飲食店の開業で必要な届出は?開業資金はどう用意する?

公開日:2023年10月20日
最終更新日:2023年10月20日

この記事のポイント

  • 飲食店を開業するためには、飲食店営業許可のための手続きが必要。
  • 飲食店は、初期費用がかかるビジネスなので、いかに初期費用を抑えるかが大切。
  • 飲食店経営では、飲食店の儲けのしくみを正しく理解することが大切。

 

飲食店は、開業率の高いビジネスですが、その反面、廃業率も高いビジネスで、業種別の廃業率の調査では常に上位となっています。
中小企業庁の「2021年版「小規模企業白書」 第3節 開廃業の状況」によれば、業種別の開業率・廃業率ともに1位は「宿泊業,飲食サービス業」となっています。

参照:中小企業庁「2021年版「小規模企業白書」 第3節 開廃業の状況」

とくに未経験での開業は、経験者と比較するとどうしてもリスクが高くなります。
この記事では、未経験で飲食業を開業する際に必要な知識や手続き、そして飲食業を成功させるために必要なポイントなどについてご紹介します。

 

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飲食店の開業スケジュール

飲食店の開業は、開業しようと決めてから半年以上かかるケースがほとんどです。なかには、店舗探しから店舗工事などの事情から1年以上かかることもあります。
また、開業計画では、事業計画や資金契約を策定する必要がありますし、メニューの検討や食器、機器の選定、プロモーションなど、やるべきことがたくさんあります。

(1)何を「どう売るか」を考える

飲食店を開業したいと思ったら、「どんなお店にしたい」というイメージが先走りがちですが、大切なのは「何を、どう売るか」を考えることです。
たとえば、同じ「そば屋」でも、立ち食いそばならファストフードですが、そば懐石ならレストランになります。
また、カフェと喫茶店も厳密には違います。喫茶店は、美味しいコーヒーを出すことがメインですが、カフェは居心地の良い空間で時間を過ごすことがメインです。
このように、同じメニューでも「どう売るか」によって、店舗選びや初期費用が大きく変わるものであり、それが事業計画に大きく関係してきます。

したがって、まずは「何をどのように売るのか」を明確にするようにしましょう。

(2)個人事業か法人かを決める

飲食店の開業は、個人事業主としてスタートするのか会社を設立してスタートするのかを考えなければなりません。
フランチャイズに加盟するという方法もありますが、この場合も個人として加盟するか法人として加盟するかを決めなければなりません。

会社を設立すると、税金面や融資、信用面など多くのメリットが挙げられますが、個人事業と比較すると経理作業が煩雑になるというデメリットもあります。

まずは個人事業から始めて1軒目のお店を成功させ、事業が上向きになってきたら会社を設立する(法人成り、といいます)というのも良いですし、最初から目的をもって会社を設立するのも良いでしょう。

目安としては、所得(収入-必要経費)が500万円を超えるようであれば、会社を設立した方が、節税につながると言われています。
もちろん、個々の状況によっても異なるので、迷ったら税理士に相談してアドバイスをもらうことをおすすめします。

 

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(3)店舗形態を決める

キッチンカーの開業が増えている
飲食店を開業する場合、必ずしも店舗を構える必要はありません。
最近は、キッチンカーで飲食店を開業する人も増えています。キッチンカーは店舗を構えるより初期投資の金額を抑えることができるというメリットがありますが、天気に左右されますし、出店場所を確保しなければなりません。道の路肩に停めて営業する場合には、管轄する警察署に道路使用許可の申請をする必要があります。また、道路の使用許可とは別に道路占用許可の申請をする必要もあります。
これらの申請は、なかなか通らないことも多く、最近は土地の所有者の了解を得たうえで駐車場などの私有地を利用するケースも増えています。

