公開日:2019年11月19日
最終更新日:2024年04月11日
運転資金とは、会社が事業を続けていくうえで必要となる資金のことをいいます。
運転資金に余裕がある場合には資金繰りを考慮する必要はありませんが、運転資金が不足しそうな場合には、早めに必要な運転資金を把握して資金調達することを検討しなければなりません。
運転資金の豆知識
事業を行ううえでは、売上債権の発生と回収、仕入債務の発生と支払、借入金の発生と返済など、信用取引であることから、現金の収支が複雑になっています。たとえ会計上の利益が出ていても、売掛金の回収ができず期末の経費が支払えなければ、「勘定合って銭足らず」の状態となり、最悪の場合黒字倒産してしまいます。
このようなリスクを回避するためには、現金の残高だけ見るのではなく、キャッシュ・フローの金額をモニタリングすることが大切です。
キャッシュ・フロー計算書は、営業活動によるキャッシュ・フロー、投資活動によるキャッシュ・フロー、財務活動によるキャッシュ・フローの3つに区分して収支を表す表です。
キャッシュ・フロー計算書を作成することで、運転資金を短期的に見える化し、目先の資金不足を回避するための資料となりますので、バランスのとれた経営を目指すことができます。
キャッシュ・フロー計算書は、中小企業では提出・開示義務はありませんが、会社の実体を捉え、利益計画や経営計画を策定するうえで、非常に有効です。
ぜひ税理士に相談して、キャッシュ・フロー計算書の作成を依頼してみてはいかがでしょうか。
会社が事業を続けていくうえで必要な資金を「運転資金」といいます。
具体的には、店舗やオフィスの家賃や、仕入代金、広告宣伝費、交通費、水道光熱費、通信費、接待交際費などが該当します。
事業継続に必要な資金ということから「必要運転資金(資本)」と言われることもあります。
ちなみに、当期末の運転資金と前期末の運転資金の増減を「増加運転資金」といいます。一方、流動資産(現金をのぞく)から、流動負債を控除したものを「正味運転資金(資本)」といいます。
運転資金を計算する方法はいくつかありますが、ここでは、「仕入をして販売して回収する」というビジネスの流れから、簡単に売掛金、在庫、買掛金の3つの項目をチェックする方法をご紹介します。
売掛金 得意先との通常の取引によって生じた営業上の未収代金のこと 在庫 買掛金 |
在庫を仕入れるためにはそれだけの資金が必要ですし、それを販売しても売掛金を回収するまでは資金は入ってきません。
そこで、「ビジネスを回していくうえでどのくらいの資金が必要なのか」という運転資金を、貸借対照表に表示される「売掛金+在庫-買掛債務」で計算することができます。
運転資金 = (売掛金 + 在庫) - 買掛金 |
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この運転資金がマイナスなら資金繰りが不足している状態で、プラスなら運転資金に余裕があるということになります。
売上取引がすべて現金取引であれば、売上高の計上=資金の増加ということになりますが、通常は取引先ごとに月次で請求に関する締め日を設定し、一定日にまとめて代金を入金してもらうケースが多いでしょう。
この売上代金の回収に関する取引先との取り決めを「回収条件」といい、回収条件が早ければ資金繰りが楽になりますし、回収条件が遅ければ資金繰りは苦しくなります。
支払をすべて現金で行っていれば、仕入高=資金の減少になりますが、通常は棚卸資産の検収後に資産計上され、同時に買掛金が計上されます。そして一定期間が経過した後に支払いがされます。
このため資金の支払が、仕入債務の計上時期から、一時的に遅れることになります。
したがって、売掛金とは逆に仕入代金の支払い期限が遅いほど、資金繰りは楽になり、支払期限が早まると資金繰りが苦しくなります。
このように仕入先にどのように支払いを行うのかという取り決めを「支払条件」といい、支払条件が遅ければ遅いほど資金繰りは楽になります。
したがって、資金繰りを楽にするためには、支払条件について十分検討する必要があります。
運転資金に余裕を持たせるためには、適正な在庫を調整する必要があります。棚卸資産が増加すると、資金繰りを悪化させることになります。
