法人成りの手続き一覧

公開日:2019年09月05日
最終更新日:2023年10月17日

この記事のポイント

  • 所得が増えると、法人成りした方が税額を抑えることができる。
  • 法人成りの手続きは、大きく4つのステップに分けられる。
  • 法人成りする時には、税理士などの専門家に相談した方がメリットは大きい。

 

個人事業主として事業を行っていて、その後事業が成長してくると、法人成りを検討するものです。一般的には、個人の所得が500万円を超えたあたりから、法人成りを意識するとよいでしょう。
ただし、法人成りするためには法人登記費用がかかりますし、社会保険にも加入しなければなりませんので、これらのコストとのバランスも理解しておく必要があります。
この記事では、法人成りするメリット・デメリットや法人成りの際に必要な手続きについてご紹介します。

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法人成りとは

個人事業主で事業が順調に成長し、一定規模以上の利益が出るようになると「会社形態にした方が、有利なのではないか」と考えるようになるものです。
このように、個人で行っていた事業を会社形態で行うことを「法人成り」といいます。

ただし、法人成りするということは、社会的な信用を受けると同時に責任も負う存在になるということです。したがって、前もって取り決めておくべき事項や手続きがたくさんありますし、個人事業主の資産や負債をどう引き継ぐのかも検討する必要があります。

(1)法人成りするメリット・デメリット

法人化すると、社長自身に給与を支払うことができるので、給与所得控除で節税することができます。また、配偶者控除や扶養控除などを適用することもできますし、退職金をもらうこともできます。したがって、利益が順調に増えたり消費税の課税事業者になったりすると、法人にした方が節税できることがあります。
また、法人になると対外的な信用度が高いため、取引先が増えますし、資金調達の面でも有利になります。
利益がどのくらい出れば法人成りした方が得なのかについては、個々の事情にもよりますが、一般的には、個人の所得が500万円を超えたあたりから、法人成りを検討するとよいでしょう。

ただし、法人成りすることは良いことばかりではありません。
たとえば、法人成りするためには登記費用がかかります。
この登記費用は平均して約25万円かかり、設立後に本店を移転したり代表者が引越しをしたりすると、その都度登記が必要となり登録免許税がかかります。

また、法人の場合には赤字であっても法人住民税の均等割が最低7万円程度かかります。また、個人事業主の場合5人以上の人を雇用すると社会保険の加入義務がありますが、法人の場合には、社長1人でも社会保険の加入義務があり、その経費を負担することになります。

法人成りをする時には、これらのメリット・デメリットを比較することが大切です。

個人事業主 法人
資本金 不要 必要
設立費用 不要 必要(株式会社の場合25万程度)
決算期 12月31日 好きな月に決めて良い
確定申告 3月15日 決算日より2カ月
社会保険 従業員4人以下なら加入不要 社長1人でも加入義務あり
資金調達 不利 有利
赤字などの繰越欠損 青色申告なら3年間 9年間

「個人事業主が法人成りする10のメリットと5のデメリット」を読む

(2)法人成りの主な流れを知っておこう

法人成りをするためには、さまざまな手続きが必要です。
法人成りの主な流れは、以下のとおりです。

STEP1「株式会社の設立」
会社を設立します。
資本金の払込や定款の作成・認証、登記手続きなどが必要です。

STEP2「資産等の移行」
個人事業主から売掛金、棚卸資産などの資産等を会社に移行します。

STEP3「会社設立後の各種届出」
税務署や都税事務所等に、届出を行います。

STEP4「個人事業の開廃業届出」
個人事業の廃業手続きを行います。

法人成りのSTEP1「株式会社の設立」

法人の設立は、登記申請すれば完了するわけではなく、登記申請をする前に資本金の払い込みが必要ですし、定款の認証を受ける必要もあります。また、登記以外にもさまざまな届出等の事務手続きが必要となります。

(1)重要事項を決める

商号や本店所在地を決めます。商号は個人事業主時代の屋号を引き続き使用することができますが、商号には一定のルールがありますし、類似商号の事前調査を行なうことも必要です。
また本店所在地も、貸主に法人契約に移行が可能かどうか、事前に確認する必要があります。

(2)印鑑証明書の取得・代表印の作成

会社の設立手続きには、個人の印鑑証明書が必要となるので、事前に取得しておきましょう。
また、会社の代表印を作成します。印鑑も大きさなどにルールがありますので、事前に確認しておきましょう。

「会社の印鑑|会社設立時に必要になる印鑑と印鑑の押し方ルール」を読む

(3)定款の作成・認証

定款を作成する
定款とは、会社のルールを記載したものです。定款には必ず書かなければならない事項があります。また、決めておいた方が後々のトラブルを避けられることもありますので、どのようなことを記載するのかしっかり検討することが大切です。

