公開日:2019年11月09日
最終更新日:2022年07月27日
2018年7月に、相続法の改正が始まり、2019年から順次施行されています。
相続税については、2015年に税制改正されて大増税となりました。このような改正は1980年以来で、実に40年ぶりに相続法について大きな見直しがされたわけです。
そして、「配偶者居住権」が創設され、2020年4月1日から施行されています。
この記事では、配偶者居住権の内容についてご紹介する他、令和2年(2021年)に代金を受けて配偶者居住権を消滅させた場合の取り扱いについてご紹介します。
配偶者居住権とは、配偶者が相続開始時に被相続人(亡くなった方)が所有する建物に住んでいた場合、配偶者は遺産分割において「配偶者居住権」を取得することができるという制度です。
この配偶者居住権を取得すれば、終身または一定期間、その建物に無償で住むことができるようになります。
日本人の典型的な相続といえば、自宅と少しの預貯金というケースが多く、実はこれが相続トラブルのもとになることが非常に多かったのです。
たとえば、遺産が自宅だけで他に十分な預貯金がなければ、遺産分割の際に自宅を処分しなければならず、残された配偶者が自宅に住めなくなってしまうケースもありました。
また、自宅を相続したために預貯金は子どもや被相続人の兄弟など他の相続人が受け取ることになり、「住むところはあるものの生活費が足りなくなる」というケースもありました。
相続人が、妻と子ども2人の場合の妻の自宅を使う権利を保護できる
たとえば、夫が残した財産が2,000万円の自宅と3,000万円の預貯金で、相続人は妻と子どもの2人というケースで考えてみましょう。この場合には、妻の取り分は1/2、そして子どもの取り分の1/2、つまり妻と子どもたちで半分ずつ分けることになります。
妻は住む場所として自宅を相続したいとなると、貯金は500万円しか相続することができず、生活費が足りなくなるという問題が生じていたのです。
この配偶者居住権は、このような配偶者を保護するために創設された制度です。
この配偶者居住権が創設されたことで、自宅の相続を「自宅を所有する権利」と「自宅を使う権利」とに分けて、自宅を使う権利を優先的に認めることになりました。
上記のケースだと、2,000万円の自宅の価値を、1,000万円の所有権と1,000万円の配偶者居住権とに分けることになります。そして、子どもが1,000万円の負担付所有権を、妻が1,000万円の配偶者居住権をそれぞれ相続します。
妻と子どもで分けるべき相続財産は、3,000万円の預貯金ということになりますので、1,500万円ずつ相続することができます。
従来であれば、500万円しか相続できなかったのに1,000万円も多く相続することができるようになるので、安心して生活ができるようになるというわけです。
複雑な家庭環境でも、トラブル緩和が期待されている
この配偶者居住権は、複雑な家庭環境で遺産分割が難航するケースでも、トラブルを緩和する効果が期待されています。
たとえば、被相続人が離婚した後再婚し、前妻と後妻がいるケースで考えてみましょう。
相続人は、後妻と前妻の子ども2人とします。財産は2,000万円の自宅と500万円の預貯金です。
自宅を後妻が相続し、預貯金は前妻の子どもが相続した場合、その後いずれ後妻が亡くなると、後妻の相続人(後妻の再婚相手や両親など)が、この自宅を相続することになります。つまり、自宅を後妻が相続すると前妻の子どもは自宅を相続できなくなるわけです。
そうなると、前妻の子どもたちは自宅を後妻が相続することについて、なかなか了承しないであろうことが考えられます。
このようなケースで、後妻が配偶者居住権を相続して、所有権を前妻の子どもが相続することにすれば、後妻が亡くなった後は自宅を前妻の子どもが相続することになるので、遺産分割協議がスムーズに進むことが期待できます。
配偶者居住権は、配偶者であればどのような場合でも、自動的に取得できるわけではありません。配偶者居住権は、遺産分割協議、遺産分割調停、遺贈・死因贈与、家庭裁判所の審判などによって配偶者居住権の取得を認められなければなりません。
なお、配偶者居住権は、相続が開始したときに、被相続人が配偶者以外の者と建物を共有していた場合には、適用されません。
自分の死後に残された妻(夫)のために、配偶者居住権を設定したいと思う場合には、所有する建物に配偶者が居住していれば、遺言で配偶者に配偶者居住権を遺贈することで配偶者居住権を設定することができます。
ただし、遺言で配偶者が配偶者居住権を取得するためには、被相続人が亡くなった時点で、その配偶者が建物に居住していたことが必要になります。
また、配偶者居住権以外にも、20年以上経過している夫婦には特例が認められますが、被相続人と配偶者が婚姻してから20年以上の夫婦である場合は、配偶者居住権を設定しても、原則として遺産分割で配偶者の取り分が減らされることはありません。
結婚して20年以上経過している夫婦に限って、自宅を贈与、遺贈されても特別受益として扱わないということになりました。したがって、被相続人から贈与または遺贈された自宅については、遺産分割で相続の取り決めをする対象から外してよいということになったのです。自宅以外の預貯金の財産については、他の相続人と取り決めをすることになりますが、自宅が含まれなくなったことから配偶者の取り分が多くなります。
ただしこの場合には、ほかの相続人の遺留分については注意する必要があります。
