公開日:2019年06月04日
最終更新日:2022年03月27日
職場で働く従業員のメンタルヘルス悪化は、大きな社会問題となっています。
メンタルヘルスが悪化する原因は、人間関係や雇用形態の複雑化などさまざまですが、仕事量が多く拘束時間が多い「過重労働」はとくに中止すべき課題です。
ここでは、職場のメンタルヘルスケアの必要性や会社の責任や行うべき措置、改善方法などについてご紹介します。
厚生労働省が発表した「令和2年労働安全衛生調査(実態調査)」の概況」によると、過去1年間(令和元年11月1日から令和2年10月31日までの期間)にメンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者又は退職した労働者がいた事業所の割合は 9.2%となっています。
参照:厚生労働省「令和2年労働安全衛生調査(実態調査)」の概況」
メンタルヘルス不調は、作業効率の低下につながりますし、生産性にも大きな影響を及ぼします。また、なかには長期休業の必要が生じることもあります。
そして、その従業員だけでなく周囲の従業員の負担も増加することになり、ますます生産性が低下する悪循環に陥ってしまいます。
さらには、休業補償や医療費などの経費がかかることもありますし、損害賠償請求をされるなどのリスクもあります。昨今は、「メンタルヘルス不調の原因は職場である」と考える労働者の増加に伴い、労災請求だけでなく、民事訴訟に発展するケースも増えているからです。
過重労働は、深刻な健康障害を及ぼすことがあります。
過重労働と健康障害について、科学的に立証されているわけではありませんが、過重労働などのストレスは、恒常的に交感神経系と内分泌系を刺激し、アドレナリンやノルアドレナリンの分泌が活発になり、結果的に血圧が上昇して代謝のバランスが悪くなると推察されています。そして、過重労働が原因で、急性心不全や脳血管疾患を発症することもあります。
さらに「精神障害の労災認定の基準に関する専門委員会」では、過重労働とメンタルヘルス不調の因果関係を認めており、過重労働は、身体だけでなくメンタルにも悪影響を及ぼすものと考えられています。
参照:厚生労働省「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」
業務災害とは、労働者が業務中に病気になったりケガをしたり死亡することをいいますが、メンタルヘルス不調はこの業務災害として認められる可能性もあります。
労働者災害補償保険法では、業務障害に該当する場合には労働者に保険金(療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付)を給付することになっています。
※通勤災害については(補償)という言葉がつきません。
労働者の業務災害については、事業者は療養のために必要な費用を、療養補償として労働者に支払わなければなりません。また、労働者が療養のために勤務ができなかった場合には、労働者に対して休業補償を支払わなければなりません。
さらに、労働者に障害が残った場合には、障害補償を行う必要がありますし、労働者が死亡した場合には、事業者は労働者の遺族に対して遺族補償を支払わなければなりません。
メンタルヘルスに関する疾患が業務災害に該当するか否かについては、厚生労働省が発表している「心理的負荷による精神障害の認定基準」という指針が参考に判断されます。
「心理的負荷による精神障害の認定基準」では、労働者の心理に負担がかかる場面が類型化され、さらに心理的負荷の程度に応じて「強」「中」「弱」に分類し具体例を提示しています。
参照:厚生労働省労働基準局「心理的負荷による精神障害の認定基準について」
療養補償 療養補償給付は、労働者が業務災害によってケガ・疾病して療養する場合に支給される保険給付です。治療が必要になった時には、治療費の全額が支給されます。 休業補償 障害者補償給付 遺族補償 |
職場の環境が原因でメンタルヘルス疾患に罹患して長期で休業したり、追いつめられて自殺したりするなどの事態を招いてしまった場合には、従業員から損害賠償請求をされることがあります。
請求される逸失利益や慰謝料の額は極めて高額となる傾向があります。
音更町農業協同組合事件(釧路地裁帯広支部 平成21年2月2日)では、逸失利益、死亡慰謝料、その他の損害により合計1億398万623円の損害賠償を認定しています。
メンタルヘルスケアは決して個人の問題ではありません。
職場全体での取り組みによって、大きな効果が上がるケースもありますし、職場の活性化や効率向上も期待できます。
職場のメンタルヘルスは、職場環境と深く関係します。
職場配置、人事異動などは、人事労務管理者が担うものですが、管理監督者としても、部下の作業環境や労働時間、人間関係などの問題点を発見し、改善に向けた措置をとらなければなりません。
産業医とは、労働者が、健康で快適な作業環境のもとで仕事が行うことができるように、健康管理・指導・アドバイスなどを行う医師のことです。
常時50人以上の労働者を雇用する会社では、産業医を選任して労働者の健康管理等を行わせなければならないこととなっています(労働安全衛生法施行令第5条)。
平成30年(2018年)に長時間労働の是正、多様な働き方の実現を目指した「働き方改革関連法案」では、産業医の「誠実義務」「情報提供義務」「事業者の意見聴取・面接指導の結果の記録」「衛生委員会などへの報告義務」などについて規定しています。
職場のストレスを調査するための種類や方法はさまざまですが、そのひとつが「ストレスチェック」です。
「ストレスチェック」とは、ストレスに関する質問票(選択回答)に労働者が記入し、それを集計・分析することで、自分のストレスがどのような状態にあるのかを調べる簡単な検査です。
「労働安全衛生法」という法律が改正されて、労働者が50人以上いる事業所では、2015年から、毎年1回以上、全ての労働者に対してストレスチェックを実施することが義務づけられました。
ストレスチェックについては、会社としてストレスチェック制度を実施する旨の方針を提示することや話し合って決まったことを社内規程として明文化し、すべての労働者にその内容を知らせなければならないとされています。
なお、ストレスチェックと面接指導の実施状況は、毎年労働基準監督署に所定の様式で報告する必要があります。
以上、職場のメンタルヘルスケアの重要性や、会社の責任、職場環境を改善しメンタルヘルス不調を未然に防ぐための方法などについてご紹介しました。
社会保険労務士には、経営者や労務担当者の間に立ち、職場環境を改善するためのさまざまな施策を提案してもらうことができます。
また、これらの施策を行うための助成金を受給するためのサポートを受けられることもあります。
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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」
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