産業医とは|メンタルヘルス対策における役割は?

公開日:2019年06月04日
最終更新日:2022年07月11日

この記事のポイント

  • 産業医は、一定の規模以上の事業場で選任が義務づけられている。
  • 産業医は医療の専門家として、健康診断や面接指導を行う。
  • 職場環境の改善などのアドバイスを行うのも、産業医の役割のひとつ。

 

近年、職場のメンタルヘルス問題が大きな問題となっています。メンタルヘルス疾患の原因としては、「仕事量や労働時間が長い」「雇用形態の複雑化」などさまざまな原因が考えられます。このような状況を受けて、働き方改革関連法では、産業医・産業保健機能の強化を図ることになりました。

この記事では、産業医がメンタルヘルス対策で関わる職務や役割について、ご紹介します。

産業医とは

産業医とは、職場において健康診断や面接指導等を行い、これらの結果に基づいて労働者の健康を保持する医師のことです。一定の規模以上の事業場では、産業医を選任しなければならず、産業医は専門家として労働者の健康管理等にあたります。

そして、産業医は、労働者の健康に問題があると判断した場合には、会社に対し労働者の健康管理等を誠実に行わなければならず、必要がある場合には勧告をすることができます。
また、産業医は、少なくとも月に1回職場を巡視して、労働者の健康障害を防止するために必要な措置を講じなければならないとされています。

(1)産業医を選任しなければならない事業場とは

産業医を選任しなければならない事業場とは、50人以上の労働者がいる事業場です。なお、1,000人以上の労働者がいる事業場や、有害な業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場においては、専属産業医を専任する必要があります。
産業医は法令に基づき一定の要件を備えた医師である必要がありますが、要件を満たすために終了する研修内容には、メンタルヘルスに関する項目も含まれています。

(2)産業医の役割・職務は

産業医の役割、主な職務は以下のとおりです。

①健康診断および面接指導等を実施し、これらの結果に基づいて、労働者の健康を保持するための措置を行う。

②作業環境の維持管理、作業の管理について適切なアドバイスを行う。

③健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置等を行う。

④衛生教育に関する対策等を行う。

⑤労働者の健康障害の原因調査、再発防止のための措置に関する対策等を行う。

⑥労働者の健康を確保するために必要であると産業医が認める時には、事業者に対して労働者の健康管理等について必要な勧告を行う。また、労働者の健康障害防止のために衛生管理者に対して指導、助言を行う。

⑦少なくとも毎月1回以上作業場を巡視し、作業方法または衛生状態に有害なおそれがあると認められる時には、直ちに労働者の健康障害を防止するために必要な措置を講じる。

産業医の役割が強化された職場のメンタルヘルスの背景

産業医の機能強化が図られたきっかけとなった、職場のメンタルヘルス問題の実情についてご紹介します。

厚生労働省による「労働者調査」によると、「現在の仕事や職業生活に関することで、強いストレスとなっていると感じる事柄がある労働者」の割合は56.7%となっており、約6割の労働者が職場で強いストレスを感じると回答しています。

参照:厚生労働省「労働安全衛生調査(実態調査)」

メンタルヘルス疾患の原因としては、「仕事量や労働時間が長い」「人間関係の希薄化」などさまざまな原因が考えられます。
育児や介護を行いながら「時短勤務」を選択する人が増加するなかで、その他の労働者1人当たりが抱える業務量が結果として増加してしまい、肉体的にも精神的にも過度の負担がかかるケースも増えています。
また、セクハラやパワハラといったハラスメントが原因のメンタルヘルス疾患も、依然として深刻な問題です。
労働者がメンタルヘルス疾患に罹患した場合には、治療するまで長い時間がかかることも考えられますから、会社にとっても大きなリスクとなります。

(1)7割の事業所で「メンタルヘルス問題がある」と回答

平成22年に労働政策研究・研修機構が実施した「職場におけるメンタルヘルスケア対策に関する調査」によると、メンタルヘルスに問題を抱える従業員が多いのは、医療・福祉、情報通信業、製造業といった産業で、実に7割前後の事業所でメンタルヘルスに問題を抱えている従業員がいるという結果も出ています。

また、雇用形態についてみると、契約社員では事業所の23.9%でメンタルヘルス不調者がおり、パートタイマーでは25.7%、派遣社員で13.5%の事業所でメンタルヘルス不調者がいるとされています。

