給与規程(賃金規程)を作成する時のルール(サンプル付)

公開日:2019年07月02日
最終更新日:2022年07月14日

この記事のポイント

  • 給与規程とは、就業規則の「給与」に関する項目を抜粋したもの。
  • 給与に関するルールは、労働トラブルにつながりやすいので明確に決めることが大切。
  • 給与規程を作成するうえでは労働基準法上の賃金に関する定めにも注意する。

 

従業員が10人以上の会社では、就業規則を作成して労働基準監督署長に届け出ることが義務づけられています。
就業規則では必ず掲載しなければならない事項としては、「給与の支払」「労働時間関係」「退職に関する事項」があります。
お金に関するルールは、労働トラブルにつながりやすいため、就業規則では「給与規程」の大まかな内容を記述して、就業規則とは別に給与規程や賃金規程で明確にすることが大切です。

給与規程(賃金規程)とは

給与規程(賃金規程)とは、給与や賃金に関する取り決めを文書化したものです。
常時10人以上を使用する事業場では、就業規則を作成し、所管の労働基準監督署に届け出をすることが義務づけられています。

就業規則には、必ず盛り込まなければならない絶対的記載事項と、制度がある場合には、その内容を記載しなければならない相対的記載事項が決められています。
賃金に関する項目は、絶対的記載事項であり必ず記載しなければなりません(労働基準法第89条)。

(1)給与規程は就業規則とは別にする

給与(賃金、給料、報酬など)の支払に関しては、就業規則では大まかなルールだけを記述して、細かい規定については、就業規則とは別に「給与規程」や「賃金規定」で定めるのが一般的です。
別に定めた給与規程も就業規則の一部になりますので、所轄労働基準監督署長への届出が必要となります。

会社によっては正社員とパート・嘱託社員、その他の臨時社員の給与規程について別に作成することもあります。
労働時間や賃金体系が異なる正社員とパートなどの給与について同じ就業規則でまとめていると、「正社員と同じ待遇だ」と解釈されてしまい、トラブルに発展することもあるからです。

(2)給与規程に記載する事項

給与規程にも、①必ず記載しなければならない事項と、②定める場合には記載しなければならない事項があります。
①必ず記載しなければならない事項としては、「賃金(臨時の賃金等を除く)の決定」「賃金の計算および支払いの方法」「賃金の締切及び支払いの時期、昇給に関する事項」があります。
②定める場合には記載しなければならない事項としては、「退職手当に関する事項」「臨時の賃金等・最低賃金額について定める場合には、これに関する事項」などがあります。

(3)給与規程のサンプル

給与規定は、自社の事情に合致したものを作成する必要があります。
ここでは、厚生労働省の「モデル就業規則」をもとにして、注意すべき点をご紹介します。

※クリックすると、厚生労働省「モデル就業規則」が表示されます。

まず、賃金の構成を示します。
給与は大きく基本給と手当からなります。
基本給とは、給与の基本的な部分で、年齢や能力、職務などに応じて、固定的に支給されるものです。
一方、職務の特殊性や扶養家族、勤務地などの状況に応じて支払われる給与を「手当」といいます。
給与の支払法については、日給制、月給制、年俸制、出来高制など、さまざまな種類がありますし、時間外労働や休日労働、深夜労働については割増賃金が必要です。

法定労働時間を超えて労働させた場合の時間外労働、休日労働および深夜労働については、割増賃金の支払いが必要です。

労働の種類 賃金割増率
時間外労働(法定労働時間を超えた場合) 1.25倍
時間外労働(1ヵ月60時間を超えた場合)
※適用猶予の場合あり
※代替休暇取得の場合は1.25倍の割増なし
1.5倍
深夜労働
(午後10時から午前5時までに労働した場合)
1.25倍
休日労働(法定休日に労働した場合) 1.35倍
時間外労働(法定労働時間を超えた場合)+深夜労働 1.5倍
時間外労働(1ヵ月60時間を超えた場合)+深夜労働 1.75倍
休日労働+深夜労働 1.6倍

上記は、2023年から中小企業にも適用される予定です。

給与規程を作成するうえでの基礎知識

給与規程を作成するうえで必ず知っておかなければならないのが、労働基準法上の賃金に関する定めです。
労働基準法では「賃金支払い5原則」を掲げて賃金の基本原則を示しています。
また、賃金額については、最低賃金法の最低賃金を下回らないように配慮しなければならない旨も規定されています。

