公開日:2019年11月09日
最終更新日:2022年07月24日
公正証書遺言とは、公証役場に行って公証人という専門家に依頼して作成してもらう遺言書のことです。自筆証書遺言や秘密証書遺言と比較すると、偽造・変造・紛失の心配がなく、安全で確実であるというメリットはありますが、公証役場で作成してもらうという手間がかかる他、手数料がかかるというデメリットがあります。
公正証書遺言とは、公証役場に行って公証人という専門家に依頼して口頭で内容を伝え、作成してもらう遺言書です。
遺言者が病気だったり体力がなかったりして公証役場まで行けないような事情がある場合には、場所を指定して公証人に来てもらうことも可能です。
作成手数料がかかるなどのデメリットはありますが、無効になったり紛失したりという可能性がないという大きなメリットがあります。
公正証書遺言書は偽造や変造されるリスクがありませんし、原本が公証役場に保存されるので、紛失の心配もありません。
安全確実に遺言をするためには、公正証書遺言書を作成する方がよいでしょう。
〇無効となってしまうリスクがない
公正証書遺言書は、公証人という専門家が作成するので、遺言書が無効となることがありません。また、遺言書の形式不備などがないので、遺言書の内容を確実に実現することができます。
また、公証人という第三者が作成するものですから、信ぴょう性が高く、相続トラブルを避ける意味ではもっとも確実な方法です。
法務局で保管されていない自筆証書遺言は、相続発生後に裁判所で検認手続きを行う必要がありますが、この検認手続きは、遺言の中身が有効であるということを保証するものではなく、相続人全員に「遺言書があった」ということを知らしめるに過ぎません。
そこで、「誰かに書かされたのではないか」とか「本人の字ではない」などトラブルの原因となり、裁判で争われるケースも珍しくありません。
その点、公正証書遺言書であれば、相続人全員で行う「遺産分割協議」なども必要なく不動産名義変更から預貯金の解約手続きまで確実に行うことができます。
〇偽造・紛失のリスクがない
公正証書遺言書は、全部で3通作成します。
原本は、公証役場で保管されるので、紛失してしまうリスクがありません。また、遺言書があるかないか分からないという時には、どこの公証役場でも検索をかけることができるので、簡単にさがすことができます。
自筆証書遺言書のようにその信ぴょう性が裁判で争われることもほとんどなく、家庭裁判所での検認手続きも不要で、そのまま遺言書の内容を執行することができます。
メリットの多い公正証書遺言書ですが、費用と手間がかかりますし、遺言内容を公証人や証人に知られてしまうというデメリットがあります。
〇費用がかかる
公正証書を作成するためには、財産額に応じて公正証書作成手数料がかかります。
目的の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11,000円 |
500万円を超え1,000万円以下 | 17,000円 |
1,000万円を超え3,000万円以下 | 23,000円 |
3,000万円を超え5,000万円以下 | 29,000円 |
5,000万円を超え1億円以下 | 43,000円 |
1億円を超え3億円以下 | 4万3,000円に超過額5,000万円までごとに1万3,000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下 | 9万5,000円に超過額5,000万円までごとに1万1,000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 24万9,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額 |
〇手続きに時間がかかる
公正証書遺言を作成するためには、最低でも2度は公証役場に出向く必要があります(体力的に公証役場まで行けない場合には、場所を指定して公証人に来てもらうこともできます)。
そして、遺言を残したい人が遺言の内容を公証人に口述で伝え、公証人はその口述内容をもとに書面を作成します。
公証人が書面にした遺言の内容を確認する時には証人が2人以上必要となるので、その証人に遺言の内容を知られてしまうというのもデメリットのひとつといえるでしょう。
自筆証書遺言とは、遺言者が遺言書の内容、日付、名前まですべて自筆で書いて印を押して作成する遺言書のことです。
2019年1月から財産の内容を示す「財産目録」については、パソコンで作成することが認められるようになりましたが、それ以外の部分についてはすべてを自分で作成しなければなりません。
一部でも他人が代筆したり遺言書の内容がパソコンで作成されたりしていると無効になってしまいます。
公正証書遺言は相続発生後に家庭裁判所で検認を受ける必要はありませんが、自筆証書遺言(法務局で保管されていない場合 ※後述する「遺言書保管制度」)は、相続発生後に家庭裁判所で検認を受けなければ有効とは認められません。
秘密証書遺言とは、封筒に入れて封印した遺言書を、遺言者が公証役場へ持参して、その遺言書が確かに本人によって作成されたものであるということを、公証人と2人以上の証人によって証明してもらうものです。
公正証書遺言は、公証人に作成してもらいますが、秘密証書遺言は公証人が作成されたものではなく「本人の意思によって作成したものである」ということを証明してもらうに過ぎないという点で異なります。
また、秘密証書遺言は他人による代筆やワープロでも構わないという点で、自筆証書遺言とも異なります。
自筆証書遺言書 | 公正証書遺言書 | 秘密証書遺言書 |
---|---|---|
書くのは本人 | 書くのは公証人 | 書くのは誰でもいい (ただし、本人が望ましい) |
証人は不要 | 証人は2人以上必要 | 公証人1人と証人2人以上が必要 |
原則検認が必要 | 検認は必要ない | 検認が必要 |
前述した自筆証書遺言は自宅で保管されることが多く、相続発生後に遺言書そのものが発見されずに終わってしまうというリスクがありました。また、常に偽造・変造の恐れがあるため、相続発生後に裁判所で検認を受ける必要がありますし、その信ぴょう性が裁判で争われるケースもあり、相続発生後の手続きが煩雑で手続きがかかるというデメリットがありました。