店舗選びは要件を決め、焦らないこと
店舗型の場合は、場所の心配が必要なく、天気にもそれほど左右されないなどのメリットはありますが、出店費用が高く家賃などの固定費も多くかかります。
また、店舗物件探しは、「どのような場所で」「どんな物件にするか」を決めたうえで、たくさん情報を集めてたくさん見るのが基本です。要件が決まっていないと、業者に相談してもよい物件を紹介してもらうことはできません。
なかには、1年以上かけて思い通りの物件を探したケースもありますから、焦って今ある物件から探さず、じっくりと検討しましょう。

飲食店を開業する際には、これらのことを準備段階で十分検討することがとても重要です。

立地選びは、業態やコンセプト、競合の数などを調査する
飲食店を開業する場所の立地は、周辺の人口構成、道路の交通量、住居地域からの距離や交通機関、競合する店舗の状況、不動産価格などから判断します。
店舗の内装やメニューは変えることができても、立地はそうかんたんに変えることができませんから、「人通りが多い」「駅に近い」といった、単純な理由で出店を決めずに、店舗の業態やコンセプトが立地に合っているかを十分検討する必要があります。
人通りや多く、駅に近いオフィス街に居酒屋を開業しても、すべてが大繁盛するかといとそんなことはありません。なぜなら、このような人気エリアにはすでに居酒屋が多いからです。
いくら需要があっても、その需要を大きく上回る供給がすでにある場合には、そのエリアで新規開業しても商売を成立させるのは難しくなります。
したがって、あえて商圏を少しずらしたり、店前の交通量や通行量を調査したりするなど、十分な検討が必要になります。
総務省では、各自治体統計調査データを公表しており、出店を計画しているエリアの市場規模を把握できるようになっています。また、主要な幹線道路では、自動車交通量の調査データも公表されています。
ただし、通行量はただ多ければよいというわけではありません。通行している人に、自店がターゲットとしている人たちがどれくらい含まれているかを知ることも重要です。
これらのデータを元にして、さらに現地調査を行ったうえで、立地条件を把握するようにしましょう。

(4)開業費用の目安を決める

飲食店を開業するためには、①初期費用、②店舗工事等でかかる費用、③調理器具や食器、申請手数料などの開業するうえで必要となる費用と大きく3つに分けることができます。
とくに、①と②は多額になることが多いため、必ず相見積もりをとって値引き交渉も検討します。

開業資金は、まずは自己資金を用意するのが基本です。
しかし、開業資金のすべてを自己資金で賄うのは難しいでしょう。
そこで不足分は、金融機関からの融資を検討します。
はじめて飲食店を開業しようとする場合には、銀行からの融資は難しいため、日本政策金融公庫等からの融資を検討するのがおすすめです。
しかし、その場合にも自己資金が重要なチェックポイントとなります。
たとえば、開業時の融資を受ける際には「創業資金の3分の1以上の自己資金がある人」といった要件がある場合がほとんどです。
したがって、飲食店の開業を目指す人は、まずは最低でも開業資金の3分の1以上の自己資金を用意することを目標にしましょう。

(5)開業に必要な手続き・届出を知る

飲食店を開業するためには、食品衛生責任者や防火管理者の資格が必要です。

食品衛生責任者
栄養士、調理師等の資格を持っている人は、食品衛生責任者資格を取得できますが、これらの資格を持っていない人は「食品衛生責任者養成講習」を受講することで資格を得ることができますので、各都道府県の食品衛生協会で講習日程等を確認して、受講する必要があります。

営業許可取得
店舗を管轄する保健所に申請をして、営業許可証を取得する必要があります。
営業施設の基準には、すべての業種で必要となる共通基準と、業種ごとに異なる特定基準が定められていますので、事前に問い合わせて確認しておきます。

まずは保健所で事前相談を行いますが、物件を新しく借りて改装工事を行う場合には、工事の前に設計図面を持参して相談します。
この時、内装工事の事業者に同伴してもらうとスムーズに進みます。
居抜き物件の場合には、現状を図面に起こして相談します。