(1)賃金支払い5原則(労基法24条)

労働基準法賃金24条では、①通貨で②直接、労働者に③その金額を④毎月1回以上⑤一定の期日を定めて、支払わなければならないと規定しています。
これを「賃金支払いの5原則」といいます。
したがって、年俸制の従業員に対しても1年間の年俸を1度に支払うことはできず、12分割にして月々支払う必要があります。
なお、「①通貨で、②直接、労働者に」の原則については、「労働者の指定する本人名義の口座に振込むこと、所定の期日に賃金全額を引き出すことができること」という条件を満たせば、金融機関の口座に振り込むことが認められます。

(2)休業手当(労基法26条)

労働基準法26条では、使用者(会社など)の責に帰すべき事由によって休業する場合には、使用者は休業期間中、平均賃金の100分の60以上の手当(休業手当)を支払わなければならないと規定しています。
地震や台風で休業する場合には、使用者の責に帰すべき事由ではないので、休業手当を支給する必要はありません。

(3)出来高払い制の保障給(労基法27条)

労働基準法27条では、出来高払い制その他の請負制の労働者に対して、労働時間に応じて一定額の賃金の保障をしなければならないと規定しています。
つまり、従業員の成果が仮にゼロであったとしても、会社は一定額の賃金を支払わなければならないわけです。この「一定額」については、明確な基準が定められているわけではありませんが、前述した「休業手当」に合わせて平均賃金の100分の60以上と設定するケースが多いようです。

(4)最低賃金(労基法28条)

労働基準法28条では、賃金の最低基準に関しては、最低賃金法の定めるところによると規定します。
最低賃金法では、地域別、産業別に賃金の最低限度額が規定されていて、ほぼ毎年金額改訂が行われています。したがって、最低賃金ギリギリの賃金を設定している場合には、必ず毎年最低賃金をチェックしなければなりません。

参照:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」

最低賃金の対象となるのは、基本給と諸手当です。
ただし手当のうち「精皆勤手当」「通勤手当」「家族手当」は、最低賃金の対象から除きます。
基本給を低く抑えて、売上や契約高に応じた比例給部分を高く設定するのか、逆に基本給を手厚くするのかといった点については、会社の方針が特に反映される個所なので、社会保険労務士などと相談しながら、規定するようにしましょう。

(5)給与から天引きするもの

給与規程を作成する際には、賃金から天引きするものについても理解しておく必要があります。賃金から天引きできるものは「法令の定めによるもの」と「労使協定を締結したもの」に区分されます。

法令の定めによるもの
所得税、住民税、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料

労使協定を締結したもの
労働組合費、社宅・寮の使用料、給食費、旅行積立金

(6)労働者名簿と賃金台帳を作成しなければならない

法令では、労働者名簿と賃金台帳の作成をすることと、3年間それらを保存することが義務づけられています。また、労働者名簿と賃金台帳は、雇用保険や社会保険の手続きの時に必要となることがあります。

労働者名簿
従業員が入社したら、労働者名簿を作成しなければなりません。
労働者名簿には、従業員の氏名、生年月日、業務の種類(授業員が30人未満の場合は、記載不要)、雇用した年月日などを記載する必要があります。

賃金台帳
従業員に賃金を支払った際には、賃金台帳を作成しなければなりません。
賃金台帳には、従業員の氏名、性別、賃金計算期間、労働日数、労働時間、時間外労働・・休日労働・深夜労働の時間数、基本給、手当、その他の賃金の額などを記載します。

まとめ

以上、給与規程を作成する際に知っておくべき基礎知識、守らなければならないルールについてご紹介しました。

就業規則や給与規程は、会社を経営していくなかで非常に重要な意味合いを持ちます。
なかには、インターネットのひな形をそのまま使用したり、創業時に慌てて作成した就業規則や給与規程をそのまま流用したりしているケースもありますが、それでは従業員の士気向上につながらないばかりか、万が一労働問題が発生した際に会社を守ることもできません。

就業規則・給与規程は、「最新の法改正への対応による労働問題のリスクヘッジ」「現在の社内事情に合致した内容とモチベーションの向上」の2点から、自社に合った内容をしっかり検討することが必要です。

社内保険労務士などに相談しながら、既存社員の士気向上につながる社内ルールを作成しましょう。

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監修:「クラウドfreee人事労務」

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