生前贈与|相続時精算課税制度と暦年課税の選択

公開日:2018年11月06日
最終更新日:2022年07月25日

この記事のポイント

  • 暦年贈与と相続時精算課税制度は、併用できない。
  • 相続時精算課税制度は「非課税」ではなく、相続時までの「課税の繰り延べ」。
  • 暦年贈与と相続時精算課税制度は、試算してから選択する。

 

「相続税対策の基本は、生前贈与にあり」と言われるように、相続税の節税対策としては、まず生前贈与を検討することが大切です。

生前贈与とは、被相続人が生きている間に相続人予定者などに財産を贈与することで、大きく暦年課税か相続時精算課税制度の種類があります。

もちろん、生前贈与をしても税金が全くかからないわけではなく贈与税がかかるケースもありますが、中長期計画を立てて上手に活用すれば、将来負担するはずの相続税の負担を軽減することができます。

そして、この生前贈与のうち代表的なのが暦年贈与で、相続時精算課税制度は贈与税の特例制度です。

暦年課税と相続時精算課税制度は、どちらか一方を選択する必要がありますが、どちらが有利かは、財産や個々の状況によって異なります。

そこで、両制度の違いやどちらにどのようなメリットがあるのか、正確に理解し、贈与税と相続税を試算して選択する必要があります。

相続時精算課税制度と暦年課税制度

生前贈与とは、被相続人が生きている間に相続人予定者に対し、財産を贈与することです。生前贈与は、将来相続が発生したときの遺産を減らし相続税を節税することができるだけでなく、相続税の納税資金を確保する意味でも有効なので、よく「相続税対策の基本は、生前贈与にあり」と言われます。

生前贈与として代表的なのが、暦年課税制度で、相続時精算課税制度は贈与税の特例制度です。

暦年課税制度と相続時精算課税制度は併用することができず、どちらかを選択しなければなりませんので、どちらが有利になるかについて、財産の額や被相続人と相続人の関係、家族構成などを踏まえて、慎重に検討していく必要があります。

(1)相続時精算課税制度とは

相続時精算課税制度とは、高齢者が保有している資産を若者に移転して消費を拡大することを目的とした制度で、親から子への生前贈与において一旦贈与税を納め、実際に相続が開始した時点ですでに納めた贈与税額と相続税額を精算する制度です。

60歳以上の親や祖父母から20歳以上(令和4年(2022年)より18歳)の子どもや孫への生前贈与という制限があり、2,500万円を超える贈与が行われた場合には、超過分に一律20%の贈与税が課税されます。

生前の贈与については、2,500万円までの特別控除が認められますが、この特別控除はすべて受贈者の相続税の課税価格に加算されます。その意味で、相続時精算課税制度の特別控除は「非課税」ではなく、相続時までの「課税の繰り延べ」と考えるべきです。

つまり相続時精算課税制度は、制度の対象とした額または祖父母からの贈与財産の価額は2,500万円の特別控除額を含めて、すべてが受贈者の相続税の課税価格に加算されることになります。

相続時精算課税制度を利用したい場合、当初に贈与が行われた年の翌年2月1日から3月15日までの間に贈与税の申告を行い、その際税務署に「相続時精算課税選択届出書」という書類を提出しなければなりません。

(2)暦年課税制度(暦年贈与)とは

暦年課税制度とは、1年間110万円という、贈与税の基礎控除を利用した生前贈与の方法で、「暦年贈与」や「暦年課税」と呼ばれます。
贈与税には、「年間110万円までの贈与分には、贈与税がかからない」という、贈与税の基礎控除があります。
そこで、毎年110万円やそれに近い額の贈与を、長期にかつ計画的に繰り返すことにより、無税で生前贈与を行うことができるというわけです。

年間110万円というと小さな額に思えますが、10年間行えば1,100万円になりますし、1年で10人に贈れば1年で1,100万円の贈与を行うことが可能となります。「2,500万円まで」という制限や贈与する相手に年齢制限のある相続時精算課税制度と比較すると、手軽で誰に対してもできる自由度の高い相続税対策です。

この暦年課税制度は、早く始めればそれだけ多くの金額を贈与することができますが、「贈与をした事実」をしっかりと証明しなければ、定期贈与とみなされ贈与税が課税されてしまいます。たとえ親子や祖父母と孫などの近しい間柄であっても、贈与者と受贈者それぞれがきちんと署名押印して、契約書を作成しておきましょう。
また、「贈与者の口座から受贈者の口座に振り込む」「通帳は、受贈者自身が保管する」「贈与額が110万円を超える時は、必ず贈与税の申告をする」など、慎重な対策も必要になります。