なぜなら、棚卸資産を購入する時には資金を投下しますが、その棚卸資産が販売され、売上高に対応する売上原価として計上されるまでは投下資金が固定化されるからです(棚卸資産が販売されるまで、売上原価は計上できません)。
棚卸資産が増加すれば資金が減少することになりますし、貸借対照表の「総資産の増加」によって経営指標が悪化します。
また、保管スペースや棚卸にともなう人件費負担の増加も懸念されます。
したがって、過剰在庫はできるだけ少なくすることが大切です。
これまでご紹介したように、「回収は早く、支払は遅く」を実行して、資金繰りが楽になります。
そこで、先払いと後払いのどちらの状態になっているかを計算してみます。これを「運転資金調達高」といいます。
売上債権=売掛金と受取手形 |
運転資金のプラスよりマイナスが大きければ「先払い」となっており=運転資金の不足分をあらわします。運転資金のマイナスより、プラスが大きければ「後払い」=運転資金の余裕額をあらわします。
貸借対照表の資産と負債の額を、損益計算書の月平均売上高(月商)と比べることで、資金繰りの実体をより一層詳しく見ることができます。
・運転資金月商倍率:運転資金が月商の何倍あるかを見る指標 計算式:運転資金÷月商 ・現預金月商倍率:現預金が月商の何倍あるかを見る指標 ・借入金月商倍率:借入金が月商の何倍あるかを見る指標 |
運転資金月商倍率は、運転資金が月商の何倍あるのかを見る指標です。
運転資金月商倍率 = 運転資金 ÷ 月商 |
たとえば、運転資金が200で月商が100であれば、200÷100となり、月商の2カ月分の運転資金があるということになります。
運転資金月商倍率が、自社の過去の実績と比較することで負担期間が長くなっている場合には、在庫の中身や売上債権の回収実績、仕入債務の支払状況を確認してみましょう。
現預金月商倍率は、すぐに決済に充てることができる現預金がいくらあるのかを見る指標です。
現預金月商倍率 = 現金預金 ÷ 月商 |
不測の事態が起こった時に頼りになるのはやはり現金預金です。
受取手形が不渡りになったり、売掛金の振り込みが遅れたりといった突発的なことが起きた場合に備えて、少なくとも1カ月半分の余裕資産は持っておきたいところです。
ただし、金融機関に緊急融資等の申し込みを行っても、中小企業の場合には融資実行まで数カ月かかることもあります。
このようなリスクを想定すると、不測の事態が起こっても、当面は手もとにある現金預金で数カ月は事業を存続させるだけの備えが大切です。
それに、たとえ売り上げがゼロの状態となっても、人件費や地代家賃などの固定費と買掛金の支払いは必要です。
したがって、現金預金はできれば3カ月分を蓄えておく方が安心できます。
借入金月商倍率は、短期および長期借入金や社債の残高が、月商の何倍あるのかを見る指標です。
正しく計算するためには、分子の借入金は貸借対照表の期末時点の借入金残高ではなく、毎月末の借入金残高の月平均額で計算します。
借入金月商倍率 = 借入金 ÷ 月商 |
この借入金月商倍率は、多くても3倍程度に抑える必要があります。
なぜなら、借入金が多額過ぎると、支払利息などのコストがかかり利益が圧迫され、資金繰りが苦しくなってしまうからです。
もし借入金月商倍率が6倍(年収の半分)を超えるようであれば、本業で稼ぐ利益のほとんどが利息に消えてしまっており、借金過多な状態です。早急に対策を検討しましょう。
運転資金を確保し資金繰りを改善するためには、売掛金の回収タイミングの見直し、買掛金の支払いタイミングの見直し、販管費の見直し、売上原価の削減などの検討が必要です。
また、簡単ではありませんが、売上高の向上も当然検討しなければなりません。
これまで何度もご紹介してきたように、運転資金を確保して資金繰りを良くするためには「売掛金を早く回収し、買掛金の支払いは遅くすること」が大切です。
売上の回収が早く仕入の支払が遅ければ、その差が資金となるので、会社の資金繰りを楽にすることができるからです。
