公開日:2019年12月27日
最終更新日:2022年10月25日
所得拡大促進税制とは、国内雇用者に対して給与等を支給し、一定の要件を満たした場合に受けることができる税額控除です。
経済の安定した循環を支えるためには、企業が生み出した付加価値である従業員給与への還元を促すことが必要です。
さらに、中小企業においては、賃上げによる所得拡大を促すとともに雇用を守ることも大切です。
このような観点から、令和3年度には、所得拡大促進税制は雇用を守りつつ、賃上げだけでなく雇用を増加させる企業を下支えするための改正が行われました。
さらに令和4年度の税制改正においては、税額控除額の加算措置について見直しが行われ、拡充されました。
所得拡大促進税制とは、個人所得の拡大を図り、所得水準の改善を通じた経済成長を達成するために、一定の要件を満たし前年度より給与を増加させた企業について、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。
雇用者給与等支給額が前年度と比べて1.5%以上増加した場合には、控除対象雇用者給与等支給増加額の15%が法人税額または所得税額から控除されます。されに、上乗せ要件が簡素化され、控除率引き上げられることとなり、最大40%の加算措置の適用が可能となりました。
旧制度 令和3年4月1日~令和4年3月31日までの期間内に開始する各事業年度(個人事業主は令和4年) |
新制度 令和4年4月1日~令和6年3月31日までの期間内に開始する各事業年度(個人事業主は令和5年・6年) |
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適用要件(通常要件) | 控除率 | 適用要件(通常要件) | 控除率 |
雇用者給与等支給額が前年度と比べて1.5%以上増加 | 15% | 雇用者給与等支給額が前年度と比べて1.5%以上増加 | 15% |
適用要件(上乗せ要件) | 控除率 | 適用要件(上乗せ要件) | 控除率 |
雇用者給与等支給額が前年度と比べて2.5%以上増加しており、かつ以下のいずれかを満たすこと ①教育訓練費の額が前年度と比べて10%以上増加していること ②適用年度の終了の日までに中小企業等経営強化法に基づく経営向上計画の認定を受けており、経営力向上計画に基づき経営力向上が確実に行われたことにつき証明がされていること |
+10% | 雇用者給与等支給額が前年度と比べて2.5%以上増加 | +15% |
教育訓練費の額が前年度と比べて10%以上増加していること | +10% |
参照:経済産業省「中小企業向け 所得拡大促進税制 ご利用ガイドブック-令和4年4月1日以降開始の事業年度用-(個人事業主は令和5年分以降用)」
所得拡大促進税制のほかにも、「中小企業等投資促進税制」など「○○税制」とつく制度は数多くありますが、そもそも「税制」とは何なのでしょうか。
これは、「政府が促進したい特定の政策について貢献した場合には、税制措置で優遇します」という制度です。
たとえば、「中小企業の投資を促進したい」という政策を進めるために設けた優遇措置としては、「中小企業等投資促進税制」があります。
そして、「個人所得の拡大を図り、所得水準を改善したい」という政策を進めるために設けた優遇措置が、ここでご紹介する「所得拡大促進税制」ということになります。
税制措置でよく使われるのが税額控除と減価償却の特別償却です。
どちらも企業にとっては、法人税が減税されるのと同じ意味を持つので、適用要件を満たす場合には積極的に活用したいものです。
ただし、これらの税制はそれぞれ適用できる事業年度や要件に制限があります。したがって、活用を検討する場合には早めに税理士に相談し、十分に確認する必要があります。
所得拡大促進税制の対象となる「中小企業者等」とは、青色申告書を提出する者のうち、以下に該当するものを指します。
(1)前3事業年度の所得金額の平均額が15億円以下の法人のうち、 ①資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人 ただし、以下の法人は対象外 ・2以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人 ②資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人 (2)常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主 (3)協同組合等(中小企業等協同組合、出資組合である商工組合等※) ※協同組合等に含まれる組合は、農業協同組合、農業協同組合連合会、中小企業等協同組合、出資組合である商工組合及び商工組合連合会、内航海運組合、内航海運組合連合会、出資組合である生活衛生同業組合、漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、森林組合並びに森林組合連合会です。 |