申請に必要な書類としては、営業許可申請書、図面、食品衛生管理責任者の資格証明書ですが、専門的な知識が必要となる部分も多いので、かならず専門家に相談してから作成してください。

消防署の検査・警察署への届出
このほか、火器を使用する厨房設備があり、不特定多数の客が出入りする飲食店では、消防署の検査も受けなければなりません。消防署の検査では、店舗の設計から防火設備までの検討が必要となりますし、深夜12時以降にお酒を提供する場合には、警察署への届け出が必要です。

また、飲食店に限りませんが新しく事業をスタートさせる際には、諸官庁などに必要な手続きを行わなければなりません。
手続きは、個人事業主の場合と会社設立の場合で異なります。
以下は、個人事業主と会社設立(法人)の手続きをまとめたものです。

区分 提出先 種類 備考

税務署 法人設立届出書 設立の日から2カ月以内に提出
定款の写し、規則又は規約の写し等の添付書類が必要
参照:国税庁「内国普通法人等の設立の届出」
青色申告承認申請書 青色申告したい時に提出。
設立3カ月を経過した日、最初の事業年度終了日のうち、いずれか早い日の前日まで
参照:国税庁「青色申告書の承認の申請」
給与支払事務所等の開設届出書 従業員を雇用する際に提出。取締役への給与支払いも対象となる。
給与支払事務所等を設けた日から1カ月以内。
参照:国税庁「給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出」
棚卸資産の評価方法の届出書 法人税では、届出がない場合には、最終仕入原価法を選択したとみなされる。
参照:国税庁「棚卸資産の評価の方法」
減価償却資産の償却方法の届出書 提出しなかった場合には、定額法が自動的に適用される。ただし定率法を選択した方が、初年度の税負担を軽くすることができる。
参照:国税庁「減価償却資産の償却方法の届出」
都道府県税事務所 法人設立・設置届出書 各都道府県による



個人事業の開業・廃業等届出書 事業を開始した日から1カ月以内。
参照:国税庁「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
青色申告承認申請書 青色申告をしたい時に提出。
事業を開始した日から2カ月以内(事業開始の日が1月1日から1月15日の場合には、3月15日)。
参照:国税庁「所得税の青色申告承認申請手続」
給与支払事務所等の開設届出書 従業員を雇用する際に提出。
給与支払事務所等を設けた日から1カ月以内。
参照:国税庁「給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出」
棚卸資産の評価方法の届出書 提出しなかった場合には、定額法が自動的に適用される。
ただし定率法を選択した方が、初年度の税負担を軽くすることができる。
参照:国税庁「棚卸資産の評価の方法」
都道府県税事務所 事業開始等申告書 各都道府県による

また、年金事務所で健康保険・厚生年金保険、労働基準監督署で労災保険、ハローワークで雇用保険の手続きが必要です。

提出先 種類 必要な書類 手続き 備考
年金事務所 健康保険・
厚生年金保険
①新規適用届
②被保険者資格取得届
③法人の場合は、履歴事項全部証明書または登記簿謄本、応身番号指定通知書等のコピー
④個人の場合は、世帯主全員の住民票
届出は5日以内。
法人はすべて加入が必要。
個人は、従業員5人以上の場合に加入する(一部のサービス業は任意加入)が、従業員5人未満の場合は、任意加入となる。
保険料は会社と従業員で折半して負担。
40歳以上は、65歳なるまで介護保険料が徴収される。
労働基準監督署 労災保険 ①保険関係成立届
②概算保険料申告書
①は、保険関係が成立した翌日から10日以内。
②は、成立した翌日から50日以内。
飲食店の場合には、雇用保険と労災保険(労働保険)を同時に手続きに行う。
法人も個人も従業員を雇用すると適用事業者となる。





