労災隠し|労災隠しのペナルティと労災の正しい対処法

公開日:2019年07月03日
最終更新日:2019年07月03日

目次

  1. 労災隠しとは
    • 労災隠しは「犯罪」です
  2. 労災とは
    • 業務災害
    • 通勤災害
    • 第三者による場合は「第三者行為災害」
  3. なぜ労災隠しが行われるのか
    • 労災の保険料が上がる「メリット制」
    • 行政上の措置や処分を恐れる。
    • 取引先との関係
    • 手続きが煩雑
    • 労災未加入の場合も
  4. 労災隠しのペナルティ
    • 刑法上の責任
    • 未加入企業への指導
    • 保険料が徴収される
  5. 労災が起こった時の正しい対処法
    • まずは「事故現場」の保存
    • 「請求書の提出」
    • 労働者死傷病報告の提出
    • 障害が残った場合・死亡した場合
    • 第三者行為災害届の提出
    • 健康保険は使わない
  6. まとめ

この記事のポイント

  • 労災隠しとは、労災の事実を隠そうとすること。
  • 労災隠しは、法律違反で犯罪行為である。
  • 厚生労働省では、労災隠しについて司法処分を含め厳しく対処するとしている。

 

労働者が労働災害に遭って休業・死亡した時には、通常の健康保険ではなく、労災保険で治療を受けなければなりません。そして、事業主は適切に所轄の労働所に「労働者死傷病報告」を提出しなければなりません。
近年、労災隠し(労働安全衛生法第100条及び第120条違反)で送検した件数が増加していて、厚生労働省が対策を強化していますので、労災隠しと指摘を受けることがないよう、必要な手続きについては、もれなく行なうようにしましょう。

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労災隠しとは

労災隠しとは、労働事故が発生した場合に労働者死傷病報告を遅滞なく所轄労働基準監督署に提出しなかったり、虚偽の内容を記載して提出したりして、労災の事実を隠そうとすることをいいます。

労災が発生した場合には、健康保険ではなく労災保険による治療を受けることになります。しかし、会社が現金、健康保険、国民健康保険などによる治療を受けて労災隠しをするケースも多いようです。

労働基準法75条第1項では、「労働者が業務上負傷し、または疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、または必要な療養の費用を負担しなければならない」と規定しています。
この規定の解釈を誤り、「会社が現金を支払ったり、労働者が健康保険、国民健康保険で治療を受けたりしても『治療を受けた』ことになるのだから、問題はないだろう」と考える事業主や担当者がいます。
しかし、仮に月給36万円の従業員が業務災害で両目を失明した場合、会社は1,600万円を補償しなければならなくなります。
一企業が負担する額としては相当に高額であり、そのために倒産してしまう会社もあるでしょう。また、結果として労働者が十分な治療を受けられないことにもなりかねません。
そこで、国は労働者が労災保険によって必要最低限度の治療を受けることができるよう、国が費用を支払う労災保険制度を作ったのです。

労災隠しは「犯罪」です

労災隠しは、労働安全衛生法第100条に違反しまたは同法第120条第5号に該当する「行為」です。つまり、法律違反で犯罪行為ということになります。
厚生労働省は、このような労災隠しについて罰則を適用して厳しく処罰を求めるなど、厳正に対処することとしています。

参照:厚生労働省「労災隠し対策について」

近年労災隠し(労働安全衛生法第100条及び第120条違反)で送検した件数が増加します。とくに、労災隠しによる検察庁への送検件数は平成10年から年々増加していて、厚生労働省が対策を強化しています。

参照:厚生労働省「労災かくしの送検事例」

労災とは

労災には、業務災害(仕事中の病気、ケガ、障害、死亡)と通勤災害(通勤途中の病気、ケガ、障害、死亡)があります。業務上災害と通勤災害の給付内容はほぼ同じですが、第三者行為災害の場合には、通常の労災の手続きとは異なる手続きが必要となりますので、注意が必要です。

