公開日:2023年11月24日
最終更新日:2023年11月30日
美容師としての経験は十分でも、いざ「自分のお店を持ちたい」と思ったときには、「開業資金は、どう準備するの?」「物件探しは、どうすればいい?」「必要な届出は?」など、分からないことだらけだと思います。
準備万端で開業できるケースは稀ですが、それでも最低限の基礎知識や準備はやはり必要です。
この記事では、美容院を開業するうえで最低限必要な基礎知識として、美容院を開業するまでのスケジュール、必要な手続き、かかるお金などについてご紹介します。
美容院を開業するまでの流れは、大きく以下の10個のプロセスに分けられます。
(1)開業のコンセプトを検討する コアターゲットを明確にし、美容院を開業して何をしたいのかという目的を明確にします。 (2)開業する方法を検討する (3)開業するまでのスケジュールを確認する (4)事業計画書を作成する (5)資金調達について検討する (6)物件探しを行う (7)店舗工事を行う (8)美容院開業で必要な届出を行う (9)経理システム・決済の用意 (10)美容院集客の計画を立てる |
美容院を開業するうえでは、「お客様に、どのようなサービスを提供したいのか」「美容院を開業して、何を成し遂げたいのか」というコンセプトと「どのようなお客様に来てほしいのか」というコアターゲットを明確にすることが大切です。
雇われている身では、勤務先の美容院の経営方針に従わなければならないため、さまざまな不満を持つでしょう。
まずはその不満を明確にして、それをコンセプトにつなげてみましょう。
たとえば、
「今のままでは、十分なサービスを提供できない」→「だから十分な時間とていねいな施術を提供したい」
「お客様の肌トラブルに対応できない」→「だから安全で良質な薬剤で、安心できる施術を提供したい」
このように、現在の不満を解消するための改善策を考えることも、美容院を開業するうえで大切なコンセプトです。
コンセプトを明確にしたら、見えてくるのがコアターゲットです。
コアターゲットは、「20代~40代の女性客」といった漠然としたものではなく、そのお客様の性別、年齢、社会的な地位なども詳細に想定していきます。
たとえば、「33歳で5歳と3歳の子どもを持つ主婦。独身時代は、表参道の美容院に通っていたが、今は育児に時間をとられ近所で時間をかけずに、ヘアカットを行いたいと考えている。美容室での時間は、育児から開放される時間として貴重だと考えている。ただし、預けられる時間が限られているため、そんなに時間は確保できない。」といったイメージです。
なぜこのように細かくコンセプトとコアターゲットを明確にする必要があるかといえば、それが出店エリアや店舗イメージ、内装、PR施策、サービス内容につながるものだからです。
性別や世代によって、ターゲットの求めるものは大きく変わります。18歳の女子高生をターゲットにするのと40歳の男性をターゲットにするのでは、当然ながら店舗デザインやメニュー構成などが大きく違ってきます。
もちろん、実際にはもっと幅広い層のお客様が来店することが予想されますが、年代や特性等があまりにかけ離れてしまうと、結局誰からも支持されない美容院になってしまうこともあります。
基軸のターゲットを明確にしつつ、そのうえで幅広い層のターゲットにも配慮した美容院を意識することが大切です。
コンセプトとコアターゲットを明確にしたら、次にどのようなスタイルで開業するかを検討します。
①オリジナルサロン
美容院を開業する方法として、最も多いのはオリジナルサロンの開業です。
オリジナルサロンとは、思い通りのサロンを開業できるというメリットがありますが、初期費用がかかること、スタッフを雇用するためそのスタッフに対する責任も生まれますから、経営者としての大きな覚悟が必要となります。
②フランチャイズサロン
フランチャイズサロンとは、本部に加盟金や月々のロイヤリティを支払って、その対価として経営ノウハウやブランドを活用できる制度を利用した開業方法です。
加盟金や月々のロイヤリティという負担が生まれますが、経営ノウハウに自信がない人にとっては、おすすめの方法です。
ただし、契約後にトラブルになるケースも多いので、加盟を検討する際には、契約内容やサポート内容をしっかり確認することが大切です。
③業務委託サロン・シェアサロン
最近増えてきたのが、店舗の所有と運営を分離して独立するスタイルです。
フリーランスの美容師がサロンと契約する業務委託サロンや、何人かのフリーランスの美容師でサロンをシェアするシェアサロンなどがあります。
業務委託サロンは、美容師がサロンから業務を委託され、対価として報酬を受け取ります。集客や価格設定などはサロンが決定します。
シェアサロンは、美容師が売上や時間に応じたサロンの利用料を支払うもので、集客や価格設定は美容師が決定します。