参照:経済産業省「中小企業向け 所得拡大促進税制 ご利用ガイドブック-令和4年4月1日以降開始の事業年度用-(個人事業主は令和5年分以降用)」
俸給・給料・賃金・歳費及び賞与並びに、これらの性質を有する給与(所得税法第28条第1項に規定する給与所得)をいいます。
退職金など、給与所得とならないものについては、原則として給与等には含みません。
※所得税法上課税されない通勤手当等の額については、給与等に含まれます。ただし、賃金台帳に記載された支給額のみを対象に、所得税法上課税されない通勤手当等の額を含めずに計算するなど、合理的な方法により継続して国内雇用者に対する給与等の支給額の計算をすることも認められます。
参照:経済産業省「中小企業向け 所得拡大促進税制 ご利用ガイドブック-令和3年4月1日以降開始の事業年度用-(個人事業主は令和4年分以降用)」
所得拡大促進税制は、令和3年度に見直しが行われ、適用要件について継続雇用者給与等支給額による比較がなくなり、雇用者給与等支給額による比較のみとなりました。また、その適用期限が2年間延長されることになりました。
さらに、令和4年度の税制改正では、税額控除額の加算措置の見直しが行われ、拡充されることとなりました。
継続雇用者給与等支給額の継続雇用者比較給与等支給額に対する増加割合が、1.5%以上であるという要件について、雇用者給与等支給額の比較雇用者給与等支給額に対する増加割合が1.5%以上であることという要件が見直されました。
所得拡大促進税制の要件の見直し
「継続雇用者給与等支給額の、継続雇用者比較給与等支給額に対する増加割合が2.5%であること」という要件が、「雇用者給与等支給額の比較雇用者給与等支給額に対する増加割合が2.5%以上であること」という要件に見直しがされました。
また、税額控除率が25%となる要件について、「継続雇用者給与等支給額の継続雇用者比較給与等支給額に対する増加割合が2.5%以上であること」という要件について、「雇用者給与等支給額の比較雇用者給与等支給額に対する増加割合が2.5%以上であること」という要件に見直しがされました。
なお、雇用者給与等支給額については、雇用助成金等があった場合には控除しないとされますが、「雇用者給与等支給額の対前年度増加額」については、雇用調整助成金等の額が控除されるとなっていますので、この点については、注意が必要です(後述)。
所得拡大促進税制の給与等から控除する範囲
給与等の支給額から控除する「給与等に充てるための他の者から支払をうける金額」について、その範囲が明確化されました。
賃金要件および税額控除率が25%となる要件(上乗せ要件)については、雇用調整助成金などについて控除されないこととされました。
税額控除を乗じる基礎となる雇用者給与等支給額から、比較雇用者給与等支給額を控除した金額については、雇用調整助成金等について控除して計算した金額が上限とされることとなりました。
このように、雇用者給与等支給額、税額控除額の部分の雇用者給与等支給額の対前年度増加額については、雇用調整助成金等があった場合に、控除する・しないと区分されていますので、適用を受ける際には注意が必要です。
令和4年度の税制改正においては、所得拡大促進税制の要件の見直しが行われ、経営力向上要件は廃止となりました。そして最大40%の加算措置の適用が可能となりました。
税額控除額の加算措置の見直し
2つの加算措置に見直され、最大40%の加算措置の適用が可能となりました。
・増加割合による加算措置の適用要件 ①適用要件
②加算措置の税額控除額
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・教育訓練費の増加による加算措置の適用要件 ①適用要件
②加算措置の税額控除額
※教育訓練費に係る税額控除率の上乗せ措置の適用を受ける場合には、教育訓練費の明細を記載した書類の保存をしなければなりません。添付要件は保存要件に変更されます。 |
以上、所得拡大促進税制の内容や、令和3年度の改正ポイントなどについてご紹介しました。
所得拡大促進税制は、令和3年度の改正によって、雇用を守る制度に変更され、さらに令和4年度の改正によって税額控除額の見直しが行われました。
所得拡大促進税制は、法人税が減額される税制ですが、適用を受けるためにはさまざまな作業が必要ですし、上乗せ措置を利用する場合にはさらに必要な書類があります。
また、令和5年3月31日までの適用期限が1年延長され、令和6年3月31日までとなりました。
手続きには時間がかかることも予想されるため、適用を受けたいと考える場合には、早めに所得拡大促進税制に精通している税理士に相談し、サポートを受けることをおすすめします。
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