公開日:2019年12月24日
最終更新日:2022年03月18日
一般に、相続対策を行う際には、①円満な遺産分割、②納税資金の確保、③相続税対策の3つの柱を軸として対策を行うべきと言われています。
けれども、この3本柱の対策に十分注意して対策をしたつもりでも、とくに相続財産に不動産が含まれているケースでは、予測できないさまざまな問題が出てくるものです。
相続財産に不動産が含まれる場合には、「不動産の価値が評価しづらい」「不動産を相続人間で分割するのが難しい」など、不動産特有の性質上からトラブルに発展しやすい傾向があります。
総資産に占める不動産比率が高い場合には、納税資金を準備する必要があります。
しかし、相続財産の多くが不動産で十分な預貯金がない場合には、この納税資金を準備することができず、先祖代々の不動産を手放さなければならなくなるケースがあります。
そこで、このようなケースでは早めに不動産の相続税評価を行うことが大切です。
不動産評価は、その利用形態や地積などさまざまな要素によって事情が異なりますが、財産評価を引き下げるために売却や買換え、交換などの資産組み換えを行いながら、どれだけの納税資金を準備すればよいのかを検討しておくことができます。
代々地主のような場合には、借地人との契約が曖昧になっているケースが多くみられます。なかには、正式な契約書も存在せず「先代に、無料で使っていいと言われたから」と借地人が主張してくることも珍しくありません。
そこで、次世代にこのような負担を引き継がないためには、早めに契約内容を確認したり地代を見直したり、場合によっては貸借関係を解消するといった作業が大切です。
不動産を複数の相続人間で分割することができず、一部の土地を分割すると、不動産の価値が低下することがあります。かといって相続人の共有とすれば、今度は売却することが難しくなり、相続人間で相続トラブルに発展することもあります。
つまり、相続財産に不動産が多く含まれる場合には、それだけ相続トラブルのリスクが高いということになります。したがって、生前に遺言書を作成するなどして、どのように不動産を相続させるかを検討しておくことが大切です。
相続税が改正されたこともあり、とくに都市部に持ち家を持っているケースも相続税の課税対象となる可能性が高くなりました。相続税を抑えるためには、貸家を不動産に立てて、貸家建付地として評価の引き下げを行ったり、土地に小規模宅地の特例を利用したりする方法があり、財産評価を引き下げれば、相続税額を軽くすることができます。ただし、そのためにはさまざまな要件を満たす必要がありますし手続きも必要となります。
これまでご紹介したとおり、不動産の相続については、相続トラブルのリスクや納税資金の問題などがあることから、早めに相続対策を行うことが大切です。
ただ、ひとくちに不動産の相続対策といっても、相続人の数や相続人同士の関係性、不動産の価値やその利用状況などによって、必要な相続対策は異なります。
ここでは、不動産を持っている人が検討すべき一般的な相続対策のうち、主な8つの方法をご紹介します。
先祖代々の土地がある場合には「先祖代々の土地は売らずに子や孫に引き継いでいかなければならない」と、保有する土地への執着を強く持っている方も多いでしょう。
しかし、保有する土地に執着し続けると、相続時の税負担によって一族の財産はどんどん目減りしてしまうことになります。
そして、その負担を子や孫にまで押し付けることになりかねません。
そこで、もし保有している土地の収益性が低いなら、固定資産税や維持費などのコスト負担を考えても、売却した方がよいこともあります。ただし、実際に売却するべきか否かについては複合的な観点から十分検討する必要があります。
不動産の相続で最大の課題が、「どのように分割すれば、相続人間のトラブルが起こらないか」です。
土地の分割を避けて特定の相続人に相続させると、他の相続人との間で不公平が生じます。かといって、他の相続人が納得できるだけの現金預金がない場合には、やむなく土地を複数の相続人で共有するケースがあります。
しかし、土地の共有はトラブルの元です。共有者同士仲が良ければ特に問題ないようにも見えるものですが、相続人の事情が変わることはよくあることです。
ある相続人は「売却してまとまった現金が欲しい」といい、別の相続人が「アパートを建てて、安定した収入を得たい」となった場合、その協議がまとまらずトラブルに発展することがあります。
また、共有者である兄弟が亡くなると、土地の権利はそれぞれの子や孫に引き継がれますが、これが世代交代ごとに繰り返されると、「見たこともない人と、土地を共有している」という事態になりかねません。したがって、土地の共有は極力避けるべきであるということができます。
不動産のうち建物は、基本的に建物の固定資産税評価額がそのまま相続税の評価額となりますが、土地には2つの評価方法があります。
まず路線価方式は道路ごとにつけられた路線価によって評価する方法です。その土地の1㎡あたりの路線価に土地面積を掛けて評価額を計算します。なお、計算時には土地の形や奥行などに応じて補正を行いますので、一般的には時価の80%程度となります。
路線価が定められていない土地については、倍率方式により評価します。その土地の固定資産税評価額に、地域や土地の種類ごとに定められた倍率をかけて計算します。
土地や建物の相続についてはまず「不動産の適正な価格」を知り、相続税を軽減させるためにもその評価をどう下げるかがポイントとなります。
たとえば、形が悪い土地や他人の土地を通らないと道路に出られないような土地は、評価を下げることが可能です。
また、賃貸アパートやマンションが建ててある貸家建付地の評価は自用地の評価を下げることもできます。
