公開日:2024年06月21日
最終更新日:2024年06月21日
売価還元法とは、スーパーやコンビニなどの小売業で認められる棚卸資産の評価方法です。
スーパーやコンビニでは、多くの種類の商品を多量に販売しているため、売価から棚卸資産の評価額を求める方法が認められています。
売価還元法とは、一定時点で保有する棚卸資産の価額を計算する方法です。
性質が似ている商品をグループにして、その商品の期末の売価の合計額に原価率を掛けたものを、棚卸資産の価額とします。
棚卸資産の評価方法は、事業の種類や棚卸資産の種類、その性質や使用方法などを考慮した区分ごとに、継続して適用する必要があります。
棚卸資産の評価方法としては、ほかに個別法、先入先出法などがあります。
個別法
同じ種類の棚卸資産でも、取得原価が違う棚卸資産を区別して、その個々の原価によって期末棚卸資産の価額を算定する方法です。
個々の棚卸資産が明確に区別できる必要があり、宝飾品など個別性の強い棚卸資産に適した評価方法です。
先入先出法
期末棚卸資産は最も新しく取得されたとみなし、期末棚卸資産の価額を算定する方法です。
平均原価法(移動平均法・総平均法)
取得した棚卸資産の取得価額の平均を計算して、この平均原価によって期末棚卸資産の価額を計算する方法です。
移動平均法は、受入れがあるたびに平均原価を計算する方法で、総平均法は、一定期間が経過した後に経過期間の平均原価をまとめて計算する方法です。
売価還元法は、大まかな評価方法なので、極めて多品種の棚卸資産を取り扱う小売業などで使用されます。
スーパーなどの小売業では、多くの種類の商品を多量に販売していますから、個別法を適用するのが困難なのはもちろん、先入先出法や平均原価法の適用も現実的には難しいでしょう。
そこで、売価から棚卸資産の評価額を求める売価還元法が認められているのです。
売価還元法は、商品単品ごとの厳密な受払管理が必要とならないので、事務負担が大幅に軽減されます。また、その他の評価方法(個別法、先入先出法、平均原価法)によって期末商品を算定するためには、商品の個々の購入と販売に関する詳細なデータ管理が必要となるため多額のシステム投資が必要ですが、売価還元法は、このような多額のシステム投資が必要ありません。詳細な記録や複雑な計算を必要とせず、特に小規模な事業者にとっては経済的な在庫管理手法といえます。
売価還元法では、棚卸減耗損について単品ベースでは把握することができないため、管理目的としては十分でないというデメリットがあります。
近年では、情報システム技術が発達してきたことから、小規模事業者にとっても移動平均法などの採用が可能となっています。
売価還元法には、グループごとの原価率を計算し、売価合計額に乗じることで原価合計額を算出します。この原価率の計算方法には、連続意見方式と法人税方式の2種類があります。
上場企業では、連続意見書第四に示されている売上還元平均原価法が採用されているケースが多く、中小企業等では法人税方式による売価還元法が採用されているケースが多い傾向があります。
連結意見書方式による売価還元法平均原価法
原価率 = 期首繰越商品原価+当期受入原価総額 期首繰越商品小売価額+当期受入原価総額+原始値入額 +値上額-値上取消額-値下額+値下取消額 |
この計算式は一見複雑ですが、分子は前期から繰り越された商品と当期に仕入れた商品の合計額を示しており、分母は前期から繰り越された商品の販売価格での評価額と販売して実際に得られた金額の合計額を示しています。
法人税方式による売価還元法平均原価法
原価率 = 期首棚卸価額+当期仕入高 当期売上高 +期末棚卸資産の通常の販売価額 |
法人税方式は、商品のアウトプット側の売価の方が、インプット側の売価と比較して把握しやすい数値であるという実務上の簡便性を重視している計算方法で、期末在庫帳簿価額、および売上原価を計算すると、盗難やロスなどによる棚卸減耗損に関する原価が期末在庫と売上原価に按分されます。
法人税方式は、連続意見書方式より合理性が乏しく簡便性を重視している計算方法といえますから、適用する際には慎重な対応が求められます。
売価還元法を採用する場合には、品目ごとにグループ分けするのではなく、品目が異なっても値入率(※①)や回転率(※②)が類似するものでグループ分けして計算します。
※①値入率
値入とは、仕入れた商品に利益を加えて、その商品の販売価格を求めることで、値入率とは、その加えた利益の売価に対する比率です。
値入率(%)=(販売価格-原価)÷販売原価×100 |
※②回転率
回転率とは、会計期間の間に販売される棚卸資産の金額が、保有している棚卸資産の金額の何倍にあたるかを示す指標で、回転率が12回転とすると、その棚卸資産は1年間で10回転するといい、その棚卸資産を1カ月分保有していることを示します。
回転率(回)=(販売価格-原価)÷販売原価×100 |
同一グループ内で回転率が高く値入率が低い商品と、回転率が低く値入率が高い商品が混在している場合、グルーピングの精度を向上させるためにグループを細分化することが求められます。
グルーピングする際には、範囲を大きく取り過ぎると原価率の異なる品目が1つのグループに含まれてしまい、適切な期末在庫価額、売上原価が算定できなくなってしまいますので注意が必要です。
一方で、原価率の類似性を厳密にしてグルーピングの範囲を小さく取り過ぎると、事務手続きが複雑になってしまい、せっかくの売価還元法のメリットがなくなってしまいます。
したがって、グルーピングの範囲を設定する際には、適切な原価算定の観点と事務処理手続きの両面から慎重に検討することが大切です。
法人税方式を採用した場合には、税務上の調整は必要ありませんが、連続意見方式を採用した場合には税務上、棚卸資産の特別な評価方法を採用したとして、納税地の所轄税務署長の承認を得なければなりません。
売価還元法を採用している場合でも、在庫評価(収益性の低下の反映)は、正味売却価額と比較して、簿価の切下げを行う必要があります。
商品グループ別の正味売却価額合計と、売価還元法によって算定されたグループ別の期末在庫帳簿価額を比較して、収益性が低下している場合には、正味売却価額まで簿価の切り下げを行います。
簿価切下額=商品グループ別の正味売却価額合計(※)-商品グループ別の売価合計額×売価還元法による原価率 |
※商品グループ別の正味売却価額合計は、「商品グループ別の売価合計-(見積追加製造原価+見積販売直接経費)で計算します。
正味売却価額を算定する場合には、過去の実績や将来予算から計算した見積販売直接経費率を商品グループ別の売価価額に架けたり、売上数に掛けたりする方法が考えられます。
売価還元低価法を採用している場合は、この計算によって算定された期末在庫帳簿価額は、すでに収益性の低下を反映した簿価価額とみなすことができます。
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