事業承継税制|5つのメリット・3つのデメリット

公開日:2019年06月03日
最終更新日:2022年07月07日

この記事のポイント

  • 事業承継税制の特例措置では、一般措置のデメリットが解消された。
  • 事業承継税制の特例措置の適用を受けるためには、いくつかの要件を満たす必要がある。
  • 事業承継税制の特例措置の適用を受けるためには、期限がある。

 

事業承継税制とは、中小企業の後継者が、事業承継の際に会社の株式等を贈与または相続した場合、その株式等に係る贈与税・相続税が、一定の要件のもと納付が猶予される制度です。

これまでの一般措置でも、贈与:100% 相続:80%が猶予されるということで注目を集めていた事業承継税制ですが、平成30年(2018年)に事業承継税制が拡充され、特例措置では相続税・贈与税が100%猶予されることになりました。

事業承継税制とは

事業承継税制とは、事業の承継者を対象とした相続税・贈与税の猶予制度です。
この事業承継税制については、平成30年(2018年)に拡充され、平成30年の税制改正前の事業承継税制を「一般措置」、平成30年の税制改正前後の事業承継税制を「特例措置」と呼ばれています。

(1)一般措置と特例措置の違いは

一般措置と特例措置を比較すると、以下のような違いがあります。

①相続税も贈与税の納税猶予割合が100%
これまでの事業承継税制では、納税猶予割合が「贈与:100% 相続:80%」でしたが、特例措置では、相続税も贈与税も100%とされることになりました。

②承継パターンの要件緩和
また、被相続人から1人の相続人への相続・贈与に限定されていたのが、特例措置では親族外も含む複数の株主から代表者である後継者(最大3人)への承継も対象となり、中小企業経営の実情に合わせた、多様な事業承継が可能となりました。

③雇用確保用件の弾力化
一般措置では、承継後5年間平均8割の雇用維持が必要でしたが、この点についても弾力的な配慮がなされることになりました。

④相続時精算課税の適用
相続時精算課税制度との併用について、子・孫以外でも適用が可能となりました。

特例措置 一般措置
事前の計画策定等 5年以内の特例承継計画の提出 不要
適用期限 10年間の贈与・相続等
2027年(令和9年)12月31日まで
なし
対象株数 全株式 総株式数の最大3分の2まで
納税猶予割合 100% 贈与:100% 相続:80%
承継のパターン 複数の株主から
最大3人の後継者
複数の株主から1人の後継者
雇用確保要件 弾力化 承継後5年間平均8割の雇用維持が必要
事業の継続が困難な事由が生じた場合の免除 あり なし
相続時精算課税の適用 60歳以上の者から
18歳以上の者への贈与
60歳以上の者から18歳以上の推定相続人(直系卑属)・孫への贈与

(2)特例措置が断然有利な理由

特例措置は、異次元の大改正ともいわれるほどメリットが多く、従来の一般措置のデメリットとされていた点がほぼ解消されました。
一般措置では、発行済株式の3分の2までしか対象とならなかったのが、特例措置では全株式が対象となりました。
また、株式の評価額に対する納税猶予割合も、一般措置では相続税に関して80%まででしたが、特例措置では贈与税・相続税ともに100%適用されるようになりました。
一般措置は、恒久措置として存続しますが、特例措置は、2018年(平成30)年1月1日から2027年(令和9年)12月31日までの時限措置であることから、2つの措置が並行して存在することになります。

事業承継税制の特例措置のメリット

事業承継税制の特例措置では、これまでの一般措置と比較してさまざまなメリットがあります。

(1)納税猶予割合が100%

何といっても最大のメリットは、「特例承継計画」を提出して一定の要件を満たすことができれば、相続税も贈与税も納税猶予割合が100%になるという点でしょう。
一般措置は、納税猶予割合は、贈与について100%、相続税の80%が猶予されるという制度ですが、特例措置では、相続税も贈与税も100%猶予されることになります。

(2)対象株数が全株式

一般措置は、対象株数は、総株式数の3分の2までですが、特例措置では、対象株数は、全株式となり、対象株数が大幅に増加しました。

(3)事業の継続が困難な事由が生じた場合の免除

一般措置では、5年間事業を継続する必要があり、継続できなければ承継時の株価をもとに贈与・相続税を納税する必要がありました。
しかし、特例措置では、経営状況の悪化や正当な理由があれば、相続(贈与)の税額等を再計算し、再計算した税額と直前配当等の金額との合計額が、当初の納税猶予税額を下回る場合には、その差額が免除されることとなりました。
特例措置では、経営環境の変化による将来の不安を軽減されたことになります。

