公開日:2023年11月29日
最終更新日:2023年11月29日
退職給付債務とは、予想退職時期ごとの「退職給付見込額」のうち、期末までに発生していると認められる額を、一定の割引率を使って、それぞれの残存期間にわたって現在価値に割り引いた金額の合計額です。
将来、退職給付として支払わなければならない債務ということで「退職給付債務」といいます。
退職給付債務はPBO(Projected Benefit Obligation)と呼ばれます。
従業員が一定の期間にわたって労働を提供したことなどの理由に基づいて、退職後に従業員に支給される給付のうち、認識時点(たとえば、期末など)までに発生していると認められる債務です。
退職時に見込まれる退職給付の総額を計算し、そのうち期末までに発生していると認められる額を現在価値に割り引いて算定されます。
退職給付債務は、退職後に従業員に支給される給付のうち、認識時点(期末)までに発生している部分で、割引計算により測定されます。
したがって、この定義を分解すると、退職給付債務は、以下の流れで行うことが分かります。
①退職給付見込額(退職給付の総額)を見積る ↓ ②期末までに発生していると認められる金額を算定する (期間定額基準と給付算定式基準のいずれかを選択する) ↓ ③上記②の金額を割引計算する |
退職給付債務の計算過程は、考慮しなければならない要素が多く複雑です。
そこでまずは、退職給付債務の計算を行ううえで知っておきたい用語をご紹介します。
現在価値とは
将来受け取るお金を、現時点の価値に計算し直した金額です。
今もらった100円と将来もらう100円は、同じ価値ではありません。
たとえば、今100円を銀行に預けた場合(年利率5%とする)、1年後には105円となります。では、1年後に105円を受け取るには現時点では、いくら用意すればいいかというと100円です。この年率5%の増加を時間価値といいます。そして現時点で用意するべき金額について計算することを「割引計算」といいます。
割引計算とは
割引計算とは、将来の支出に備えて、現時点で用意しておくべき金額を計算することです。将来入ってくるお金について「利息を考慮して、現在の価値に直すといくらになるか」を計算します。割引計算に使う率を割引率といいます。
計算基礎とは
退職給付債務は、将来の退職給付見込額を割引計算することで計算されますがその際には、さまざまな計算基礎が使用されます。
退職給付見込額を合理的に見積もるための計算基礎としては、以下のようなものがあります。
・退職率
・死亡率
・昇給率
・割引率
・一時金選択率
・長期期待運用収益率
退職給付債務の増減(勤務費用、利息費用、退職給付支払額)
退職給付債務の増減は、勤務費用、利息費用、退職給付支払額で構成されます。
・勤務費用(増加要因)
退職給付のうち一期間の労働の対価として発生したと認められるもので、退職給付債務の増加部分から利息費用を除いた部分です。
・利息費用(増加要因)
割引計算によって算出された期首時点における退職給付債務について、期末までの時の経過によって発生する計算上の利息です。
当期に発生していると認められる退職給付債務は、割引計算して現在の価値に直して計算します。そして1年経過後は、1年経過後の価値に直す必要があります。
そこで、退職給付債務を割引率で割った分を掛け算します。
利息費用=期首の退職給付債務×割引率
この掛け算によって増えた金額が、利息費用です。
・退職給付支払額(減少要因)
実際に退職者が出て退職給付を支払った額です。
退職給付会計では、まず退職給付債務を算出します。
退職給付債務を計算するためには、1年にどのくらい発生しているのか(期間定額基準)、将来に支払う金額を今の価値にするといくらになるのか(時間価値)を考えて計算します。
具体的には、まず、退職給付見込額を計算し、次に退職給付見込額のうち現在までの発生額を計算します。そして、割引計算を行って退職給付債務を算出します。
①退職給付見込額(退職給付の総額)を見積る 具体的には、まず、すべての従業員について1年後に退職した場合、2年後に退職した場合、最終的に定年退職した場合までのその退職確率と退職給付の額、さらに自己都合退職の場合や死亡退職の場合などの確率と退職給付の額などのすべてを加味した期待値を計算します。 ↓ ↓ |
退職給付見込額とは、現在から定年退職までの各年の退職率や死亡率、退職事由(自己都合や会社都合)などを加味して計算された退職給付の総額です。
つまり、将来的に発生すると思われる退職金を、さまざまな要素の発生確率を前提として暫定的に計算したものです。
たとえば以下のケースで、考えてみます。
・Aさんは入社して、1年が経過している ・入社後2年働いて退職する ・退職時一時金は202万円である ・割引率は、1%とする |
入社後2年働いたAさんは、退職時一時金として202万円が支払われるので、202万円が退職給付見込額です。
次に、1年経過した現在までに発生したと認められる額を計算します。
この金額は、今すぐに用意しておくべきものではなく、1年後の退職時にあればいいという金額です。
この計算方法には「期間定額基準」と「給付算定式基準」があり、どちらかの方法を選択できます。
・期間定額基準:退職給付見込額を前勤務期間で割った額を各期の発生額として、計算時点までの合計額をその時点の金額とする方法
・給付算定式基準:退職給付制度の給付算定式に従って、各勤務期間に帰属させた給付に基づき見積った額を退職給付見込額の各期の発生額として、計算時点までの合計額をその時点の金額とする方法 |
ここでは、期間定額基準を選択し以下のように計算します。
退職給付見込額のうち現在までの発生額 = 退職給付見込額 × (現在までの勤続年数 / 全勤務期間) |
2年で202万ということは、1年に発生しているのは「÷2」で101万円です。 |
退職給付債務は、退職給付見込額のうち現在までの発生額を割り引いて計算した金額です。
退職給付見込額のうち現在までの発生額は、今すぐに用意しておくべきものではなく1年後の退職時にあればいいという金額です。
そして、「それなら現時点ではいくらあればよいのか」を計算するのが、割引計算です。
割引計算は、将来の支出に備えて現時点で用意すべき金額を計算するための方法で、計算した金額を割引現在価値といいます。
割引率は1%と仮定しているため、以下の計算式で計算します。
割引現在価値 = 101万円 ÷ (1 + 1%) = 100万円 |
なお、退職給付費用・勤務費用・利息費用は以下の計算式で計算します。
退職給付費用=勤務費用+利息費用-期待運用収益 勤務費用:退職金のうち、当期の労働の対価 利息費用=期首の退職給付債務×割引率 期待運用収益=期首の年金資産×期待運用収益率 |
退職給付債務とは、一定の期間にわたって労働を提供したこと等の事由に基づいて、退職以後に従業員に支給される給付のうち、認識時点までに発生していると認められる債務をいいます。
退職給付債務は、退職時に見込まれる退職給付の総額を計算し、そのうち期末までに発生していると認められる額を現在価値に割り引いて計算します。
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