このようなデメリットを解消しようと、2020年7月から「自筆証書遺言書の保管制度」が創設されることになりました。
この制度によって、法務局で自筆証書遺言を保管してもらうことが可能になり、紛失のリスクがなくなるとともに法務局で保管してもらう自筆証書遺言については、裁判所で検認の手続きが不要となります。
法務局は、保管されている遺言書について遺言者が亡くなった後、関係相続人等が請求することで、遺言書情報証明書を交付しまたは遺言書を閲覧させた場合には、相続人、受遺者、遺言執行者に対して、遺言書を補完している旨を通知します。
公正証書遺言書は、遺言者が公証人と証人2人以上の立ち会いのうえで、口頭で述べた内容を公証人が公正証書として作成します。
公正証書遺言書を作成するためには、証人が2人以上必要です。
証人は、遺言書の内容を確認・証明する人ですから、誰でもいいというわけではなく、未成年者や利害関係にある人は証人となることはできません。
証人となれない人 ①未成年者 ②推定相続人(遺言者が亡くなると当然に相続権がある人)および受遺者(その遺言で財産を受ける人) ③上記②の者の配偶者および直系血族 ④公証人の配偶者、四親等内の親族、書記、および使用人 |
証人は、あくまで遺言書作成の立ち会いに過ぎず責任も一切ないことから、通常は、弁護士や税理士などが証人となります。
公正証書遺言書は、以下の流れで作成されます。
①遺言書を作成したい人が、遺言の内容を公証人に口述で伝える ②公証人が書き取り、遺言書の内容を遺言者と証人に読み聞かせる ③遺言者と証人が、公証人の筆記の内容について確認する ④公証人の作成した遺言内容に間違いがないことを確認できたら、遺言者、証人が署名・捺印する ⑤公証人や署名・捺印する |
公正証書遺言書を作成するためには、遺言作成者本人の印鑑証明書や、相続人との関係が分かる戸籍謄本などが必要です。ただし、個々の事情によって別途書類が必要となることがありますので、事前に確認しておきましょう。
①遺言書を作成する本人の印鑑証明書 ②遺言書を作成する本人と相続人との続柄がわかる戸籍謄本 ③相続人以外の人に遺贈する場合は、その人の住民票 ④不動産がある場合には、登記事項証明書と固定資産税の課税明細書 ⑤証人の名前、住所、生年月日及び職業など |
遺言書を公正証書遺言書にしたものの記載事例を示すと、以下のようになります。
○○年○○号 遺言公正証書 本書は遺言者○田○男の嘱託により、証人○田一郎、○田次郎の立ち合いのもと、左の遺言の趣旨を口述筆記したこの証書を作成する。 遺言の趣旨 一、遺言者はその所有する一切の財産を 東京都品川区○○五丁目○番○号 右は、法定の印鑑証明を受け取って、人違いでないことを証明させた。 右遺言者、証人に読み聞かせたところ、それぞれ筆記内容の正確なことを承認し、それぞれ署名捺印する。 この書は、令和〇年○月○日本職役場に於いて、民法第969条第1号乃至第4号所定の方式に従って作成し、同条第5号にもとづき本職次に署名捺印する。 令和〇年○月○日 |
残された家族が相続トラブルに巻き込まれるのを防ぎ、また相続発生後の相続手続きをスムーズに行わせてあげたいと思うなら、遺言書は公正証書遺言とするのがおすすめです。しかし、相続トラブルは公正証書遺言を作成すれば絶対に起こらないというものではありません。
公正証書遺言書の内容に問題があれば、遺留分侵害額請求を行うことで一定の相続分を確保することができます。
遺留分とは、被相続人(亡くなった方)の遺産を最低限これだけは受け継ぐことができるとされる割合のことで、相続人の遺産分割に対する権利をいいます。
この遺留分に満たない財産を相続した場合には、遺産を多く引き継いだ相続人に不足分を請求することができます。
遺留分が認められているのは、配偶者、直系卑属、直系尊属で、兄弟姉妹には遺留分はありません。
この遺留分に配慮していない遺言書を作成すると、遺留分権利者から侵害額請求をされた場合に遺言書の内容をめぐってかえってトラブルが起こることがあります。
相続対策における最も重要なのは「節税対策」「納税資金対策」「”争族”対策」です。この3つのポイントについてバランスよく検討しながら、個々の事情にあわせた相続対策を行うことが重要です。
相続対策は、相続人は誰か、現在どのくらいの財産があるのか、相続税はかかるのか、かかるとしたら、どのくらいかかるのか把握することからスタートします。
そして具体的にどのような生前対策がありどの程度の効果があるのかを検討し、将来発生する配偶者の相続(二次相続といいます)まで考慮した相続対策を行うことが大切です。
とくに相続税の課税対象となる場合には、相続税対策を行うか否かで相続税額に何百万円、何千万円と差が出るケースも多々ありますので、早めに税理士に相談して対策を行うことをおすすめします。
これまでご紹介したとおり、公正証書遺言はもっとも確実かつ安全な遺言書ではありますが、その遺言書の内容をめぐって遺された遺族間でトラブルが起きないよう、配慮して作成する必要があります。とくに相続財産に不動産が含まれる場合は、相続開始後にトラブルになりやすい傾向があります。不動産は分割しづらいというその特性上、複数の相続人で協議がまとまりにくいためです。
「節税対策」「納税資金の確保」「”争族”を防ぐ対策」の3つ軸に、中長期的な計画を立て、円滑な遺産継承を実現するためにも、公正証書遺言の作成を含め、早めに税理士や弁護士、司法書士などに相談するようにしましょう。
freee税理士検索では数多くの事務所の中から公正証書遺言の作成や相続対策などについて相談できる税理士・会計士の認定アドバイザーを検索することができます。
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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」
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