ベンチャーキャピタル(VC)が出資したい企業とは

公開日:2019年11月15日
最終更新日:2022年04月12日

この記事のポイント

  • ベンチャーキャピタルとは、キャピタルゲインを得ることを目的とした投資専門会社。
  • ベンチャーキャピタルは、出資の見返りに株式を譲り受ける。
  • ベンチャーキャピタルは、多くの投資家から集めた資金を束ねて運用している。

 

ベンチャーキャピタルから出資を受けるためには、まずベンチャーキャピタルのビジネスモデルを理解して、「ベンチャーキャピタルが出資したい企業とは、どのような企業なのか」を理解する必要があります。

最近は、会社設立から10年未満の企業が毎年数10社も株式公開を成し遂げています。
これらのスピード株式公開を成し遂げた企業の多くが、創業間もない時期にベンチャーキャピタル(VC)からの出資を受けています。
つまりベンチャーキャピタルを上手に活用すれば、起業して間もないベンチャー企業でも短期間で株式公開することが可能なのです。

この記事では、ベンチャーキャピタルが出資したいと思う企業や、どのようなポイントを精査するのかについてご紹介します。

ベンチャーキャピタル(VC)とは

ベンチャーキャピタルとは、ベンチャービジネスに出資して、その出資先企業の株式を譲り受け、その出資先が株式公開をして株価が上昇した時にその株式を高く売って、キャピタルゲインを得ることを目的とした投資専門会社です。

ベンチャービジネス(Venture-Business)に資金(Capital)を提供するので、それぞれの頭文字をとって「ベンチャーキャピタル」と呼ばれています。

(1)ベンチャーキャピタルのビジネスモデル

銀行などの金融機関は「融資」ですから、融資を受けた企業は債務者となり返済義務を負います。これに対してベンチャーキャピタルから出資を受けても返済義務は生じませんが、ベンチャーキャピタルは出資した分に見合うリターンを求めます。
つまり、銀行は「将来返済してもらえる安定した企業であること」を評価し、ベンチャーキャピタルは「将来株価が上がりキャピタルゲインを得ることができる可能性」を評価していることになります。

したがってベンチャーキャピタルが介入すると、完全に上場までのレールが敷かれます。外部から優秀な人材を招き入れて経営管理体制を盤石にするなどのサポートが行われますし、収益をどんどん伸ばして黒字経営にまで持って行くためのあらゆる施策が行われます。さらに内部監査やコンプライアンスが整備され、上場に備えます。

(2)ベンチャーキャピタルの種類

ベンチャーキャピタルといってもさまざまな組織や会社があります。
企業経営に深くかかわり、パートナーとして一緒に企業価値を向上させようとする「ハンズオン型ベンチャーキャピタル」や、出資はするが経営にはあまり口を出さない「サイレントベンチャーキャピタル」など、ベンチャーキャピタルによって出資後の関わり方はさまざまです。
また、専門性の高い事業、先端技術が関わる事業に特化して出資を行っているベンチャーキャピタルもあります。

ベンチャーキャピタルの種類 概要 投資先企業のステージ 投資対象分野 経営への関与 代表例
政府系ベンチャーキャピタル 政府や公的機関が運営 特に限定しない 限定しない 投資先企業の状況によって異なる。原則として投資先の経営の自主性を尊重する。 ・産業革新機構東京中小企業投資育成
・新規事業投資
証券会社系ベンチャーキャピタル 証券会社の子会社 創業期投資にも積極的 限定しない(バイオ系、IT系に積極的) 積極的に経営関与する場合もある(リードインベスターとして投資する企業には積極的に関与する)。 ・SMBCベンチャーキャピタル
・ジャフコ(野村証券系)
・NIF SMBC ベンチャーズ
銀行系ベンチャーキャピタル 大手銀行、地方銀行、信用組合などの子会社 創業期投資(利益が計上されていない段階)には消極的な傾向 限定しない 投資先企業の状況によって異なるが、消極的なケースが多い。 ・みずほキャピタル
・三菱UFJキャピタル
独立系ベンチャーキャピタル 特定資本から独立 特に限定しない 特に限定しない 各ベンチャーキャピタルによって大きく異なるが、対象分野を限定していない場合には、それほど積極的に干渉しない・コンサルティング会社が母体のベンチャーキャピタルの場合には、比較的積極的に関与する。 ・日本ベンチャーキャピタル
・グロービスキャピタルパートナーズ
・Globespan
業種特化系ベンチャーキャピタル 特定の業種に特化 創業期投資にも積極的 IT系、バイオ等、ベンチャーキャピタルごとに投資分野を絞っている(本業とのシナジー効果を追求する傾向がある)。 豊富なビジネス上のノウハウ、ネットワークを活用するなどなど積極的に関与する ・サイバーエージェント
・インフィニティ・ベンチャーズ
・デジタルガレージ
・YJキャピタル