参照:経済産業省「平成30年度経済産業関係税制改正について」

(4)雇用の8割を守る条件の緩和

一般措置では、事業承継後、雇用確保条件を満たさなければ、猶予されていた贈与税・相続税の全額を納付する必要があります。

しかし、特例措置では、雇用確保要件を満たせない場合でもその理由を記載した書類を提出すれば、納税猶予が継続されることになります。

参照:経済産業省「平成30年度経済産業関係税制改正について」

なおこの書類には、認定経営革新等支援機関の意見が記載されていることが必要です。
なお、雇用の8割を守れなくなった理由が正当なものと認められない場合、経営状況の悪化である場合には、認定経営革新等支援機関から指導および助言を受けて、その書類にその内容を記載することが必要です。

(5)後継者・先代経営者の条件の緩和

中小企業経営者の次世代経営者への引継ぎを支援する税制措置の創設・拡充がされ、後継者が先代経営者以外の者から贈与等によって取得する株式についても、特例承継機関(5年)以内に贈与に係る申告書の提出期限が到来する者に限って、特例措置の対象となるとされました。
この措置によって、親族以外の含む複数の株主から代表者である後継者(最大3人)への承継が可能となりました。

一般措置では、相続時精算課税の適用について、60歳以上の者から18歳以上の者への贈与が適用されましたが、特例措置では、推定相続人・孫への贈与にも適用することが可能となり、子・孫以外でも適用が可能となっています。

※相続時精算課税とは、財産を贈与した時の贈与税が軽減される制度です。
この制度は、相続の時には贈与された財産と相続財産を合計した額に相続税が課税されて精算されるので、相続税対策にはなりませんが、子や孫が資金を必要とする時に比較的気軽に生前贈与することができるという制度です。

事業承継税制の特例措置のデメリット

一般措置と比較すると、相続税・贈与税が100%猶予される、雇用保持要件が緩和されるなどのメリットがある特例措置ですが、「特例承継計画の提出が必要となる」「適用期限がある」などのデメリットもあります。

(1)特例承継計画の提出が必要

一般措置では、認定承継会社に該当すること、常時使用従業員の数が1人以上であることなど、いくつかの要件を満たす必要ですが、特例承継計画の提出は必要ありませんでした。
しかし、特例措置の適用を受けるためには、特例承継計画の策定が必要となります。

▶ 事業承継税制(特例措置)を受けるための「特例承継計画」

(2)適用期限がある

特例措置の適用を受けるためには、特例承継計画を策定し認定支援機関の所見を記載したうえで、令和6年3月31日までに都道府県知事に提出して、その確認を受けなければなりません。

(3)納税猶予申請の手続きが煩雑

特例承継計画は比較的容易に作成することができますが、納税猶予の認定申請は、多くの要件をすべて満たす必要があり、その手続きは非常に煩雑です。

最低3年分の会社の決算書類一式と、会社の定款や株主名簿、会社と子会社に対する誓約書、従業員数証明書など、数多くの書類を認定申請書とともに提出しなければなりません。
通常2カ月程度の審査が行われ、提出された申請が認定されると、「認定書」が都道府県から交付されます。ちなみに、認定されないときには「認定しない旨の通知書」が交付されます。

認定書が交付されたら、税務申告に関する書類等を揃え、所轄の税務署に納税猶予の申告を行います。

まとめ

以上、事業承継税制の概要や、一般措置と特例措置のポイント、特例措置のメリット・デメリットについてご紹介しました。

事業承継の対策は、1年や2年で実行できるような簡単な問題ではありません。
事業承継対策は、これまでご紹介した税制措置を活用することの他にも、後継者の確定や、後継者に相続させた時にどのような状態になるかを明確にし、そのうえで対策を検討することが大切です。特に、後継者が決まらないままでは、相続財産分割や節税対策などを始めることはできません。
そして、後継者を選び、「この先何十年も安定した事業形態を維持できる」と言えるためには、可能な限り早く最適なプランを立てて、その実行を計画的に進める必要があります。

事業承継に精通している税理士であれば、経営者と共に事業承継の課題に向き合い、現状を正確に把握し綿密な承継計画を立ててもらうことができます。

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