これらの方法は、店舗を所有する費用負担を抑えたローリスクの開業方法として最近注目されています。
美容院を開業するまでのスケジュールを立ててみます。
一般的には、美容院を開業したいと決意してから実際に開業するまでには、一般的には1年以上の準備期間が必要です。
①1カ月~3カ月目 コンセプトを明確にする コアターゲットを明確にする 事業計画を立てる 資金調達の計画を立てる 業者選定(※) ※業者選定は、物件選定を開始する前に決定しておくと、すぐにやり取りを開始できます。 ②3カ月~10カ月目 ③10か月~12カ月目 |
開業動機というと、最も多いのが「今より、収入を増やしたいから開業したい」というものです。これは、美容院の開業に限らずどの業種でも言われるもので、正当な動機です。
しかし、「今より収入を増やしたい」という漠然としたものではなく、1年後、3年後、5年後にはどれくらいの収入を得ていたいのかといった事業計画を立てる必要があります。
事業計画を立てる場合には、とくに収支計画と資金計画を慎重に検討しなければなりません。
収支計画とは「いくら稼げるのか・いくら使うのか」、資金計画とは「いくら用意すべきか」についての計画です。
収支計画
まずは1カ月あたりの売上予想を立ててみましょう。
美容院の売上は「客単価×毎日の来店客数×1カ月の営業日数」で計算します。
シャンプーやトリートメント商材などの物品販売予測は、施術売上の5%程度と想定しておきます。
次に、家賃や水道光熱費、材料費、借入金の返済、スタッフの給与などの経費を予測して計算してみます。
売上と経費を予測したら、「売上-必要経費=利益」で利益を計算してみます。この利益はかならずプラスでなければなりません。
何度も検証しながら、利益がプラスになるよう売上と経費のバランスを調整してみましょう。
資金計画
美容院開業では、以下の費用がかかります。
・物件取得にかかる初期費用
・店舗のデザイン・設計・工事費用
・機材の購入費用
・店舗内の家具・家電
・薬剤・施術道具
・開業前後のPR費用
・開業後数カ月分の運転資金(家賃、水道光熱費、人件費など)
これらすべての費用を用意できずに開業しようとすると、最悪の場合開業前または開業直後に資金不足に陥ってしまいますので注意が必要です。
必要な開業資金を準備できないときは、融資や助成金の活用を検討します(後述)。
開業資金は、自己資金が原則ですが、自分の貯蓄、親族などからの援助だけで500万円以上もの開業資金を用意できるケースは少ないのが現実です。
そのようなときに検討したいのが、日本政策金融公庫の創業融資や助成金の活用です。
助成金とは、融資と違い返済不要で国からもらえるお金です。
助成金は、その目的によって要件は違い、労働保険だけでなく社会保険に加入していることが要件となっているものもあります。
また、要件はたびたび変わり種類が多く、申し込み手続きが煩雑なため、専門家に相談する方がスムーズでしょう。
日本政策金融公庫は、政府系金融機関で、無担保・保証人不要の融資制度が用意されています。また、営業許可を取る前に融資を受けることができるなど、美容院の開業を目指す人にとっては利用しやすい金融機関で、開業前の人を対象とした創業融資という制度が用意されています。
創業融資とは、創業時の1度きりにチャンスとして1,000万円までの融資(担保も保証人も不要の場合)を受けられる制度です。
紹介やコネクションがなくても、比較的スムーズに融資を受けることができるため、美容院などの開業では、日本政策金融公庫からの融資が非常に活用されています。
ただし、日本政策金融公庫からの融資に限りませんが、融資を受ける際には事業計画書や各業種の見積書等の提出が求められます。
とくに事業計画書は、融資の審査で非常に重視されます。事業計画書では、「この計画であれば利益を出して返済できそうだ」と思ってもらえる内容にしなければなりません。
また、審査の際には面談が行われます。この面談は、事業計画書をもとに進められますが、シビアな質問をされることもあります。
質問に戸惑ったり、事業計画書と矛盾した返答をしたりしていると、事業計画書の内容がどんなに充実していても、審査で不利になってしまいますので、事前にしっかり準備をしておきましょう。
下記は、日本政策金融公庫に掲載されている美容院の創業計画です。
実際は、この計画書の内容をかなりプラッシュアップする必要はありますが、一例として参考にしてください。
物件探しは、自分の目指すコンセプトとコアターゲットにマッチするエリア選びから始まります。エリアが決まったら、どのような物件を求めているのか判断基準を決めておく必要があります。どの要素が重要か、譲れない条件は何なのかを明確にしたうえで物件を探しましょう。「どこか、よい物件はありませんか?」などといった曖昧な基準では、よい物件は見つかりません。