「定款とは|記載方法・注意点(サンプル付)」を読む

定款の認証を受ける
定款は、作成すればそれで効力が生じるわけではありません。
定款を作成したら、公証役場で認証を受ける必要があります。

(4)資本金を払い込む

資本金とは、会社の元手となるお金です。資本金は1円でも設立できるからといって、本当に1円とすることはおすすめできません。資本金1円で会社を設立すると、いきなり債務超過の状態になってしまいますし、資本金は設立後に経費にすることができるからです。しかし、資本金は多ければ多いほどメリットがあるともいえません。資本金は1,000万円と1億円のラインで税務上の扱いが変わるからです。
したがって、資本金の額を決める際には、設立後に経費がいくらかかるか、税法上のメリットは何かなどについて、確認しておくようにしましょう。

「資本金とは|資本金の額で税負担はどう変わる?」を読む

(5)登記の作成・申請・登記事項証明書の取得

登記を作成する
定款の認証を受け、資本金の払い込みが完了したら、いよいよ登記申請書の作成です。
登記申請書はそれだけ提出すればよいものではなく、さまざまな書類を添付する必要があります。どのような書類が必要になるかは、会社の機関設計によって異なりますので事前に確認をしておきましょう。

登記を申請する
本店所在地を管轄する法務局で登記申請手続きを行います。

登記が完了
登記は、登記申請からおおむね1週間ほどで完了します。
登記が完了しても、法務局から連絡がくるわけではありませんので、申請する際に登記完了予定日を確認しておきましょう。

登記事項証明書・印鑑証明書を取得する
会社名義で口座を開設する場合などは、会社の証明である登記事項証明書・印鑑証明書が必要となります。登記事項証明書・印鑑証明書は、法務局で取得することができます。

会社の設立手続きについては、以下の記事で詳しくご紹介しています。
あわせてご覧ください。

「法人設立の10ステップ|設立費用・登記の方法・必要書類ほか」を読む

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法人成りのSTEP2「資産等の移行」

個人事業から法人成りする時には、事前に個人事業で使用していた財産などを会社に移す作業が必要になります。
どのようなものをどのように引き継ぐのか、よく検討して手続きを進めましょう。

(1)資産や負債の引継ぎ

個人事業主として所有していた資産(車や備品)、負債を会社に引き継ぐか、引き継がないかを決めて、手続きを行います。
個人事業の売掛金については、会社を設立したあとも個人事業主の売掛金として回収することができますが引き継ぐ場合には、手続きが少し複雑になるので、専門家に手続きを依頼するのもよいでしょう。

個人事業主の在庫がある場合には、その在庫は個人事業でしか販売することができませんので、すべての在庫を販売するようにしましょう。
買掛金や借入金も、可能であれば前倒しで支払って精算しておきます。

在庫を処分できない場合には、個人事業と会社で売買契約を締結し、個人事業で使用していた財産を売買することになります。売買すると利益が大きい資産などについては、多額の所得税がかかってしまうため、賃貸借契約を締結するのもおすすめです。

(2)各種契約の変更手続き

取引先には、個人事業から会社に変更になったことを速やかに連絡します。
また、事務所や店舗、工場などを個人として賃貸借契約している場合や、水道光熱費の契約なども、社長個人から会社名義に変更し、引き落とし口座も法人口座に変更します。

(3)個人事業主の確定申告

法人成りしても、個人事業主として最後の年度の確定申告をする必要があります。
しかし、個人の財産を会社に移した場合には、原則として時価で譲渡したものとみなされ、所得税や住民税の対象となります。

たとえば、帳簿価額150万円の機械を会社に200万円(時価)で現物出資した場合、200万円-150万円=50万円に所得税や住民税がかかります。
個人に対する所得税や住民税は、財産の種類に応じて計算方法がかわります。
棚卸資産は「事業所得」となりますし、建物や土地は「譲渡所得」となり、それぞれ計算方法が異なります。

個人から会社に移す財産の種類が多く計算方法が複雑で分かりにくいので、税理士に相談することをおすすめします。

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法人成りのSTEP3「会社設立後の各種届出」

法人成りの場合、今まで個人事業主として行ってきた事業を廃業し、新たに会社として事業をスタートすることになります。個人事業主から法人成りする時には、個人事業主の廃業に伴う手続きなどが必要になります。また、登記した後もさまざまな届出等の事務手続きが必要となります。

(1)税務署に提出する書類

税務署に提出する届出書は、以下のとおりです。

法人設立届出書:
設立の日から2カ月以内に提出します。

給与支払事務所等の開設届出書:
設立後1カ月以内に提出します。

源泉所得税の納期の特例の承認に関する承認書:
原則として、適用を受けようとする月の前月までに提出します。

青色申告の承認申請書:
設立の日以後3カ月を経過した人設立第1期事業年度終了の日とのいずれか早い日の前日が期限です。

棚卸資産の評価方法の届出書
減価償却資産の償却方法の届出書:

