災保険料分は全額が事業主負担、雇用保険料は事業主と労働者で負担することになります。
労災と認定を受け保険給付を受けるためには、被災労働者かその家族が所定の保険給付請求書に必要事項を記載して、所轄の労働基準監督署長に提出しなければなりません。
労災の認定・給付は労働基準監督署が行いますが、事業主は請求の申請書類の欄に、事故などの事実を証明する必要があります。
※なお、二次健康診断等給付は、所轄労働局長宛てに提出します。
雇用保険の保険給付は、求職者給付、就職促進給付、教育訓練給付、雇用継続給付に区分されています。
①求職者給付 求職活動中の失業者の生活安定を図ることを目的とした給付です。 基本手当(いわゆる失業手当)や、技能習得手当などが支給されます。 ②就職促進給付 ③教育訓練給付 ④雇用継続給付 |
以上、労働保険(労災保険と雇用保険)の加入要件や必要となる手続き、主な給付の内容などについてご紹介しました。
労働保険は、原則として1人でも従業員を雇用した時には、必ず加入しなければならず、加入手続きを怠った場合には、行政庁の職権による成立手続及び労働保険料の認定決定を受け、遡って労働保険料を徴収されたり追徴金を徴収されたりすることになります。
不明点や疑問点等については、社会保険労務士に相談して、早めに手続きを済ませるようにしましょう。
監修:「クラウドfreee人事労務」
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