参照:独立行政法人労働政策研究・研修機構「職場におけるメンタルヘルスケア対策に関する調査」

(2)29.2%の企業が「心の病は増加」と回答

さらに、公益財団法人日本生産性本部が2014年に行なった調査によると、29.2%の企業が「心の病は増加している」と回答していて、特に30代、40代が心の病を抱えているとされています。

参照:公益財団法人日本生産性本部「第7回『メンタルヘルスの取り組み』に関する企業アンケート調査結果」

(3)深刻な「自殺者数」の傾向

警察庁の統計では、1998年以降自殺者が急増して以降、14年連続3万人を超えるという調査結果を発表しました。2012年には3万人を下回り、以降減少傾向にありますが、依然深刻な問題であることに変わりはありません。

参照:厚生労働省自殺対策推進室「自殺者の推移」

上記の調査を受けて、国は平成18年(2006年)に「自殺対策基本法」を制定しました。さらに平成19年(2007年)には「自殺総合対策大綱」を策定し、平成20年(2008年)に一部改正、平成24年(2012年)8月に改めて全体的な見直しが行われました。
見直し後の大綱では、「地域レベルの実践的な取組の更なる推進」「若者の自殺対策、勤務問題による自殺対策の更なる推進」などが掲げられています。

参照:厚生労働省「自殺総合対策大綱~誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指して~」

(4)「働き方改革法案」の成立

前述したさまざまな調査結果などを受けて、平成30年(2018年)に「働き方改革法案」が成立し、労働基準法や安全衛生法、パートタイム労働法、労働契約法など一部の条文が改正されました。

この改正を受けて、企業は、企業に時間外労働の上限規制や、年次有給休暇の確実な取得、産業医・産業保健機能の強化などが義務づけられることになりました。

働き方改革の主なポイント
この働き方改革の主なポイントは、「長時間労働の是正」と「多様で柔軟な働き方の実現」「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」などで、主なポイントは以下の8つです。

① 時間外労働の上限規制が導入
(大企業2019年4月1日施行)(中小企業2020年4月1日施行)
時間外労働の上限について、使用者(会社など)は、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合にも上限を設定しなければなりません。

② 年次有給休暇の確実な取得
(2019年4月1日施行)
使用者は10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、年5日について毎年時季を指定して与えなければなりません。

③ 中小企業の月60時間超の残業の、割増賃金率引上げ
(中小企業2023年4月1日施行)
月60時間を超える残業に対する割増賃金率を50%に引上げられます。

④ 「フレックスタイム制」の拡充
(2019年4月1日施行)
より働きやすくするため、制度を拡充します。労働時間の調整が可能な期間(清算期間)を3カ月まで延長できるとされました。

⑤ 「高度プロフェッショナル制度」を創設
(2019年4月1日施行)
職務の範囲が明確で一定の年収を有する労働者が高度の専門的知識等を必要とする業務に従事する場合、健康確保措置や本人同意、労使委員会決議等を要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外にできるとしました。

⑥ 産業医・産業保健機能の強化
(2019年4月1日施行)
産業医の活動環境が整備されました。具体的には、労働者の健康管理等に必要な情報を産業医へ提供することなどが規定されました。

⑦ 勤務間インターバル制度の導入促進
(2019年4月1日施行)
1日の勤務終了後、翌日の出社までの間には、一定時間以上の休息時間の確保に努めなければならないとされました。

⑧ 正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差が禁止
(大企業2020年4月1日施行)(中小企業2021年4月1日施行)
同一企業内において、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で基本給や賞与などの個々の待遇ごとに不合理な待遇差が禁止されました。

参照:厚生労働省「働き方改革関連法に関するハンドブック」

(5)産業医・産業保健機能が強化された

「働き方改革関連法」で示された通り、今回の改正では「長時間労働の是正」と「多様で柔軟な働き方の実現」を主な柱として、それを実現するために産業医・産業保健機能が強化されました。さらにその業務を適切に行うために、誠実にその職務を行わなければならないと明言され、状況に応じて必要な情報を提供しなければならないなどと規定されました。

職場のメンタルヘルス問題で求められる産業医の役割

職場のメンタルヘルス問題においても、産業医は中心的な役割を果たすことが望まれています。
たとえば、産業医はストレスチェックおよび面接指導を実施する等の場面で中心的な役割を担うことが適当とされています。

また、働き方改革関連法案において、産業医に労働者の健康管理等を行うために必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならないと明言されています(安全衛生法13条3項)。

