相続税の税額控除と相続税の計算(控除額・税率)

公開日:2019年11月11日
最終更新日:2022年07月07日

この記事のポイント

  • 相続税が安くなる「相続税の税額控除」は6つある。
  • 未成年者や配偶者、相続が続いた場合は税額控除され相続税が安くなる。
  • 配偶者が相続財産の2分の1を相続すれば、相続税はかからない。

 

相続税は、課税される財産の価格から基礎控除を差し引くなどして計算しますが、配偶者は相続税が安くなりますし、相続人が未成年者の場合の「未成年者控除」や、相続が続けて起こった場合の「相次相続控除」などの税額控除が設けられています。
つまり実際の納付税額は、各人の相続税額からこれらの控除を差し引いた額となります。

そもそも相続税とは

人が亡くなると、その人が所有していた財産・債務を相続人が受け継ぎます。受け継いだ人は財産を取得し、この財産に対して課税されるのが相続税です。
亡くなって誰かに財産を託す人のことを「被相続人」、財産を受け継ぐ人のことを「相続人」といいます。
誰が相続人になるかは民法で規定されていて「法定相続人」といい、配偶者、子ども、父母、兄弟姉妹が法定相続人です。

相続人 配偶者 子ども 両親 兄弟姉妹
配偶者と子ども 2分の1 2分の1
配偶者と両親 3分の2 3分の1
配偶者と兄弟姉妹 4分の3 4分の1

遺言書があればその内容が優先されますが、遺言書がない場合には、配偶者、子ども、父母、兄弟姉妹の各相続人は、法定相続分によって分けるのが一般的です。ただし、相続人全員の合意があれば、遺言書や法定相続分に関係なく自由に相続財産を分けることも可能です。

(1)相続税の計算方法(控除額・税率)

相続税を計算するうえでは、以下の5つの段階にまとめることができます。

①課税される財産の価格を計算する
財産を合計する・債務などを控除する

②課税される基礎となる金額を計算する
基礎控除3,000万円+(600万円×法定相続人の数)を差し引く

③相続税の総額を計算する
法定相続分によって按分し、税額を計算する

④各人の相続税額を計算する
実際の取得財産に応じて按分する

⑤各人の実際の納付税額を計算する
配偶者の税額控除、未成年者控除、障害者控除など

上記の①では、亡くなった方の生前の債務や葬式費用を控除することができ、②では、相続税の基礎控除(3,000万円+{600万円×法定相続人の数})を差し引くことができます。
さらに、⑤では、相続人それぞれの事情に応じて未成年者控除や配偶者の税額軽減などの税額控除を受けることができます。

税額控除とは、⑤の段階で受けることができる控除で、財産を受け継いだ人の事情を考慮して、税負担を少しでも軽くしようという税法の考えから設けられた制度です。
なお、贈与税、相続税の速算表は、以下のとおりとなっていますので、参考にしてください。

相続税の税率と控除額

区分 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

参照:国税庁「相続税の税率」

贈与税の税率と控除額

区分 税率 控除額
200万円以下 10%
200万円超400万円以下(200万円超300万円以下) 15% 10万円
400万円超600万円以下(300万円超400万円以下) 20% 30万円(25万円)
600万円超1,000万円以下(400万円超800万円以下) 30% 90万円(65万円)
1,000万円超1,500万円以下(600万円超1,000万円以下) 40% 190万円(125万円)
1,500万円超3,000万円以下(1,000万円超1,500万円以下) 45% 265万円(175万円)
3,000万円超4,500万円以下(1,500万円超3,000万円以下) 50% 415万円(250万円)
4,500万円超 55% 640万円(400万円)

※()内の金額は、上記の20歳以上の者以外の場合の金額。なお、令和4年(2022年)4月からは、18歳以上に引き下げ。

参照:国税庁「贈与税の税率」

(2)どんな財産に相続税がかかるのか

相続税とは、相続や遺贈によってもらった財産にかかる税金です。
ここでいう財産には、土地、建物、現預金、有価証券などの本来の財産のほか、「みなし相続財産」も含まれます。
みなし相続財産とは、被相続人(亡くなった方)から実質的には財産をもらったのと同じ効果を持つものをいいます。
たとえば、亡くなった方が保険料を支払っていた場合の生命保険金は、亡くなった方のみなし相続財産となりますし、死亡退職金や被相続人の死亡前3年以内に被相続人から財産の贈与を受けている場合もみなし相続財産となります。
一方、墓地、仏具や相続した人が受け取った生命保険・退職金などの一定額、財産を国などに寄付した場合の寄付金額は、相続税非課税となります。