雇用保険 ①雇用保険適用事務所設置届
②雇用保険被保険者資格取得届
①は、設置の翌日から10日以内。
②は、資格取得の翌月10日まで。

(6)飲食店が儲けるしくみを理解する

飲食業は、廃業率の高い業種のひとつです。
廃業理由はさまざまですが、多くは運転資金に困って廃業したケースのようです。
飲食店で成功するためには、「飲食業が儲かるしくみ」を理解して、お金の管理をきっちり行うことが大切です。

まずは、売上の計算方法です。
売上は、大まかに「客単価×客数=売上」で計算します。

客単価 × 客数 = 売上

しかし、この売上がすべて儲け(利益)となるわけではありません。この売上から経費を差し引いたものが利益です。
そしてこの利益も、損益計算書上は①売上総利益(粗利)、②営業利益、③経常利益、④税引前当期純利益、⑤当期純利益の5つに分けられます。
損益計算書の5つの利益には、それぞれ意味がありますが難しく考えるより、まずは利益がどのように計算されるかを理解することが大切です。
以下は、損益計算書をシンプルにしたものです。

売上高 ① 150万円
売上原価 ② 50万円
売上高総利益(粗利)①ー②=③ 100万円
経費 家賃 15万円
人件費 30万円
水道光熱費 7万円
その他 15万円
合計 ④ 67万円
営業利益 ③ー④=⑤ 33万円
営業外損益 支払利息⑥ 2万円
経常利益 ⑤ー⑥=⑦ 31万円

①売上高は150万円で、それに対する②売上原価(原材料等)は、50万円です。つまり、50万円で仕入れた食材を使って、調理をして販売した結果、150万円売り上げたということです。

売上高-売上原価=売上総利益(粗利)
150万円-50万円=100万円

③売上総利益は「粗利」とも言われる利益で、売上高から売上原価を差し引いた利益であり、商売の大元となる利益です。

次に経費を見ていきます。
家賃、人件費、水道光熱費など、飲食店を経営するうえで必要な経費は、合計67万円です。
売上総利益から、これらの経費を差し引いた残りの利益を⑤営業利益といいます。営業利益は、一番重視すべき利益で、食材を仕入れて調理した料理を、お客さんに販売するという一連の流れで得た利益ということになります。

売上総利益(粗利)―経費=営業利益
100万円-67万円=33万円

事業を行う上では、本業で稼いだ利益の他に、本業とは関係ないところで発生する収益や費用もあります。⑥支払利息は本業以外の費用であり、これを差し引いた利益が⑦経常利益で、営業利益とともに重視される利益です。

営業利益―営業外損益=経常利益
33万円-2万円=31万円

この経常利益に、臨時的に発生した特別損益をプラスマイナスした利益が、税引前当期純利益で、税引前当期純利益から税金を差し引いた利益が当期純利益で最終的な利益です。

利益のしくみを理解したら、次は経費の中身です。
飲食店の経費では、原材料費、人件費、家賃が多くを占めます。
飲食業界でよく使われる用語に「FLコスト」と言葉があります。Fは「food(原材料)」で、Lは「labor(人件費)」を意味します。
つまり、飲食店で成功するためには、このFLコストをしっかりと管理して適正な数字となることを目指す必要があります。

原価の高い高級飲食店ほど原材料費は高くなりますが、原材料費率は、一般的には30%以内を目指します。
そして人件費も、業態によって異なりますが一般的には30%以内を目指します。

先ほどの事例で見て見ると、売上原価は50万円で売上高は150万円なので、原材料費率は33%となり、目標の30%以内を目指すべきであることが分かります。
一方、人件費は30万円で人件費率は20%であり、目標の30%以内をクリアしていることが分かります。

なお、飲食店では家賃も高くなりがちです。
一般的には、家賃は売上の10%以内、できれば8%以内にするとよいと言われています。
先ほどの事例では、家賃は15万円であり10%以内であり目標数値をクリアしています。