なお、暦年贈与によって生前贈与する場合には、受贈者(贈与を受ける人)が法定相続人の場合には、相続開始前3年以内の贈与は相続分とみなされてしまい、相続税課税の対象となりますので注意が必要です。

(3)相続時精算課税制度と暦年課税制度の違い【まとめ】

これまで相続時精算課税制度と暦年課税制度についてご紹介してきましたが、ここで一度相続時精算課税制度と暦年課税制度の違いをまとめておきましょう。

暦年課税制度 相続時精算課税制度
贈与者 誰からでも可 60歳以上の親・祖父母
受贈者 誰に対しても可 20歳(令和4年(2022年)4月より18歳)以上の個および孫である将来の相続人
基礎控除等 110万円(基礎控除) 2,500万円(特別控除)
相続開始時には、すでに贈与された財産と新たに相続する財産(2,500万円の特別控除額を含めて)を合算して、すでに支払った贈与税額相当額を生産して、残った金額を納める。すでに支払った贈与税の方が多い場合には、差額が変換される。

税率 基礎控除額を超えた額に、税率(10%~55%)の間で課税される。 特別控除額を超えた額に一律税率20%課税される。
申告 基礎控除額を超えた時 初回の贈与時の翌年から相続開始時の年まで
相続時の相続税 暦年贈与された金額は、原則として相続財産に加算されない。ただし、相続開始前3年に受けた贈与財産は相続財産に加算する。 相続時精算課税制度を適用した贈与財産はすべて、贈与時の価格で相続財産に加算をされる。

(4)相続時精算課税制度と暦年課税制度は併用できない

暦年課税制度と相続時精算課税制度は、贈与税を申告する時にどちらか一方を選択する必要があります。そして一度相続時精算課税制度を選択したら、原則として暦年課税制度を選択することはできません。
ただし、父は暦年課税制度、母は相続時精算課税制度という選択をすることはできます。

(5)相続時精算課税制度を選んだ方がよい人

相続時精算課税制度は、贈与財産の合計が2500万円までは特別控除枠がありますが、相続時にはすでに贈与された財産が合算されて精算される「課税の繰り延べ」です。
それでは、相続時精算課税制度はどのような人が活用することができるのでしょうか。

将来値上がりしそうな資産を持っている人
相続税は、被相続人の死亡後の評価額をもとに計算されますが、生前贈与は、いつでも好きな時に贈与ができるので、株式や不動産などの場合であれば、評価額の低いうちに贈与することで、実質的に税負担が軽くなることもあります。

また、親の持っている土地で、将来新駅が設置することが決定し、今後値上がりが確実だというようなケースです。
将来土地の評価額が上がれば、相続税が増える可能性があります。
そこで、評価額が上がる前の低い価額の時に相続時精算課税制度を利用すれば、相続が開始した時に相続時に持ち戻されても、評価額は低い額の時の価額となり、相続税を抑えることができます。

収益物件を贈与する人
収益物件を贈与すると、贈与後に生み出された利益は相続財産とはなりません。
つまり、子どもに収益物件を贈与すれば将来相続税がかかる相続財産を減らすことができ、その後に発生する賃料もすべて子どもが受け取れるようになります。

たとえば、親が賃貸アパートを所有しており毎年1,000万円ほどの家賃収入があるとします。
この時、親がそのままそのアパートを所有し続けていれば財産が毎年1,000万円ずつ増え続けることになるので、その分だけ相続税も増えることになります。

しかしこの賃貸アパートを、相続時精算課税制度を利用して子に贈与したとします。
すると、この賃貸アパートのオーナーは子になり、贈与後の家賃は子どもに入るようになります。
つまり、親の相続財産は以降増えなくなり、相続税も増えなくなるということになるわけです。

評価を引き下げてから贈与する方法もある
財産の評価を下げて、相続時精算課税制度を利用するという方法もあります。
たとえば現金でアパートやマンションなどの収益物件を建設し、それを贈与すれば、現金と比較すると40%程度評価を下げることができて、後に相続が発生した時に相続税を節税することができます。

(6)暦年課税制度を選んだ方がよい人

多くのメリットがある暦年贈与ですが、活用方法を間違えてしまうと、せっかくの苦労が水の泡になってしまうこともあります。
そこで、ここでは、暦年課税制度を選んだ方がよい人と暦年贈与を上手に活用するためのポイントについてご紹介します。

贈与する相手が多く、中長期で暦年贈与できる人
贈与税の基礎控除は110万円ですから、この枠を上手に利用することが大切です。暦年贈与では、毎年110万円までしか無税になりませんので、一気に1人に対して多額の財産を贈与することはできません。
したがって、贈与する人(対象)が多く、期間は長いほど効果あり、5年や10年など、長いスパンで、いかに多くの財産を贈与できるかという計画を立てることが必要です。

