公開日:2019年04月13日
最終更新日:2022年07月17日
海外資産を相続することになったときは、計算方法や手続きが一般的な相続よりも複雑になってしまいます。
一般的に、国内で相続が開始した際にも、「相続税の申告手続きはどうするか」「誰が相続するのか」などの煩雑な相続手続きが必要になります。また、相続財産の価額の評価によって相続税額が決まるので「どのように評価するか」などについても慎重に検討する必要があります。
しかし海外資産が存在するとなると、これらに加えて国内の相続以上に国同士の法律を鑑みた調整など複雑な手続きなどが必要となりますので、早めに必要な手続きを理解し対策をすることが大切です。
亡くなられた人が海外に資産を持っていてそれを相続する場合には、国同士の相続や税務に関する法律を調査する必要があります。
海外資産に関しては、課税もれや租税回避行為が多数発覚したことから、日本の税務当局が諸外国の税務当局と連携を強化していますので、早めに税理士に相談したり、手続きや対策を知っておくことが重要になっています。
個人が相続または遺贈によって財産を取得した場合には、その取得した財産の価額をもとにして、相続税が課税されます。
被相続人か相続人のどちらかが日本在住なら、課税対象者(税金を納めなければならない人)となります。相続税法上の納税義務者の区分は、以下の4つに区分されています。
納税義務の種類 | 住所 | 課税対象 | |||
---|---|---|---|---|---|
国内保有財産 | 国外保有財産 | 相続時精算課税適用財産 | |||
無制限納税者 | ①居住無制限 納税義務者 |
国内 | ○ | ○ | ○ |
②非居住無制限 納税義務者 |
相続時は国外だが、相続が発生する前の10年以内に国内に住所があった | ○ | ○ | ○ | |
③制限納税義務者 | 国外 | ○ | - | ○ | |
④特定納税義務者 | - | - | - | ○ |
無制限納税義務者 相続した世界中の財産に、日本の相続税が課されます。 なお、この無制限納税義務者は、以下の2つに分けられます。 ①居住無制限納税義務者 ②非居住無制限納税義務者 |
③制限納税義務者 相続等で財産を取得した人で、その取得時点で日本国内に住所を持っていない人をいいます(非居住無制限納税義務者を除く)。この場合には、日本国内に所有する相続財産だけ日本の相続税が課され、国外財産には相続財産は課されません。 |
④特定納税義務者 相続時精算課税の適用を受けた受贈者は、相続等によって財産を取得しなかった場合も、相続時精算課税制度の適用を受けた贈与財産について相続によって取得したものとみなされます。 |
なお、日本国籍を持っている人や入管法などで定める永住者については、相続で財産を取得した時点に日本国内にいなくても、留学中だったり出張などで一時的に日本を離れているだけだったりといった場合には、「日本に住所を有している」とみなされます。
相続財産には、被相続人(亡くなった方)が所有していた動産や不動産、預貯金や有価証券などのほか、鉱業権や採石権、漁業権、特許権なども課税対象財産となります。また、相続財産には負債(借金など)も含まれます。
財産の所在については、日米相続税条約など日本と外国との間で相続税に関する条約が存在することがあり、その場合にはその規定に準拠することになります。
相続税においては、墓や祭具等など一定のものについては非課税となります。
生命保険金、退職金については、「民法上の法定相続人の数の数×500万円」までは非課税とされています。したがって、この非課税限度額を超えた部分について相続税が課税されます。
生命保険金の非課税枠:500万円×法定相続人の数
死亡退職手当金の非課税枠:500万円×法定相続人の数
海外資産の税金対策では、煩雑な計算や手続きが必要になりますが、もっとも大切なのは「相続財産の額はいくらか」です。特に土地や建物といった不動産や有価証券など一定の評価が必要な場合には、どの評価方法を採用するかが納税額を左右します。
相続税法において、相続財産の評価は原則としてその財産取得時における「時価」によって評価することになっています。
さらに時価の判定については、実務上は「財産評価基本通達」に委ねられており、この原則はその相続財産が海外の資産であっても変わりません。
なお、この通達で評価できない場合には、それができない場合には、売買実例価額や精通者の意見価格等を参考にして評価するなど、以下のいずれかの方法のうち合理的な方法を選択することになります。
①財産評価通達に定める評価方法に準じた評価額 ②売買実例価額 ③精通者意見価額参酌額 ④取得価額を時点修正した価額 ⑤相続後の譲渡価額から算出した価額 |
小規模宅地等の評価減の特例
小規模宅地等の評価減の特例は、国内ではよく用いられる節税方法ですが、この特例は海外に所在する居住用住宅についても適用できます。
なぜなら、この特例では財産の所在地については要件となっていないからです。ただし、相続人が誰かについての要件があり、その要件を満たしていることが必要となります。たとえば、被相続人と同居していない親族が取得した場合には、その親族が日本国籍を有し、かつ日本に住所を持っている場合に限られます。
外国税額控除
相続または遺贈によって海外の財産を取得した場合で、その財産について外国の法律によって日本の相続税に該当する税金が課税された時には、その外国で課税された相続税相当額を日本での相続税額から差し引く(控除)ことができます。
この外国税額控除によって、外国と日本で二重に課税されることを回避することができます。
海外資産を相続した場合の手続きは、法律の調査や評価方法について検討する他、商慣習や宗教的、倫理観といった文化的要素についても考慮する必要があります。
事前の対策なく国外の財産に相続が発生した場合には、言語が異なるだけでなく、このような制度の違いや国独自の背景まで考慮する必要があるので、ますます相続人の手続きは煩雑になります。
さらに、海外資産の価額の評価は、日本と外国との間の法律など正確な判断が必要となり、非常に複雑です。
また、特に不動産の相続手続きの場合、相続人の本国法(国籍を有している国の法律)や不動産の所在地国の法律など、どの国の法律を適用するかについても複雑な計算が必要となります。
たとえば、日本人が所有する米国所在の不動産について相続が発生した場合には、日本法によれば被相続人の本国法である日本法が適用されますし、米国法によれば不動産の所在地国法である米国法が適用されることになりますので、この二国間で適用する法律が抵触することから、その調整手続きが必要となります。
結果的に余分に税金を払ったり、あるいは少なく税金を払ったためにペナルティが課せられてしまったり、ということもあるので専門家である税理士に相談することをおすすめします。
また、海外の資産を相続した時は、国内の相続より経費がかかります。
というのも、現地の専門家による調査や手続きが必要となり、一般的に海外の専門家の手数料は高額になる傾向があるからです。たとえばアメリカの会計士などは、調査や手続きが時給計算されるので、時間がかかればかかるほど報酬が高くなります。
以上、海外資産を相続する時の手続きや必要な対策についてご紹介しました。
国外に相続財産がある場合には、その相続が国内の相続より困難となる可能性があります。そして、結果的にその相続財産が相続人にとって重荷になることもあるのです。
海外に資産がある場合には、可能な限り早期に税理士に相談士、生前贈与などを上手に活用して相続開始後の負担を軽減するために、必要な対策を行うことが大切です。
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