公開日:2019年11月02日
最終更新日:2022年07月14日
「名ばかり管理職」の問題は、会社が管理監督者を拡大解釈して運用し、不当に割増賃金の支払いを免れている現象のことをいいます。
名ばかり管理職の問題はずいぶん前から問題視されていましたがが、チェーン展開する日本マクドナルド事件をきっかけに、大きな社会問題として注目されました。
2019年に施行される働き方改革によって、会社は、名ばかり管理職の問題の問題に限らず適正な労働管理を行うことが、ますます求められることになりました。
労働時間・休憩・休日の規定が適用除外される者として、労働基準法41条2号では「監督もしくは管理の地位にある者(管理監督者)」と定められています。つまり、管理監督者に対しては、労働基準法上、時間外労働や休日労働についての割増賃金の支払いが不要ということになります。
しかし、課長や部長といった管理職であればかならず労働基準法41条2号で定められた管理監督者となるわけではありません。それにも関わらず、会社が「管理監督者であるから、残業代は支払わない」として、不当に割増賃金の支払いを逃れようと管理監督者の定義を拡大解釈している場合があります。
これが、いわゆる「名ばかり職」といわれる現象で、大きな社会問題となっています。
2021年(令和3年)8月の厚生労働省の発表によれば、1,551事業場で賃金不払残業があったとされ、このなかには「名ばかり管理職」が多く含まれると見られています。
令和2年4月から令和3年3月までの監督指導結果のポイント 監督指導の実施事業場:24,042事業場 主な違反内容[(1)のうち、法令違反があり、是正勧告書を交付した事業場] 違法な時間外労働があったもの:8,904事業場(37.0%) うち、時間外・休日労働の実績が最も長い労働者の時間数が 月80時間を超えるもの:2,982事業場(33.5%) うち、月100時間を超えるもの:1,878事業場(21.1%) うち、月150時間を超えるもの:419事業場( 4.7%) うち、月200時間を超えるもの:93事業場( 1.0%) 賃金不払残業があったもの:1,551事業場(6.5%) |
前述したように、労働基準法41条2号の「管理職には残業代を払わなくてもよい」という特例を勝手に解釈して、労働者に積極的に役職名をつけ、残業代を支払わない会社があります。
しかし、労働基準法でいう「残業代を支払う必要がない管理監督者」と認められるのは、役職や肩書ではなく、「経営者と一体的な立場である」「地位に見合う報酬を得ている」など、実態から判断されるものです。
つまり、課長や部長は労働基準法でいう「管理監督者」ではないケースが多いにもかかわらず、「課長や部長は、管理職だから残業代を支払わない」とするのが「名ばかり管理職」として問題視されるのです。
名ばかり管理職が問題となった過去の判例でもっとも注目されたのが、日本マクドナルド事件といえるでしょう。
日本マクドナルドの店長が、管理職であるという理由で残業代を支払わないのは違法であると訴えを起こし、裁判の結果会社は「名ばかり管理職」だったことを認め、2年分の未払い残業代など約1,000万円を支払うことで和解が成立しました(平成21年3月東京高裁)。
ロア・アドバタイジング事件は、従業員が会社に対して割増賃金の支払いを求めた事件です。
この判例では「経営者と一体的な立場にある」とは、担当した組織部分が会社にとって重要な組織単位である」などが必要であるとして、広告代理店において企画営業部の事実上の統括者に近い立場にあった労働者の管理監督者が否定され、付加金として700万円などが認められました(平24年7月27日東京地判)。
取締役が時間外労働に対する割増賃金の支払いを求めた事件で、その取締役が管理監督者に当たるかが争点のひとつとなりました。
しかし、この取締役は取締役に選任されていたものの役員会に招かれず、役員報酬も受け取っていなかったこと、工場長という肩書きであったが形式的なものであったに過ぎず、「工場の監督管理権はなかったことから、管理監督者ではない」と認定され、割増賃金の請求が認められました(昭和40年5月22日大阪地裁判決 )。
それでは、そもそもどのような労働者が労働基準法41条2号でいう「管理監督者」に当たるのでしょうか。
この点については、日本マクドナルド事件で、「管理監督者であるか否かの判断においては職務内容、権限および責任に照らして労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか」といった点から考慮すべきであるとしています。
管理監督者であると言えるためには、その業務の内容が労働時間で規制されることがない必要があります。