家賃や人件費(固定費)などは、開業した後では減らすことが難しいものですから、開業前に十分な検討が必要です。

飲食店では、これらの経費以外にも水道光熱費やナプキンや割りばしなどの消耗品、広告宣伝費、保険料、通信費など、さまざまな経費がかかります。これらの費用は努力次第で減らすことができるものなので、常に適正な金額となるように管理することが大切です。

また、「儲かるか」「損するか」のラインを知っておくことも、重要です。
この儲かるか損するかのラインを「損益分岐点」といい、お店を運営するうえでの最低限必要な売上を把握することができます。
損益分岐点は、以下の記事で詳しくご紹介していますので、ぜひ併せてご覧ください。

▶ 損益分岐点とは|計算式は?損益分岐点売上高を達成する方法は?

(7)メニューを考える

メニューは、「どのようなお客さんをターゲットとして、どのような利用目的で、何をどのように、いくらで提供するか」を、しっかりと検討して決めます。悩んだあげくにメニュー数が増えて「何でも屋」になってしまうと、食材が増えて効率が下がってしまいます。

また、メニューは少ない原材料で多くのメニューをつくれるように構成して、原価率をコントロールできるようにします。

メニュー数は、なるべく少ない方がよいというのが大原則であり、とくに、はじめて開業する場合には、メニュー数はなるべく限定するべきですが、あまりにメニュー数が少なくても、お客さんに満足してもらえない可能性もあります。
その場合には、お客さんの反応を見ながら、徐々に増やしていくことを検討しましょう。

次に、価格設定です。
先ほど原材料費率は、一般的には30%以内とご紹介しましたが、価格設定でもこの数値を目指します。
そしてライバル店の客単価を調査して、価格設定の方針を固めてメニューの価格を決定していきます。

飲食店は食事をするところですから、個々のメニューの価格より「客単価」を重視します。
たとえば「食事とドリンクの合計額」です。この額が満足できる金額できる価格設定とするわけです。
カフェであれば、ランチタイムの客単価を1,200円と設定し、フード、ドリンク、デザートの構成で考えてみます。
1,200円と設定すると、たとえばドリンクが250円、フード700円、スイーツ250円という価格を構成できることになります。1つ1つの価格をもう少し高く設定し、ランチセットなら1,200円というような工夫をすると、客単価のばらつきをなくすことができます。

(8)店舗工事等を行う

飲食店は、キッチンカーで始めるにせよ店舗を構えるにせよ、設計と工事が必要となります。
店舗物件の場合には、内装と外装に関する工事が必要です。計画段階で早めに信頼できる店舗設計者を探し、発注する施工業者を決めるか設計者に一任する方法が一般的です。

業者は、すでに同業種で店舗経営をしている知人からの紹介や、不動産業者からの紹介、インターネットで検索するなどの方法で決めるケースが多いようです。
いちばん信頼度が高いのは、すでに同業種で店舗経営をしている知人からの紹介でしょう。
ただし、未経験で業界に参入する場合には、内装業者を紹介してもらうのは難しいでしょう。その場合には、不動産業者から紹介してもらうか、インターネットなどで検索することになります。

業者を選ぶ際には、お客様とスタッフが使いやすいレイアウトや快適な雰囲気、衛生的で安全なキッチンスペースなどをきちんと提案してくれるか、電気、ガス、上下水道などの設備関連の処理について安心して任せられるかを見極めることが大切です。

なお、実際に工事を進める場合には、複数の内装業者で相見積もりをとることをおすすめします。相見積もりをとるときは、見積もりの項目をそろえて比較しやすいようにします。
まずはA社に見積もりを出してもらい、単価の部分を隠したうえで、B社、C社に単価を入れてもらうようにすると、見積もりを比較しやすくなります。

