公開日:2019年11月14日
最終更新日:2022年03月23日
ベンチャーキャピタルとは、スタートアップ企業に投資をして、その成長を支援し、投資額より大きなリターンを得ることを目的としている投資会社です。
「投資額より大きなリターンを得ること」を目的としているので、投資先には上場や買収などを果たしてもらいたいというインセンティブが働くことになります。
ベンチャーキャピタルとは、スタートアップ企業などに出資という形態で資金を供給する投資専門会社です。
成長過程にある中小企業を、ベンチャービジネス「Venture-Business」と呼びますが、「Venture-Business」に資金(Capital)を提供するので、それぞれの頭文字をとって「ベンチャーキャピタル」と呼ばれています。
銀行などの金融機関は、中小企業などに「融資」という形態で資金を供給します。
一方、ベンチャーキャピタルは、この資金供給を「出資」という形態で行います。
金融機関から「融資」を受けますので、融資を受けた企業は返済義務を負い、利息の支払いが求められます。一方、ベンチャーキャピタルからは「出資」を受けますので、ベンチャーキャピタルはその出資した中小企業の株主となりパートナーとなります。
出資を受けた中小企業は株主であるベンチャーキャピタルに返済義務は生じませんが、出資に見合うリターンを求められることになります。
ベンチャーキャピタルは、政府系のベンチャーキャピタル、証券会社系ベンチャーキャピタル、銀行系ベンチャーキャピタルなどさまざまな種類があります。
専門性の高い事業、先端技術がかかわる事業に特化して投資を行っているなど、投資スタンスが異なりますので、それぞれの特色を理解したうえで自社の目的に合ったベンチャーキャピタルを選択することが大切になります。
ベンチャーキャピタルの種類 | 概要 | 投資先企業のステージ | 投資対象分野 | 経営への関与 | 代表例 |
---|---|---|---|---|---|
政府系ベンチャーキャピタル | 政府や公的機関が運営 | 特に限定しない | 限定しない | 投資先企業の状況によって異なる。原則として投資先の経営の自主性を尊重する。 |
・産業革新機構東京中小企業投資育成 ・新規事業投資 |
証券会社系ベンチャーキャピタル | 証券会社の子会社 | 創業期投資にも積極的 | 限定しない(バイオ系、IT系に積極的) | 積極的に経営関与する場合もある(リードインベスターとして投資する企業には積極的に関与する)。 |
・SMBCベンチャーキャピタル ・ジャフコ(野村証券系) ・NIF SMBC ベンチャーズ |
銀行系ベンチャーキャピタル | 大手銀行、地方銀行、信用組合などの子会社 | 創業期投資(利益が計上されていない段階)には消極的な傾向 | 限定しない | 投資先企業の状況によって異なるが、消極的なケースが多い。 |
・みずほキャピタル ・三菱UFJキャピタル |
独立系ベンチャーキャピタル | 特定資本から独立 | 特に限定しない | 特に限定しない | 各ベンチャーキャピタルによって大きく異なるが、対象分野を限定していない場合には、それほど積極的に干渉しない。コンサルティング会社が母体のベンチャーキャピタルの場合には、比較的積極的に関与する。 |
・日本ベンチャーキャピタル ・グロービスキャピタルパートナーズ ・Globespan |
業種特化系ベンチャーキャピタル | 特定の業種に特化 | 創業期投資にも積極的 | IT系、バイオ等、ベンチャーキャピタルごとに投資分野を絞っている(本業とのシナジー効果を追求する傾向がある)。 | 豊富なビジネス上のノウハウ、ネットワークを活用するなどなど積極的に関与する |
・サイバーエージェント ・インフィニティ・ベンチャー・パートナーズ ・デジタルガレージ ・YJキャピタル |
ベンチャーキャピタルの目的は、投資したお金を株式公開やM&Aによる株式売却で回収することにあります。
つまり、ベンチャーキャピタルが儲けるためには、将来株式公開できる可能性のある有望な会社を探し、その会社に投資を行って、株式上場後に株式を売却して、その資産価値の上昇による利益(キャピタルゲイン-capital gain)を獲得する必要があります。
簡単にいうと、株式上場準備企業の株式を安く買い、株式上場後に株式を高く売って、その差益を得るということです。
銀行の融資と比較すると、ベンチャーキャピタルは投資したお金を会社から直接回収することができないので、リスクが高いといえます。したがって、ベンチャーキャピタルが出すお金は「リスクマネー」と呼ばれています。
