公開日:2019年11月29日
最終更新日:2024年08月02日
会社の清算を検討する際には、資産と負債の状況を確認し、資産の方が多い段階で清算作業を開始することが大切です。負債が大きくなりすぎて倒産してしまうより、余力のあるうちに会社を清算することを決めた方が、取引先や従業員など関係者への影響を最小限に抑えることができるからです。
この記事では、会社を清算するべきタイミングと会社を清算する際に必要な手順についてご紹介します。
会社を清算する場合には、清算する前に一度M&Aや事業承継を検討することをおすすめします。会社を清算しないで自分以外の人が社長になって、あるいは他社に買収されて、その会社が生きる道もあるからです。
したがって、まずは事業承継やM&Aに精通している税理士に相談して、M&Aや事業承継が可能か検討し、そのうえで会社を清算するべきかを相談しましょう。
たとえ会社をまるごと生かすのが難しいという場合でも、ある部門だけ切り離して分社化してM&Aを進めることも可能です。
税理士に相談したうえで、事業承継やM&Aが難しいとなれば、次に会社を清算するという選択肢を前向きにとらえ、計画的に解散・清算の手続きを進めましょう。
会社法では、会社の解散の原因について、以下の7つを規定しています。
①定款で定めた存続期間が満了すること ②定款で定めた解散事由の発生 ③株主総会で解散を決議した場合 ④合併 ⑤破産手続きの開始の決定 ⑥解散を命じる裁判があった場合 ⑦休眠会社のみなし解散の制度 |
なかでも、もっとも多いのが③株主総会で解散を決議した場合です。
そこで、ここでは株主総会で解散を決議し清算手続きを行うケースについてご紹介します。
会社を清算するためには、大きく「解散」と「清算」という2つのステップが必要ですが、大切なのは、会社を清算するべきタイミングを見極め、営業終了日を決めることです。
営業を終了するという決断は勇気がいるものですから、たいていの場合にはぎりぎりまで頑張ってしまい、結局負債が大きくなり倒産してしまうこともあります。
しかし、事業をやめることは決して失敗ではありません。むしろ会社や経営者、従業員の先行きを見て将来を見極めることについて、成功したともいえるのです。
次へのステップへとつなげるためにも、会社を清算するということを前向きに捉え、計画的に必要な手続きを進めるようにしましょう。
営業を終了させたら、株主総会で解散決議を行い、株主総会の決議書を作成します。また、清算人を選任して解散及び清算人選任の登記をします。通常は解散決議があった日が解散日となりますが、株主総会で特定の日を解散日とすると決めることもできます。
なお、会社法では解散決議をした時点では会社は消滅しません。その後、清算手続きを開始した会社は「清算」という限定された目的の範囲内で法人格をもつことになり(清算株式会社、清算中の会社と呼ばれます)、清算手続きが終了すると法人格が消滅することになります。
※なお、合同会社の解散には大まかに分けて任意解散(定款で定めた存続期間の満了、総社員の同意など)と強制解散(破産手続開始の決定など)があり、それぞれの手続きが異なりますが、総社員の同意に基づいて合同会社を解散する場合には、総社員の同意を得る必要があります。この時作成する「総社員の同意書」という書類は、株式会社でいう株主総会の決議書のようなものになります。
解散決議を行う際には、清算人を選任し、取締役に代わり清算人が中心となって株主総会や監査役が継続することになります。清算人には原則として取締役がそのまま就任しますが、定款や総会決議で別の人を選任してもよく、裁判所が選任することもあります。
この清算人には任期はなく、裁判所が選任した場合以外はいつでも解任することができ、少数株主も解任請求をすることができます。
清算人が解散決議後にすぐ行うべきことは、①解散および清算人の登記の申請と、②債権者に対する官報公告です(※後述)。
また、これと並行して解散日現在の財産目録と貸借対照表を作成し、その内容について株主総会の承認を得ます。