会社は、社員を雇う場合には、労働保険(雇用保険と労災保険)の届出をしなければなりません。
雇用保険は、雇用期間の見込みが31日以上ある場合などに加入が必要となりますが、労災保険の場合には、正社員はもちろん1日限りのアルバイトを含め、会社に雇われる人は全員が労災保険に加入しなければなりません。

業務災害

業務災害とは、仕事中のケガ、病気、または死亡をいいます。
所定労働時間内や残業時間中に社内で働いている場合のケガや病気、また、出張など社外で働いている場合も、特別の事情がない限り業務災害と認められます(従業員が故意にケガした場合や、個人的な恨みから殴られたりしたケース、従業員同士のケンカなどは除く)。

通勤災害

通勤災害とは、通勤途中にケガしたり病気をしたり死亡したりすることをいいます。
通勤中のすべての事故に労災を認めるわけではなく、合理的な経路・方法で仕事をするために会社に行く途中、もしくは仕事が終わって家に帰る途中の災害であることが要件となります。
例えば、日常品を購入するためにスーパーに立ち寄る行為は「通勤途中」と認められますが、エステや飲み会などで寄り道した場合には、「通勤」とはいえません。

第三者による場合は「第三者行為災害」

「第三者行為災害」の「第三者」とは、その労災に関係する以外の人のことです。
そして「第三者行為災害」とは、労災保険の給付の原因となった事故が第三者の行為などによって生じた場合の労災のことをいいます。
「第三者行為災害」の場合には、労働基準監督署に「第三者行為災害届」の提出が必要です。

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なぜ労災隠しが行われるのか

前述したとおり、労災隠しによる検察庁への送検件数は年々増加しており、大阪労働局の発表によれば、平成28年(1~12月)の労災隠しの送検数は9件であり、神奈川労働局の発表によれば、平成27年(1月~12月)の労災隠しの送検数は12件となっています。
このような労災隠しは、なぜ行われてしまうのでしょうか。

参照:大阪労働局「平成28年における送検状況について」

参照:神奈川労働局「平成27年における送検状況について」

労災の保険料が上がる「メリット制」

メリット制とは、労働災害の発生状況によって、保険料を割り増したり割り引く制度です。
つまり、労災保険を使うと保険料が上がる場合があり、逆に労災保険をあまり使わないと労災保険料が下がる場合があるので、そこで、労災事故が起こっても労災保険を使うことを嫌がる事業主がいるのです。

しかし、具体的には、保険料の増減はプラスマイナス40%の範囲で行われ、保険給付等に関する収支率を計算して収支率が85%を超えると保険料を増額し、75%以下だと保険料が減額されることになりますので、労災保険を使ったら必ず保険料が上がるわけではありません。
また、この「メリット制」は通勤災害には適用されません。

行政上の措置や処分を恐れる。

労働基準監督署は、労災が発生すると調査を実施することがあります。そして、その結果重大な法律違反があった場合には書類送検処分を行う権限を有しています。
そこで、このような労働基準監督署から調査や行政上の措置、処分が下されることを嫌がり、労災隠しをするケースがあります。

取引先との関係

労災事故が起こった場合、労災事故を知った発注者から今後の受注をストップされたりすることがあり、取引状況が悪化するケースがあります。
また、下請け業者が元請業者の評価を気にして、迷惑がかからないようにするために労災隠しをするケースもあります。

【事案】
労働災害が発覚するまで「労働者死傷病報告」を提出しなかったとして○○労働基準監督署は労働安全衛生法違反の疑いで、2次下請である塗装業Bの代表○○と3次下請の塗装業Cの代表○○を○○地方検察庁に書類送検した。
 マンション新築現場で、Cの作業員が吹き付け塗装をするためのシート張りをする際、転倒し右手首を複雑骨折したが、BとCは共謀して、「受注を確保するために元請けに労災保険で迷惑をかけたくない。」として労働災害を隠蔽したもの。