ベンチャーキャピタルはリスクに見合ったリターンを要求しますので、企業が成長過程の初期にあれば、より高い投資利回りを要求します。たとえば、売上がまだ上がっていない企業は投資リスクが高いので、投資利回りは50%~100%を求められます。
反対に、「半年か1年後に株式上場する」という段階にいる企業に対しては、投資利回りも低くなり20%程度でも許されることもあります。
ベンチャーキャピタルから出資を受けることの最も大きいメリットは、資金調達ができることです。また、「ベンチャーキャピタルから出資を受けた企業」ということから社会的な信用力が高まります。ベンチャーキャピタルから事業提携先などの紹介を受けられる可能性もあります。
一方、ベンチャーキャピタルが経営に積極的に関与してくる場合には、ベンチャーキャピタルの意向を反映させようとすることがあります。また、株式公開が前提となりますので、株式公開に向けた経費が増加します。そして、株式公開の可能性がないとみられた場合には、ベンチャーキャピタルから資金回収に走られるというデメリットがあります。
ベンチャーキャピタルの投資手法は、大きく分けてポートフォリオ投資、マイルストーン投資、ハンズオン投資に分けることができます。
ポートフォリオ投資とは、リスクを避ける分散投資を行うことで、安全資産と危険資産の最適保有率をいいます。
たとえば、すべての卵を1つの袋に入れた場合、その袋を落としてしまえばすべての卵が割れてしまいます。しかし、複数の袋に分けて入れれば1つの袋を落としても他の袋に入れた卵は安全なわけです。
ポートフォリオ投資は、このようにローリスク・ローリターンの投資先からハイリスク・ハイリターンの投資先までさまざまな投資先を組み合わせることによって、リスク分散しながら投資を行う手法です。
マイルストーン投資とは、一度に資金を投資するのではなく、期間を区切ってその間に必要な資金を段階的に投資するという手法です。
つまり、投資先の企業がこれから成功するかどうか分からないため、一定の条件をクリアしたら次の投資をするという手法です。
マイルストーン達成度合いに応じて途中で追加投資してもらえなくなる場合もあります。
ハンズオンとは、直訳すると「手をかける」という意味で、ベンチャーキャピタルは単にお金だけを提供するのではなく、経営会議の参加権(オブザベーションライト)を行使し、取引先や事業提携先を紹介し、豊富なビジネス上のノウハウを提供するなど、側面支援を行うということです。
ベンチャーキャピタルが投資パフォーマンスを上げていくためには、投資・出資先のスタートアップの企業価値・株式価値を向上させ、売却機会を作り、売却金額が投資金額を上回る状態を作り出す必要があります。
そこでベンチャーキャピタルは、投資先の事業、管理、会計税務、ガバナンスなどに関してサポートやアドバイスを積極的に行い、投資先の企業価値・株式価値を向上させながら、エグジットに向けてスタートアップの成長に力を貸すわけです。
ハンズオンを行うベンチャーキャピタルは、比較的多額の投資を行う場合が多く、また、銀行系はハンズオンに消極的な傾向があるようです。
企業がベンチャーキャピタルから資金調達をするためには、ベンチャーキャピタルとコンタクトをとり、事業計画と資本政策案を作成して、出資を受けるための条件交渉を行い契約締結する必要があります。
ベンチャーキャピタルから資金調達を受ける際の主な流れは、以下のとおりです。
①ベンチャーキャピタルと出会う ベンチャーキャピタルは、新聞、雑誌、ネットのプレスリリースから各種メディアから投資案件(ディール)を発掘しています。ただし連絡がきて話をしても、その後何も連絡がなくなったというケースも非常に多いのが実情です。 ②ベンチャーキャピタルの審査・評価を受ける ③ベンチャーキャピタルと交渉する ④ベンチャーキャピタルと投資契約を締結する ⑤ベンチャーキャピタルから投資後の育成・支援を受ける |
ベンチャーキャピタルは、投資先企業を発掘するために、新聞、雑誌、インターネットを常に探索しています。また、紹介を受けて投資案件(ディール)を発掘することもあります。
ベンチャーキャピタルは、ホームページからのアクセスや直接電話をかけてくる会社を好みません。ベンチャーキャピタルは経験上、良質な投資案件は飛込ではほとんど来ないことを知っているからです。
したがって、ベンチャーキャピタルがこのように投資案件を発掘しているということを十分理解して、投資案件情報源(ディールソース)に接触する必要があります。
たとえば、銀行や証券会社、会計事務所などから紹介をしてもらうという方法があります。紹介であれば、ベンチャーキャピタルは「資金繰りに困っている会社」という見方をしませんし、紹介者の顔を立てるために誠実に対応してもらうことが期待できます。
