日本企業の海外進出|検討すべき事項とは

公開日:2018年08月25日
最終更新日:2022年06月23日

この記事のポイント

  • 日本企業の海外進出を地域別にみると、現地法人数は欧州で増加、北米、アジアで減少。
  • 海外進出している日本企業の業種は、製造業が半数近くを占める。
  • 「解散、撤退・移転」率は、地域別にみると北米/中国/ASEAN10で上昇、欧州で低下。

 

国内の人口減少や市場縮小を見据え、海外進出を検討する中小企業は増えていますが、一方で「どのような情報を収集すればいいのか」「どのような準備をすべきか」を適切に理解して海外進出を進めている企業は、少ないのが実情です。

なかには進出国の情報をほとんど収集せず、人脈頼りで進出を進めてしまったり、代理店に手続きを丸投げしてしまったりするケースも見られます。

しかし、そのように海外進出を果たしても、現地でさまざまな課題を解決できず、結局数年もせずに撤退するケースもまた多いのです。

それでは、海外進出で失敗しないためには、どのような課題を検討すべきなのでしょうか。また、どのような情報を収集すべきなのでしょうか。

ここでは、海外進出を視野に入れた時に収集したい情報や、情報収集の方法についてご紹介します。

日本企業の海外進出

ひとくちに海外進出といっても、合併での進出がよいのか、100%自社出資による進出がよいのかといったビジネスストラクチャーの想定が必要ですし、さらに進出国の政治、経済、社会情勢などを調査する必要があります。また、進出国が決まったら、現地法人の人件費から経常費用の算出、タックス・プランニングを検討すべきです。
このほか、進出国のカントリーリスク、治安、居住環境など、収集すべき情報、検討しなければならない課題は多々あります。

(1)海外進出が進む背景

海外進出が進む背景としては、国内市場の成熟化、人口減少などさまざまです。
海外における経営資源を活用しようとする動きもありますし、コストダウンを目的として海外進出を行っている企業もあります。

コストダウンを目標とした海外進出としては、「海外の安価な製品の流入や同業他社の海外進出に伴い、国内での生産では取引先のコスト削減要求が厳しくなり、価格競争力を維持できなくなった」「従業員の高齢化が進む一方で、若年労働力の製造業離れなどから、労働力確保と労務費の上昇が課題となってきた」といった背景があげられます
また、国や地域を越えた競争が激化する中で、新興市場に対する商品供給などを目的とした海外進出事例も多く見られます。

参照:独立行政法人 中小企業基盤整備機構「中小企業の海外事業展開の動向」

(2)海外進出企業は2万5,703社(2020年度末)

経済産業省が発表した「第51回 海外事業活動基本調査概要|2020年度(令和2年度)実績・2021年(令和3年)7月1日調査」によると、2020年度末における現地法人数は2万5,703社で、前年度(2万5,693社)とほぼ同程度となっています。地域別に見ると、アジアが最も多くなかでもASEAN10(マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、シンガポール、ブルネイ、ベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジア)の割合が10年連続で拡大しています。

2019年度 2020年度
全地域 25,693 25,703
北米 3,273 3,235
中国 7,639 7,486
ASEAN10 7,312 7,414
その他アジア 2,421 2,442
欧州 2,803 2,913
その他 2,245 2,213

参照:経済産業省「第51回 海外事業活動基本調査概要|2020年度(令和2年度)実績・2021年(令和3年)7月1日調査」

(3)海外進出企業の半数近くは製造業

海外進出した日本企業の全産業に占める割合は、製造業が43.1%、非製造業が56.9%となっており、製造業が半数近くを占めています。
製造業の業種別海外生産比率を見ると、輸送機械が最も多く、44.4%となっています。
次いで「はん用機械」が29.5%、「鉄鋼」が20.6%、「化学」「非鉄金属」が18.4%と続きます。