ベンチャーキャピタル(VC)が出資したい企業とは

ベンチャーキャピタルは、キャピタルゲインを得ることを目的としていますから、「キャピタルゲインを得られる可能性が高い企業」が、すなわち「ベンチャーキャピタルが出資をしたいと思う企業」ということになります。
ベンチャーキャピタルは支援を目的としているのではなく、出資することによって儲けることを目的としているからです。

したがって、どんなに黒字の会社でも株式上場できる規模まで成長できないような企業は、出資対象とはなりません。「黒字を出して設けている会社」というだけでは出資をしてもらえないのです。
株式公開(IPO)する可能性があるか、経営者にそれだけの熱意や実績があるかなどを厳しくチェックし、そのうえで出資する会社を選択します。
ベンチャーキャピタルが出資をする際に最も重視する検討事項は、以下の4つです。


(1)株主公開(IPO)の可能性がある
(2)経営者の熱意・理念・実績がある
(3)成長市場である
(4)商品・サービスが差異化されている

(1)株主公開(IPO)の可能性がある

ベンチャーキャピタルは、企業の支援を目的としているのではなく、出資しキャピタルゲインを得ることを目的としていますから、「株主公開(IPO)の可能性があるのか」「それはいつなのか」などがチェックされます。
したがって、どれだけ収益を上げていても、将来株式公開しようと考えていない企業は、ベンチャーキャピタルの投資対象とはなりません。
出資した企業がそれなりに育ったところで株式を売り、その利益で経費を賄い、次の投資に充てるのが、ベンチャーキャピタルのビジネスモデルだからです。仮に上場できなかったとしても、より大きな企業に事業を買い取ってもらうなど、何らかのエグジット(出口)が必要になります。

IPOを目指すとかなりの費用がかかり、時間がかかります。
上場3年前までには、上場予定時期を決定して上場準備室を設置し、監査法人や主幹事証券会社を決定する必要がありますし、申請書類や資産書類を作成する必要があります。

また、証券会社へのコンサルティング報酬や監査法人への監査報酬、申請書類などの印刷代、株式事務代行手数料など、株式上場までにはトータルで数千万円から数億円かかることになります。

さらに、株式公開の可能性がないと判断された場合には、資金回収に走られることもあります。ベンチャーキャピタルから出資を受ける際にはこのようなリスクがあることも十分理解しておくことが必要です。

(2)経営者の熱意・理念・実績がある

経営者、経営陣の質は最も重視されるポイントのひとつです。その分野での実績や経験が豊富か、明確なビジョンがあるか、戦略は適格かなどがチェックされます。
JAFCOや日本アジア投資の社長を歴任した日本のベンチャーキャピタリストの第一人者である今原禎治氏は、成功する起業家の資質として「強い体力」「過剰なくらいの自信」「チャレンジする目標の設定」「リスクを恐れない」「専門家を上手に活用する」「批判を受け入れる姿勢を持っている」などを挙げています。

したがって、経営者や経営陣が魅力的である必要があるのはもちろんですが、著名な経営者に株主になってもらうのも効果的です。すでに上場に成功しているような著名な経営者が出資している企業には、ベンチャーキャピタルが好印象を持つ可能性があるからです。

(3)商品・サービスが差異化されている

製品・商品・サービス・技術・ノウハウが、価格や機能、品質において競争を勝ち抜くだけの価値があるか、差異化が図られているかがチェックされます。
もし自社のターゲットとする市場が小さい場合でも、競争があまりなければ高い収益性を確保できる可能性があります。しかし、だからと言って「競合はいません」と主張するのは、禁物です。アメリカの有力バイアウト会社のパートナーであるリック・リッカートセンは著書の『バイアウト』で、「競争が激しくなくて魅力的な業界は存在しない」と述べています。
したがって、事業計画では新規参入の脅威や業界内の競争業者の敵対関係の強さなどを、しっかり分析しそれでもなお、競争を勝ち抜くだけの力があるということを示す必要があります。

(4)成長市場である

ターゲットとする市場の方向性や、参入のタイミングは適切かどうかが重視されます。市場自体が成長して規模が大きいほど、自社事業も成長する可能性が高いからです。
したがって、ベンチャーキャピタルの審査の前には徹底的な市場調査を行う必要があります。出資を行うベンチャーキャピタルも当然投資対象の市場分析を行っていますから、「当社のサービスは、世の中にまだないものです」とか「競合はほとんどいません」などいうと、市場調査を軽視していると捉えられてしまい、ベンチャーキャピタルからの評価が一気に下がります。

各業界団体のホームページや官公庁のホームページから情報を得たり、シンクタンクの市場調査情報を購入したりして、説得力のある数値に裏付けられた調査データを提示できるようにしましょう。

ベンチャーキャピタル(VC)から出資を受けるプロセス

企業がベンチャーキャピタルから資金調達をするためには、事業計画と資本政策案を作成して、ベンチャーキャピタルとコンタクトをとり、出資を受けるための条件交渉を行い、契約締結する必要があります。