ベンチャーキャピタルの審査・評価を受けるためには、定款、登記簿謄本、過去3期分の決算書、事業計画書、資本政策、資金繰り表などさまざまな資料が必要です。
用意する資料 | 注意点 |
---|---|
定款 | 原始定款と、その後定款変更している場合には、最新の定款も用意する。 |
登記簿謄本 | 法務局で、最新のものを入手する。 |
決算書・税務申告書 | 法人税申告書は、税務署の受領印が押されたもので、決算書・勘定内訳書も添付されている必要がある。 |
月次残高試算表 | 直近月まで用意する。 |
事業計画書 | 少なくとも予想損益計算書は作成する。可能であれば予想貸借対照表、予想キャッシュフロー計算書を作成するのが望ましい。 |
資金繰り表 | 半年ほどの月次もしくは日時の資金繰り表を用意する。 |
借入金返済予定表 | 長期・短期、借入先別に作成する。 |
資本政策 | ベンチャーキャピタルにとって、どのように将来成長するかを把握するための資料なので、これまでの株主構成の変化、株価の推移を確認できる資料を用意する。 |
株主名簿 | 株主名簿には以下の事項を記載する。 ①株主の氏名・住所 ②各株主の保有する株式数・種類、株券の番号・記号 ③各株式の取得年月日 |
公認会計士・監査法人のショートレビュー | 既に監査法人のショートレビューを受けている場合に必要となる。 |
自社の製品・サービス・技術に関する説明資料 | 会社案内のパンフレットや製品・サービスカタログ、新聞や雑誌等に掲載された時の資料 |
役員の履歴書 | 社長、役員の履歴書を作成する。 |
特許等 | 特許等があれば、その特許明細書、特許調査資料等 |
ベンチャーキャピタルに資金を出してもらうためには、商品やサービスに価値が高いことを説明し交渉することが必要になります。そして、ベンチャーキャピタルと交渉するためには、「ベンチャーキャピタルが投資したくなる企業」を知っておく必要があります。
①経営者 経営者や経営陣の質は、最も重視されます。明確なビジョンがあり戦略が適格かという点はもちろん、その分野での経験や実績が豊富かも重視されます。 また、豊富な人脈を有しているかもチェックされます。 ②サービス・技術・商品・製品 ③成長市場 ④株主公開(IPO)の可能性 |
ベンチャーキャピタルから出資を受ける場合には、通常投資契約書の締結が求められます。
投資契約書には、株式の発行および取得、株式公開努力、経営情報の開示等の条項が規定されています。
投資契約書は、会社側に不利となる規定が入っている可能性がありますので、かならず税理士や弁護士などの専門家のアドバイスを受け、チェックをしてもらいましょう。
ベンチャーキャピタルは、投資先に「単に投資しておしまい」ではなく、投資後も成長をサポートし、エグジットまでフォローするケースがほとんどです。
サービスの課金方法や量産化に関する事項、人材探索まで、細かく強力にサポートしてくれるベンチャーキャピタルとの出会いは、大きなメリットがありますが、一方で「どうしても相性が悪く、コミュニケーションがうまくできない」というケースもあります。
したがって、交渉段階から「この人と、しばらくの間付き合っていくことになる」という前提で、交渉を進めることも大切です。
以上、ベンチャーキャピタルの意味や種類、ベンチャーキャピタルの儲け方やベンチャーキャピタルから出資を受けるためのプロセス・準備すべき資料などについてご紹介しました。
ベンチャーキャピタルから出資を受けるためには、さまざま資料を準備して審査を経て、条件等について交渉する必要があります。
資料を揃えるだけでも相当な時間がかかり、社内ですべてを行おうとすると本業に支障をきたしてしまうこともあります。
したがって、ベンチャーキャピタルから出資を受ける際には、早い段階からベンチャーキャピタルの投資実務に精通した税理士や公認会計士などのサポートを受けることをおすすめします。
freee税理士検索では数多くの事務所の中から、ベンチャーキャピタルから出資を受けるために必要な書類の準備や手続きについて相談できる税理士を検索することができます。
また、コーディネーターによる「税理士紹介サービス」もあるので併せてご利用ください。
税理士の報酬は事務所によって違いますので、「税理士の費用・報酬相場と顧問料まとめ」で、税理士選びの金額の参考にしていただければと思います。
監修:「クラウド会計ソフト freee会計」
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