物件探しに焦りは禁物です。たくさんの情報を集めて、たくさんの物件を見るのが基本です。優良物件ほど情報がオープンにならないので、仲介業者との関係性も大切です。
物件の現地調査維持には、配管・配電のチェックを必ず行います。
美容室は、他のサービス業より水道光熱費をたくさん使用する業種です。美容室に必要な設備容量を満たしていないと、運営に大きな支障をきたしてしまいますし、追加工事をする際には多額の費用が発生するケースがあるからです。
給排水 引込水道菅口径は20mm以上あると安心です。ただし、シャンプー台の数などによって必要容量は変わりますので、専門業者に確認してもらいましょう。 排水管口径の大きさは、75mm以上あるかで判断します。 電気 ガス |
物件を見て、交渉を進めるかどうかについては、できるだけ早く返事をします。とくに断る場合には迅速に返事をすべきです。明確な理由もなく断っていると「冷やかし」ととられてしまい、よい情報をもらえなくなってしまうこともあります。
なお、自分の目指すコンセプトとコアターゲットにマッチし、さらに収支計画から考えても最高だと思われる物件に出会えたとしても、貸してもらえるか分からないという点については注意が必要です。
物件を確実に貸してもらえるか分からないのに、融資の検討を進めたり工事の見積もりをとったりしていたら、実は貸してもらえなかったという失敗例もかなりあります。
なお、先ほどご紹介した創業融資は、出店地となる物件が決定していなければ進めることはできません。なぜなら、物件が決まっていないということは、毎月の収支や採算性などが決まっていないからです。
しかし、不動産業者としては物件を少しでも早く貸したいというのが本音です。したがって、自分が融資を申請するという事情を踏まえ、融通してもらうよう交渉しましょう。
物件契約までの流れ
①現地調査・概算見積・平面図作成 |
物件が決まり、創業融資を受けられることになったら、店舗デザインと店舗設計の検討を始めます(※)。
店舗設計デザイナーが店舗デザインを作成し、施工業者が設計図をもとに形にします。
※依頼する業者は物件が決まる前に選定しておきます。
なぜなら、希望通りの物件が見つかった時点からすぐに業者とのやり取りを開始できるからです。
店舗デザインとは、店舗のイメージや世界観をあらわすもので、店舗設計とは、このデザインを実現化させる手段です。
たとえば、「落ち着いた雰囲気でありながら、南国風のデザイン」を実現させるために、木の古材を玄関に貼ったり、壁にレンガタイルを貼ったりという設計を行います。
店舗デザイナーは、施工業者の選定から工事中の業者への指示・監督を行うこともあり、美容室の仕上がりを大きく左右します。
スタッフが使いやすいレイアウト、快適な雰囲気、空調などの設備関連の処理などは、経験豊富な専門家でないと分からない要素がたくさん含まれていますので、実績が豊富な業者を選ぶことが大切です。
なお、工事を進めるうえでは、追加工事など大幅な追加費用が発生することもあります。そのため、契約を交わすうえでは「総投資額の調整」も含めて交わすことも大切です。
店舗デザイナーと施工業者を選ぶ5つのポイント
①店舗デザイン・施工実績が豊富な業者を選ぶ。 |
美容院を開業するうえでは、保健所の認可が必要です。また消防検査の基準をクリアする必要もあります。
・保健所
開設届(理容師免許・美容師免許を持っている人がいること)
開設届を提出する際には、施設の平面図、構造及び設備の概要、従業者名簿(従業員を雇う場合)、従業員全員の理美容免許証などが必要です。
個々の状況によって、他の書類の提出が求められる場合もありますので、早めに問い合わせておきます。
保健所への申請・手続きの流れ
①事前相談 ②開設届の提出(営業開始1週間前までに) ③開設検査(立入検査) ④確認証発行(開設検査の翌日~営業開始日までに) |
・消防署
開業7日前までに「防火対象物使用開始届出書」を提出します。
防火対象物の配置図、施設の平面図、電気配線図などが必要となりますが、必要書類は管轄の消防署によって異なりますので、事前に問い合わせておきましょう。
・税務署
個人事業主として開業する場合には、事業を開始した日から1カ月以内に、管轄の税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)」を提出します。
なお、個人事業主として開業する場合には、確定申告をする必要があり、この確定申告を青色申告で行うと、大きな節税効果が期待できます。
そのため、開業届を提出する際には、あわせて「青色申告承認申請書」も提出しておきましょう。
