公開日:2019年12月16日
最終更新日:2024年05月17日
累進課税とは、収入の多い人や遺産の多い人ほどより高い割合の所得税や相続税が課されるしくみのことです。
この累進課税制度の対象となる税金の代表的なものとしては、個人の1年間の所得に課税される「所得税」、亡くなった人から財産を相続した時に課税される「相続税」、贈与を受けた人に課税される「贈与税」などがあります。
この記事では、累進課税制度の意味や理由、対象となる税金などについてご紹介します。
累進課税制度の豆知識
累進課税制度とは、簡単に言うと「所得が多い人にはたくさん税を負担してもらい、所得が少ない人にはそれなりの税金を負担してもらおうという制度です。
所得税の場合は、2015年以降は5%から45%の7段階の税率が設けられています。課税所得金額が195万円以下だと税率は5%ですが、課税所得金額が4,000万円を超えると税率は45%になります。
相続税、贈与税も累進課税制度の対象です。贈与税は相続税の補完税であるため、贈与税は相続税より高くなります。基礎控除額(税金がかからない金額)も、相続税は「3,000万円+600万円×法定相続人」ですが、贈与税は110万円です。
納税額を減らすためには、さまざまな節税対策を適切に実施する必要があります。節税対策は中長期計画を立てて時間をかけて実施する方が効果がありますので、早めに税理士に相談してアドバイスを受けることをおすすめします。
累進課税制度とは、所得の多い人には多くの税金を、所得の少ない人にはそれなりの税金を負担してもらおうという趣旨の制度です。
したがって、所得や遺産の額が増えれば増えるほど、税率も税額も高くなります。
この累進課税制度には大きく分けて①単純累進課税と②超過累進課税の2種類の方式があります。
①単純累進課税 課税標準が一定額を超えた場合に、その全体に対して高い税率を適用する ②超過累進課税 |
上記①の方式を適用した場合には、税率のちょうど境目の所得があるケースで、納税額が極端に増加してしまうことがありますので、現在用いられているのは②の超過累進課税方式です。
私達の納めた税金は、主に公共サービスの費用として使われますが、税金の役割はそれだけではありません。
近年は「格差社会」が社会的な問題となっていますが、市場経済の国ではどうしても一部の人に富が集中してしまい、その格差が放置したままでは、その差はどんどん広がってしまいます。さらに、その富が「相続財産」という形で次世代に継承されれば、その格差が固定してしまうことになります。
そこで、累進課税によって所得や遺産の額が増えれば増えるほど税額を高くして、社会保険制度などを通じて所得や財産の少ない人に分配されるようにしているのです。
収入や相続財産の多いところから、収入や相続財産の少ないところに分配される機能のことを「所得の再分配」といい、これは税金の目的のひとつとされています。
この累進課税制度の対象となる代表的な税金は、所得税、贈与税、相続税です。
所得税、贈与税、相続税の税率は、それぞれ以下の通り区分されています。
所得税 5%~45%の7段階の税率 相続税・贈与税 |
所得税の税率は、平成27年以降は5%から45%までの7段階の税率に分けられています。
所得税は、個人の所得に対して課税される税金ですが、得た収入のすべてに課税されるのではなく、収入から必要経費を差し引き、そこからさらに所得控除を差し引いた残りの額に所定の税率を適用して税額が決定されます。
① 収入-必要経費=所得 ② 所得-所得控除=課税所得金額 ③ 課税所得金額×税率-控除額=基準所得税額…※1 以下の速算表で確認 ④ 基準所得税額×2.1%=復興特別所得税…※2 ⑤ ①+②=所得税・復興特別所得税の額 |
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※1 所得税の税額表(速算表)
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
参照:国税庁「所得税の税率」
※2 復興特別所得税
東日本大震災からの復興施策として、平成25年から25年間課税されます。
たとえば、収入から必要経費を差し引いた所得から、各種所得控除を差し引いた課税所得金額が650万円であるAさんの所得税を計算すると以下のようになります。
①課税所得金額に応じて税率を掛け、控除額を差し引く ②復興特別所得税を計算する ③所得税額と復興特別所得税を合算し納める所得税額を求める |
なお、所得税の計算をする際には、分離課税とされる所得に注意が必要です。
所得税は個人の1年間の所得に課される税金ですが、この所得は給与所得(サラリーマンの給与や賞与)、事業所得(個人事業主の所得)など10種類に区分されていてそれぞれ課税方法が異なります。
原則は、1年間にその人に生じたすべての所得を合計して課税の対象とする「総合課税方式」で税額計算をしますが、退職所得や山林所得、土地や建物の譲渡所得については他の所得と区別して特別に税率を適用して計算する「分離課税方式」となります。
特に、土地・建物の譲渡所得については、その所有期間(譲渡日を含む年の1月1日現在で、所有期間が5年超ならば、長期譲渡所得、5年以下ならば短期譲渡所得となる)によって、計算方法や税率が異なります。
分離課税の対象である所得を総合課税として他の所得と合計して計算すると、税金を納め過ぎてしまうこともありますので、注意してください。
相続税も、遺産の額が多ければ多いほど税率が高くなる累進課税の対象となる税金です。相続税が累進課税の対象となる理由は「富の過度の集中を抑制し、社会に再分配する」「タダで得た不労所得に、税金をかける」などと言われています。
つまり相続税を累進課税でかけなければ、大金持ちの子どもは生まれながらにして大金持ちで、貧しい家に生まれた人は一生大変な思いをして働かなければならないのは不公平であるという考え方があるわけです。