ベンチャーキャピタルからの資金調達プロセスは、主に以下の流れで進みます。

(1)投資案件の発掘

ベンチャーキャピタルは、新聞、雑誌、ネットのプレスリリースから各種メディアから投資案件(ディール)を発掘しています。ただし連絡がきて話をしても、その後何も連絡がなくなったというケースも非常に多いのが実情です。
なお、ベンチャーキャピタルに直接連絡をとる企業もありますが、ベンチャーキャピタルは、ホームページからのアクセスや直接電話をかけてくる会社を好みません。良質な投資案件は、飛込ではほとんど来ないと考えているからです。
したがって、新聞、雑誌、ネットのプレスリリースなどでアピールをしたり、会計士や税理士に紹介を依頼したりして、ベンチャーキャピタルとコンタクトをとるための対策をとる必要があります。

(2)投資案件の審査・評価

ベンチャーキャピタルと接触後は秘密保持契約書(NDA)を取り交わし、事業計画書など投資審査に必要な資料をベンチャーキャピタルに提出して、審査・評価を受けます。自社の取引先に対してリファレンスチェック(側面調査)を求められることもあります。

(3)ベンチャーキャピタルから求められる資料

どのような基準で出資する企業を選定するかは、個々のベンチャーキャピタルによってさまざまですが、定款、登記簿謄本、過去3期分の決算書、事業計画書、資本政策、資金繰り表などさまざまな資料が必要です。

ほとんどの書類は、銀行から借入を行う時にも同様に求められるものなので、経営者としては馴染み深いものが多いと思いますが、事業計画書ではベンチャーキャピタルが知りたいと思っている情報を、効果的にアピールする必要があるなど、いくつかのポイントもあります。

注意点
定款 原始定款と、その後定款変更している場合には、最新の定款も用意する。
登記簿謄本 法務局で、最新のものを入手する。
決算書・税務申告書 法人税申告書は、税務署の受領印が押されたもので、決算書・勘定内訳書も添付されている必要がある。
月次残高試算表 直近月まで用意する。
事業計画書 少なくとも予想損益計算書は作成する。可能であれば予想貸借対照表、予想キャッシュフロー計算書を作成するのが望ましい。
資金繰り表 半年ほどの月次もしくは日時の資金繰り表を用意する。
借入金返済予定表 長期・短期、借入先別に作成する。
資本政策 ベンチャーキャピタルにとって、投資原本がどのように将来成長するかを把握するための資料なので、これまでの株主構成の変化、株価の推移を確認できる資料を用意する。
株主名簿 株主名簿には以下の事項を記載する。
①株主の氏名・住所
②各株主の保有する株式数・種類、株券の番号・記号
③各株式の取得年月日
公認会計士・監査法人のショートレビュー 既に監査法人のショートレビューを受けている場合に必要となる。
自社の製品・サービス・技術に関する説明資料 会社案内のパンフレットや製品・サービスカタログ、新聞や雑誌等に掲載された時の資料
役員の履歴書 社長、役員の履歴書を作成する。
特許等 特許等があれば、その特許明細書、特許調査資料等

これらの資料を提出して数回面談をして、投資を本格的に検討してもらえる状況になったら、デューデリジェンスを受けることになります。
デューデリジェンスとは、投資先の財政状態を調査することです。このデューデリジェンスがスタートする前には、秘密情報を漏らさないなどの契約(NDA)を締結しておくことになります。

(4)投資条件の検討と交渉

審査・評価の結果、前向きに検討することになると、ベンチャーキャピタルと投資額や株価などの交渉を行います。なかでも株式の発行価額は最も重要なポイントです。
上場前の会社の場合には、上場会社のように客観的な株式評価がないので、投資家と会社側との間の交渉で株価が決定します。
この時、株価が低すぎると必要な資金を調達できませんし、高すぎても将来追加増資が必要な時に、協力を得られない可能性があります。

ベンチャーキャピタルと株価交渉を行う際には、すでに公開している同業他社の株価を複数提示して、それらと比較して現時点では自社の株価が決して割高ではないということを説得すると効果的です。

(5)投資決定と投資契約

投資の条件交渉がまとまったら、ベンチャーキャピタルの投資委員会の承認を経て、出資を受けることが決定します。その後ベンチャーキャピタルと投資契約を締結します。
投資契約書には、出資を受ける企業側にとって不利になる規定が入っている可能性もあります。したがって、契約を締結する際には、必ずベンチャーキャピタルに精通している会計士や税理士、弁護士などの専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。

まとめ

以上、ベンチャーキャピタルが投資したいと思う企業についてご紹介しました。
ベンチャーキャピタルが出資をしたい企業は、経営者に魅力があり事業が成長市場にあり、競合他社より魅力がある事業で、株式公開を目指している企業です。
また、審査を受ける前には、多くの資料を提出して何度も面談を行う必要があります。
これらの作業をすべて自社でこなすと、本業に支障が出てしまうこともあります。
ベンチャーキャピタルから出資を受けたいと思う場合には、早めに税理士や会計士に相談し、必要な資料の作成などについてサポートを依頼するようにしましょう。

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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」

クラウド会計ソフトの「クラウド会計ソフト freee会計」が、税務や経理などで使えるお役立ち情報をご提供します。
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