その後、以下の手続きを進めていきます。
①現事業の決了
②債権の取立ておよび債務の弁済
③残余財産の分配
これらの手続きが終わり、清算事務が終了した時に清算人は決算報告を作成して、株主総会の承認を得ます。株主総会で決算報告が承認されると、会社は消滅します。
清算人は、株主総会で決算報告が承認されたときから2週間以内に「生産決了の登記」を申請します。
解散決議をして清算人を選任したら、解散登記および清算人選任の登記をします。
登記は法務局に申請し、あわせて税務署に解散の届出をします。
なお、登記以外にも、ハローワークには「雇用保険適用事業所廃止届」を提出しなければなりませんし、年金事務所には「健康保険・厚生年金保険被保険者喪失届」を提出しなければなりません。
税務や社会保険、労働保険に関わる主な届出については、以下の表にまとめましたので、もれなく手続きを行うようにしましょう。
区分 | 届出内容 | 届出先 | 時期 |
---|---|---|---|
税務 | 異動届出書(解散の届出) | 所轄税務署、都道府県税事務所、市町村役所 | 解散後遅滞なく |
異動届出書(清算結了の届出) | 清算結了後遅滞なく | ||
給料支払事務所の廃止届出書 消費税事業廃止届 |
所轄税務署 | ||
雇用保険 | 雇用保険適用事業所の廃止届 雇用保険被保険者資格喪失届 |
ハローワーク | 事業所を廃止した日の翌日から 10日以内 |
離職証明書 | 廃止届と同時かそれ以降 | ||
社会保険 | 健康保険・厚生年金被保険者資格届 適用事業所全喪届 |
年金事務所 | 事業廃止(解散)、休止(休業) した日から5日以内 |
健康保険任意継続被保険者資格取得申出書 | 被保険者の住所地の協会けんぽ(全国健康保険協会)など | 資格喪失日から20日以内 | |
労働保険 | 労働保健確定保険料申告書 労働保険料還付請求書 |
労働基準監督署 | 事業所を廃止した日の翌日から 50日以内 |
許認可 | 廃業の届出 | 所轄行政機関(飲食店など保健所など) | 行政機関によって異なる |
商工会 業界団体など |
退会届 | 各加入団体 | 廃業後すみやかに |
国が発行する官報で、解散したことを公告します。
公告期間は2カ月以上設ける必要があり、異議がある場合にはその旨を申し出るよう通知します。
債権者に対する公告で定めた債権申出期間の経過後、債権者に債務を弁済します。そして弁済後に残った財産があれば、株主に分配します。
会社の解散・清算作業では、少なくとも2回の確定申告が必要です。
1回目の確定申告は、解散登記をした解散後2カ月以内に行う「解散事業年度の確定申告」、2回目の確定申告は、「清算事業年度の確定申告」です。さらに、会社の解散の日から1年以内に残余財産が確定しない場合は、解散の日から1年ごとに清算中の事業年度の確定申告が必要です。これらの確定申告の意味や手続きについては、後ほど詳しくご紹介します。
したがって、解散登記をしたら2カ月以内にまずは解散確定申告を行うことになります。
解散確定申告は、通常の事業年度の開始日から解散日までの期間の確定申告です。解散日とは、株主総会で解散の決議がされた日となります。
資産と負債を整理し、関係者に真摯に対応します。
取引先や外注先への対応については、まず仕入先の数を減らし支払い計画を立てます。そして営業終了日と支払いの目途が立ったら、できるだけ直接会って「会社を清算する」ということを伝えます。メールで簡単に伝えられる時代だからといって、最低限のモラルは守るようにしましょう。
もし代金の支払いが遅れる可能性がある時には、そのことも正直に伝え、真摯に対応するようにしましょう。少しでも相手を避けるような行為を行ってしまうと、それが取引先の心証を悪くしてしまい、新たにビジネスをスタートする時に協力者になってくれなくなってしまいますので、十分な配慮を心がけましょう。