参照:国税庁「相続税がかかる財産」

相続税が安くなる6つの税額控除

相続税や安くなる税額控除には、配偶者の税額控除・贈与税の税額控除・未成年税額控除・障害者税額控除・相次相続控除・外国税額控除の6種類あり、最終的な相続税の納付額は、それらの控除を差し引いた額となります。
また、相続時精算課税制度を選択していて贈与税を支払っている場合には、相続税が一定額控除されます。

そして、税額控除は以下の順番で行われます。

①贈与税額控除
相続、遺贈、相続時精算課税にかかる贈与によって財産を取得した人が、被相続人が亡くなった日から3年以内に財産を贈与され、贈与税を支払った場合の税額控除です。

②配偶者の税額軽減
被相続人の配偶者が財産を受け継いだ場合、法定相続分が1億6,000万円以下であれば無税となります。

③未成年者控除
相続人が20歳未満の未成年者で、かつ法定相続人の場合、20歳に達するまでの年数に応じて1年につき10万円が控除されます。

④障がい者控除
法定相続人が障がい者の場合、85歳に達するまでの年数に応じて1年に月10万円(特別障がい者の場合は1年につき20万円)控除されます。

⑤相次相続控除
相続が10年以内に再びあった場合、期間に応じて一定の金額が控除されます。

⑥外国税額控除
海外にある財産を受け継いだ場合で、その国に相続税を納付している時は、一定の金額が控除されます。

⑦相続時精算課税分の贈与税控除(※相続時精算課税制度を選択している場合)
相続時精算課税制度を選択していて、贈与税を支払った場合、相続税が控除されます。

なお、税額控除とは逆に、計算した相続税額より実際に納める相続税額が多くなるケースもあります。納税額が高くなるケースでは「2割加算」といって、相続人のうち特定のひとだけが、相続税額が2割増しになるという制度です。対象となるのは、以下のようなケースです。

①配偶者ではない
②被相続人の一親等の血族ではない
③被相続人の養子となった被相続人の孫

つまり、兄弟姉妹、代襲相続人ではない孫、第三者などが相続人となった場合には、実際に納付する相続税額が2割加算されることになります。

たとえば、相続権のない被相続人の孫が遺贈によって財産を受け継ぎ、相続税が200万円だった場合には、実際に孫が納めなければならない相続税額は200万円の2割増しである240万円ということになります。
これは、本来なら親から子、子から孫へと引き継がれる財産が1段階飛ばされることになり、その分の課税をまぬがれているのは不合理であるという考え方から適用されるものです。

なお兄弟姉妹は相続順位が3位であり、相続順位が高い人と同じ税額では不合理であるという考え方から2割加算が適用されます。

(1)配偶者の税額控除

被相続人の配偶者が、相続または遺贈によって財産を取得した場合には、所定の計算式で計算した税額が控除されます。
配偶者の実際の取得額が配偶者の法定相続分相当額(1億6,000万円未満の場合は1億6,000万円)以下である限りは、法定相続人に対応する額と1億6,000万円といずれか大きい額までが無税という措置がとられています。
これは、長年夫婦間で共同生活が営まれ、財産形成に対する配偶者の貢献が考慮されているほか、配偶者の老後の生活保障などが考慮されているものです。

配偶者の税額軽減は、他の相続人などとの間で分割されていない財産については適用されませんが、相続税の申告期限から3年以内に分割される場合には、税務署長の承認を受けて更正の請求をすることで軽減の適用を受けることができます。

参照:国税庁「配偶者の税額の軽減」

(2)贈与税の税額控除

相続や遺贈によって財産を受け取った人が、被相続人の死亡前3年以内に被相続人から財産を贈与されていた場合には、その贈与財産の価格を相続財産の課税価格に含めて相続税額を計算することになっています。
しかし、そのまま相続税を計算すると、生前の贈与の時の贈与税があるので、同じ財産に贈与税と相続税がかかり、同じ財産に二重に課税することになってしまいます。

そこで、課税価格に含めた贈与財産について、すでに贈与税が課されている時には、以下の計算式によって計算した贈与税額を相続税から控除することになっています。

(被相続人から贈与を受けた年の贈与税額)×(その年中に被相続人から贈与を受けた財産の価格÷その年中に贈与を受けた財産の価格の合計額)

参照:国税庁「贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」

(3)未成年税額控除

相続または遺贈によって財産を取得した法定相続人が満20歳未満(令和4年(2022年)4月から18歳)である時には、その人が満20歳(令和4年(2022年)4月から18歳)になるまでの年数×10万円が相続税額から控除することができます。これは、未成年者が成人になるまでの養育費や教育費が考慮されているものです。

