公開日:2019年09月03日
最終更新日:2022年08月25日
個人事業主から法人成りして事業を拡大することを検討する場合には、税金面でのメリットがどれくらいあるのかについても検討することが大切です。
一般的には、所得が400万円以上になると法人成りした方がお得になると言われています。
この記事では、個人事業主のメリット、法人成りするメリットとあわせて、個人事業主から法人成りするタイミングについてご紹介します。
個人で事業を営むことを「自営業」といい、この自営業者にあたる人を「個人事業主」と呼びます。
小売業、卸売業、サービス業といった事業を営んでいる人、医師、弁護士、税理士等も自営業であれば、個人事業主となります。
個人事業主は、自分の資本で事業を営み、労働による利益もすべて個人に帰属します。
出資金の制限もなく設立登記もいらないため、いつでも自由に事業を始めることができるというメリットもあります。
法人成りする場合には、25万円程度の費用がかかりますが、個人事業主として開業する場合には、税務署などに届出は必要となりますが、費用はかかりません。
ただし、個人事業主でも事業を始めるうえでは、事業資金は必要ですし、飲食業や酒類販売業等については、許認可が必要となります。
会社は、法人税、法人住民税、法人事業税などの税金を納めなければなりませんが、このうち法人住民税は、赤字になっても納めなければなりません。
法人住民税には、利益に関係なく赤字決算でも課税される「均等割」という部分があり、この税額は市区町村ごとに資本金の額などによって変わりますが、最低でも7万円は毎年課税されます。
一方、個人事業主にも個人事業税がありますが、事業所得が290万円以下であれば適用されません。
会社の交際費には制限があり、資本金1億円以下の会社の場合には年間800万円までに制限されます。さらに交際費については、税務調査でも厳しくチェックされます。
一方、個人事業主では接待にかかる飲食代や贈答品などで支出する交際費は、原則として無制限に必要経費として認められます(もちろん、友人との飲食代などは、認められません)。
会社を設立すると、会社は個人と同じように「人格」を持つことになります。これが「法人」です。
そのため、会社名義で契約を締結したり財産を所有したりすることができるようになります。
個人事業主の場合には、設立手続きはそれほど面倒なことはなく、費用はほとんどかかりませんが、会社を設立するためには、法務局に会社の概要を登記する手続きが必要になります。
また、個人事業主と会社を比較した場合に最も違いがあらわれるのは税金面です。
個人事業主では、売上から経費を差し引いたものが「所得」となり、これに対して所得税や住民税などが課税されます。
一方、会社では、事業の売上から経費や社長の給料を差し引いた残りの利益に対して、法人税や法人住民税などが課税されます。
社長の給料には、所得税や住民税などが課税されますが、会社に利益が残らないように設定すれば、法人税を安く抑えることが可能です。
加えて個人事業主として得る「事業所得」についても、会社の社長として受け取る「給与所得」の方が、税額が抑えられるケースも多々あります。
個人事業主でも会社でも、黒字になる時もあれば赤字になる時もあります。
そして、「前年は赤字だったが、今年は黒字になった」ということもあります。
個人事業主の場合には、このような赤字を3年間繰り越すことができますが、会社の場合には、繰越控除できる期間が9年間(平成29年4月1日以後に開始する事業年度において生じた欠損金については10年)延びます。
また、前年の黒字を当年の赤字と相殺できる「青色欠損金の繰戻にしによる還付制度」があり、この制度は個人事業主には適用されず会社にのみ適用されます。
※ただし、この制度については廃止の可能性あり
参照:国税庁「欠損金の繰戻しによる還付」
配偶者控除、扶養控除は、納税者と生計が同じで収入が一定以下の配偶者や扶養家族がいる時に適用される所得控除です。
会社から給与を受け取る社長もサラリーマンと同様に給与所得者であり、これらの控除を受けることができます。
一方、個人事業主の場合には、仕事を手伝う妻や家族に年に1度でも給与を支払うと、その人の所得に関係なく、配偶者控除、扶養控除を受けることができなくなります。
なお、個人事業主が青色申告者として家族を事業の専従者として給与を支払う場合には、税務署に「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出しないと、家族に対する給与が経費として認められませんので注意が必要です。
建物や機械、車両といった長い期間にわたって業務に用いられる資産を「減価償却資産」といいます。これらの資産は、時の経過によってその価値が減っていくものなので、それぞれ決められた期間(耐用年数)に従って、購入資金を少しずつ費用として計上していきます。
個人事業主の場合には、原則として定額法、会社は原則として定率法と決められています。