①売掛金 売掛金はどうしても残ってしまうというケースは多いものですが、売掛期間が4カ月以上と長く、清算スケジュールに影響が出るような場合には、清算業務にあたって換金化を急ぎたい旨を伝え、支払いを早くしてもらうよう依頼してみましょう。 ②有価証券 ③保険 ④在庫 ⑤預け金・保証金 ⑥不動産 ⑦知的資産 |
資産を換金して最終的に残余財産が発生した場合、株主に配当として分配されることになります。その時に資本金を超えるほど残余財産があると、みなし配当として会社は約20%の源泉徴収をすることになり、高額の課税がかかることがあります。
そこで、必ず税理士に相談して節税対策を検討してください。
たとえば、退職金を支給すると、一定額までは経費として認められますし、個人への所得税についても退職金は勤続年数に応じて控除額が増えます。
退職金には退職所得控除という控除額があり、通常よりも税金が優遇され、勤続年数20年以下の部分は1年あたり40万円、21年目以降は1年あたり70万円の控除があります。
また、社長自ら清算人になっている場合には、解散を決議し清算活動を行っている間は役員報酬をもらい続けることもできます。清算期間がどれだけ長くなるかにもよりますが、経費計上を上手に活用して可能な限り節税を行うようにしましょう。
残余財産が確定したら、清算事業年度の確定申告を行います。期限は、残余財産確定日の翌日から1カ月以内です。
なお、清算作業が1年を超える場合には、清算事業年度の確定申告も必要になります。さらに長引けば1年ごとに毎年この確定申告を行う必要があります。
残余財産確定作業が終了したら、1カ月以内に清算確定申告を行います。これが、会社にとって最後の確定申告となります。
清算結了の登記は、法務局に申請します。
この時、あわせて税務署などへの清算結了の届出を行う必要があります。
参照:法務局「株式会社清算結了登記申請書」 |
会社を清算する際の税務申告は、「解散確定申告」「清算事業年度確定申告」「清算確定申告」の順で行います。
解散確定申告は、従来の事業開始年度から解散が確定した日までの会社の事業に関する確定申告です。
「解散が確定した日」とは、株主総会で解散の決議がされた日のことです。
会社の清算をする場合には、従来の事業開始年度から解散の日までが1事業年度となるため、この事業年度につて確定申告が必要となります。
清算事業年度の確定申告とは、解散後の残余財産確定作業が1年以上に及ぶ場合に必要な申告です。
残余財産とは、会社の借金などの負債をすべて清算した後に残る会社の財産をいいます。残余財産確定作業とは、会社財産を確定するまでの一連の作業のことで、資産価値のあるものは売却して現金化し、売掛債権については回収します。
このような残余財産確定作業が1年以上に及ぶ場合には、解散の日の翌日から1年の期間を1事業年度とするため、その期間の確定申告が必要となります。
残余財産確定事業年度の確定申告とは、残余財産の確定作業を終了した日から1カ月以内に行う確定申告です。
残余財産が確定する事業年度に限って、当期の事業税についてもその事業年度の損金として処理することができます。
これが、会社の最後の確定申告となります。
以上、会社を清算する時に必要な手順や確定申告についてご紹介しました。
会社を清算する時に最も大切なのは、早めに決断して余裕のあるスケジュールを立て、必要な手続きを順番にこなしていくことです。
なかには、会社を清算する決心がつかず、迷いに迷ってぎりぎりまで頑張ってしまうケースもありますが、慌てて手続きを進めても、取引先や従業員などに迷惑をかけてしまうばかりです。それに最悪の場合には、清算する前に倒産してしまうこともあります。
会社を清算するべきタイミングは、自分では判断しづらいものですが、清算する前にM&Aを検討した方がよいケースもあります。ぜひ早めに税理士に相談してアドバイスを受けることをおすすめします。
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