手続きが煩雑

労災が発生した場合には、さまざまな手続きが必要となります。
そこで、これらの続きが面倒で労災隠しが行われることもあります。
つまり、いざ労災が起きてしまった際にどういう手続を行えばいいか分からず「とりあえず健康保険で治療しておいて」と会社と従業員間で完結させてしまい、結果的に労災隠しとなるケースもあります。

【事案】
○○労働基準監督署は、製鉄所内で発生した労働災害3件を隠していたとして、1次下請けの鉄鋼加工会社Gと同社部長代理ら2人を労働安全衛生法違反の疑いで○○地方検察庁に書類送検した。
同人らは、これらの労働災害について、労働災害では使えない健康保険扱いにしたり、労働者が業務中、転倒してひざの骨を折り3か月のけがをしたのに、これを通勤災害扱いとしていたもの。

参照:厚生労働省「労災隠しの送検事例」

労災未加入の場合も

労災保険が義務づけられているにもかかわらず労災保険に未加入であり、その発覚を免れるために労災隠しを行なうケースもあります。
しかし、厚生労働省では、事業開始から1年を経過しても加入手続きを行わず、その期間に労災事故が発生した場合に労災補償に要した費用が徴収するなど、対策を強化しています。

参照:厚生労働省「労災保険に未加入の事業主に対する 費用徴収制度が強化されます」

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労災隠しのペナルティ

厚生労働省では、労災隠しについて司法処分を含め厳しく対処することとしています。
労災隠しが行われると、労災保険による適正な給付が行われず被災労働者に負担が強いられることになりますし、適切な労働災害防止対策を講ずることもできなくなるからです。

刑法上の責任

労災隠しは犯罪行為であり、刑法上の責任を負います。
安全衛生法120条第5号では、「労働者死傷病報告」をしなかったり虚偽の報告をしたりした場合には、50万円以下の罰金に処する旨規定されています。
過去の事例では、労災隠しが発覚すると安全衛生法違反容疑で送検し、ほとんどの場合に罰金刑となっていますが、理論上は逃げれば逮捕されることもありますし、刑事罰が科されれば前科になってしまうこともあるというわけです。

未加入企業への指導

労働基準監督署では、会社を設立したにもかかわらず労働保険に加入していない会社を把握した場合、迅速に手続きを行うよう指導するために、実際に事業所を訪問することがあります。そして、加入の指導をされたにもかかわらず加入手続きをしない場合には、労災補償に要した費用が会社から徴収され、労災保険で負担されるはずだった費用を会社が負担することになります。
この制度は平成17年(2005年)より強化され、事業開始から1年を経過しても加入手続きを行わず、その期間に労災事故が発生した場合には、労災補償に要した費用が徴収されることになりました。

労働者を1人でも雇っている事業主は、労災保険の加入手続を行わなければなりません。 平成17年11月1日から、労災保険未加入の事業主に対する費用徴収制度が強化されます。これにより、事業主が労災保険の加入手続を怠っていた期間中に労災事故が発生した場合、遡って保険料を徴収する他に、労災保険から給付を受けた金額の100%又は40%を事業主から徴収することになります。

参照:厚生労働省「労災保険に未加入の事業主に対する 費用徴収制度が強化されます」

保険料が徴収される

労災保険のメリット制の適用を受けている事業場では、メリット収支率の再計算を行い、必要に応じて適正な保険料が徴収されることがあります。

参照:厚生労働省「労災かくしは犯罪です」

労災が起こった時の正しい対処法

労災事故が発生してしまい、従業員が通院したり会社を休業したりすることになれば、本人はもちろん会社にとっても不幸なことです。
そこで、労災事故が起こって労働者が負傷した場合には、労働基準監督署長に労災保険の請求を行い、さらに労働者死傷病報告」を提出するなど、適切な処置、迅速な事務処理を行うことが大切です。