設立事業年度の申告期限までに提出します。
届出がなかった場合には、棚卸資産については最終仕入原価方が法定評価方法となります。減価償却資産については原則として定率法が適用されます。

消費税課税事業者選択届出書:
課税事業者をあえて選択する場合には、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までです(開業初年度は、その年の年末まで)。

(2)その他官公庁に提出する届出書

税務署以外にも、都道府県税事務所や年金事務所、労働基準監督署などに届出書の提出が必要な場合があります。
それぞれ添付書類がことなりますので、届出の前に窓口で確認をしておきましょう。

【都道府県税事務所】
都道府県税事務所には、以下の届出書を提出します。
定款の写し(コピー)、登記事項証明書、株主等の名簿、設立時の貸借対照表などが必要です。
法人設立等届出書:
設立の日から1カ月以内に提出します。

事業開始等申告書:
事業開始の日から15日以内です(東京都の場合)

【年金事務所】
年金事務所には、以下の書類を提出します。
届出書を提出する際には、登記事項証明書、建物賃貸借契約書写、労働者名簿、出勤簿(タイムカードでも可)、賃金台帳及び源泉徴収簿、就業規則・源泉所得税領収書等、現金出納簿、年金手帳などが添付書類として必要です。

健康保険厚生年金保険新規適用届:
健康保険厚生年金保険保険料納入告知書送付(変更)依頼書:
適用事業所となった日から5日以内

健康保険厚生年金保険被保険者資格取得届:
健康保険被扶養者(異動)届:
採用日から5日以内

第3号被保険者にかかる届出:
被扶養者がいる場合

【労働基準監督署】
労働基準監督署には、以下の届出書を提出します。
届出書を提出する際には、登記事項証明書、労働者名簿、賃金台帳、給与明細、出勤簿等(タイムカードでも可)などが必要になります。

労働保険保険関係成立届:
労働保険関係が成立した日の翌日から10日以内

労働保険概算保険料申告書:
労働保険関係が成立した日から50日以内

適用事業報告:
就業規則届(従業員が10人以上の場合)

すみやかに

時間外労働・休日労働に関する協定届:
(時間外労働、休日労働をさせる場合)

すみやかに

【ハローワーク】
ハローワークには、以下の届出書を提出します。
届出書を提出する際には、登記事項証明書、労働保険保険関係成立届(控)、労働者名簿、源泉徴収簿、出勤簿、雇用保険被保険者証等が、添付書類として必要になります。

雇用保険適用事業所設置届:
適用事業所となった日の翌日から10日以内

雇用保険被保険者資格取得届:
従業員を雇用した日の属する月の翌月10日まで

法人成りのSTEP4「個人事業の開廃業届出」

法人成りして、すべての業務を会社で行い、個人としての事業を行わなくなった場合には、個人事業の廃業手続きを行います。

(1)税務署に提出する書類

税務署へは、以下の届出書を提出します。

個人事業の開廃業等届出書:
廃業の日から1カ月以内に、住所地を管轄する税務署に提出します。

青色申告の取りやめ届出書
給与支払事務所等廃止届出書
消費税の事業廃止届出書:

個々の状況に応じて、必要な届出書を住所地を管轄する税務署に提出します。

所得税の予定納税額の減額申請書:
※法人成りして個人の所得が下がった場合に予納額を減らしてもらう手続きです。
予定納税額は、前年の税額を基準に計算されるため、事業を廃止して前年より所得が大幅に下がっていると、納税負担が重くなります。
このような場合には、「所得税の予定納税額の減額申請書」を提出して承認されれば、予定納税をしないで済みます。

(2)その他官公庁に提出する届出書類

労働基準監督署、ハローワークでも届け出が必要となる場合があります。

【労働基準監督署】

労働保険確定保険料申告書:
廃止から50日以内に、申告します。

【ハローワーク】

雇用保険適用事業所廃止届、雇用保険被保険者資格喪失届:
廃止から10日以内に届け出ます。

雇用保険被保険者離職証明書(離職票が必要な場合):
廃止届と同時(それ以降でも可)に提出します。

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まとめ

以上、個人が法人成りしたら行うべきさまざまな手続きについてご紹介しました。
法人成りする時には、さまざまな手続きが必要ですが、あわせていつのタイミングで会社設立すべきか、資産や負債をどう引き継ぐか、資本金の額はどうするかなど、検討すべき事項も多いものです。設立時期や資本金の額については、法人成りした後の税額に影響することもあります。設立後に事業を順調に成長させるためにも、顧問税理士などのアドバイスを受けて適切に手続きを進めていきましょう。

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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」

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