法定福利費とは|仕訳例・計上時期・福利厚生費との違い

公開日:2019年12月12日
最終更新日:2022年04月14日

この記事のポイント

  • 福利厚生費は、大きく「法定福利費」と「法定外福利費」に分けられる。
  • 法定福利費とは、法律の規定によって定められている事業主負担分の健康保険料、厚生年金保険料などのこと。
  • 法定の事業主負担部分を超えて負担した場合には、その超える部分について給与の支払とみなされる。

 

法定福利費とは、法律の規定によって定められている事業主負担分の健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、雇用保険料、労災保険料などをいいます。

福利厚生費は、大きく法定福利費と法定外福利費に分けられ、法定外福利費は、「福利厚生費」という勘定科目で仕訳されますが、法定福利費は「法定福利費」という勘定科目で仕訳を行います。

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法定福利費とは

「法定福利費」とは、社会保険料や労働保険料のうち、事業主が負担する保険料を納める時に使う勘定科目です。
従業員の負担分は「預り金」または「立替金」で処理をします。

法定福利費と福利厚生費との違い

福利厚生費は、大きく「法定福利費」と「福利厚生費」の2種類に分けられます。

法定福利費
事業主が負担すべき従業員の健康保険、厚生年金、雇用保険などの保険料や掛金などのこと

福利厚生費
会社が独自に行う福利厚生のための費用で、新年会や忘年会の費用、社員旅行の費用、結婚祝い金や見舞金、制服代など

法定福利費に該当するもの

法定福利費は、社会保険料や労働保険料のうち、事業主が負担する保険料を納める時に使う勘定科目ですが、社会保険料と労働保険料は、保険の種類によって会社(事業主)と従業員の負担する割合が異なります。そして、事業主負担部分を法定福利費として処理をします。

社会保険料
会社と従業員が負担する。
・健康保険料(折半)
・厚生年金保険料(折半)
・介護保険料(折半)

労働保険料
・雇用保険料(一定割合を会社が負担)
・労災保険料(全額を会社が負担)

(1)健康保険料(事業主と従業員で折半)

健康保険とは、日常生活でけがをしたり病気をしたりした時に使う保険です。
労災保険が仕事上のケガや病気、通勤上のケガなどに使うのに対して、健康保険は私生活のケガや病気に使います。

健康保険料と、後述する厚生年金保険料、介護保険料の算出方法は同じです。
健康保険料と厚生年金保険料額表に当てはめて保険料を算出します。
保険料は、会社と従業員で折半し、事業主負担分を法定福利費として処理をします。

参照:全国健康保険協会「健康保険・厚生年金保険の保険料額表」

(2)労働保険料(事業主と従業員で折半)

労働保険料とは、労災保険料と雇用保険料の総称です。
※労災保険料と雇用保険料の詳細については、後述します。

労働保険料は、従業員に支払われた給与額と通勤交通費の合計額に、決められた保険料率を掛けて算出します。
労災保険料率は業種によって異なります。危険度が高い業種ほど保険料が高く、危険度が低い業湯は保険料率が低く設定されています。

参照:厚生労働省「令和3年度の労災保険率について」

(3)厚生年金保険料(事業主と従業員で折半)

厚生年金保険とは、主に老後の所得保障の役割を果たす保険です。
年金制度では、制度自体を2階建てにあらわして、国民年金が1階部分、厚生年金保険は2階部分と表現されることがあります。
厚生年金保険には、老齢厚生年金のほか、障がい厚生年金や遺族厚生年金という年金もあります。

(4)雇用保険料(事業主が一定割合負担)

雇用保険とは、失業して収入が不安定な求職者の所得を保障するための保険です。この雇用保険は、原則としてすべての従業員が加入しますが、一部適用除外となるケースもあります。

法律によって雇用保険の適用が除外されている人

・ 短時間労働者でかつ季節的に雇用される人または短期の雇用につくことを常態とする人(日雇労働被保険者・季節雇用特例被保険者に該当する場合を除く)
・ 日雇労働被保険者に該当しない日雇労働者
・ 昼間部の学生または生徒(卒業見込証明書を有する者であって卒業前に就職し、卒業後も引き続き同一の事業主に勤務することが予定され一般労働者と同様に勤務し得ると認められる場合は被保険者となります。また、通信教育、夜間、定時制の学生は被保険者となります)。
・ 国・都道府県・市区町村の公務員およびこれらに準ずる事業に雇用される者
・ 週所定労働時間が20時間未満の者

雇用保険は、従業員に支払った給与額に雇用保険料率を掛けて計算します。雇用保険料率は、事業によって区分されていますので、自社の事業がどれに当てはまるかを確認して雇用保険料を決める必要があります。
雇用保険料は、会社と従業員で折半して負担します。

「雇用保険とは?加入条件・必要な手続きなど」を読む

参照:厚生労働省「雇用保険料率」

(5)介護保険料(事業主と従業員で折半)

介護保険とは、介護が必要になった時に必要な介護サービスを提供する保険です。
65歳以上、40歳以上65歳未満の健康保険などの医療保険に加入している人が被保険者となります。
一定の要件を満たす場合には、介護サービスを受けることができます。