まずは「事故現場」の保存

労災事故が発生した場合には、被災した労働者を病院に連れて行き、適切な手当てを受けさせることが何より大切ですが、その際には「事故現場」の保存をすることにも配慮が必要です。事故を目撃した人はもちろん担当者はすぐに119番や110番通報をすべきか判断を行い、警察官や監督者の指示に従ってください。
労災事故ではないと判断されれば、健康保険で療養することになりますので、会社での手続きはこの時点では特に必要ありませんが、労災事故の場合には業務災害なのか通勤災害なのかで、病院へ提出する書類が違うので、注意しましょう。

「請求書の提出」

被災した労働者や事故を目撃した人からの事情聴取等によって、労災事故であるか否かを判断するためには、医師からの報告や事故の発生状況やその原因について確認したら、一般に「5号様式」と言われる「療養補償給付たる療養の給付請求書」を作成します。
「5号様式」が手元にない場合には、病院側の意思に「労災扱いでお願いします」と告げて、可能な限り早めに提出するようにしましょう。
なお、この書類には会社が加入している労働保険番号の記入が必要です。

労働者死傷病報告の提出

「5号様式」の提出後は、被災労働者の入院期間を確認し、休業が4日以上と予測される場合には、所轄の労働基準監督署長宛てに「労働者死傷病報告」を提出します。

参照:厚生労働省「労災かくしは犯罪です」

この「労働者死傷病報告」は、その後提出する「休業補償給付支給請求書」の第1回目にその提出月日を記載する必要があるので、早めに提出をするようにしましょう。
なお、「休業補償給付支給請求書」の届出の際には、「療養のため労務に就くことが不可能である」という医師の証明が必要になるので、事故発生後、「休業補償給付支給請求書」を提出するまでは少なくとも1カ月以上はかかります。
そして、休業補償給付支給請求書を提出してから実際の給付を受けるまでは、通常は1~2カ月かかります。
個々の従業員の事情によっては、その間の生活費の立替えなども検討しなければならないでしょう。

障害が残った場合・死亡した場合

治癒後に障害が残った場合には、「障害補償年金」(第1級~第7級)または障害補償一時金(第8級~第14級)が支給されます。
担当医に相談したり労働基準監督署に相談したりして判断を求め、必要な添付書類等を用意しましょう。
また、不幸にして被災した従業員が亡くなった場合には、遺族に「遺族補償年金」が支給されます。年齢によって支給停止される期間などもありますので、この時にも労働基準監督署とよく相談するようにして下さい。

第三者行為災害届の提出

他人の行為で労働者がケガをしたり死亡したりした場合を「第三者行為災害」といいます。
第三者行為災害でも、業務災害・通勤災害の要件を満たしている場合には、労災保険給付を請求することができます。この場合には、「第三者行為災害届」の提出が必要になります。

健康保険は使わない

労災事故の場合には、健康保険は使いません。
労働災害であるにもかかわらず、健康保険で治療を受けてしまった場合は、まず受診した病院に健康保険から労災保険に切替えができるかについて、すぐに確認をして下さい。
切替えができない場合には、一時的に医療費の全額を自己負担したうえで、労災保険を請求することになります。
切替えができる場合には、病院の窓口で支払った金額の返還を受けることができます。

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まとめ

以上、労災隠しの概要やペナルティ、正しい対処法などについてご紹介しました。
実際に労災事故が発生すれば、動揺してしまうものですし、どのような手続きが必要か判断しづらいケースも多いでしょう。
このような状況に備えるためには、日頃から、労災事故に健康保険は使えないことを周知したり、労災隠しは犯罪であることなどの啓発を徹底したりしたうえで、労災事故について報告しやすい体制を整えることが必要です。具体的に必要な対策については、個々の事業所によって異なりますので、社会保険労務士のアドバイスを受けることをおすすめします。

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