安全衛生法13条3項
産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならない。

(1)産業医の面接指導が義務づけられた

働き方改革関連法では、医師は長時間働いた労働者や高度プロフェッショナル対象者などに対して面接指導を行わなければならないとされました。

長時間労働者への面接指導
医師は、長時間(1カ月あたり80時間超)働いた労働者に対して面接指導を行わなければなりません。
具体的には、問診などによって心身の状況を把握し、それに応じて必要な指導を行います。
また、使用者は、長時間労働者に対する面接指導を実施するため、適切な方法により管理監督者や裁量労働制の適用者も含めた、すべての労働者の労働時間の状況を把握しなければなりません。

高度プロフェッショナル対象者への面接指導
今回の改正によって新たに設けられた「高度プロフェッショナル制度」は、時間外労働の割増賃金の適用がないことから、結果的に長時間労働につながるのではないかという懸念があります。
そこで、長時間働いた労働者に対しては、医師が面接指導を行うよう義務づけています。

新商品の研究開発業務対象者への面接指導
新商品の研究開発の義務のある労働者であり、かつ長時間働いた労働者に対しては、医師が面接指導を行うよう義務づけています。

(2)事業者は産業医に必要な情報を提供する

産業医を選任した企業は、産業医に対して、労働者の労働時間に関する情報その他の産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要な情報を提供しなければならないとされました(安全衛生法13条4項)。
具体的な内容や提供方法などについては、厚生労働省で定められますが、省令案では「時間外労働が月に80時間を超えた労働者の氏名等」となる見込みです。

安全衛生法13条4項
産業医を選任した事業者は、産業医に対し、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の労働時間に関する情報その他の産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要な情報として厚生労働省令で定めるものを提供しなければならない。

(3)事業者は、産業医の意見等の記録を保存する

事業者は、産業医等による労働者からの健康相談に応じて、かつ適切に対応するために必要な体制整備等を講ずるように努めなければなりません。
また、事業者は、面接指導の結果の記録を作成し、その記録を5年間保存しなければなりません。

(4)事業者は、産業医の意見を従業員に周知する

産業医は、労働者の健康を確保するために必要であると認める時には、労働者に対して、健康管理等に必要な勧告をすることができます(安全衛生法13条5項)。

安全衛生法13条5項
産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。この場合において、事業者は、当該勧告を尊重しなければならない。

この改正によって、企業は産業医の勧告を尊重しなければならないと明記されました。そのうえで、企業は産業医の勧告を受けた時には、その内容など一定事項を衛生委員会または安全衛生委員会に報告しなければならないものとされました(安全衛生法13条6項)。

安全衛生法13条6項
事業者は、前項の勧告を受けたときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該勧告の内容その他の厚生労働省令で定める事項を衛生委員会又は安全衛生委員会に報告しなければならない。

※衛生委員会とは:事業場において、労働者の健康障害を防止するための事項等を調査審議する会議のことをいいます。常時使用する労働者が50人以上の事業場においては、衛生委員会の設置義務があります。

また、産業医を選任した企業は、その事業所における産業医の業務の内容、その他の産業医の業務に関する一定の事項を、常時、各作業場の見やすい場所に提示して、労働者に周知しなければならないものとされました(労働安全衛生規則23条の3)。

労働安全衛生規則23条の3
事業者は、委員会の開催の都度、遅滞なく、委員会における議事の概要を次に掲げるいずれかの方法によって労働者に周知させなければならない。
一 常時各作業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付けること。
二 書面を労働者に交付すること。
三 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。

この周知義務は、産業医の選任義務のある労働者数50人以上の事業場には、義務づけられることになります。産業医の選任義務のない労働者の健康管理等を行う医師又は保健師を選任した50人未満の事業場は努力義務とされます。

労働者に周知しなければならない内容は、以下のとおりです。
・産業医の業務の具体的な内容
・産業医に対する健康相談の申出の方法
・産業医による心身の状態に関する情報の取扱い方法

参照:産業医制度の在り方に関する検討会「産業医制度の在り方に関する検討会報告書」

まとめ

以上、職場のメンタルヘルス対策の必要性や、メンタルヘルス疾患を回避するための産業医の重要性や会社の義務などについてご紹介しました。

労働者数50人未満の事業場では、産業医の選任義務はありませんが、その場合でも事業主は、労働者の健康管理等の専門知識を有する医師に、労働者の健康管理等の全部又は一部を行わせるように努力しなければならないと規定されています。
もし産業医がいない場合には、健康保険組合や社会保険労務士に相談してアドバイスを受けることをおすすめします。

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監修:「クラウドfreee人事労務」

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