したがって、「何時から何時まで必ず在社する必要がある」というように勤務時間が拘束されているような場合には、本人の裁量の余地がないとして管理監督者とは認められませんし、遅刻や早退をしたら、給料や賞与が減らされるような場合も管理監督者であるとはいえません。
「責任と権限があること」とは、経営者と一体的な立場である必要があります。
したがって、肩書だけ課長、部長、取締役などがついているだけでは不十分です。あくまで「実態としてそれにふさわしい責任や権限が与えられている」必要があります。
営業上の理由から、セールス担当社員全員に「課長」といった肩書きをつけているケースがありますが、この場合も権限と実態がなければ管理監督者とは言えません。
賃金等の報酬について、基本給や役職手当がその地位にふさわしい待遇が為されている必要があります。たとえば、少なくとも残業代以上の役職手当が支給されていたり、定期給与、ボーナスなどで一般社員より優遇されたりしているなどの措置が取られている必要があります。
参照:厚生労働省「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化」
2019年4月から労働安全衛生法の省令が改正され、管理監督者の労働時間の把握が義務化されました。
これは、いわゆる「名ばかり管理職」の過重労働を抑制する狙いもあります。
管理監督者の過重労働による過労死などが生じた場合には、適切な労働時間管理が行われていたか、そもそも労基法上の「管理監督者」に該当する実質があったかどうかもあわせて問われることになったのです。
会社としては、管理監督者が「名ばかり管理職」に該当しないかはもちろん、管理監督者に関する労働時間管理の方法も見直し、適切な対応をとることが重要となります。
平成29年(2017年)に策定された「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、管理監督者やみなし労働時間制が適用される労働者は対象外となっていました。
しかし、2019年4月施行(中小企業においては2020年4月から適用)の労働安全衛生法の改正においては、管理監督者も労働時間管理の対象となりました。
労働基準法109条では、会社は労働者の労働時間を適正に把握し、労働者名簿、賃金台帳だけでなく、出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録に関する書類を3年間保存しなければならないと規定しています。
2019年の改正で、管理監督者の労働時間を適正に把握するとともに労働時間の記録に関する書類を3年間保存しなければならないとされました。
つまり、平成31年(2019年)4月以降は、会社は上記のような労働時間の適切な把握・労働時間記録の保存を、管理監督者に対しても実施していかなければならなくなりました。
①始業・終業時刻の確認・記録 会社は、労働時間を適正に把握するために、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録しなければなりません。 ②始業・終業時刻の確認および原則的な方法 ③自己申告制により始業・終業時刻の確認および記録を行う場合 なお、自己申告制の場合には、会社が講じなければならない措置として「労働者への十分な説明を行うこと」「時間外労働の上限を設けてそれ以上の申請を認めないこと」など、さらに細かく規定されていています。 ④賃金台帳の適正な調製 ⑤労働時間の記録に関する書類の保存 ⑥労働時間を管理する者の職務 ⑦労働時間等設定改善委員会等の活用 |
以上、名ばかり管理職の意味や名ばかり管理職が違法であるとされる理由、2019年の改正で管理監督者についても労働時間を適切に把握する義務が生じたことなどについてご紹介しました。
経営者には、今後ますます労働時間管理を正しく運用することが厳しく求められることになります。労働時間の管理方法によっては、法違反となるだけでなく、高額の未払い賃金を要求されるなどの労使トラブルに発展する可能性もあります。
会社によって組織や職制はさまざまですから、一律の基準で判断することはできません。管理監督者に当てはまるかどうかについては、労働基準法や労働安全衛生法の内容をふまえ、ケースごとに判断する必要があります。自社の実態に最適な労働時間の管理方法を探すためにも、社会保険労務士などにアドバイスを受け、早めに管理方法や運用方法を決め実行に移すことが大切です。
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