(9)スタッフを採用する

オーナーとその家族を中心に、アルバイトやパートを使った経営を行うケースもありますが、将来的に店舗数を増やしたいと考えているのであれば、優秀なスタッフを確保して、多少時間がかかってもていねいに育成して、ゆくゆくは店舗経営を任せられるような体制をつくり上げる必要があります。
したがって、スタッフを採用する場合には、このような視点からも踏まえて楽しく新規開業の苦労を共にしてくれるようなスタッフを探したいものです。

飲食店の場合、たいていは2人以上のスタッフが必要になります。
通常は、飲食店は営業時間が長いため、交代制で店舗を運営しなければならないからです。
営業時間が長くない場合でも、調理と接客という2つの業務を1人でこなすことはできないですし、スタッフが1人しかいなければトイレに行くことも、急に必要になった買い出しに行くこともできなくなってしまいます。そう考えると、やはり2人以上のスタッフが必要になるケースは多いでしょう。

スタッフの求人は、インターネットや求人誌、店頭での貼り紙などさまざまな媒体を活用します。
採用をするうえでは、労働条件を明示しなければなりません(労働基準法15条)。
具体的には、以下の労働条件を明らかにしたうえで、書面で交付することが義務づけられています(労働基準法施行規則5条1号~4号の1、厚生労働省令)。

①労働契約の期間
②就業場所、業務内容
③始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇、交代制勤務のローテーション、残業の有無
④賃金の決定、計算・支払の方法、締切、支払いの時期
⑤退職に関する事項(解雇事由も含む)

飲食店は、季節や時期によって労働時間が長くなったり短くなったりすることが多いので、③始業・終業時刻の記載については、「業務の都合により、労働時間を延長または短縮することがあります」と添え書きしておくことが必要です。
また、正社員雇用以外は、雇用期間更新の際に、営業の状況や本人の勤務状況などから、賃金の増減などの労働条件の変更があることも明記しておきましょう。

さらに、アルバイトなどの「短時間労働者」を雇用する場合には、①昇給の有無、②退職手当の有無、③賞与の有無、④相談窓口の有無についても雇用通知書等で提示することが求められています。

スタッフを雇用する際には、後々のトラブルを防ぐためにも、事前に専門家に相談することをおすすめします。

(10)プロモーションを行う

開業したばかりの売上を大きく左右するのが、プロモーションです。
はじめて飲食店を開業する場合には、「まずは無事にオープンさせよう」としてしまい、プロモーションがついつい後回しになりがちです。
しかし、開業直後はプロモーションに最適の時期です。開業に合わせて集客・販売施策を練っておかないと、最良のプロモーション時期を逃すことになってしまいます。
したがって、開業に合わせて余裕をもって作戦を立てておきましょう。

①認知してもらう
まずは、多くの人にお店を知ってもらう必要があります。
開業前にできるプロモーションの方法としては、「工事をしている様子を見せる」という方法があります。一般的には、シートをかけて中が見えないように工事を進めますが、あえて隠さずに工事の様子を見せて、お店が出来上がっていく過程を見せるわけです。
「どんなお店ができるのかな」と興味を持ってもらえば、それ自体がプロモーションになります。
この時、「○月○日オープン」と書いた看板を設置すると、より宣伝効果が高まります。

また、プレスリリースを活用するのも効果的です。最近は、低価格でプレスリリースを配信してくれるサービスが増え、工夫次第でメディアに記事として掲載される可能性が高くなりました。
掲載される内容によっては、大きな集客効果が期待できます。

②集客する
実際には、認知と集客のプロモーションは同時に行われるケースも多いですが、プロモーション活動では、認知と集客は分けて考えることが大切です。
たとえばクーポン付きのチラシを配る場合でも、相手がお店のことを知っている場合と知らない場合には、効果は大きく違ってきます。
すでに知っているお店なら、「いつか、このクーポンで行ってみよう」と思うかもしれませんが、まったく知らないお店なら、まずはどんなお店か調べてみるのではないでしょうか。
そのような場合には、クーポンだけでなくキャンペーンやイベントを企画するなどして、店の特徴を十分にアピールする必要があります。