そこで、財産を受け継いだ人には、その一部を税金で納めることで社会に還元しなさいということを義務づけたのです。
相続税の計算は、大きく5段階にまとめることができます。
①課税される財産の価格を計算する
(財産の合計・債務などの控除)
まず相続財産を評価して課税価格を計算します。この時、亡くなった方の生前の債務や葬式費用なども控除できます。
②課税される基礎となる金額を計算する
次に相続税の基礎控除を差し引きます。
この基礎控除額は平成27年から引き下げられて、従来より相続税の課税対象者が大幅に増加することとなりました。
基礎控除額(税金がかからない部分)
=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
③相続税の総額を計算する
基礎控除を差し引いて計算した課税標準基礎金額から、相続税の総額を計算します。
財産額ごとの税率は所得税と同じく累進税率となっています。
区分 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
参照:国税庁「相続税の税率」
なお、相続税の最高税率については、平成27年から引き上げられました。
基礎控除が引き下げられ、最高税率が引き上げられたことで、相続税の課税対象者は増加し、一部の人にとっては増税されることになりました。
④各人の相続税額を計算する
③までで計算した相続税の総額を各人の実際の取得額によって分けます。
⑤各人の実際の納付税額を計算する
相続人によっては、配偶者の税額軽減措置が適用されますし、未成年者控除などの税額控除が受けられます。
ですから、実際の納付額は各人の相続税額から控除を差し引いた額となります。
たとえば、遺産が1億円で相続人が子ども2人の場合の相続税を計算すると以下のようになります。
①相続税の基礎控除を差し引く ②各人の相続税を計算する ③相続税の総額 |
贈与税とは、財産を贈った人(贈与者)ではなく、もらった人(受贈者)にかかる税金です。
贈与税の計算は、まず1月1日から12月31日までの暦年ごとに、贈与を受けた金額を合計します。贈与者ごとに集計するのではなく、受贈者がもらった額を合計してその額をもとに計算します。
次に、生命保険金の満期金などの「みなし贈与財産」などがあればそれも合算します。
そして、そこから祝い金など、非課税となる財産を差し引きます。
贈与税には、年間110万円までの基礎控除が認められるので、この基礎控除額の範囲内であれば贈与税はかかりません。
①贈与財産+みなし贈与財産-非課税財産-基礎控除110万円=贈与税の課税価格 ②(課税価格×税率)-控除額=贈与税の納付税額 |
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前述したとおり、贈与税には年間110万円の基礎控除が認められるので、この基礎控除額を差し引いて課税価格を求めます。
なお、贈与税の税率構造についても、平成27年以降の贈与で大幅な税率構造の改正がありました。
区分 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | - |
200万円超400万円以下(200万円超300万円以下) | 15% | 10万円 |
400万円超600万円以下(300万円超400万円以下) | 20% | 30万円(25万円) |
600万円超1,000万円以下(400万円超800万円以下) | 30% | 90万円(65万円) |
1,000万円超1,500万円以下(600万円超1,000万円以下) | 40% | 190万円(125万円) |
1,500万円超3,000万円以下(1,000万円超1,500万円以下) | 45% | 265万円(175万円) |
3,000万円超4,500万円以下(1,500万円超3,000万円以下) | 50% | 415万円(250万円) |
4,500万円超 | 55% | 640万円(400万円) |
※()内の金額は、上記の20歳以上の者以外の場合の金額。なお、令和4年(2022年)4月からは、18歳以上に引き下げられました。
参照:国税庁「贈与税の税率」
たとえば、父から300万円、叔母から200万円の合計500万円を贈与されたCさんの贈与税を計算すると以下のようになります。
①贈与された金額から基礎控除を差し引く ②それぞれの税率で計算する 父からの贈与 伯母からの贈与 29.1万円+21.2万円=50.3万円…Cさんの贈与税支払額 |
以上、累進課税の意味と対象となる税金の税率や計算方法についてご紹介しました。
累進課税は、収入の多い人や遺産の多い人ほどより高い割合の税金が課されるしくみのことですが、これらの税金は適切な節税対策をとることで、大幅に税額を軽減することができます。
たとえば、所得税は適用できる所得控除が多ければ多いほど税額を減らすことができますし、贈与税は1年間110万円までは税金はかかりませんので、計画的に贈与をすれば、10年間で1,100万円(110万円×10年間)を非課税で贈与することができます。
また、前述したように1億円の遺産について、対策をしないで相続した場合の子2人の相続税額は770万円でしたが、生前に住宅取得等資金贈与(計2,000万円)で節税対策をすれば、約300万円も節税することができます。
所得税や相続税、贈与税を減らす方法は、この他にもたくさんありますが、どの節税対策を行うべきなのかは、個々の事情によって大きく異なります。
どの節税対策も中長期計画を立てて行う方が、効果は大きくなりますので、早めに税理士に相談して節税対策を行うことをおすすめします。
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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」
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