たとえば、200万円の車両の耐用年数が8年であれば、個人事業主の場合には、毎年50万円ずつの償却となります。
一方、会社が定率法を用いると、当初は定額法より大きい金額を償却してその後徐々に減っていきます。
したがって、当初の利益が出ている時には、定率法の方が当初の節税効果が高くなります。
個人が亡くなると、事業用の口座もプライベート用の口座もどちらも個人の資産となり、遺産分割の対象となります。
商売上の契約条項も、すべて相続人の名前で再契約しなければならず、大変な手間がかかります。
一方、会社で所有する財産は会社名義ですし、会社名義の契約なども社長名を変更するだけで済みますし、プライベートな財産と所有している会社の株式が相続の対象となりますので、事業に影響を与えずに事業承継を進めることが可能となります(ただし、事前の事業承継対策は重要です)。
すでに個人事業主として事業を行っている場合に、会社を新たに設立してその会社に既存の事業を引き継がせることを「法人成り」といいます。
しかし、個人事業主として事業を行ってきて、「そろそろ法人成りしてもいいかな」と考えた時、どのタイミングで設立すべきか迷う方も多いのではないでしょうか。
個人事業主から法人成りすべきタイミングは、事業内容や状況によって異なりますが、税金面で見た場合には、個人事業主の所得金額や売上高、消費税を納めなくていい免除規定などの点から検討する必要があります。
個人事業主から法人成りすべきタイミングは、一般的には、「個人事業主の所得金額が400万円以上」または「売上高1,000万円以上」となった場合には、法人成りした方が、メリットがあると言われています。
個人事業主と法人では、同額の所得であっても税率が異なるので、負担すべき税額に差がでます。
まず、所得税は、所得金額が増えれば増えるほど税率が高くなる構造になっています。
所得税のしくみと税率
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一方、法人税は所得の大きさに関わらず一定の比例税率ですが、中小企業の税負担を軽くするため、資本金1億円以下の法人については、所得金額のうち年800万円以下の部分について税率が軽減されています。
法人税のしくみと税率
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特別の事情がない限りは、所得金額が400万円を超えたあたりから、法人成りした方が税負担は軽減されることになります。
法人成りすることで、給与所得控除分税負担を軽減することができ、法人成り後は個人が支払う所得税、住民税が安くなるからです。
給与所得控除によって控除される金額は、給与収入が1,000万円までは収入に比例して増えるので、法人成りするメリットも役員給与の額に連動して大きくなります。
消費税は、「基準期間」における売上高(消費税の課税対象となる売上高)が1,000万円を超えると、納税義務が生じます。これは個人事業主でも会社でも同じです。
基準期間とは、個人事業主であればその年の前々年であり、会社であればその事業年度の前々事業年度です。
つまり、事業開始後の最初の2年間は、基準となる「2年間」がないので、消費税の納税義務が免除されます(ただし、資本金の額が1,000万円以上の会社は、課税事業者となります)。
個人事業主は事業を開始してから2年間は消費税が免税されることが多いので、個人事業主として事業を開始して2年後に法人化すれば、個人事業主の2年間と法人成りしてからの2年間の合計4年間、消費税が免税されることになります。
法人成りした場合、役員報酬の設定によって所得税や住民税の額が大きく変わります。
なぜなら、所得税は累進課税なので、代表者だけでなく家族を役員にして給料を支払えば、一人ひとりの所得税をより低い税率で計算できるからです。
個人事業主でも、確定申告を青色申告で行えば、家族従業員(青色事業専従者)に給料を支払うことができ、その金額を経費とすることができますが、「適正な報酬額であること」「その年を通じて6カ月を超える期間、事業に従事していること」など、さまざまな制約があります。
以上、個人事業主から法人成りすべきタイミングについて、ご紹介しました。
個人事業主から法人成りすべきタイミングは、個々の事業内容や状況によって異なりますが、一般的には個人の所得金額が400万円以上、または売上高1,000万円以上がひとつの目安になると言われています。
また、個人で事業を始めてから2年後に廃業し、その後会社を設立すれば、最長4年間は消費税の納税義務が免除されることになります。
個人事業主から法人成りする時には、これらのさまざまな視点から検討するためにも、早めに税理士に相談して納税額のシミュレーションなどを行うことをおすすめします。
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