未成年者控除額は以下の計算式で求めます。

10万円×(20歳(18歳)-相続開始時の年齢)
※()内は令和4年(2022年)4月から

参照:国税庁「未成年者の税額控除」

(4)障害者税額控除

相続または遺贈によって、財産を取得した法定相続人が障がい者(日本に住所がない場合は除外)である場合には、その人が満85歳になるまでの年数につき、以下の計算式で計算した金額がその人または扶養義務者の納付する相続税額から控除されます。

障がい者控除は以下の計算式で求めます。

(85歳-相続開始の日の年齢)×10万円(特別障がい者の場合は20万円)

参照:国税庁「障害者の税額控除」

(5)相次相続控除

短い期間に相続が2回も続くと、一度相続税を納付した財産にまた相続税がかかることになってしまいます。たとえば、半年前に父親がなくなりその相続人である母親が続けて3カ月後に亡くなった場合などです。

これでは、短期間の間にあまりに税負担が重くなってしまうということで、不幸が10年以内に続いた場合には、一定の金額が相続税から差し引かれることになっています。
この相次相続控除は、10年以内に2回以上、相続があった時に適用されます。
最初にあった相続は「一次相続」と呼ばれ、2度目の相続を「二次相続」と呼びますが、控除がされるのは、二次相続の時だけです。

相次相続控除の額は以下の計算式で求めます。

A×{C/(B-A)}×(D/C)×{(10-E)/10}
※C/(B-A)が100/100を超える時には、100/100とします。

A:二次相続の被相続人が一次相続によって取得した財産に課税された相続税額
B:二次相続の被相続人が一次相続によって取得した財産の価額
C:二次相続によって相続人および受遺者が取得した財産の価額
D:二次相続によってその相続人が取得した取得した財産の価額
E:一時相続の開始から二次相続開始の時までの期間に相当する年数(1年未満の端数は切捨て)

参照:国税庁「相次相続控除」

たとえば、祖父と父が相次いで亡くなり、その場後が財産を受け継いだケースで見てみましょう。
祖父が亡くなった3年後に父が亡くなったとすると、最初の相続で父が支払った相続税額から今回の父が亡くなった相続まで1年ごとに10%ずつ軽減しますので、3年間で30%減額した残りの70%が控除の対象ということになります。
一次相続からすぐに二次相続が発生した時には、一次相続の時の相続税額をほとんどマイナスすることができ、一次相続と二次相続の間が長いほどマイナスできる控除額は少なくなります。

(6)外国税額控除

外国にある財産についても相続税がかかります。そして、その外国にある財産についても日本の相続税に当たる税金がかかることがあります。外国でも課税され、さらに日本の相続税がかかることになると、外国でも日本でも相続税の対象となって二重に課税されることになってしまいます。
そこで、日本で相続税を計算する時には、外国で課税された分は差し引いてもよいということになっています。これを外国税額控除といいます。

(7)相続時精算課税分の贈与税控除

相続時精算課税制度とは、60歳以上の親から20歳以上の子および孫に対する贈与について、現行の贈与税との選択適用できる制度です。贈与時に贈与税を支払い、その後相続時に贈与財産と相続財産を合計して計算した相続税額からすでに納めた贈与税額を差し引いて支払うという制度です。
贈与財産の合計額が2,500万円までは特別控除枠があり、2,500万円を超える部分には税率20%の贈与税が課税されます。
相続時には、すでに贈与された財産と新たに相続する財産を合算して相続税額を計算し、すでに支払った贈与税額相当額を清算して残りの金額を納めることになります。
すでに支払った贈与税の方が多い場合には、差額を返してもらうことができます。

参照:国税庁「相続時精算課税の選択」

まとめ

以上、相続税が安くなる税額控除についてご紹介しました。
相続税の計算は、相続人それぞれが実際に受け取った財産に応じて相続税の総額を分割して額を決定しますが、被相続人の配偶者や相続人が未成年や障がい者である場合には、これまでご紹介してきたような、一定の税額控除が設けられています。

「自分は、そもそも相続税はかからない」「あと10年は生きるから、もう少し経ってから考えよう」と思っている人もいるかもしれませんが、相続対策は相続税がかかる人だけが必要というわけではありません。
自分が亡くなった後に争いが起きないように事前に準備をしてあげることは、誰にとっても重要なことです。

また、相続税対策は、10年以上かけてコツコツと積み重ねていくような時間をかけて行う対策の方が、効果が出るケースが多いので、一日でも早く対策を始めるためにも、早めに税理士や弁護士などの専門家に相談しましょう。

なお、相続が発生した場合にも可能な限り早めに税理士に相談することをおすすめします。
相続税は、申告・納税ともに、相続のあったことを知った日の翌日から10カ月以内が期限とされていて、この限られた期間内に相続財産の全体を把握し、相続人の確定をして申告・納税をしなければならないからです。

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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」

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