グルメサイトに登録する方法も、集客には有効です。まずは無料のサービスに登録したりユーザーとして利用したりしてから、しっかりと使いこなせるようになることが大切です。
有料のツールを利用する場合には、費用対効果をよく検討し、無理のない方法で始めるようにしましょう。

飲食店の開業よくあるQ&A

飲食店を開業するうえでは、これまでご紹介した開業の基礎的な知識以外にも、知っておくべき知識が多々あります。
ここでは、飲食店を開業するうえでよくある質問について、ご紹介します。
※よくある質問については、今後適宜追加していく予定です。

(1)インボイス制度、どう対応する?

2023年10月からインボイス制度がスタートしました。
インボイス制度のスタートにより、原則として「適格請求書発行事業者」以外からの課税仕入れについては、仕入税額控除を受けられなくなります。

仕入税額控除とは、預かった消費税額から支払った消費税額を控除する制度のことです。
適格請求書は、消費税の課税事業者でありかつ登録申請をした場合にしか発行することができませんから、飲食店の場合も免税事業者からの仕入については、仕入税額控除ができなくなり、仕入税額控除を受けられなくなると、仕入で支払った消費税を控除することができなくなってしまいます。
制度の開始から6年間は経過措置が設けられていますが、自身がどのように対応すればよいのか、どのような手続きが必要なのかについては、税理士等に相談する方がよいでしょう。

(2)HACCPに沿った衛生管理とは?

令和3年6月1日から、HACCPに沿った衛生管理が必要となりました。
これにより、飲食店では「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を導入することになります。
HACCPとは、食中毒を発生させないための食品の管理方法のことで、食品の安全性を確保するうえで、かならず実施しなければなりません。
飲食店では、調理場やトイレの清掃、従業員の手洗い等などをはじめとした手引書が、厚生労働省のホームページから取得できます。

衛生管理計画の策定や、その計画に基づく実施、実施状況の確認や記録などが必要になります。

参照:厚生労働省「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」

(3)飲食店経営で保険は加入すべき?

「飲食店を経営するうえでは、どのような保険に加入すべきか」については、想定されるリスクを明確にしたうえで、選ぶ必要があります。
たとえば、店舗で火災が起きれば、オーナーから損害賠償請求を受けるリスクがありますし、食中毒トラブルが発生すれば、お客様に補償をしなければなりません。

店舗火災に備える保険としては、火災保険がありますが、通常の保険では自社が被った損害しか補償されません。ただし、特約でオーナーからの賠償請求についても補償の対象とすることが可能です。

食中毒トラブルに備える保険としては、生産物賠償責任保険が挙げられます。提供した飲食物に異物が混入した場合にも、通常はこの保険で補償されます。

従業員の労務事故に備える保険としては、労災上乗せ保険と呼ばれる保険があります。これは労災保険で賄えない賠償金(慰謝料、休業損害など)を補てんしてくれる保険です。

最近は、上記のさまざまな保険を組み合わせてパッケージにして販売されているものも多いので、補償内容を十分に確認したうえで加入することをおすすめします。

(4)利益が出るかどうかの損益分岐点って何?

飲食店を経営していくうえで、利益が出るかどうかは非常に重要です。
この「利益が出るかどうかの境目」を損益分岐点といい、その時点の売上高を「損益分岐点売上高」といいます。
「利益が出るかどうかの境目」とは、利益も出ない代わりに損もないという状態ですから、この損益分岐点売上高を知ることで「いくらの利益を得るためには、いくら売り上げればよいのか」を知ることができます。

損益分岐点売上高を計算するためには、まず経費を固定費と変動費に分ける必要があります。
固定費とは、売上にかかわらずかかる経費のことで、家賃や社員の給料などが該当します。
変動費とは、売上によって金額が変わる経費のことで、水道光熱費や食材などの原材料費、アルバイトなどの人件費などが該当します。
そのうえで、以下の計算式で計算します。