つまり、売上がどんなに上がっても、キャッシュが手もとにないと、会社は倒産してしまいます。この状態を少しでも解消しようというのが「売掛金を早く回収し、買掛金の支払は遅くすること」なのです。
これは、売上高が急増している会社でも、同じことがいえます。
売上高の急増は事業規模の急拡大を意味しますから、必要な在庫の水準も急増しますし売掛金も急増します。
つまり、必要な運転資金の水準もそれにあわせて急激に増加することになります。
この時、運転資金の増加分だけ資金繰りが悪化して、営業利益が出ているのにキャッシュがマイナスになることもあります。売上高がアップしている時にも、運転資金が不足していないかは十分注意するようにしましょう。
損益計算書の営業利益は、「売上総利益-販売費及び一般管理費」で計算します。
そして、営業利益を増加させるためには、①売上高そのものを増やす、②売上原価を下げる、③販管費を下げるの3つの方法があります。
①売上高そのものを増やす、②売上原価を下げるという方法は、効果があらわれるまでに時間がかかることが多いため、資金繰りが悪化していて、運転資金を確保するためには、まず③販管費を下げるという方法を検討します。
販管費を下げるためには、まず事業継続に影響が少ない経費の削減から検討します。販管費のなかでもっとも比率の多い項目といえば人件費ですから、役員報酬や従業員の給与などを削減することができれば、法定福利費などの関連経費も削減することができます。
ただし、安易に人件費の削減を実施すると労働トラブルに発展するリスクがあるため、十分な注意が必要です。
販管費の削減の次に検討したいのが、売上原価の削減です。
損益計算書の最初の利益である売上総利益は「売上高-売上原価」で計算しますから、売上総利益を増やせば、以降の利益の源泉を確保することができるからです。
製造業の場合には製造経費別に削減を検討し、小売業の場合には仕入単価や仕入数量の調整を検討します。
ただし、売上原価の削減は、仕入先との関係性に配慮する必要がありますし、場合によっては新たな仕入先の開拓も検討する必要があり、それらの労力も踏まえて慎重に検討する必要があります。
売上高の向上のためにまず行うのが、既存事業の売上単価のアップです。
売上数量が低ければ、新規顧客の集客や既存顧客のリピート率の向上策を検討します。
また、全く新たな事業の実施も検討します。
たとえば、遊休不動産を所有しているのであれば不動産賃貸事業、フランチャイズ加盟などです。
ただし、新規事業への参画は、既存事業の改善以上に十分な検討が必要なことは言うまでもありません。
「気づいたら、手もとにキャッシュがなくて黒字倒産」という事態を避けるためにも、運転資金については可能な限り迅速にその傾向を把握する必要があります。そして、必要に応じて資金調達を行ないます。
日本政策金融公庫 日本政策金融公庫とは、100%政府が出資している金融機関です。 起業したばかりの企業やシニア起業家でも、無担保・無保証人での貸付が可能な場合もあります。 決算書の内容だけでなく、経営者のビジョンや熱意といったものも判断材料とするので、民間の金融機関では融資が難しい場合でも、融資が可能となることがあります。 地方銀行 都市銀行 |
融資の豆知識
金融機関の融資審査では、決算書の内容が非常に重要です。
毎月の試算表は税理士に作成してもらい、金融機関から求められたらいつでも提出できるよう準備しておきましょう。また、金融機関から説明を求められた時にどのように回答すればよいのかについても、税理士からアドバイスを受けておきましょう。
以上、運転資金の意味や計算方法、運転資金を確保するための対策などについてご紹介しました。
運転資金を確保し資金繰りを良くするための具体的な方法は、業種や個々の状況によって異なりますが、早めに税理士に相談して、運転資金の計算方法などについてアドバイスを受けることをおすすめします。
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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」
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