参照:経済産業省「第51回 海外事業活動基本調査概要|2020年度(令和2年度)実績・2021年(令和3年)7月1日調査」

日本企業の海外進出の手順

日本企業の海外進出においては、進出目的を明確にする必要があります。進出の目的は、自社の経営課題を解決するために、あるいは経営戦略を達成するために、海外進出が必要だと認識できることが必要です。
また、カントリーリスクを検討しなければなりませんし、ビジネスストラクチャーの想定も行う必要があります。

なかには、外国人スタッフや、海外の知り合いのツテをたどって、人脈頼りで海外進出をするケースが見られます。貿易の知識がないまま、海外展示会に出展したり、海外の商談会に参加したりといった海外進出は、現在も頻繁に行われています。
しかし、海外進出をするうえでは、国内取引とは異なる情報、知識が必要です。また、海外進出をするための手順に沿って進出する必要もあります。
必要な情報を収集せず、基礎知識も得ず、手順も踏まないまま海外進出をすることは大変危険です。

現地パートナー・提携先と見解の相違や取引先の不適切な対応による納期遅延などのトラブルは、多く発生しています。
現地パートナー・提携先の選定にあたっては、候補者との面談や候補企業の降り弾き先へのヒアリングなどを行い、経営方針や評判、経営管理能力や資金力を可能な限り確認し、信頼できるパートナーかどうかを判断することが大切です。必要に応じて、第三者に信用調査を依頼することも有効です。

中小機構による「中小企業のための海外リスクマネジメントマニュアル」によれば、中小企業が海外進出を行う場合には、最低でも下記の事項について検討すべきと示しています。

調査すべき項目

・インフラ・物流
・資金調達
・外貨規制
・環境規制
・社会(慣習、文化、宗教など)
・取引に関する法律
・知的財産権に関する法律
・税制
・労働に関する法律
・政治・経済
・治安
・自然災害
・衛生・医療

参照:中小機構「中小企業のための海外リスクマネジメントマニュアル」

(1)海外進出の目的を確認する

海外進出を計画するうえでもっとも重要なことは、まず進出目的と進出の必要性を明確にすることです。進出の目的は、新規市場の開拓、労働コストの削減、新規事業の立ち上げなどさまざまですが、この進出目的を自社の事業戦略のなかで、どのように位置づけるかをまず検討します。
また、海外事業は軌道に乗るまでにある程度の時間を要します。そしてそれまでは、日本本社から投資を行うことになります。したがって、日本本社がそれだけの資金を画することができるかもあわせて検討する必要があります。

(2)進出国を検討する

進出国の検討は、最重要課題のひとつといえるでしょう。
進出国を選定する際には、インフラが整っていること、労働の供給力が安定していること、政治情勢、社会情勢が安定しているかなどが条件となります。

ただし、現在経済成長率が高く、すでに注目を集めているような国なら、今度ますます高度経済成長が見込まれるので、土地や現地従業員の給与が上がり、それが経営を圧迫する結果につながる可能性もあります。
したがって、進出国を検討する際には、現在はまだ注目を集めていない国の情報もあわせて収集する必要があります。

(3)カントリーリスクを検討する

カントリーリスクとは、政治が安定しているか、経済が健全であるかなど、その国特有のリスクのことをいいます。
進出した国の政治や経済状況が不安定になった場合には、その企業やプロジェクトに問題がなくても、資金が回収できなくなることがあるからです。

①経済指標の確認
カントリーリスクを検討する際には、まず主要経済指標を見ることになります。
前年やそれ以前の水準から、時系列で推移している数値から判断し、その後の伸び代を予測します。

②経済政策の内容
その国の政府の経済政策の内容もしっかり確認する必要があります。
外資政策は安定して継続されているか、市場にとって影響のある政策をとっていないか、規制緩和は進捗しているかなどは、経済指標の数字だけでは判断できないこともありますので、注意が必要です。

③政治状況
進出国の政治体制が安定しているかも、チェックポイントです。
単に安定しているというだけではなく、民主主義なのか独裁体制なのかといった点も確認する必要があります。
なお、進出国の政府の外交体制も重要です。テロ問題はないか、周辺国との紛争などが起きないかなども入念に調査しましょう。