損益分岐点売上高=固定費÷(100%-変動費率)

たとえば、家賃などの固定費が付き30万円、原材料費などの変動費率が70%という場合では、以下のように計算します。

損益分岐点売上高=30万円÷(100%-70%)=100万円

つまり、月に100万円以上の売上がないと赤字になってしまうということです。
したがって、より多くの利益を獲得しようとするなら、この損益分岐点を低く設定できるような経営を行う必要があります。
具体的には、売上を高めるとともに固定費はなるべく抑え、変動費はコントロールできるようにする…などの工夫で、損益分岐点を低く設定することが可能となります。

(5)経営状態をタイムリーにチェックするには?

経営状態をチェックする書類としては、まず損益計算書があります。
損益計算書とは、貸借対照表とともにその会社の経営状態を知るための重要な書類で、飲食店に限らずどの会社でも作成しています。
損益計算書には、売上高、売上原価、販売費及び一般管理費などの項目があり、どのように利益を獲得したのかが段階ごとに表示されています。
ただし、一般的な損益計算書だけでは、飲食店の経営に生かすことは難しいといえるでしょう。
そのようなときにぜひ活用していただきたいのが、「クラウド会計ソフト freee会計」のレポート機能です。

たとえば収益レポートでは、今月の売れ筋商品の確認や、売上が多い月をひと目で確認することができます。

また、費用レポートでは、今月の仕入・経費の内容などを、グラフで確認することができます。

「クラウド会計ソフト freee会計」は、クラウドでデータを税理士等と共有することができるので、レポートで不明点や疑問点があったり課題があったりすれば、すぐにアドバイスを受けたりサポートを受けたりすることができます。
 

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まとめ

「自分のお店を持ってみたい」という夢を叶えるためには、「元手となるお金はいくら必要なのか」「不動産業者や内装業者と、どう交渉すればいいのか」「価格はどう決めればいいのか」「よいスタッフを採用できるだろうか」など、希望とともにさまざまな不安や疑問点をひとつひとつクリアにしていかなければなりません。
そもそも「何から手をつければいいか分からない」という場合も、少なくないでしょう。
飲食店の開業は、自分1人ですべてのことを決めて実行するのは負担が大きく、また誤った判断や行動につながるリスクもあります。

そんな時に必要となるのが、相談できる相手です。一番の相談相手は家族ですが、その他にもさまざまな分野で知識を持つ人たちがブレーンになってくれれば、これほど心強いことはないのではないでしょうか。
たとえば、飲食店の開業や経営にノウハウをもつ税理士は、いざという時に幅広いネットワークを活用し適切なアドバイスをもらったり、節税対策や税務申告などについてサポートをしてもらったりすることができますし、行政書士には、開業手続きで必要な書類作成をサポートしてもらうことができます。
ぜひ、頼れるブレーンを見つけて、あなたの夢を叶えてください。

飲食店の開業について相談する

freee税理士検索では、数多くの事務所の中から、飲食店の開業や開業後の経理システムの構築や節税対策などについて相談できる税理士を検索することができます。
また、コーディネーターによる「税理士紹介サービス」もあるので併せてご利用ください。

税理士の報酬は事務所によって違いますので、「税理士の費用・報酬相場と顧問料まとめ」で、税理士選びの金額の参考にしていただければと思います。
 

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「飲食店の出店にあたり店舗設計をパートナー会社依頼致しました。
・お酒の販売免許に関する質問です
「これから飲食店の立ち上げを予定しており、ワインの販売と飲食店の経営を行いたいのですが、ワインの販売と飲食店は同じ店舗や敷地の中で行っても違法にはならないのでしょうか?
・飲食店と事務所の併用について
「個人事業(白色申告)で飲食店経営をしようと考えております。

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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」

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