遺留分とは、被相続人の配偶者と子(直系卑属)と父母(直系尊属)に認められる権利で、最低限もらえる財産が保障される制度です。
遺留分を侵害すると、他の相続人から遺留分の侵害額の請求をされ相続トラブルに発展するリスクがあります。
トラブルを回避するためには、あらかじめ家族でよく話し合いをしておくか、遺留分を侵害しない遺贈や贈与をするのがおすすめです。
遺贈や贈与については、個々の状況によって方法が異なりますので、相続に詳しい税理士にあらかじめ相談することをおすすめします。
配偶者居住権の設定の登記とは、配偶者居住権を取得した場合に登記簿に配偶者居住権を記載することで、取得した配偶者居住権を第三者(居住建物を譲り受けた方)に主張することができるようにするためのものです。
建物の権利を主張するための登記は、登記の先後で優劣が決まりますので、権利関係をめぐるトラブルを避けるためには、配偶者居住権を取得したらできるだけ早く登記手続をすることをおすすめします。
令和2年度(2020年)の税制改正により、代金を受けて配偶者居住権や敷地利用権を消滅させた場合には、課税所得として課税することが明確化されました。
配偶者居住権は譲渡することはできませんので、配偶者居住権が消滅等するのは、合意解除か放棄する場合が考えられます。
配偶者が、対価を得て配偶者居住権の合意解除か放棄して、配偶者居住権を消滅させた場合には、配偶者の譲渡所得として課税されることとなりました。
参照:国税庁「配偶者居住権に関する譲渡所得に係る取得費の金額の計算明細書」等の記載例について(情報)」
改正では、「配偶者短期居住権」という権利も創設されました。配偶者短期居住権とは、配偶者が相続開始時に遺産に属する建物に居住していた場合、遺産分割が終了するまでの間(最低6カ月)は、無償でその建物を使用することができるとするものです。
配偶者短期居住権は、建物が第三者に遺贈された場合も、最低6カ月は無償で建物を使用することができます。遺産分割が早期に行われた場合でも、同様です。
配偶者居住権と異なり、配偶者短期居住権は、登記をすることができません。そこで、万が一、建物が第三者に譲渡されてしまった場合には、その第三者に対して、配偶者短期居住権を主張することができなくなってしまいます。
対抗手段としては、配偶者が建物を譲渡した者に対して、債務不履行に基づく損害賠償を請求することが考えられます。
今回の相続法改正では、これまでご紹介したような配偶者居住権や婚姻期間20年以上の夫婦の贈与以外にも、さまざまな改正がされました。
ここでは、相続法改正の主なポイントについてご紹介します。
これまで、自筆証書遺言はすべてを手書きで作成しなければならず、これが大きな負担となっていました。この自筆証書遺言の方式が緩和され、財産目録についてはパソコンでの作成も認められることになり、通帳のコピーで預金を特定させることができるようになりました。
これまでは、相続が開始すると、遺産分割協議がまとまらない限り被相続人の口座からは1円もお金を下ろせませんでした。
葬儀費用も準備できず、相続人があわてて費用を立て替えることも多々あったのです。
しかし、今回の改正で預貯金の払戻制度が創設され、一定額については相続人が単独で引き出せるようになりました。
遺言書がない場合には、相続人しか相続できず、長男の妻がどれだけ長男の親を介護しても、長男が長男の親より先に亡くなってしまうと長男の妻は相続人になれず、相続財産を受け取ることができませんでした。
今回の改正では、この不公平な事態を解消するため「特別寄与料制度」が創設され、たとえば長男の妻など相続人でない親族が介護を続け、その結果として義父母の財産が維持されたり増加されたりしたと認められる場合には、特別の寄与が認められることになりました。
この制度によって義父母が亡くなった場合には、夫の兄弟姉妹などの相続人に金銭請求をすることができます。ただし、請求には期限があり相続開始および相続人を知った日から6カ月または相続開始から1年です。
これまで自筆証書遺言は自宅で保管されていることが多く、亡くなった後見つからなかったり改ざんされたりというトラブルがありました。また、自筆証書遺言は、亡くなった後見つけた人が家庭裁判所に提出して検認の手続きを受ける必要があります。しかし、2020年7月10日から施行される「自筆証書遺言の保管制度」によって、自筆証書遺言は法務局で保管してもらうことが可能となりました。また、法務局で保管されている自筆証書遺言は、家庭裁判所での検認は必要なくなります。
以上、配偶者居住権の内容や期待される効果、その他の相続法改正ポイントについてご紹介しました。
今回の相続法の改正で、これまでの相続対策を見直さなければならないケースもあるでしょう。また2015年の相続税の大増税で、これまで相続税は無関係と思っていた人も、決して他人事ではなくなる可能性が高まりました。なかには、納税資金を確保するために相続した不動産の売却をしなくてはならなくなったり、相続税を納付するために多額の借入をしたりするケースもあります。
相続の事前対策には、先々の相続を見据えた中長期で行う計画的な対策が重要です。
早めに相続に精通している税理士に相談して、相続トラブルを防ぐために必要な対策を行いましょう。
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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」
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