相続開始前3年以内の生前贈与は加算されることに注意
暦年贈与によって生前贈与する場合には、受贈者(贈与を受ける人)が法定相続人の場合には、相続開始前3年以内の贈与は相続分とみなされてしまい、相続税課税の対象となります。
そこで、贈与者の死期が近い場合には暦年贈与を避けるか、孫や長男の嫁などの法定相続人以外の人への贈与することが大切です。
法定相続人以外への贈与であれば、相続開始前3年以内の贈与でも贈与として評価してもらうことができます。

相続時精算課税制度と暦年課税制度のシミュレーション

相続時精算課税制度と暦年課税制度を選択する際には、課税のしくみを踏まえ、試算して検討する必要があります。

(1)所有財産価額4,000万円の場合

以下は、所有財産価額が4,000万円で、暦年課税制度で毎年250万円を10年間贈与した場合と、相続時精算課税制度で毎年250万円を10年間贈与した場合でシミュレーションした表です。
このケースでは、相続時精算課税制度の相続税・贈与税の合計税額は40万円で暦年課税制度の相続税・贈与税の合計税額は140万円ですから、相続時精算課税制度の方が有利となります。

暦年課税制度 相続時精算課税制度
生前贈与 贈与額 贈与税 贈与額 贈与税
1年目 250万円 14万円 250万円 0円
2年目 250万円 14万円 250万円 0円
3年目 250万円 14万円 250万円 0円
4年目 250万円 14万円 250万円 0円
5年目 250万円 14万円 250万円 0円
6年目 250万円 14万円 250万円 0円
7年目 250万円 14万円 250万円 0円
8年目 250万円 14万円 250万円 0円
9年目 250万円 14万円 250万円 0円
10年目 250万円 14万円 250万円 0円
合計 2500万円 140万円 250万円 0円
相続税額 0円 1,500万円+2,500万円-4,000万円(課税価格)
4,000万円-3,600万円(基礎控除額=400万円
400万円×10%(相続税率)=40万円
相続税・贈与税の合計税額 140万円 40万円

(2)所有財産価額1億円の場合

以下は、所有財産価額が1億円で、暦年課税制度で毎年250万円を10年間贈与した場合と、相続時精算課税制度で毎年250万円を10年間贈与した場合でシミュレーションした表です。
このケースでは、相続時精算課税制度の相続税・贈与税の合計税額は1,220万円で暦年課税制度の相続税・贈与税の合計税額は828万円ですから、暦年課税制度の方が有利となります。

暦年贈与 相続時精算課税制度
生前贈与 贈与額 贈与税 贈与額 贈与税
1年目 250万円 14万円 250万円 0円
2年目 250万円 14万円 250万円 0円
3年目 250万円 14万円 250万円 0円
4年目 250万円 14万円 250万円 0円
5年目 250万円 14万円 250万円 0円
6年目 250万円 14万円 250万円 0円
7年目 250万円 14万円 250万円 0円
8年目 250万円 14万円 250万円 0円
9年目 250万円 14万円 250万円 0円
10年目 250万円 14万円 250万円 0円
合計 2500万円 140万円 250万円 0円
相続税額 7,500万円+(250万円×3)=8,250万円(課税価格)
※相続開始前3年以内に受けた贈与財産は、相続財産に加算される

8,250万円-3,600万円(基礎控除額)=4650万円
4,650万円×20%(相続税率)-200万円(控除額)=730万円
730万円-(14万円×3)=688万円
※相続開始前3年以内の贈与税分は差し引かれる

7,500万円+2,500万円=1億円
1億円-3600万円(基礎控除額)=6400万円
6,400万円×30%(税率)-700万円(控除額)=1,220万円

相続税・贈与税の合計税額 140万円+686万円=828万円 1,220万円

まとめ

これまで述べてきた通り、暦年贈与と相続時精算課税制度にはそれぞれメリットとデメリットがありますし、一度相続時精算課税制度を選択すると暦年贈与に戻れなくなることから、どちらを選択するかについては、個々の事情や財産の状況、家族構成などを考慮しながら慎重に検討する必要があります。

また、相続時精算課税制度は完全に無税にならず、相続時にまとめて相続税がかかってくること、その際には財産評価の時期が「贈与時」となることから、「どの財産を、いつ贈与することが個々の状況にとってメリットがあるか」がポイントとなります。
どちらにしたらいいのか、いつから始めたらいいのかなど不明点については相続対策に精通している税理士に相談してみましょう。

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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」

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