ただし、評価を下げるという点ばかりを重視して賃貸アパートやマンションが建てても、家賃収入が安定しなければ、手元の現金が流出してしまう事態になりかねません。
どのように評価を引き下げるのがよいかは、相続税対策に精通した税理士に相談して慎重に行うことをおすすめします。
小規模宅地の特例とは、自宅や事業用として使用していた土地で、自分または同居家族の自宅の敷地および自分たちが経営している会社が事業をしている店舗や工場の敷地について、配偶者や後継者が相続する時に、その相続税を軽減しようとする特例です。
被相続人や生計を共にしていた親族が住んでいた土地は、特定居住用宅地として330㎡まで評価額が80%減額されます。つまり、330㎡までであれば、評価額が本来の20%で済むことになります。
事業などで使われていた不動産もこの特例の対象です。被相続人や生計を共にしていた親族が事業を営んでいた土地は、特定事業用宅地として400㎡までの評価額が80%減額されます
この小規模宅地の特例を利用するためには、要件を満たしている必要があり、適用を受けるためには相続税の申告が必要です。早めに税理士に必要な要件を満たしているかを確認するようにしましょう。
相続時精算課税制度とは、相続財産を先渡しして相続時までの税負担を繰り延べる制度です。最終的に相続税を支払う必要がなかった場合には、贈与時の税金は免除されたままで済みますし、2,500万円という非課税枠を活用することができます。
相続税を支払う場合には生前贈与した不動産も相続財産として加算され、相続税が課されますが、この時課税されるのは贈与時の時価で評価されます。
したがって、将来価格が上がりそうな不動産があれば、相続時精算課税制度を使って生前贈与しておけば、相続時の税負担が軽減されることになります。
先祖代々の土地を守るという観点より、「資産価値を維持する」という視点から考えれば、不動産の組み換えを行うことも有効です。
これは、相続税評価が低く収益性の低い不動産を、相続税が低く収益性の高い不動産に買い換えるという方法です。
相続税を軽減したうえ収益性の向上を図ることができますし、賃貸不動産であれば、前述した小規模宅地の特例を利用することができ、被相続人の賃貸アパートなどの敷地については200㎡を限度に50%が減額されるという特例を利用できる場合もあります。ただし、原則として相続開始前3年以内に新たに貸付事業を始めた宅地等は対象になりませんので、早めの検討が必要です。
ローンを組んでアパートを買う相続税対策の手法は、ハウスメーカーなどから提案される典型的な相続税対策です。
賃貸アパートやマンションを建築して財産評価を引き下げ、相続税対策にもなるというわけです。
ただし、借金をしてアパートやマンションを建てれば、土地に銀行の抵当権が設定され、この抵当権についても相続人が承継することになり、この債務は遺産分割に応じて負担することになります。つまり、土地を相続した相続人だけでなく、土地を相続しなかった相続人までこの債務を負担しなければならないことになるのです。ですから、この場合には銀行に対する債務は、土地を相続した人だけが負担するよう事前に手続きを行っておく必要があります。
また、賃貸経営をしていても、賃料の引き下げや空室増加で赤字がふくらみ、借入金の返済のために資金繰りが悪化するケースもあります。特に、地方のアパートやマンションは収益性の低下が低いことをしっかり認識しておくべきです。
所得税は累進税率制度を採用しているため、所得が多ければそれだけ税率も高くなります。そこで、アパートやマンションを建てる場合には、規模によっては法人化を検討するのもおすすめです。
法人を設立し、その法人が借入金によって資金調達を行い、不動産も法人所有とすると、不動産の相続税評価によって株式を生前贈与することができます(ただし、3年経過した後である必要があります)し、受贈者に対して借入金の付いた不動産を軽い税負担で承継することができます。
このように担保となる不動産に借入金が付いているような贈与を「負担付贈与」といいます。負担付贈与とは、第三者などに対して債務を引き継ぐことを条件として、資産を贈与することをいいます。受贈者は、資産をもらう代わりに一定の債務を負担するというわけです。負担付贈与を受けた時には、贈与対象の資産(土地・建物)の通常の取引価額から借入金を差し引いた贈与税が課されますので、節税対策になるというわけです。
以上、不動産の相続に関する問題点や、検討したい8つの相続対策についてご紹介しました。これまでご紹介したように、相続財産に不動産が含まれる場合には「分割しにくい」「納税資金を別途用意しなければならない」など、問題となることが多いものです。
これらのトラブルを回避するためには、税負担を軽くできる特例を利用し、遺言書などを作成して、相続開始後の相続人にトラブルが起きないように検討する必要があります。
そして、その際にはその土地に収益性があるか、収益性がある場合にはどのように評価を下げて税負担を軽くするか、相続人間のトラブルを防ぐためには、どのような準備をすべきかなど、さまざまな視点から考慮することが必要です。
これらの対策は、1年や2年で行うことは難しく、5年10年と長い時間をかけて行う方が効果的です。そして利用できる特例を有効に活用するためにも、早めに税理士などの専門家に相談し、必要な要件等を確認して計画的に相続対策を行うことをおすすめします。
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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」
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