(6)労災保険料(事業主が全額負担)

労災保険とは、仕事上のケガや病気にかかった時、通勤途中にケガをした時に使う保険です。前述した健康保険は、仕事上のケガや病気、通勤途中でケガをした時には使うことはできず、仕事上のケガや病気、通勤途中でケガをした時には労災保険を使って診察を受けることになります。

労災保険料は、従業員に支払う給与額の総額(1,000円未満切捨て)に労災保険料率を掛けて労災保険料を計算します。
労災保険料は従業員負担分がないので、会社が全額負担します。

「労災保険とは|加入手続きと労災の認定基準」を読む

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(7)児童手当拠出金(子ども・子育て拠出金)

児童手当拠出金(子ども・子育て拠出金)とは、児童手当や子育て支援事業、仕事と子育ての両立支援事業などに充てられている税金で、企業や個人事業主が納めなければなりません。

令和2年(2020年)4月より子ども・子育て拠出金率が1,000分の3.4(0.34%)から1,000分の3.6(0.36%)に改定されました。

参照:日本年金機構「子ども・子育て拠出金率が改定されました」

(8)身体障がい者雇用納付金

企業においては、障がい者雇用率が定められていています。「障がい者雇用率」とは、会社全体の常用労働者に対する障がい者の法律上満たすべき割合のことです。

しかし実際には、障がい者雇用が進んでいない企業もあります。このような場合に、法定雇用未達成の障がい者の人数分を「納付金」として納めなければならないことになっています。これが「障がい者雇用納付金」といわれるものです。

法定福利費の仕訳と計上タイミング

法定福利費を仕訳する時には、「福利厚生費」ではなく「法定福利費」という勘定科目を使います。
なお、従業員の負担分は「預り金」または「立替金」で処理します。
これまでご紹介したように、保険料は、保険の種類によって会社(事業主)と従業員の負担する割合が異なりますので、注意しましょう。

(1)従業員の社会保険料が引き落とされた

「従業員の給料40万円を支給する際、社会保険料4万円を差し引いて普通預金から支払った」

借方 貸方
給与手当 400,000 普通預金 360,000
預り金(従業員負担分) 40,000

「その後、社会保険料の会社負担分4万円と従業員負担分4万円を合わせ、普通預金から納付した」

借方 貸方
法定福利費(事業主負担分) 40,000 普通預金 80,000
預り金(従業員負担分) 40,000

(2)従業員負担分を「法定福利費」として処理していた

社会保険料を振り込んだ際に、従業員負担分10万円を「法定福利費」で処理していたため、「預り金」と相殺した。

借方 貸方
預り金
(社会保険料・本人負担分)
100,000 法定福利費 100,000

(3)労働保険料を現金で支払った

労働保険の概算保険料10万円を現金で支払った。事業主負担分は7万円であり、従業員負担分は3万円である。

借方 貸方
法定福利費(労働保険・事業主負担分) 70,000 現金 100,000
立替金(従業員負担分) 30,000

(4)法定福利費を福利厚生費に振り替えた

事務所用の常備薬3,000円を購入した際、法定福利費として処理をしていたため、福利厚生費に振り替えた。

借方 貸方
福利厚生費 3,000 法定福利費 3,000

(5)健康保険料・厚生年金保険料の計上時期

健康保険料と厚生年金保険料を経費に計上する時期については、以下の2つに分けて処理をします。

①従業員からの徴収時
従業員へ給与を支払う場合に、従業員負担分の社会保険料を天引きして、「預り金」で処理をします。従業員負担分の社会保険料を天引きする時期は、給与の締め日や支払日によって異なります。

・当月締め当月払いの場合:前月分の給与に社会保険料を当月分の給与から天引き
・当月締め翌月払いの場合:当月分の給与の社会保険料を当月分の給与から天引き

②年金事務所への納付時期
毎月20日頃に年金事務所から送付される納入告知書を確認して、従業員から徴収した月の月末までに、従業員負担分と事業主負担分をまとめて納付します。そして、この時従業員負担分は「預り金」、事業主負担分は「法定福利費」として処理します。

労働保険料については、労働保険申告書を提出した日または納付した日に経費とします。
雇用保険料部分の従業員負担分については、「立替金」で処理をします。

法定福利費のまとめ

これまでご紹介したように、福利厚生費は「法定福利費」と「福利厚生費」のに分けられ、「法定福利費」は社会保険料や労働保険料などのことで、「福利厚生費」とは、会社が独自に行う福利厚生のための費用です。

「法定福利費」とは、会社負担の健康保険料や厚生年金保険料のことであり、法定された事業主負担部分の金額を支出している限りは、税務上問題となることはありません。
ただし、法定の事業主負担部分を超えて負担した場合には、その超える部分については従業員に対する給与の支払があったものとみなされ、源泉所得税等の課税対象となります。

また福利厚生費は、上手に活用すれば節税対策になりますし、従業員にとっては、福利厚生が手厚い方がありがたいものではありますが、度が過ぎると給与として課税されることになりますので、注意しましょう。

福利厚生費を活用した節税対策については、以下の記事で詳しくご紹介しています。
あわせてご覧ください。

「福利厚生費とは|節税できるポイントとは」を読む

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