そのほか、従業員を雇用する場合には「給与支払事務所等の開設届出書」の提出も必要です。
・市区町村・都道府県税事務所
各都道府県により異なりますが、市区町村・都道府県税事務所に「事業開始等申告書」の提出が必要になることがあります。
個人事業主は、自分で売上や経費を計算して納税額を計算して所得税を納めなければなりません。
確定申告には青色申告と白色申告がありますが、青色申告の方が、節税効果があります。
しかし、青色申告をするためには複式簿記による帳簿を作成しなければなりません。複式簿記というと難しいイメージを持つかもしれませんが、「クラウド会計ソフト freee会計」を活用すれば、簡単に青色申告の要件を満たす帳簿を作成することができます。
金額ミスを訂正すれば、それ以降の金額は自動的に訂正してくれますし、青色申告決算書まで自動で作成されます。
QRコード決済やPayPayカードにも対応しており、売上や必要経費はリアルタイムでグラフ化されます。
事業状態も目視で確認することができるので、問題があれば迅速に対応することができます。
美容院の集客計画で使うツールとしては、ホームページ、LP、ブログ、Facebook、インスタ、タウン誌などがあります。
チラシは、開業日に合わせて配布するとすぐに効果が期待できますので、開業初期にはおすすめです。また、お客様の誕生月に特典を設けたり、紹介カードや招待チケットを用意したり同行来店(友人や家族)プランを用意するのも効果的です。
ただ、集客できてもリピートにつながらないのは問題です。
リピート率を高めるためのしくみづくりも、しっかりと構築していきましょう。
リピーターを増やすためには、技術力はもちろん、接客力、商品力も重要な要素となります。
まずは、技術力です。どんなに立地条件がよくても接客力が高くても、技術に満足できなければ、お客様はリピートしてくれません。
次に、接客力です。
美容室は定期的なニーズがあるので、お客様にとって居心地の良い時間を提供することが大切です。
ただ、美容院の魅力は1度来てもらっただけでは伝わりにくいものなので、会員カードや特典を用意して、最低3回は来店してもらえるしくみを考えたり、予約管理システムからサンキューメールを送ったりするなどの工夫も必要です。
売上が順調に増えてきたら、会社を設立して事業を行う方が、さまざまな面で有利になります。
資本を入れて事業を行うことから、社会的な信用を得ることができますので、2店舗目の出店など事業を拡大しやすくなりますし、会社を設立して代表者として自らに給与を支給することができるので、個人事業主の場合より税金の額が少なくなります。
ただ、会社を設立するのはメリットばかりではなくデメリットもあります。
個人事業では、赤字であれば事業に関わる税金の負担はありませんが、会社を設立すると、赤字でも年間7万円の法人住民税の均等割を納めなければなりませんし、原則として社会保険への加入が義務づけられます。
美容師は、美容技術を通してその人の魅力を高め、ポジティブな気持ちにすることができる非常に素晴らしい仕事です。
そして、多くの美容師が「いつかは自分のサロンを持ちたい」と考えるものです。しかし、美容院は競合も多く、多くの美容院が閉店・廃業に追い込まれているのも事実です。
そうならないためには、まずはスタートする前にやるべきことをしっかり理解すること、そして自分が美容師ではなく経営者になるという意識を持つことが大切です。
freee税理士検索では、数多くの事務所の中から、美容院開業の手続きや資金調達、開業後の節税対策や税務申告などについて相談できる税理士を検索することができます。
また、コーディネーターによる「税理士紹介サービス」もあるので併せてご利用ください。
税理士の報酬は事務所によって違いますので、「税理士の費用・報酬相場と顧問料まとめ」で、税理士選びの金額の参考にしていただければと思います。
\ 美容院の開業について相談できる税理士を検索 /
・配偶者特別控除確認の件 「今年から自宅で美容院を開業しましたが、私の所得が130万円未満なら、配偶者特別控除を受けられる認識です。…」 |
・美容院;社員を出向させた場合の出向費の消費税 「美容院を経営しております。2店舗、それぞれ別法人として設立し(A、Bとします)、A→Bへ出向させております。…」 |
・美容院の売上・経費分配 「うちでは、店が40%の売上・経費を担っていて、従業員が個人事業主という形で、残りの60%の売上・経費を個人の売上比率によって分配しています…」 |
監修:「クラウド会計ソフト freee会計」
クラウド会計ソフトの「クラウド会計ソフト freee会計」が、税務や経理などで使えるお役立ち情報をご提供します。
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