公開日:2022年08月17日
最終更新日:2022年09月12日
従業員持株制度(社員持株制度)とは、従業員が持株会を通じて自社の株式を保有する制度です。
従業員持株会は、株価維持、従業員の資産形成支援、安定株主施策として広く活用されています。
従業員持株制度は、会社にとって安定的なキャッシュ・フローを生み出すことができるなど多くのメリットがありますが、従業員にとっても、株式の流通価格より低い金額を、持株会に拠出できるというメリットがあります。
従業員持株会とは、従業員が自社の株式を取得・保有することを奨励する制度で、民法上の組合をいいます。
従業員は、定期的または臨時的に持株会に拠出することで株式を取得し、株主になることができます。
従業員は、定期的(たとえば、通常の給料や賞与から天引きによる拠出)、または臨時的(たとえば、給料や賞与から天引きではない従業員の払込みによる拠出)に、持株会に拠出(払い込むこと)することで、株主となることができます。
従業員持株会と従業員が個人で株主となる場合を比較すると、どちらも会社にとっては、資金調達として活用できるという面で違いはありませんが、管理方法や手続きについては、以下のような違いがあります。
従業員持株会 | 従業員個人が株主となる場合 | |
---|---|---|
名義 | 持株会 | 各従業員 |
管理方法 | 持株会を1株主と見るため、管理しやすい。 | 各株主ごとに管理するため、株主名義管理が煩雑となる。 |
譲渡方法 | あらかじめ持株会規約で規定しておくことで、想定外の流出を避けることができる。 | 譲渡制限がない株式の場合には、原則として自由に譲渡することができるので、敵対する相手に渡るなどの想定外のリスクがある。 |
購入金額 | 拠出金額によって按分される。単位未満の金額でも購入できるため、多くの人が取得できる。 | 1株単位なので、取得できる人が限定的になりやすい。 |
議決権の行使 | 持株会理事長が行使するため、意見がまとまりやすい。 | 各株主ごとに行使するため、意見がまとまりにくくなることがある。 |
従業員持株会の会員は、実施会社及び実施会社の子会社の従業員に限ります。従業員持株会への入会は、規約を定め、随時または一定の期間を設けて受け付けます。
入会を希望する従業員が入会時において、実施会社に関する未公表の重要事実を知得している場合には、入会できませんので注意が必要です。
なお、執行役員制度を導入している会社においては、取締役や執行役を兼任していない執行役員について、規約で定めることによって、会員資格を認めることもできます。
ストック・オプションとは、取締役、会計参与、監査役および執行役員等の役員や、従業員に対して報酬として付与する新株予約権をいいます。
ストック・オプションは、権利を付与された一部の人しか利用できない制度であるのに対して、従業員持株会は勤務先に従業員持株会制度があれば誰でも加入できるという違いがあります。
ストック・オプションは新株予約権の一種であり、購入した株式を市場で売却すれば売却価額から購入価額を差し引いた分が利益となるため、付与された者は、会社の業績を向上させることによって株価が上昇すれば、より多くの利益を得ることができます。
そのため、ストック・オプションは、従業員のモチベーションアップの手段として用いられます。
一方、従業員持株会は、自社の株式を取得する制度のため、福利厚生制度の一環として活用されます。
中小企業にとっては、従業員持株会を通じて従業員から資金調達することで、安定的なキャッシュ・フローを生み出すことができるというメリットがあります。
また、個人ごとの従業員株主の場合で譲渡制限のない株式の場合だと、自由に譲渡することができてしまうので、敵対的な相手に株式が渡ってしまうといったリスクがありますが、持株会を活用すれば、そのようなリスクもありません。
また、従業員にとっても経営に参加しているという意識が生まれますから、将来の成長への期待から、長期雇用につながる可能性が高くなりますし、配当を出すことで従業員の財産形成の支援することもでき、結果的に安定的な株主を得ることができることになります。
従業員持株会を活用して資金調達する方法は、多くのメリットがありますが、従業員の持株割合が増加すると、経営に対する影響力が増加するリスクがあります。
さらに従業員の意見がひとつにまとまらず、議決権行使がスムーズに進まないといった懸念もあります。
また従業員にとっても、会社が期待していたような業績を出せず無配当などが発生すると、それが不満につながってしまい、結果的にモチベーションが低下してしまうことがあります。
従業員持株会の活用例として、「日本版ESOP(イソップ)」があります。
日本版ESOPには、①金融商品(信託)などを使って組み込んだ従業員持株会活用型と、②退職時に退職金の一部として従業員に自社株を給付する自社株退職給付型があり、①従業員持株会活用型には、従業員へのインセンティブ付与、従業員の株主化促進、持株会への自社株安定供給といったメリットがあります。
日本版ESOPは、市場から自社株式を取得するのは、信託受託者で、持株会はこの信託受託者から自社株を購入することとしています。
そのため、株価変動のリスクを軽減させ、持株会の自社株購入をスムーズに進めることができるというメリットがあります。
また、自社株の取得・運用は、信託受託者に委託することになるため、従業員持株会の管理や運営の負担が軽減されます。
さらに、会社が保証をすれば、信託受託者は金融機関から借入を行うことができるため、直接市場から自社株を取得することができるようになります。
日本版ESOPは、中小企業においても活用することができます。
中小企業の株は市場で取得することができないため、信託受託者が株を取得するためには、既存株主の株や新株を引き受けることになります。
しかし、中小企業は従業員が少ないことから、従業員持株会が一定の株数を取得するまでに時間がかかってしまいます。
そこで、日本版ESOPを活用すれば、信託受託者が一定の株数を取得しながら、会社も資金調達を行うことができるようになります。
従業員持株会は、企業にとっては安定的なキャッシュ・フローを生み出すことができる、有効な資金調達方法です。
東京証券取引所の調査によれば、2021年3月末現在の東京証券取引所上場内国会社3,752社のうち、大和証券、SMBC日興証券、野村證券、みずほ証券及び三菱UFJモルガン・スタンレー証券の5社のいずれかと事務委託契約を締結している従業員持株制度を有する3,239社であり、多くの上場企業が活用している制度といえます。
参照:株式会社東京証券取引所「2020年度従業員持株会状況調査結果の概要について」
従業員持株会は、中小企業にとっても、資金調達ができるだけでなく、配当を出すことで従業員の財産形成の支援ができるメリットのある制度です。
ただし管理や運営方法については細かい規定がありますので、導入を検討する際には、自社の状況に応じたメリット・デメリットを十分踏まえたうえで、導入することが大切です。
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