④宗教、民族
イスラム教、ヒンズー教、仏教、キリスト教など宗教は多岐にわたりますが、それらの宗教観は、日本の感覚と異なり、社会の慣習、仕事に大きな影響を与えることがあります。
また、宗教の違いは民族の違いを反映していることが多く、断食期間があったり旧正月の休暇があったりと、民族によって休暇を取る時期が異なることもありますので、これらが工場のラインなどに影響することがありますので注意が必要です。

(4)ビジネスストラクチャーの想定

海外進出における事業計画を作成する場合には、まず海外企業との合弁による進出か、それとも100%自社出資による進出かを検討することが大切です。
合弁でも100%自社出資は、。それぞれのメリットとデメリットを比較考量したうえで、ビジネスストラクチャーを決める必要があります。

合弁のメリットは、相手方企業の設備、人材、販路などを利用できるという点でしょう。また、100%自社出資による進出よりも、少ない初期投資で済むケースも多いでしょう。
しかし、相手方企業にとっても、合併をすることで日本側に対して、技術と資金の提供を期待するケースがほとんどですから、この点を相互に理解しておかないと、思わぬトラブルに発展することがあります。また、人事権や財務権が相手方にある場合には、日本側に不利な運営をされるリスクがあります。

(5)タックス・プランニング

海外進出をする場合には、税務問題に関する検討も欠かせません。
税務問題は、時に企業利益に大きな影響を与える可能性もあるため、タックス・プランニングを立てることは、特に中小企業にとって重要な課題になります。

海外進出する際には、日本国内の税制だけでなく相手国の税制も加わり、どちらにどこまで課税されるかといった問題も加わります。
また、日本と進出国の間で租税条約が締結されているか、タックスヘイブン対策税制の対象とならないかなども確認する必要がありますので、国際税務の専門家への相談は必須といえるでしょう。

(6)外貨規制

国によっては、業種に外貨側の出資比率の制限が設けられていることもありますので、この点も十分に情報収集することが大切です。
自社が進出国で目指している商品やサービスが、外貨規制上問題がないのか、認可が必要となっていないか、認可が必要な場合には、申請したところでそもそも認可が取れるのかなどについて確認しておく必要があります。
出版、教育などの業種の場合には、規制されているケースも多いので、確認を怠らないようにしましょう。

情報収集の方法

前述したような情報を収集するためには、日本国内での調査と現地での調査の2つの方法があります。

(1)国内でできる収集方法

中小機構では、海外展開を目指す中小企業を、初期の計画段階から進出後のフォローアップまで行う支援体制を整えています。海外での販路開拓や海外拠点設立のために補助金が支給されることもありますので、これらの情報もこまめに収集するようにしましょう。

参照:中小機構「海外ビジネス戦略推進支援」

また、日本貿易振興機構(ジェトロ)では、海外進出に関して押さえておきたいさまざまなニュースを公開しています。

参照:日本貿易振興機構(ジェトロ)「海外ビジネス情報 」

(2)現地で確認すべき事項

日本で十分な情報を得て、進出国の候補を絞ったら、次に実際の現地出張を行います。現地で情報を集める場合には、日本で収集した情報の確認作業が主となります。
つまり、それくらい日本での情報収集は重要だということでもあります。

現地で調査を行う場合には、進出国の政府機関との面談、金融機関との面談、先に進出している企業との面談などもセッティングします。

工場の候補地をチェックする際には、電気と水の供給(断水などはないか、自家発電は必要か、供給源は井戸水か河川水か)、従業員の交通手段や何か、寮を完備する必要はあるかなども、確認するようにしましょう。

まとめ

海外進出する時に必要な情報収集の方法についてご紹介いたしました。
海外進出をする際には、拠点の設立、進出国の検討、税務戦略など、さまざまな課題があります。国内の人口減少や市場縮小をにらみ、中小企業の海外進出も増えていますが、ノウハウや人材が散逸し、時間がかかるケースもあるので、国際税務に強い税理士に相談してみることをおすすめします。

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監修:「クラウド会計ソフト freee会計」

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